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平成16年度JICAセミナー カントリーレポート(トルコ)

資料出所:平成16年度JICA労働安全衛生政策セミナー カントリーレポート(トルコ)
(仮訳 国際安全衛生センター)



1. 労働・社会保障省(MoLSS)の組織構成(組織図はこちら

 1945年、労働省が設立された。次いで1974年に社会保障省が設立され、1983年に労働省と統合された。こうして発足した労働・社会保障省(MoLSS)は、雇用問題や、労働安全衛生、労働監督、労働に関連した外交問題、海外で就労するトルコ人労働者の監督、対EU調整などを行っている。また、同省はその他、主な責務に係わる人事、情報発信、広報活動も行っている。MoLSS内には、半自治的に機能する2つの組織がある。労働・社会保障省は、中央集権的に運営されているが、22の地方労働局と10の県に設置されている地方労働監督局の監督も行っている。また、MoLSSは多数の関連組織との交流があり、それらを通じた活動で81県を網羅している。

 MoLSSの基本的責務は労働と労働者に関連する領分全てであり、労働市場の開発や雇用政策および対策の立案、実施にも関与している。

 現在、MoLSSが労働安全衛生活動を実施しており、1)労働災害への対応、防止に必要な安全対策の開発、実施、2)労働災害の危険性を軽減するための設備の検査や、労働者の研修、3)設備取扱者が提出する労働災害通知の審査、4)職場における化学汚染物質の分析と監視を活動の中心としている。

 トルコにおける労働安全衛生の発達は、経済、社会、労働分野の発展と足並みを揃えてきた。他の国々が経験してきたように、我が国も産業の発展と歩調を合わせるように、法規制や医療、技術面でも体制を整え、防止対策を実施してきた。労働安全衛生分野の立法、実践、制度に関する知識は、特に過去80年で膨大な量が蓄積されている。

 1971年、労働法(第1475号)が議会で可決された。同法は労働安全衛生に関し、事業主に対する強制処分を導入したため、労働安全衛生施策が更に強化されることになった。法律第1475号には、労働者の健康および安全に関する付則などの補足法が作られた。また、労働安全衛生を規定した本法に次いで、更に一歩進んだ規則や法律が多数制定された。その中には、危険有害な製品や、労働監督、建設業や、鉱業における安全衛生に焦点を定めたものも含まれる。

 1975年、イスタンブール市とイズミル市に2つの職業性疾病診療所が開設された。1980年には、職業性疾病病院がアンカラ市(病床数50)とイスタンブール市(病床数300)に開設された。これらの病院と労働安全センター(ISGUM)は、国内外からの資金で充実した設備を備えているものの、効率的な運営という意味では年月が経つにつれて後退している。MoLSSの労働安全衛生施策が弱体化した理由の1つには、状況の変化と、労働監督官の権限が弱まっていることが挙げられる。

 1985年、MoLSS設置法が施行された。この法律の目的は、MoLSSの設立、労働生活や労使関係の規制、監督、また、社会保障の今後の可能性とその向上と海外で就労する労働者の保護と労働条件の改善を目的とした組織、機能関連原則の規制、である。

省中央組織

労働・社会保障省(MoLSS)の中央組織は以下の通りである。
  1. 労働総会
  2. 社会保障施設総会
  3. 外務海外労働者総会
  4. 労働安全衛生総会
  5. EU調整部
 MoLSSは、3つの部門別(労働、外務、労働安全衛生)と、2つの水平組織(EU調整部、調査・計画・調整部)から構成されている。

 労働監督局(LIB)は、国際労働機関(ILO)憲章第81条に基づき、MoLSS内に設立された監督組織である。LIBは10のグループから成り、職員の合計人数は624人である。そのうち339人は一般の職場監督を実施しており、285人は労働者の安全衛生監督に携わっている。LIBの職員は全員大学過程を修了している。その主な責務は、必要な法令の実施を徹底し、労働条件や労働環境を改善することである。LIBは特に児童労働の監督に力を入れており、児童労働者が特殊なリスクグループとなっていることが理由の背景にある。

