このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > イギリスの安全衛生システム

6.執行

監督官の権限

監督の主な目的は安全衛生法の遵守を促進し、正しい保護基準を維持することにあります。監督官は法律上の重要な権限を持ち、 それを行使します。監督官は業務が行われているあらゆる場所に、通告を与えることなく、立ち入ることができ、 事業者や安全管理者と協議し、写真やサンプルを取り、危険な装置や物質を没収することができます。 もし監督官が事業場の安全衛生水準に満足できない場合には、改善を求める次のような手段を持っています。

  • 非公式のまたは文書による助言または警告

  • 正式の改善または禁止通告。改善通告は所定の期限内に違反の改善を義務づけるものです。 禁止通告は危険が切迫している時に出され、是正措置が取られるまで危険な行為を禁止します。 これらの通告に対しては、産業裁判所(industrial tribunal)に対して抗告することができます。 抗告が行われた場合、改善命令は中断されますが、禁止命令は裁判所が別の命令を出さない限り、抗告が承認されるまで、 引き続き効力を有します。

  • 裁判所に対する訴追。イングランドおよびウェールズでは、ほとんどの事件は治安判事(magistrate)によって処理され、 重大な違反には最高2万ポンドの罰金が課せられます。 一部の事件は治安判事から巡回刑事裁判所(Crown court)に移され、その場合には罰金の限度額がなくなります。 スコットランドでは、大半の事件は州知事裁判所(sheriff court)で略式手続きまたは裁判官に対する告発手続きによって裁かれます。 禁止通告に対する違反などの重大な違反事件には、懲役刑が課せられることもあります。 訴追は個人に対しても、また国有企業や地方自治体を含む法人に対しても提起されます。

  • 事業活動に起因する死亡事故の場合には、故殺の可能性が常に考えられ、警察による捜査が行われます。

  • 教訓を学び、または法的な措置を準備するための、特定事故の非公式な調査。このような調査から得られた経験を 一般に普及させるためには、調査や報告書の出版など、さまざまな方法が利用されています。

HSEおよび地方自治体の監督官は毎年、約3000件の告訴(または告発)を事業者に対して行っています。 1992/93年に出された通告件数は39,000件で、これは負傷・疾病・危険事態報告規則(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occupational Occurreces Regulations : RIDDOR) の導入以後、倍増しています。 告発の約90%が有罪という結果になっています。

HSCは正式の調査の開始や報告書の作成を指示する権限を持っています。 HSCは正式の審理を決め、またはHSEに技術的調査を行うように指示を行います。 このような場合にはすべて報告書が公表されます。



計画的監督

HSEの監督官による事業場訪問には、労働者の苦情、一般市民からの問い合せなどに基づく場合、過去の調査のフォローアップ、 または調査の実施などを目的とする場合などがあります。 しかしほとんどの場合、訪問は予告なしに予防的な監督を目的に行われます。 このような場合には、恒久的な施設だけでなく、建設現場のような一時的な事業場を含めて、 事業場で基準が守られているかどうかを点検し、情報を集め、法律との適合を調査します。 監督官はまた、全国規模の大手企業の本社を訪問し、会社全体での安全管理の改善を協議することもあります。

HSEの各地域事務所では、地域の必要性に合わせて独自の監督計画を作成し、実施する例が増えていますが、 そうした地域的監督も、重大なリスクに重点的に対処し、予防的な監督を優先する部門、地域的な計画の枠内で行われます。 このように作業の優先順位を決めていく上で、コンピュータ・システムが活用されています。 これまでの訪問や監督などで得られた事業者、事業場に関する記録を集めたデータベースが作られ、 危険を受ける恐れのある従業員数、危険な工程、危険物質、事故の記録などが保管されています。 各事業場は次のような事項に基づいて評価されます。

  • 従業員の安全衛生に対するリスクの程度
  • 一般市民の安全衛生に対するリスクの程度
  • 労働条件
  • 経営者の姿勢と能力
  • 前回の監督からの経過期間

この評価システムは改善され、1995年4月からは関連業種の事故率(accident rate)に関係する要素も含まれるようになりました。

コンピュータ・システムのデータはまた、個々の雇用者が自分の企業内で優先的な措置を決める際にも利用されています。 さらに大企業のデータを蓄積し、集中的管理・システムの安全衛生面の検討に役立てるための、 より強力なコンピュータ・ツールの開発も進められています。



システム・アプローチ

安全衛生マネジメントの品質評価は、HSEが監督を進める上での非常に重要な要素です。 企業は法律によって、安全衛生政策を定めることを義務づけられており、さらにそのマネジメント・システムを決定、監査、 監視することを奨励されています。 HSEには事故防止助言グループ(Accident Prevention Advisory Unit , APAU)という多分野の専門家からなる組織があり、 企業の安全衛生マネジメント・システムについて助言し、監査を実施する権限を持っています。 APAUの日常的な業務は主に大企業や集中化システムを対象としていますが、 中小企業向けにも安全衛生マネジメントの重要な要素についての指針の出版も手がけています。



監督官の訓練

HSEは専門家の幅広い技能に頼るところが大きいため、その職員の募集や訓練には特に力を入れています。 HSEのほぼすべての現場監督官は任用の際に2年間の専門訓練を受けています。 経験を積んだ監督官の下での現場訓練プログラムに加えて、特別に計画された学術課程があり、 それを終了した者には労働安全衛生に関する修士号が付与されます。 原子力、鉱山、海上施設などの特殊分野の監督官は特別の資格を必要とし、任用時と専門課程の両方の訓練を受けます。 HSEの監督官はすべて、キャリア途中での訓練を受けることができ、それによって庁内外の多様な領域の最新の知識を得ています。



経験の共有

HSEのすべての主任監督官は定期的に、副長官の下で技術、研究部門の責任者やAPAU部長と会議を持ち、 共通の関心問題について協議するとともに、最善の方法が監督官すべてに普及するように努めています。