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安全衛生規制の手引き
Health and safety regulation .... a short guide

資料出所:HSEホームページ
http://www.hse.gov.uk/pubns/hsc13.pdf

(仮訳 国際安全衛生センター)


安全衛生規制の手引き(Health and safety regulation .... a short guide)

HSC 13(rev1) 08/03 C1500

HSE


この手引きの目的

 安全衛生委員会(Health and Safety Commission: HSC)は1994年、安全衛生に関する規制について検討を行った結果、下記各項の間の違いと相互の関係について混同の生じていることが明らかとなりました。

  • 指針(guidance)
  • 公認実施準則(Approved Codes of Practice: ACOP)
  • 規則(regulations)

 この小冊子は、これらのものがそれぞれどのように適用されるのか説明することを目的としたものです。この小冊子は事業者と自営業者を対象に作成されていますが、安全衛生に関する法規がどのように運用されることを意図しているか、知りたい人々にとっても役立つはずです。

安全衛生に関する法規で要求していること

 英国の安全衛生に関する法規の基本は、1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc Act 1974)です。

 この労働安全衛生法では、事業者が従業員および一般公衆の成員に対して負う一般的な義務、さらに従業員が従業員自身およびほかの従業員に対して負う一般的な義務が定められています。

 これらの一般的義務は、労働安全衛生法において、「合理的に実行可能な範囲において(so far as is reasonably practicable)」という原則によって限定されています。言い換えると、リスクを回避または低減するための措置が技術的に不可能である場合、またはこれらの措置に要する時間、手数、および費用が当該リスクと比べてははなはだしく不釣り合いである場合には、事業者はこれらの措置を講じる必要はありません。

 労働安全衛生法が上のような表現によって義務づけていることは、事業者が良きマネジメントと良識(good management and common sense)に導かれておのずと行うはずのものです。すなわち、何がリスクであるかを見極め、リスクに対処するための妥当な措置を講じることがそれです。

 1999年職場安全衛生マネジメント規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999: Management Regulations。以下、マネジメント規則とする。)では、労働安全衛生法の下で安全衛生をマネジメントするために事業者に義務づけられている事柄について、一般的により具体的に示されています。労働安全衛生法と同様に、マネジメント規則はあらゆる事業活動に適用されます。

 事業者に課せられていることの中心は、「リスクアセスメント(リスク評価)」を実施することです。従業員数が5人以上の事業者は、リスクアセスメントによって見いだされた重要な事項を記録する必要があります。

 リスクアセスメントは、典型的な事務所などの単純な職場では簡単であるべきで、複雑なリスクアセスメントが必要なのは、原子力発電所や化学工場、実験施設、油田掘削装置など、重大なハザードが存在する場合だけです。

 詳しい説明は、HSEの小冊子「リスクアセスメントのための5つのステップ(Five steps to risk assessment)」を参照してください。

 事業者は、リスクアセスメントの実施に加え、以下のことも行う必要があります。

  • リスクアセスメントによって必要と判断された安全衛生措置を実施するための手はずを決める。
  • 上の手はずの実施を推進する適任者(しばしば事業者自身または社員)を指名する。
  • 緊急時の手順を定める。
  • 従業員に対して明快な情報および教育訓練を提供する。
  • 作業場所を共有する他の事業者と協力して作業する。

 マネジメント規則以外のその他の規則では、特定のハザードに対して取るべき行動、またはハザードが特に大きな産業において取るべき行動が要件として定められています。広く適用される主な規則のリストは付録1に掲載しています。多くのものは、「合理的実行可能性(reasonable practicability)」による限定がありません。

欧州法

 近年の英国安全衛生に関する法律の多くは欧州法に基づくものです。欧州委員会(EC)からの提案に加盟諸国が同意したとき、加盟各国は、これを国内法に組み入れる責任があります。

 最近の英国の安全衛生に関する法規は、多くの欧州法由来のものを含めて、上に述べたリスクアセスメントの原則に基づいたものです。

安全衛生におけるアクションの選択肢

HSCおよびその執行機関である安全衛生庁(Health and Safety Executive: HSE)(両者を以下HSC/Eとする。)は、20年以上を費やして、安全衛生に関する法規の枠組みの近代化に取り組んできました。その目的は、従業員の健康、安全、福祉の保護と、事業活動に由来するリスクに遭遇する可能性のあるその他の人々、主として一般公衆の安全保護にあります。

