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5.法律的枠組み

安全衛生法下の義務

労働安全衛生法の出発点および主要原則は、事業活動によるリスクを生じさせた者が、 あらゆる結果について労働者や一般市民の保護に責任をもつ、という点にあります。 同法は事業者、自営業者、従業員、設計者、製造業者、輸入業者、供給業者などに具体的な責任を課し、 さらに関連規則は施設の所有者、認可保有者、管理者、責任者に付加的な責任を与えています。 同法の主な規定は、事業者に対して安全な作業場を維持する一般的な義務を、 また事業活動を行うすべての者に一般市民を保護する義務を課し、さらに製品を安全で衛生上の危険をともなわないように 設計することを義務づけています。 従業員は事業者が注意を払う際に協力することを義務づけられています。

労働安全衛生法に基づいて課せられる法律上の義務は具体的で強制的なものです。 たとえば、鉱山には必ず2つの出口が必要ですし、特定の役務を行う研究所はHSEの承認を必要とします。 リスクを評価し、適切な措置を取る義務は基本的、絶対的なものです。 さらに多くの義務が目標、ターゲットとして示されています。これらは「合理的に実行可能な限り」、 あるいは「十分な管理」を通じて順守しなければなりません。 こうした付帯的な条件は「合理的に実行可能な」範囲や、正しい慣行が確立されていない場合にはコストを考慮に入れることができる、 といった点において多少の裁量範囲があることを示しています。 たとえば、ある措置を「合理的に実行可能な限り」取るということは、最新の正しい慣行を確認し、適用することを意味します。 そうした措置を取るのは「合理的に実行可能」であることが明らかだからです。 正しい慣行がまだ確立されていない、または明確ではない場合には、リスクの重大性を除去、低減する困難さや費用と比較検討する ことが妥当とされます。 そのような場合、リスクを低減する措置は法律上において、それ以上の措置を取ることがその効果と比較して不均衡な水準までは、 取らなければならないことになります。 こうしたルールは企業の規模や能力とは無関係です。 正しい慣行は企業が小さくても、利益が出ていなくても取らなくてはなりません。

ある場合には、法的用件が「実際的に、技術的に可能なことを実施する」ことである場合もあるでしょう。 そのような場合には、規定された措置は費用のいかんにかかわらず、実施しなければなりません。



規則、行動規範、指針

労働安全衛生法では、1974年以前に制定された法律を「段階的に規則および行動規範などの制度に置き換えるべきである」と 規定しています。 同法の施行当時、約30の法令と500の規則がありました。法律の改革を進める際の一般的原則として、同法のような法規はできるだけ、 一般的な義務、原則、目標を規定することにとどめ、詳しい規定は公認規範や指針に委ねるべきだという方針が決められました。 1994年の法規再検討の後も改革のプロセスは続いています。 さらに欧州連合の立法プロセスによる変更も行われています。 イギリスの法律よりも詳細に、具体的要件を規定する傾向があります。

法規を決めるのは関係する大臣で、これまでに説明したように、HSCが協議の上で提出する提案に基づいて制定されています。 法案は議会に提出され、議員は承認する義務よりも反対する権利が与えられているプロセスの下で審議されています。

公認実施準則(ACoP)は関係する国務大臣の同意を得て、HSCによって承認されます。 規範は議会の同意を必要としません。 公認規範は法律上、特別の強制力を持ち、規範の規則に違反すると、裁判所はそのことを刑事訴訟の中で、 規範が関係する労働安全衛生法または規則の要件違反の証拠として取り上げることができます。 ただし法規の要件が同じように効果的な方法で順守されていることが実証された場合を除きます。 このようにして、行動規範は発明や技術的進歩に、基準を引き下げることなく、対応する柔軟性を提供しているのです。

HSC、諮問委員会、またはHSEはさらに、監督官が参照する基準にするために、その他の指針を出しています。 またHSEは地方自治体による監督上のニーズに見合った多数の指針を作っています。 HSCやHSEが毎年出す文書は350点以上にのぼり、それらは各業界、工程などについての情報、指針、助言を提供しています。 これらの指針は義務的なものではなく、雇用者は別の措置を取ることができます。



その他の法規

労働安全衛生法の施行以前からの法規の中には、鉱山、鉄道、核の安全、を含め現在も有効なものが残っています。 1961年工場法(Factories Act 1961)、1963年事務所・店舗・鉄道施設法(Offices , shops and Railway Premises Act 1963) などの一部です。 1965年原子力施設法(Nuclear Installations Act 1965)では、HSEは核施設の認可機関であり、 1954年鉱山採石業法(Mines and Quarries Act 1954)では、その鉱山審査委員会を通じて鉱山の資格審査を行っています。 鉄道監督部では、運輸担当国務大臣に代わって、1992年輸送工事法(Transport and Works Act 1992)に基づく規則に従い、 新規鉄道工事、既存工事の変更を承認します。 事故についてのある種の調査も、1974年法以前の鉄道法規に基づいて行われています。



欧州連合の法規

安全衛生に関する最近の立法の多くは、欧州共同体指令の実施のために導入されたものです。 イギリスは1993年始めから基本指令および安全衛生マネジメント、作業機器の使用、マニュアル取扱い、事業場の安全・衛生・福祉、 個人保護具、ディスプレイ・スクリーン装置等に関する指令を実施しています。



標準

ほとんどの安全衛生標準はもともと、監督業務から生じています。助言を与える、または法律を適用する等の場合には、 一貫性を保つことが大切で、そのために慣行を標準化し、監督官が与える助言に織り込むことが必要です。 監督業務も変化するため、こうした監督業務の内部的な標準も非公式の指針として公表され、 諮問委員会が公式の指針を作成する際に参照され、HSEも新しい規則や規範の制定に利用するようになります。 また国内的および国際的な機関を通じて、公式標準の策定にも用いられています。

イギリス規格協会(British Standard Institution , BSI)はイギリス規格を策定している国内機関です。規格は機能目標の仕様から運用慣行に関する指針、工業製品の設計標準などに及んでいます。HSEは安全衛生に関連する多くのイギリス規格の策定に貢献してきました。イギリス規格はしばしばHSEの公表指針や安全衛生規則、規範に準拠しています。

HSEの職員はしばしば、欧州標準化委員会(CEN)または欧州電気標準化委員会(CENELEC)などの欧州標準化機関で、BSIを代表して業務を行っています。 ローマ条約第100条(a)に基づく「新しいアプローチ」指令をサポートする安全標準の策定は、 欧州単一市場に関連するHSEの業務において重要な要素になっています。