 トルコは、ILOが児童労働撲滅国際プログラム(IPEC)を通じて児童労働の国別実態調査を行ったヨーロッパでも数少ない国の一つである。実際、トルコでは副収入を得るために家族が児童を働かせているケースが多く、例えば、自動車修理工場などのインフォーマルセクターでは少年達を低賃金で雇っている。外で働いている少女の姿を目にすることはめったにないが、農村部では彼女らの多くが学校に行かせてもらえず手工業などに従事することを余儀なくされている。児童労働の多くが農村部で発生しており、農業や畜産といった伝統的な家族主体の経済活動に関連している事例が多く見られる。

トルコにおける労働安全衛生の現状

 トルコは、世界の中でも経済発展と工業化が急速に進みつつある国のひとつである。15才以上の労働人口は、25,247,000人である。2002年に実施された世帯調査によれば、労働に従事している人口の割合は52.4%(男性72.9%、女性27.0%)で、雇用数は2002年末の時点で21,524,000人、推定公式失業者数は1,967,000人であった。2001年の時点での保険加入労働者数は4,886,881人、事業所の総数は723,503箇所である。トルコでは98%以上の事業所が中小企業に属し、工業部門が労働者総数の57%の雇用を担っている。

 労働・社会保障省(MoLSS)と労働安全衛生総局(DGOHS)は、精力を傾けてこれまでに多数の規則草案を作成してきた。それらの規則は労働安全衛生表示、手動工具、個人用保護具、騒音、振動、化学物質、職場での火災、温度環境、電気工事などについて規定している。更に、トルコの法令とヨーロッパにおける労働安全衛生の指令との適合を目的に、総合的かつ詳細な調査が実施された。

 直近では、変わりゆくトルコの労働生活パターンや、工業化、経済や社会の変化に合わせ、さらにはヨーロッパやILO基準への適合を目的として、2003年6月に新しい労働法(第4857号)が成立した。

 新労働法により、従業員が50人以上の事業所に対して労働安全衛生対策を実施できる条件を満たした事業所には、必要な労働安全衛生対策の実施と監督を行う労働安全衛生委員会が設置される。労働安全衛生委員会は、労働安全衛生指導医、専門家、労働者、および労働組合の代表から構成され、事業主が責任を持って設立しなければならない。委員会が効率的に機能しない理由の多くは、技術装置の不足や、測定、分析手法の欠如に負うところが大きい。トルコの労働災害の多くは主に中小企業で発生している。

 ある国の労働安全衛生のレベルを判断する重要な指標は労働災害の発生率と職業性疾病率である。また、労働災害率の全体像を戦略的に掴むには、長期動向を見るのが適切である。トルコの場合、過去10年間の労働災害率は明らかに減少傾向にある。2000年初頭の労働災害発生率は1990年初頭の数値のおおよそ三分の一以下だが、それにも拘わらずトルコの現状は依然として深刻である。労働災害の多さは、小企業が多いということが背景にある。およそ2件に1件の割合で、従業員数9名以下の企業で労働災害が発生しており、こういった企業は全体数のおよそ9割を占めている。産業別の労働災害発生統計は、金属製品製造業(18%)、建設業(10%)、鉱業(12%)となっている。事故による負傷の原因で最も多いのは、高所からの墜落、機械による事故、高温蒸気 などである。基本的に、労働災害件数の数値は、保険に加入している労働者に関しては完全なデータであるが、職業性疾病に関しては完全なデータとはいえない。2003年の疾病件数はたったの440件であった。トルコにおける職業性疾病は、じん肺や反復運動損傷、溶剤中毒などが多くを占めている。

 労働災害および職業性疾病による最良推定損害額は、トルコの国民総生産(GDP)のおよそ5%であるが、数字に表れない社会的、心理的、道徳的な損害はそれ以上である。また、この報告書に掲載されているデータの数値は、農業、インフォーマル、手工業部門の状況が反映されていない。

