このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > 台湾 ゼロ災害運動とOSHMSとの融和と運用に関して

ゼロ災害運動とOSHMSとの融和と運用に関して(台湾)

呉家潤

資料出所:中華民国工業安全衛生協会発行
「工業安全衛生」2003年8月号(170) p.25
(仮訳 国際安全衛生センター)



一、 前書き

 2001年4月、ILO OSHMSガイドライン(ILO Guidelines on Occupational Safety and Health Management Systems, ILO OSHMS2001)がILOの三者代表の専門家会議で採択され、同年6月ILOの管理組織の同意を得て、12月に正式に公表された。
 ILOが制定したILO OSHMS2001は、将来国際的に通用する安全衛生マネジメントシステム基準に発展する。わが国の政府は国内企業のクローバル化経営を促進する過程において、ILO OSHMSの精神に基づいて、国家労働安全衛生骨組を作り上げ、国際社会との統合を図るべきである。
 当該国際新管理基準ILO OSHMS2001の国内での推進を促進するため、国内の権威のある学術機構の専門家が、2003年4月に中国語翻訳作業を終わらせたので、先ずは一安心である。一旦ILOの認可を受ければ、国内労働安全衛生主管機関、企業、検査機関及び他の関連機関に参考として提供し、国内各界と国際的な安全衛生マネジメントシステムの発展を同時に進めるようにすることができる。
 従来の安全衛生管理に関する基準の国際的シリーズは、一番早いものでBSI、ISOなどの組織が制定した基準があるが、国際間共通で認定した基準ではなく、企業界のOSHMS樹立の検証の根拠にはなっていない。その後、1996年ISOの国際セミナーで初めて討論され、後にILO労働安全衛生部門(今のSafe Work)と国際労働衛生協会(International Occupational Hygiene Association, IOHA)が共同でOSHMSの手引きを着手することに発展し、IOHAが現存の国際間、各国或いは地域のOSHMSを振り返って分析し、新しい国際的OSHMSを提出することを担当することに至った。
 国際労働安全衛生管理基準の草案は、最初はある組織が制定したが、専門的角度から疑問を持たれ、国際会議で否決された。新しい国際的OSHMSの制定は、正式に上述の労働安全と衛生に関する国際的権威を持つ専門組織が共同主催し、今後は各国の当該事業に従事している関係者の重視と支持を受けられると信じている。国際的に開催された会議の状況は、「工業安全衛生」2000年9月号(135号)に詳しく報道されている。
 ゼロ災害運動は、すでに十数年間国内各生産産業の作業場で推進され、労働災害の減少と労働安全成績の向上に著しい成果を収めた。従って本論文では、日本の中央労働災害防止協会のゼロ災害運動とOSHMSを結びつけ一体的に運用する計画と、新しい五ヵ年推進計画の内容を紹介したいと思う。以下では、この推進計画の基本方針の重点である、「ゼロ災害運動とOSHMSの一体運用」と「現場化の更なる推進」を討論の主題として述べる。その前にゼロ災害運動の概念について叙述する。

二、 ゼロ災害運動の概念

 ゼロ災害運動は「人間性を尊重する」ことを基本理念に、ゼロ災害、ゼロ疾病を目標として、職場の自主的活動として推進され、危険予知訓練、指差し呼称の方式で多くの職場で実施され、不安全な行為から引き起こされる事故災害の消滅に大きな役割を果たしている。
 ゼロ災害運動は、本来は安全衛生管理活動と職場の自主的活動、この二つで構成されるが、お互い補完し合うからこそ、その効果は徹底的に発揮できる。
 しかし、一部の人は「ゼロ災害運動は、危険予知訓練と指差し呼称などの代表的なやり方を活用し、災害の目標をゼロにする一種の運動に過ぎない」と認識している。すなわち、彼らは狭く「ゼロ災害運動=職場の自主的活動=危険予知訓練+指差し呼称」と理解しているが、このような見方をしていることは非常に遺憾なことである。
 ゼロ災害運動は「ゼロ災害、ゼロ疾病を最終的な目標とし、予知予防の方法で安全と健康を図り、ひいては明るく楽しく活発な職場雰囲気を作ることを目標とする運動」である。すなわち、ゼロ災害、ゼロ疾病の目標を達成するため、役職員から現場の一人一人の作業員まで安全衛生活動に協力し、一人一人の自主性はみんな尊重され、人々が主導的に参加し、積極的に職場の潜在的危険と問題を解決、処理する願望を持ち、活気溢れる組織を作り上げることである。換言して言えば、明るく、楽しく、活気溢れる職場雰囲気を作り上げることである。

