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The Institution of Occupational safety and health, IOSH
(イギリス労働安全衛生協会)



イギリスの安全衛生団体であるIOSHについてご紹介いたします。この団体は、安全衛生専門家のための組織で、労働安全衛生に関する研修、出版等の事業等を行っています。


(資料出所: The Institute of Occupational safety and health)

労働安全衛生の重要性

イギリスでは2200万人以上の男女が雇用されています。また自営業者も330万人に達しています。安全衛生はそれらのすべてに人々、その毎日の生活に深くかかわっています。さらに多くの人々、子供が毎年、商工業や公共部門などの事業活動によって影響を受けています。

労働安全衛生(OSH)のための活動は、従来からリスクが高いと見なされてきた産業部門、たとえば原子力やオフショア(海上沿岸)、建設などに限定されるものではありません。たとえば、オフィスはこれまで「安全な」環境と考えられてきましたが、ここにもオフィス特有の危険があります。仕事が原因となったストレスや、キーボード作業の管理が悪いために生じる反復ストレス障害(stress to repetitive strain injury RSI)などがそれに当たります。

近代の法律制度はすべての種類の作業環境で、安全衛生の管理を義務づけています。人々を実際に保護するために、作業システムの中で要件を解釈し、実施することは労働安全衛生マネジメントのプロセスの一部ですが、労働安全衛生マネジメントは法律の規定を守ることで終わるものではありません。法律は最低の基準を設定し、各産業部門はそれよりも高い水準の達成を目標とすることが期待されています。また法律上の規定があるだけでなく、安全で衛生的な職場を作ることは明らかに道徳的に必要なことであり、経済的にも合理的なことなのです。

安全衛生マネジメントを効果的に進めるためには、リスク・アセスメントから安全衛生の基本方針に対する助言に至るまで、幅広い責任を持つことのできる、高度の訓練を受け、有能で経験深い専門家が必要です。

適切な資格をもつ安全衛生専門家から、現場の実情を十分に踏まえた提言を受けることは、事業者が安全衛生・福祉政策を決める上での不可欠の要素です。それによって高い水準の労働安全衛生対策を作り、それを維持していくことができます。労働安全衛生業務に従事する人々のための欧州における重要な機関である、IOSHは安全衛生専門家の重要な職務を支援し、事業者が自分自身と仲間たちを職場の危険から守るのを応援するために、努力しています。



安全衛生実務専門家(The safety and health practitioner)

IOSHはあらゆる産業(多国籍企業から小規模のコンサルタント事務所など)に働く23,000人の会員を擁しています。これらの会員は大学を卒業して労働安全衛生の分野で働き始めたばかりの人々から、高い資格をもち、安全衛生担当役員を務めるベテラン専門家まで、さまざまです。安全衛生の専門家は色々な名称をもっています。安全衛生実務担当者(safety and health practitioner)、安全衛生アドバイザー(safety and health adviser)、安全衛生総括管理者(safety and health director)など、いずれも多様な職場のニーズや責任のレベルを反映しています。

IOSHは企業会員より個人の職務、能力、任務などについて報告を受けており、これが専門家としての信頼性の拠りどころとなっています。

労働安全衛生専門家は取締役、マネジャー、チームリーダーと協力し、組織が法的最低要件を遵守できるようにしています。法律を解釈し、その内容を伝達することは専門家の重要な役割の一つです。安全衛生アドバイザーの任務は、法律や技術、職場の動向をつねに観察し、実際に変更を迫られる前に、状況を察知して対策を考えることにあります。専門家はまた、職場で優先的に実施しなければならない対策について助言します。

労働安全衛生専門家の仕事は、他のマネジャーやスタッフの安全衛生責任を補佐しなくはなりません。役員会レベルでは、アドバイザーは労働安全衛生の基本方針の立案、実施について助言します。マネジャーやチームリーダーと協力する場合には、安全衛生専門家は事故や危険にさらされるリスクを最低に抑えるための対策について助言します。

安全衛生専門家の役割は産業部門によって、また企業の規模によって違います。具体的な任務としては、安全な作業システムや手順の作成、危険の解明や監督、リスクアセスメント、安全監査、衛生監視プログラム、訓練の計画、立案などを上げることができます。働く人々の態度や行動も事故の原因になることがあります。安全専門家は企業組織内の安全に作業するという文化を積極的に高めることによって、安全衛生についての労働者の姿勢を向上させることを狙いとしています。

労働安全衛生は多くの分野にまたがる活動で、専門家は労働衛生、人間工学、リスク・マネジメント、安全監査、環境衛生などの領域に精通しています。安全衛生アドバイザーは普通、科学技術的な専門知識を効果的なマネジメント技術、問題解決、意志疎通のスキルと組み合わせる必要があります。