HSC/Eは、HSC/Eの立法措置の提案が影響を及ぼす人々と十分に協議したうえで、リスクの評価と管理に基づいたさまざまなアプローチを取り入れます(「安全衛生に関する法規で要求していること」を参照)。

HSC/Eによる対応を促す可能性のある事項として、次があります。

  • 技術、産業、またはリスクの変化
  • 災害および健康障害の証拠、これに加えて一般公衆の関心
  • 欧州指令

 既存のさまざまな取り決めを補足する対応が必要であるとHSC/Eが判断した場合、次の3つが主な選択肢になります。

  • 指針(guidance)
  • 公認実施準則(Approved Codes of Practice: ACOP)
  • 規則(regulations)

HSC/Eは、これらの選択肢(または複数の選択肢)のうち、従業員と一般公衆に対して適切な安全の保護が得られる一方、事業者にとっての柔軟性が最も大きく、費用が最も少ないものを選ぶよう努めています。

指針

HSEはさまざまなテーマに関して指針を発行しています(この手引きの末尾を参照)。

 指針が具体的に対象とするのは、ある産業の安全衛生や、いくつかの産業で使われている特定のプロセスの安全衛生に関する問題です。

 指針の主な目的は以下にあります。

  • 法が定めていることを理解しやすくする。たとえば、EC指令に基づく要件が労働安全衛生に関する法規の下の要件とどう対応するかなど
  • 法規遵守の支援
  • 技術的アドバイスの提供

 指針を守ることは強制されておらず、事業者がほかの措置を講ずることも自由です。しかし、一般に指針を守れば、事業者は法を遵守するために十分な手だてを講じていることになります。(以下の公認実施準則および規則の項を参照してください。法が求めていることを事業者が実施しているかどうかの判断材料となるその他の方法について説明しています。)

 技術の変化に伴ってリスクとリスクへの対処に必要な措置も変わってくるので、HSC/Eでは指針を常に最新のものにするよう努めています。

公認実施準則(ACOP)

 公認実施準則は、すぐれた実施内容(good practice)の具体例を提供するものです。

 公認実施準則は、何が「合理的に実行可能」なのかについてガイドを示すことなどによって、法を遵守する方法についてアドバイスを与えます。たとえば、規則で「適切かつ十分な(suitable and sufficient)」という表現が使われている場合、公認実施準則では、この表現が具体的な状況の中でどのようなことを求めているかを説明しています。

 公認実施準則は「法律上特別な存在」です。事業者が安全衛生に関する法規に対する違反で起訴された場合、公認実施準則の該当条項を事業者が遵守していなかったことが立証されたとき、ほかの何らかのこれに代わる措置によって法規を遵守していたことを事業者が証明できない限り、裁判所は事業者の責任を問うことになります。

HSCは1995年、安全衛生システムにおける公認実施準則の役割について諮問し、個別の状況において、法律上の義務の遂行を助けるために、今後も公認実施準則を用いるべきであるという結論を下しています。

規則

 規則は、議会によって承認された法です。規則は通常、HSCからの提言をうけて労働安全衛生に関する法規の下で作成されます。このプロセスは、EC指令に基づく規則についても、「国内で生まれた」規則についても同じです。

 労働安全衛生法、およびマネジメント規則で定められている一般的な義務は、性能を規定するものであり(後記の「どのような形態がとられるか」を参照)、特定されたリスクをどう管理するかについては、事業者の裁量に任せています。指針と公認実施準則はアドバイスを与えます。しかし一部のリスクについては、そのリスクが非常に大きかったり、適切な管理手段が非常に高価であったりするために、こうしたリスクに関してどう対処すべきかを事業者の裁量に委ねることが適切でない場合があります。規則はこうしたリスクを特定し、講じなければならない措置を具体的に定めます。しばしばこれらの要件は絶対的であり、合理的に実行可能かどうかを問題にせずに、これこれのことをしなさい、という形を取ります。

規則はどのように適用されるか

 手または体全体を使って物を移動する場合に常に適用されるマニュアル・ハンドリング規則(Manual Handling Regulations)や、VDU(視覚的表示装置)を使う場合に常に適用されるディスプレイ画面装置規則(Display Screen Equipment Regulations)など、一部の規則はあらゆる企業に対して横断的に適用されます。その他の規則は、鉱業や原子力産業など、特定の産業に固有のハザードに対して適用されます。

どのような形態がとられるか

HSCは、そうすることが適切であると判断した場合には、「性能を規定する」形で、すなわち「どのように」それを行うかではなく、「何」を達成しなければならないかを規定する規制を提案します。