トルコの労働安全衛生分野における課題
  • 従業員数、0〜49人の中小企業が圧倒的に多い。新労働法第4857号によると、これらの中小企業には労働安全衛生委員会の設置や産業医の選任が義務づけられておらず、その結果、職場における改善・防止対策が行われず、労働者は予防医療を受けられずにいる。また、事業主は労働者に衛生問題が発生した際、どこに行けば対応してもらえるかという知識がない。その一方、大企業の労働安全委員会ですら適切に機能していないものも見受けられる。
  • 1989年6月12日の労働安全衛生の改善を促進するための施策の導入に関する枠組み指令(89/391/EEC)の転換が承認されたことは、協調への大きな一歩であった。というのは、トルコの労働関連の現状を改善するために、この指令が労働安全衛生関連の主要機関に適用されるからである。新しい規則では、事業主は少なくても1名以上の労働者を、労働安全衛生活動の任務に就かせなければならない。(EU指令を転換した規則、および転換に向けて準備中の規則を含んだ法令一覧を参照。)
  • 事業主と労働者を対象とした労働安全衛生研修が欠如している。枠組み指令の転換により、事業主には今後、全ての労働者に対し、労働安全衛生関連情報の提供や、研修、労働安全衛生対策活動への労働者および労働者代表の参加、相談窓口の提供、といった新しい責務が発生する。
  • 事業主、労働者共に、労働安全衛生に関する国内、および国際法令の知識のレベルが低い。
  • 未登録の事業所が多数ある。
  • 劣悪な労働条件。危険な物理的因子(騒音、振動)、化学的因子(鉛、アスベスト、有機溶剤など)、心理的因子(暴力、孤立、ストレス、過剰な重労働、責任など)にさらされること。
  • 長時間労働。
  • 大多数の労働者に対する社会保障の欠如。
  • インフォーマルセクターの規模が非常に大きく、労働安全衛生問題やその他の問題の温床になっている。
  • 労働者を保護する個人用保護具の不備。
  • 外国人労働者および児童の不法雇用。(外国人労働者に関しては、2003年に施行された新法令により合法化が進み、労働条件の改善が期待されている。)
  • 現行の監督システム。(従来の規制は、中小企業には非効率的な制度である。新しい監督システムである「予防・教育的手法」はごく最近導入されたばかりである。)
  • 労働組合の組織率が低く、社会的パートナー間の連携が薄い。
  • 事業主が法律上の義務を果たす役割を担う機関の数が少ない。(例えば、職場における騒音のレベルや、化学物質の濃度の計測など。)
労働安全衛生関連法案および規則の一覧
  • 労働法第4857号(政府公報の日付:2003年6月10日、第25134号)
  • 社会保険法第506号(OJ :1964年7月29−31日、第11766-11769号)
  • 海洋労働法第854号(OJ:1967年4月29日、第12586号)
  • 労働監督規則(1979年8月28日、第16738号
  • 労働監督局規則(1991年11月16日、第21053号)