IOSHの会員の5%はHSE(安全衛生庁)や地方自治体に働く監督・執行担当の職員です。これらの監督・執行官は産業や商業の各部門の同僚と同じ職務上のスキルに基づいて、法律執行という重要な職務を遂行しています。


(訳注)
ここでは下記の訳語をあてました。
safety and health practitionerは安全衛生実務専門家
safety and health directorは安全衛生総括管理者



IOSHの役割

IOSHはこうした職務、職業に関連する重要な諸問題の焦点となっています。イギリスにおける個々の安全衛生専門家を代表する機関として、IOSHは政府各機関から法律案、公認行動規範、ガイドラインなどについて会員の意見を求められることが多く、国および国際的な基準設定機関の委員会にも代表を送っています。さらに、IOSHは重要な問題についての意見書や報告書を定期的に発行しています。また共通の問題に関心を持つ全世界の諸機関とも緊密な連携を保っています。

IOSHは労働安全衛生の原則や規範の水準を高く維持し、この分野で働く会員のために次のような支援活動を展開しています。

・技術的および専門的な能力、経験の深さなどに応じて、適切な等級を会員に付与する。
・専門的な技能や知識の維持、向上のための設備・機能を提供する。



情報と出版

技術情報サービスには、インターネット、バーバー・マイクロファイル・インデックス、シルバープラターおよび技術的インデックスなどのCD-ROMシステムへのアクセスが含まれています。安全衛生関連のデータはIOSH本部の情報源センターから無料で入手できます。

IOSHの月刊誌「安全衛生実務専門家(The safety and health practitioner)」は、専門的なニュースを掲載し、作業環境のあらゆる分野の記事を扱っています。会員には無料で配布されます。

「IOSHジャーナル(jounal of the institute of safety and health)」は年に2回発行される雑誌で、専門家の審査を経た学術的、技術的、専門的な論文が安全衛生に関連する多様な問題を検討しています。これは定期購読者のみを対象とした雑誌で、会員には割引制度があります。

「技術インフォシート(technical infosheets)」は労働安全衛生専門家のために重要な情報の概要をお知らせする手段になっています。無料で配布され、急速な変化を見せる専門分野の問題や話題を掲載しています。

IOSH出版局は各種の普及書、試験入門書、安全衛生専門書などを出版しています。

IOSHのホームページ「www.iosh.co.uk」は、IOSHの活動についての新しい情報をオンラインで提供しています。OSHチャット・フォーラムは専門家が各種の問題について協議し、意見を交換する場所になっています。



セミナーと会議

総合的な専門技術開発プログラムとして、実際的なリスク・アセスメントおよびマネジメントのコースがあり、また電気の安全な取り扱い、騒音測定/管理など、各種の技術的問題のワークショップも開かれています。

地域および全国的なワークショップや会議は、職業的なストレスなど、具体的な問題についての新たな規制を検討しています。

IOSHの年次会議では、多くの高名な講師陣が現在の専門的問題について講演しています。公式の講義プログラムに加えて、技術、管理、研修などを重点的に扱うワークショップも開かれており、環境マネジメントから障害をもつ労働者の安全衛生上のニーズへの対応などが検討されています。

会員企業にはイベントの割引制度があります。



CPDプログラム

継続的な能力の開発は特に労働安全衛生専門家にとって重要な課題です。IOSHの継続的専門技術開発(CPD)プログラムは、労働安全衛生専門家の知識、能力、技能を職業上の生涯を通じて組織的に維持、改善、拡大するものです。管理および技術上のスキルは、研修、セミナー、研究などへの定期的な参加などによって高められます。



研修

IOSHは「経営者のための安全講座」、「安全管理講座」「安全作業講座」などの各種の安全衛生コースを開催しています。これらの講座は実際の業務に即した内容で、会員企業の安全衛生担当者以外の従業員や、一般人が対象となり、修了者には証書が授与されます。講座は能力に応じたモジュール方式で組織され、技術だけでなく、基礎的な知識も学習し、安全な労働というカルチャーを育成する全体的なプログラムの一部となっています。これらの講座はイギリスの法律よりも最善の慣行(best practice)に準拠しているため、国際的にも次のような講座で利用することができます。

・経営者対象講座:トップレベルの経営者が対象。労働安全衛生についての道徳的、経済的、法律的な問題についての理解を深めます。
・安全管理講座:管理者の研修を目的とし、健全な管理原則を全体的戦略の一部として安全衛生に適用する方法を学びます。
・労働安全講座:正式な安全衛生研修を受けていない、一般スタッフを対象とした講座。