 時には、「仕様を規定する(prescriptive)」こと、つまり何を行うかを細かく定めることが必要になります。一部の規定は絶対的なものです。たとえば、すべての鉱山には出口が2つなければなりませんし、通電している導電体への接触は避けなければなりません。欧州法が仕様を規定している場合もあります。

 一部の事業活動または物質は、それ自体が非常に危険なため、「免許(licensing)」の取得が義務づけられています。たとえば、爆発物やアスベストの除去がこれに該当します。一部の大規模で複合的な施設または事業運営では、「安全規定(safety case)」が義務づけられています。安全規定は、大がかりなリスクアセスメントであり、規制当局の綿密な審査の対象となります。たとえば鉄道会社は、その事業運営について安全規定を作成することが義務づけられています。

規制当局と産業界との関係

 すでに述べたように、HSCは、HSCの提案の影響が及ぶ当事者と広範囲な協議を行います。

HSC/Eの活動は下記のような場面で行われています。

  • HSCの産業およびテーマ別諮問委員会(Industry and Subject Advisory Committees)。これらの諮問委員会は、対象分野出身の委員で構成され、特定の産業(繊維、建設、教育など)または特定の分野(毒物、遺伝子操作など)における安全衛生の課題に取り組みます。
  • 中小企業団体などの仲介組織。
  • 事業者および労働安全衛生に関する法規の下で責任を負うその他の人々に対する情報とアドバイスの提供。
  • HSE監督官および地域当局の監督官の双方を含む執行官の指導。
  • 監督官による作業現場の人々との日々の接触。

HSCは中小企業に対して直接意見の聞き取りを行います。また、立法措置案が中小企業に与える影響について、中小企業の代表者から詳しい意見を求めることもしています。

次のステップ

 安全衛生に関する規制の検討では、現行のシステムが全体的に良好に機能しているという結論が得られましたが、改善が可能な分野もいくつか見つかりました。

 検討は終わっていますが、「よりよい規制(Better Regulation)」を目指す私たちの努力は続いています。検討によって、職場の安全衛生の改善において持続的成果を上げるための重要な基礎を築くことができました。そこから導かれる種々の政策と取り組みは、私たちが掲げる重要な目的と目標を引き続き支えますが、その一方で、技術や職場の動向、関係者のニーズの変化を考慮に入れた形で適応、進化を遂げ、今後さらに洗練されたものになるはずです。


付録1:主要安全衛生規則

 労働安全衛生法自体ならびに、以下の規則があらゆる職場に適用されます。

  1. 1999年職場安全衛生マネジメント規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999):事業者に対し、リスクアセスメントの実施、必要な措置を実施するための手はずの決定、適任者の指名、および適切な情報と教育訓練の実施を義務づけています。
  2. 1992年職場(安全、衛生、福祉)規則(Workplace (Health, Safety and Welfare) Regulations 1992):換気、暖房、照明、ワークステーション、座席、福利厚生施設など、安全、衛生、福祉に関する基本的な問題を幅広くカバーしています。
  3. 1992年安全衛生(ディスプレイ機器)規則(Health and Safety (Display Screen Equipment) Regulations 1992):VDU(視覚的表示装置)作業を行う際の要件を定めています。
  4. 1992年職場における個人用保護具規則(Personal Protective Equipment at Work Regulations 1992):事業者に対し、従業員への適切な防護服および保護具の提供を義務づけています。
  5. 1998年作業機器提供・使用規則(Provision and Use of Work Equipment Regulations 1998):機械も含め、作業で使用するために提供される機器が安全なものであることを義務づけています。
  6. 1992年マニュアル・ハンドリング作業規則(Manual Handling Operations Regulations 1992):手又は体全体を使って物を移動する場合に適用されます。
  7. 1981年安全衛生(救急)規則(Health and Safety (First Aid) Regulations 1981):救急措置のための要件を定めています。
  8. 1989年従業員向け安全衛生情報規則(The Health and Safety Information for Employees Regulations1989):事業者に対し、安全衛生について従業員が知っておく必要のあることを記述したポスターの掲示を義務づけています。
  9. 1969年事業者責任(強制保険)法(Employers' Liability (Compulsory Insurance) Act 1969):従業員の災害および疾病に対して保険をかけることを事業者に義務づけています。
  10. 1995年傷害、疾病、危険事態発生報告規則(RIDDOR)(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrences Regulations 1995 (RIDDOR)):事業者に対し、職場で発生した特定の傷害、疾病、および危険事態の報告を義務づけています。
  11. 1989年職場騒音規則(Noise at Work Regulations 1989):従業員を聴力障害から守るための措置を講じることを事業者に義務づけています。
  12. 1989年職場電気規則(Electricity at Work Regulations 1989):電気システムの管理者に対し、電気システムの安全な使用および安全な状態での保守を確実にすることを義務づけています。
  13. 2002年有害物質管理規則(COSHH)(Control of Substances Hazardous to Health Regulations 2002(COSHH)):事業者に対し、危険有害物質のリスクアセスメントを行い、適切な予防策を講じることを義務づけています。