三、 ゼロ災害運動とOSHMSの一体運用

 前述の通り、ゼロ災害運動は職場の自主的運動に過ぎないと思われるが、本来は安全衛生活動は安全衛生管理活動と職場の自主的活動の二つで構成され、必ず両者が互いに補完し合うからこそ、最もよい効果を発揮させることができる。
 従来のゼロ災害運動は、「ゼロ、予知予防、参加」の理念三原則を基礎とし、運動の精神と具体的な活動方法を中心とし、互いに協力して成り立つ。「三つの柱の推進」というスローガンの掲示もあるが、具体的な推進運動の骨組みに対しては、各事業所の現場で自主的に調整されると思われ、明確な指示をしていない。
 職場雰囲気を作り上げる目標を達成するため、今後のゼロ災害運動は、安全衛生管理活動の方面をより一層充実させ、OSHMSがその需要から生まれるようにしなければならない。
 OSHMSは安全衛生管理の骨組み及びその運用を中心に徐々に具体化された。だから、ゼロ災害運動を運用する骨組みの上でOSHMSを活用する事は、ゼロ災害運動の全体的推進骨組みを明確化することになる。
 換言して言えば、ゼロ災害運動を実施する事業場は、OSHMSを導入することによって、ゼロ災害運動の推進骨組を明確にすることで、ゼロ災害運動とOSHMSが一体運用できるようになる。或いはゼロ災害運動が計画的、持続的に推進されるようになり、最終的には、事業場の安全衛生水準を向上できる。
 OSHMSの「安全衛生方針」の中で、ゼロ災害運動の「運営姿勢」を明確に宣言し、同時に危険予知訓練などの職場自主活動方面でも、その骨組を明らかにすることを推進し、PDCAサイクルをとり込むことで、確実に実行されるようになる。
 もう一方、すでにOSHMSを確立した事業場は、このシステムの機能を適切且つ有効に発揮させるためには、このシステムが必要とする「人材訓練」、「職場の雰囲気形成」が必要不可欠である。すなわち、ゼロ災害運動推進の際、「人材訓練」、「職場の雰囲気形成」を通じて、OSHMS推進の願望を向上させ、その機能を適切に発揮させなければならない。
 ゼロ災害運動とOSHMSが一体的に運用された例は、危険予知訓練とリスクアセスメント(Risk Assessment)のリンクである。
 両者とも危険要因を洗い出すためであると言う所で共通している。確実に危険要因を把握できなかったら、活動の効果は現れることができない。
 危険予知訓練を通じて危険の感受性を向上させる効果は、確かにリスク評価の推進に役立つ。また危険予知訓練とリスクアセスメントの結合を通じて、職場の具体的危険情報収集が可能になり、リスクアセスメントの実施もより確実にすることができる。
 もう一方、リスクアセスメントで把握した残存のリスクは、危険予知訓練で対応できるようにしなければならない。このようなことを通じて、安全衛生問題をいささかのすきもないように処理することは可能であると期待する。

四、 現場化の更なる推進

 安全衛生業務の推進は、各層の管理者が経営者の考えを観察し、安全衛生と作業を一体化させ、また実践させることによって成功できるから、各層責任者の役は大事である。
 しかし、従来の運営状況から見たら、「現場化の徹底」はゼロ災害推進の三大柱の一つではあるが、低い格調で処理され、比較的大きな機能を発揮することができなかった。
 OSHMS指針の第11条第1項では、一つの系列の各層責任者の任務、責任、権限を規定すると同時に、労働者、関係請負人及び他の関係者に周知し、第12条ではそれを「書面化」するように要求している。
 以上の規定或いは発展から見て、今後ゼロ災害運動は徹底的な現場化を目標とし、現場の責任者を始めとする各層の人は、みんな如何にして管理活動の中の役割の分担を適切に執行できるかを探求し、考え、また具体化させなければならない。
 従来のゼロ災害運動は、危険予知訓練及び指差し呼称などの危険予知活動の自主的活動を重視したが、推進の骨組みに対しては明確な規範がなかった。今後は活動の評価を含め、職場の自主的活動を支持する活発な管理活動の骨組みを作り上げる必要がある。危険予知訓練の推進面で考慮しなければならない事項は次の通りである。
(一) 会社の危険予知訓練推進の方針の中で、推進の骨組を明確にする。
(二) 危険予知訓練推進に必要な人材を育成する骨組み。
(三) 危険予知訓練の研修を実施する骨組み。
(四) 危険予知訓練を始業時のミーティングに編入する骨組み。
(五) 現場責任者の率先基範及び激励の骨組み。
(六) 活動の評価の骨組みなど。
 早期からゼロ災害運動を取り入れた事業場にとって、今はゼロ災害運動を作り上げる第一代から第二代に段々引き継ぐ時期である。このような事業場は過去に特別な現場化の骨組みはなかったが、くちこみで伝えることができる。しかしながら、ゼロ災害運動が第三代まで伝わることができるかどうかは楽観的に待つことができない。ゼロ災害運動を持続的に推進し、発展させるため、前述の「職場雰囲気の形成」、「現場化の更なる推進」及び「評価の骨組みの検討」などがみなさんの参考になり、また採択され、正真正銘のゼロ災害目標に達することを期待している。

参考資料

1. 日本中央労働災害防止協会、安全と健康月刊
2. 工安環保報道