3.制度
1974年労働安全衛生法
イギリスの安全衛生法規の歴史は150年以上前に始まっています。現在の制度が整ったのは1974年に労働安全衛生法が新しい機関
を制定してからで、それ以後も安全衛生に関するさまざまな法律の改善を重ね、今日に至っています。
主な機関
労働安全衛生法によって次の2つの主要な機関が設けられました。
* HSC
HSCは雇用担当国務大臣が事業者、従業員などの団体、地方自治体、その他の関係機関との協議の上で任命する
10人の委員で構成されています。HSCの委員のうちの1人は公共の利益を代表する者として任命されています。
HSCの主な任務は、さまざまな事業が実施される場合に、勤労者および一般市民の安全衛生を確保するような制度を設けること
です。 その任務には、新しい法律、基準の提案、研究の実施、情報や助言の提供、爆発物その他の危険物の規制などが含まれます。
またHSCは雇用医療助言局(Employment Medical Advisory Service)という、職業病に関する助言を行う機関も運営しています。
さらにこれらの事項のすべてに人々が関心を持つように努めることもHSCの義務です。
* HSE
HSCが雇用担当国務大臣と協議して任命する3人からなる組織体で、HSCの職務執行について助言し、支援します。
HSEはそれ自身でも特別の法律上の責任を負っており、特に安全衛生法の執行を任務としています。
HSEの職員は約4,500人にのぼり、監督官、政策顧問、技術者、科学・医学専門家なども含まれています。
それらの人々を総称してHSEと呼んでいるのです。
地方自治体も安全衛生法の執行について、法律上の責任を負っています。
所管するのは主に流通業、小売業、事務所、レジャー、外食産業などの部門です。HSEは、HSE/地方自治体執行連絡委員会
(Local Authorities Enforcement Liaison Committee)を通じて、地方自治体と密接な連携を保っています。
HSE地域事務所の執行連絡官(enforcement liaison
officer)ネットワークも、地方自治体に助言と支援を提供しています。
省庁の責任
政府の各省庁も、関連する領域におけるHSCおよびHSEの活動について、議会に対して責任を負っています。
雇用担当国務大臣は議会に対してHSC、HSEの人事、予算、労働者保護、その他のすべての活動について責任を負っていますが、
その他の国務大臣の責任である特定の領域はそれぞれの国務大臣が責任を負うことになります。
特定の領域について議会に責任を負っている国務大臣は貿易産業担当国務大臣(Secretary
state for Trade and Industry)− 原子力安全、貿易障壁の安全衛生面−、輸送担当国務大臣(Secretary
of Transport)−鉄道の公共安全、危険物質の輸送、港湾等−、
環境担当国務大臣(Secretary of the Emvironment)−遺伝学的に修正された有機体の放出、殺虫剤の主な危険と承認−などです。
農業大臣(The Minister of Agriculture)も殺虫剤の安全について部分的な責任を負っています。
これらの事項について、HSCとHSEは、労働安全衛生法および関連規則、または欧州法(European
legislation)の下で、 各大臣の権限と義務に基づいて、措置を取っています。
さらに関係国務大臣の代理として、協定に基づいて措置を取る例もいくつかあります。
国務大臣は特定の事項について、HSCを指揮する権限を持ち、また大臣自身がHSCとの協議の上で、
労働安全衛生法を提案することもできます。
実際には、労働安全衛生法が制定されてからの安全衛生に関する提案のほぼすべては、HSCから各国務大臣に提案されたものです。
各国務大臣は欧州連合における安全衛生法の交渉および実施についても、委員会の助言と支援を求めています。
諮問委員会
HSEはHSCに対して、その職務上不可欠な政策、技術、専門的助言を提供しています。
またHSEの諮問委員会ネットワークからも専門家の助言が提出されています。 諮問委員会は特定の危険について、または特定の業種について設けられ、事業者と従業員の代表者が同数ずつ加わり、
必要に応じて技術、科学などの専門家も加わります。 これらの諮問委員会はHSEの支援を受けながら、基準や指針について勧告し、場合によっては、
HSEが直面している政策問題についての意見を述べ、あるいは特定の新たな問題に対するアプローチを提案します。
協議
HSEがなんらかの提案を行う場合、それを公式の段取りに乗せる前に、HSCに代わって関係者と非公式の協議を行います。
この場合、諮問委員会のネットワークを通して行うことが多いのですが、もっと広い範囲に及ぶのが普通です。
HSE内部でも政策職員は提案を実際に具体化する際には、監督官、科学者、技術者の専門知識の助けを借ります。
HSCが新規立法や慣行規範(code ofd practice)に関する提案を関係国務大臣に提出する際には、公式の協議文書を提出します。
これは一般にも公表され、非常に広い範囲に行き渡ります。
それによってHSCは提案の具体化において、幅広く新しい安全衛生法規の影響を受ける人々や組織の意見を知ることができるのです。
この手続きは国内で発議された法案や基準の場合も、欧州連合からの提案の場合も同様です。
欧州連合提案の場合の協議プロセスは、立法の諸条件に制約されますが、適用や解釈について疑義が生じるのが普通です。
たとえばそれは欧州指令(terms of directive)の域を超えるのではないか、関係するイギリス法の改定にはどのような選択があり、
またどんな結果が生じるのか、といった問題です。
どのような場合にも、HSCは欧州連合提案についての交渉、実施の両面において、既存のイギリスの基準が維持され、
改善されるようにすることを目的としています。
HSCとHSEは、他の機関との連携を保っています。
特に電離およびその他の放射線に関連する国の規制機関であるイギリス原子力庁(UK
Atmic Energy Authority)および 全国放射線保護委員会(Natinlal
Radiological Protection Board)との関係は密接です。
また王立協会(Royal Society)、イギリス労働衛生協会(British
Occupational Hygiene Society)、労働衛生研究所
(Institute of Occupational Hygienist)、王立化学協会(Royal
Society of Chemistry)などの専門、科学機関とも連携しています。
それらの機関はイギリスにおける労働安全衛生の科学的および技術的基盤の確立に重要な貢献を果たしています。
また国際的には、HSC、HSEは主要な機関を支援し、協力しています。
主に欧州共同体内の機関が中心ですが、経済協力開発機構(Organisation
for Economic Co-operation and Development)、
国際労働機関(ILO)、国際原子力機関(International
Atomic Energy Authority)などとは、国際的基準の開発、
適用の面で協力しています。
委員会の責任限度
労働活動に直接、間接に関係するリスクや危害であっても、労働安全衛生法以外の法律の対象であれば、
HSCが所管していない場合もあります。 たとえば消費者、食品安全、海上や航空機の安全、汚染問題などです。

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