上記に加え、アスベストや鉛などの特定の分野をカバーする具体的な規則、さらに以下のような規則があります。

  1. 2002年化学物質(危険有害性の通知ならびに供給のための包装及び容器)規則(Chemicals (Hazard Information and Packaging for Supply)Regulations 2002):危険な化学物質の分類・表示・包装、および当該化学物質の安全データシートの提供を供給者に対して義務づけています。
  2. 1994年建設(設計およびマネジメント)規則(Construction (Design and Management) Regulations 1994):建設現場における安全な作業システムについて定めています。
  3. 1994年ガス安全(設置および使用)規則(Gas Safety (Installation and Use) Regulations 1994):家庭および商業施設におけるガスシステムとガス機器の安全な設置、保守、使用について定めています。
  4. 1999年大規模災害管理規則(Control of Major Accident Hazards Regulations 1999):一定量の危険な化学物質または爆発物を製造、貯蔵、または運搬する者に対し、関係当局への届け出を義務づけています。
  5. 2002年危険物質および爆発性雰囲気規則(Dangerous Substances and Explosive Atmospheres Regulations 2002):事業者および自営業者に対し、危険物質が関わる事業活動のリスクアセスメントを行うことを義務づけています。

付録2:参考資料

Basic advice on first aid at work Leaflet INDG347 HSE Books 2002 (single copy free or priced packs of 20 ISBN 0 7176 2261 4)

Control of substances hazardous to health. The Control of Substances Hazardous to Health Regulations 2002. Approved Code of Practice and guidance L5 (Fourth edition) HSE Books 2002 ISBN 0 7176 2534 6

Essentials of health and safety at work (Third edition) Guidance HSE Books 1994 ISBN 0 7176 0716 X

Five steps to risk assessment Leaflet INDG163 (rev1) HSE Books 1998 (single copy free or priced packs of 10 ISBN 0 7176 1565 0)

A guide to the Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrences Regulations 1995 L73 (Second edition) HSE Books 1999 ISBN 0 7176 2431 5

Health and safety law: What you should know (rev1) Leaflet HSE Books 1999 (available in priced packs of 25 ISBN 0 7176 1702 5)

Health and safety law: What you should know (Second edition) Poster HSE Books 1999 ISBN 0 7176 2493 5

The law on VDUs: An easy guide: Making sure your office complies with the Health and Safety (Display Screen Equipment) Regulations 1992 (as amended in 2002) HSG90 HSE Books 2003 ISBN 0 7176 2602 4

Management of health and safety at work. Management of Health and Safety at Work Regulations 1999. Approved Code of Practice and guidance L21 (Second edition) HSE Books 2000 ISBN 0 7176 2488 9

Manual handling: Solutions you can handle HSG115 HSE Books 1994 ISBN 0 7176 0693 7

Memorandum of guidance on the Electricity at Work Regulations 1989. Guidance on Regulations HSR25 HSE Books 1989 ISBN 0 7176 1602 9

Safe use of work equipment. Provision and Use of Work Equipment Regulations 1998. Approved Code of Practice and guidance L22 (Second edition) HSE Books 1998 ISBN 0 7176 1626 6

Safety in the installation and use of gas systems and appliances. Gas Safety (Installation and Use) Regulations 1998. Approved Code of Practice and guidance L56 (Second edition) HSE Books 1998 ISBN 0 7176 1635 5

A short guide to the Personal Protective Equipment at Work Regulations 1992 Leaflet INDG174 HSE Books 1995 (single copy free or priced packs of 10 ISBN 0 7176 0889 1)

Working with VDUs Leaflet INDG36 (rev1) HSE Books 1998 (single copy free or priced packs of 10 ISBN 0 7176 1504 9)

Workplace health, safety and welfare: A short guide for managers Leaflet INDG244 HSE Books 1997 (single copy free or priced packs of 10 ISBN 0 7176 1328 3)