2.主要な事実
イギリスにおいては事業活動から生じる安全衛生に対するほぼすべてのリスクが、一つの法律的枠組みを通じて、
そして一つの制度的枠組みによって規制されています。HSCとHSEが規制の対象としているのは、原子力施設や鉱山での
安全衛生問題から、工場、農場、病院、学校、海上のガス石油施設をはじめ、ガスの配管網、危険製品・物質の輸送、鉄道の安全、
その他の労働者および一般市民の保護に関する多くの問題に及んでいます。
地方自治体も事務所、店舗、レジャーを含む他のサービス部門における執行について、HSEに対して責任を負っています。
HSCとHSEは政府から大幅な独立性を持った公共機関(public
body)です。 HSCは雇用担当国務大臣(Secretary
of State for Employment)によって任命され、HSEはHSCによって任命されます。
HSEの4500人の職員中には政策顧問、監督官、技術者、科学者、医療顧問などが含まれています。
1974年労働安全衛生法(Health and Safety at
Work etc Act 1974)に基づくHSCの法律上の責任には、
大臣に安全衛生に関する法律、基準を提案することが含まれています。
HSCは、HSEの助言およびその研究所および外部プログラムで行われた研究の成果を基に、これらの提案を作成しています。
またHSCは企業の経営者、労働組合、科学技術専門家などの幅広い関係者との協議を行っています。
この協議は諮問委員会のネットワークや特定の提案に関する一般からの意見公募などを通じて行われています。
特に中小企業の意見を求めるためには努力を尽くしています。
イギリスにおける安全衛生の高い水準は1974年に導入された近代的な法規によって保証されており、
さらに1992年労働安全衛生マネジメント規則によって強化されています。
そこには19世紀にさかのぼる長い安全衛生法規の歴史が反映されています。
労働安全衛生法が制定されて以来、HSCは法律の進歩的な改正に努力し、特定業界に関する細かい法律から、
近代的なアプローチへの移行を進めてきました。こ
のアプローチでは、規則に定めるのは目標と一般的原則にとどめ、詳細な要件は規範や指針に譲る形を取っています。
公認規範(approved codes)はイギリスの安全衛生法では特別な地位を持っており、基準を達成するための具体的な方法を規定しています。
こうした規範を順守しない者は、その者自身のアプローチが法的要件の達成に同じように有効であることを実証しなければなりません。
義務的な規則が定めた枠組みの中でも、技術的進歩に見合う柔軟性が確保されているのです。
イギリスの制度における基本的な原則は、産業、商業上の事業を所有、経営し、
そこで働く者に安全衛生の責任が課せられていることにあります。
それは自営業者についても同じで、自営業者もその事業活動に伴なうリスクを評価し、適切な措置を取らなければなりません。
リスクを評価し、適切な措置を取る必要性の背後には、イギリスの安全衛生法において広く用いられている
「合理的に実行可能な限り(so far as reasonably
practicable)」という条件があります。 これを実際に当てはめると、正しい慣行が確立されている場合には、つねにそれを順守すること、そうでない場合には、
義務を持つ責任者は、措置を取るコストが安全衛生上の利益を著しく超えない範囲で、予防措置を取らなければならない
ことを意味します。
安全衛生監督官は法律の執行に当たって、重要な法律上の権限を与えられています。
監督官は警告を与えなくても、家屋、施設に立ち入ることができます。
安全衛生基準が不十分であると判断した場合には、監督官は特定の期限内に事態を改善せよとの改善通告を与え、
即時または期限つきの禁止命令を出し、または非常に悪質な違反を訴追するなどの措置を取ることができます。
安全衛生監督官は幅広い問題についての制度、原則についての訓練を受けますが、原子力、鉱業、鉄道、海上ガス石油など、
特定の高リスク業種を専門とする監督官もいます。
監督官はすべて、法律の適用に裁量権を行使し、情報をHSEの政策、技術センターにフィードバックするための高度の訓練を受けて
います。 必要に応じて自分の所属するの監督局(inspectorate)、他局、HSEの他部門の経験や専門技術の支援を受けることができます。
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