規則(EU指令) 政府公報(日付、号数)
1 労働安全衛生に関する規則 2003年12月9日
25311
89/391/EEC:職場における労働安全衛生の改善を促進するための施策の導入に関する理事会指令
2 ディスプレー画面に関する規則 2003年12月23日
25325
90/270/EEC:ディスプレー画面を使用する労働者の安全衛生に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第5号個別指令)
3 振動 2003年12月23日
25325
2002/44/EC:物理的因子(振動)による危険性にばく露する労働者の安全衛生に係る最低必要条件に関する欧州議会および理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第16号個別指令)
4 騒音 2003年12月23日
25325
2003/10/EC:物理的因子(騒音)による危険性にばく露する労働者の安全衛生に係る最低必要条件に関する欧州議会および理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第17号個別指令)
5 建設業 2003年12月23日
25325
92/57/EEC:一時的あるいは移動建設現場における安全衛生に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第8号個別指令)
6 表示 2003年12月23日
25325
92/58/EEC:職場における安全および/あるいは衛生表示の実施に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第9号個別指令)
7 アスベスト 2003年12月26日
25328
2003/18/EC(83/477/EEC-91/382/EEC):職場におけるアスベストばく露による危険性からの労働者の保護に関する理事会指令83/477/EEC修正欧州議会および理事会指令
8 発ガン性物質、突然変異誘発物質 2003年12月26日
25328
99/38/EC(90/394/EEC-97/42/EC):職場における発ガン性物質ばく露からの労働者の保護に関する指令90/394/EECの第二次修正とその対象を突然変異誘発物質に拡大
9 化学物質 2003年12月26日
25328
98/24/EC(91/322/EEC-98/24/EC):職場における化学物質による危険性からの労働者の安全衛生の保護に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第14号個別指令)
10 爆発性雰囲気 2003年12月26日
25328
99/92/EC:爆発性雰囲気による潜在的危険性からの労働者の安全衛生の保護向上に係わる最低必要条件に関する欧州議会および理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第15号個別指令)
11 個人用保護具(PPE) 2004年2月9日
25368
89/686/EEC:加盟国の個人用保護具関連法令のすり合わせに関する理事会指令
12 作業場 2004年2月10日
25369
89/654/EEC:作業場の安全衛生の最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第1号個別指令)
13 作業場における個人用保護具(PPE) 2004年2月11日
25370
89/656/EEC:職場における労働者の個人用保護具使用の安全衛生に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の意義の範囲内における第3号個別指令)
14 運搬作業 2004年2月11日
25370
90/269/EEC:特に腰痛を発生する危険性のある荷物運搬作業の安全衛生に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第4号個別指令)
15 作業機材の使用 2004年2月11日
25370
2001/45/EC(89/655/EEC-95/63/EC):職場における労働者の作業機材の使用の安全衛生に係る最低必要条件に関する理事会指令89/655/EECの修正欧州議会および理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第2号個別指令)
16 鉱業 2004年2月21日
25380
92/104/EEC:地上および地下における鉱物採掘に従事する労働者の安全衛生の保護向上に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第12号個別指令)
17 鉱物採掘 2004年2月22日
25381
92/91/EEC:鉱物採掘の掘削に従事する労働者の安全衛生の保護向上に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第11号個別指令)
18 生物因子 2004年6月10日
25488
2000/54/EC:職場における生物因子ばく露に関連する危険性からの労働者の保護に関する欧州議会および理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第7号個別指令)
19 定期雇用 2004年5月15日
25463
91/383/EEC:定期雇用あるいは臨時雇用労働者の安全衛生向上促進対策の補足に関する欧州議会および理事会指令
294A0103(68)に併合
20 妊娠中の労働者
92/85/EEC:妊娠中、出産直後、母乳育児中の労働者の職場における安全衛生向上促進対策に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第10号個別指令)

労働安全衛生総局(DGOHS)により立案中の法令一覧
  規則(EU指令)
1 漁船

93/103/EC:漁船上での作業の安全衛生に係る最低必要条件に関する理事会指令(指令89/391/EEC第16条(1)の解釈の範囲内における第13号個別指令)
2 重大事故

96/82/EC:危険物質を含む重大な事故の危険性の管理に関する理事会指令
3 電離放射線 TAE―トルコ原子力機関
96/29/Euratom:電離放射線の危険性から労働者および一般市民の健康を保護するための基本安全基準確立に関する理事会指令
4 管理区域内での作業中に電離放射線の危険性にばく露する外部労働者の保護に関する理事会指示 TAE―トルコ原子力機関

統計資料

 トルコでは、社会保険機関(SII)が信頼性の高い労働災害データを提供している。しかし、インフォーマルセクター、農業、政府機関勤務の事務系職員、船員、自営業の労働者は、統計対象に含まれていない。事業主は、労働災害発生後2日以内にSIIに報告することを義務づけられている。MoLSSの労働監督官が労働災害発生現場の調査を行う。監督官による調査は、死亡、身体器官の喪失、長期入院などの深刻な労働災害に区分される労働災害のみを対象とする。

就業時間別災害発生件数の分布状況 表33


グラフ3 就業時間別災害発生件数の分布(過去5年間)