研修を受ける人々の数は年間平均で6万人に達しています。



ネットワーク

公共部門、建設業、オフショア産業などの支部や関係団体の協力で、会員企業に業界の新しい動き、技術革新、着想や経験を学ぶ機会が設けられています。会議やワークショップ、シンポジウム、現地訪問など多彩なプログラムがあります。



法律・保険サービス

会員企業を対象に24時間を通じて利用できるオンライン法律相談があります。資産の問題や交通事故など、多様な相談に応じています。保険サービスには専門的な賠償、家庭や旅行、交通事故などの保険パッケージも用意されています。



安全衛生専門家名簿

IOSHの安全衛生専門家名簿(register of safety practitioners RSP)は、専門的な労働安全衛生の知識に加えて、実際的な能力を知り、測定する手段となります。事業者や顧客、規制機関がこの名簿を見れば、安全衛生専門家全体の能力、機能の水準を知ることができます。会員企業は無料で名簿を見ることができます。MIOSHまたはPISHOの後にRSPの文字を入れると、労働衛生または人間工学などの専門分野の人材ではなく、全般的な業務を行う専門家が分かります。

RSPはIOSHのCPDプログラムを通じて、能力の維持を証明しなければなりません。



安全衛生コンサルタント名簿

中小企業では、常勤の安全衛生専門家を持つ必要がない、あるいはそのゆとりがない場合も多いことでしょう。しかし、中小企業も法律上の安全衛生義務を守らねばなりません。その場合、二つの選択肢があります。一つは従業員を訓練し、勤務時間の一部を割いて低リスクの基本的な安全衛生問題を処理させる方法です。そしてコンサルタントには必要に応じて特別の助言を求めることになります。もう一つは、すべての労働安全衛生マネジメント要件について、コンサルタントのサービスを受けることです。

外部の助言を受けるのが必要なのは、中小企業に限りません。安全衛生専門家は自分の専門分野外で何か問題が生じた場合には、外部の専門家の支援を求めることを考える必要があります。

外部の専門家の支援を求める場合には、必要なスキルを持った経験深いコンサルタントを任命することになります。IOSHには安全衛生コンサルタント名簿を備えており、助言を求める会員企業が適切なコンサルタントを探せるようになっています。



専門行動規範

欧州の労働安全衛生コミュニティの中心的な存在として、IOSHは会員だけでなく、産業界や一般市民に対しても責任を負っています。すべての会員は専門行動規範を遵守しなければなりません。



表彰制度

IOSHは学術、技術、革新的な技能などの業績に対する表彰制度を実施しています。すぐれた論文、出版物、労働安全衛生に対する貢献などが対象となります。



IOSH会員になるには

  • 正会員

    常勤の安全衛生専門家はすべてIOSHの企業会員となっていただきたいと考えています。IOSH会員になるには、学歴、経験、業績などで一定の資格が必要です。

    IOSHの企業会員になるには適切な資格に加えて、最低3年の実務経験が必要です。適切な資格とは次のようなものを言います。

    ・労働安全衛生または関連する学科の学位
    ・労働安全衛生業務の職務資格(vocational qualifications VO)第4級、または
    ・国家労働安全衛生試験委員会(national examination board in occupational safety and health NEBOSH)修了証書

    企業会員はMIOSHの略称を使用することができます。

    最低5年間企業会員であり、職務において先任的な地位についていた人はIOSH先任会員(フェロー)になり、FIOSHの略称を使うことができます。

    準会員として加入し、正会員にふさわしい経験を積んだ人は正会員に推挙されます。

  • 準会員

    高い資格の労働安全衛生専門家を補佐する、または低リスク分野で日常的な業務を行う人々は、準会員としてIOSHに加入することができます。その場合には安全技術専門家(technical safety practitioner TechSP)となりますが、関連する業務に最低2年の経験を持ち、以下の資格をもつことが必要です。

    ・労働安全衛生業務の職務資格第3級または
    ・NEBOSH修了証書第1部または同等の公認資格

  • 賛助会員

    労働安全衛生に積極的に関心を持っているが、他の会員として加入できない人々のための措置。



歴史

IOSHの歴史は1981年に設立された王立事故防止協会(the Royal Society for the Prevention of Accidents)の一部として、1945年に労働安全管理者協会(Institute of Industrial Safety Officers IISO)が設立された時に始まります。IISOはその後、IOSHに改名されました。その後、自治体安全管理者協会(the institute of Municipal Safety Officers)もIOSHに合併されています。