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HSEが新しいアスベスト・ガイダンスを発行
HSE issues new asbestos guidance

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年1月号 p.6

(仮訳 国際安全衛生センター)



 職場の建物に含まれるアスベストの管理に関する法律が近々改正されるのに伴い、英国安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)は、この死につながる物質に暴露されるリスクの対策に関する新しい公認実施準則(Approved Code of Practice : ACoP)とガイダンスブックを発行した。これは事業主がこの改正内容を遵守することを支援するためである。


 改正された「2002年職場のアスベスト管理規則(Control of Asbestos at Work Regulations 2002 : CAW)」が2002年11月に導入されたことで、事業主は、職場の建物のアスベストを管理する新しい法的義務を負うことになった。

 この規則に関しての混乱を払拭するため、また事業主が自分の法的義務(18ヶ月の導入期間を置いた後、2004年5月21日から施行される)を遵守することを支援するため、英国安全衛生庁(HSE)は新しい公認実施準則(ACoP)とガイダンスを発行した。

 これに加えてHSEは無料のガイダンス・リーフレット「建物内のアスベストを管理するための簡易ガイド(A short guide to managing asbestos in premises)」の改訂版と、職場の建物のどこにアスベストがあるかの情報を提供する新しいポスターを発行した。

 HSEによれば、このガイダンスは事業主が、構内にあるアスベストから生じるリスクの管理を始める手助けとなるよう作られている。

 新しいガイダンスへのコメントとして、HSEのアスベスト施策担当ヘッドであるBill MacDonaldは次のように述べている。「このガイダンスで、義務を持つ人全員が、新しい管理義務とはどういうものか、そしてそれを守るためには何をしなければならないかを確実に知ることが出来るだろう。事前に周知がなされているので、彼らには十分な時間があるだろう。」

 CAW規則の改正は長く待たれていたが、大工、配管工、電気作業者といった人たちが職場で保全作業や建築作業を行う結果、アスベストに暴露されるリスクを減少させるように意図されているものである。

合理的な手段

 2002年11月21日に成立したこの規則によれば、事業主及び職場の建物について責任をもつ者(例えば建物の所有者や管理会社)は、職場でアスベストのある場所を特定するための合理的な手段をとるという具体的な法的義務を負うことになる。この義務は、住居以外のすべての職場と例えばマンション等の居住ビルの共用部分、及びすべての繊維状物質(青石綿、茶石綿、白石綿)に適用される。
 公認実施準則によれば、事業主は合理的に可能な範囲で、職場の建物と設備について出来るだけ多くの情報を入手し、建物の内外で徹底的な検査を行うことが要求される。検査の間、もしそうでないという強力な証拠が得られないかぎり、すべての材料がアスベストを含んでいるということを前提にしなければならない。その証拠は材料の製造業者から得ることも出来るし、サンプルから得ることも出来ると公認実施準則は述べている。

 検査によりアスベストを含んでいるかもしれない材料が見つかった場合、事業主は十分な情報が確実に記録されるよう措置するか、別の人間がそれを確認できるような図面を作らなければならない。その図面には以下の事項が含まれていなければならない。
  • その材料の所在
  • その材料の状況
  • その材料の形状、例えばタイル、板、セメントシートなど
  • その材料の外観、例えば塗られている色など

強力な証拠

 さらに、公認実施準則では、図面により、アスベストが存在するかどうかチェックされていない場所をすべて表示しなければならないとしている。事業主は、もしそうでないという明白な証拠が得られないかぎり、これらの場所にはアスベストがあるということを前提にしなければならない。

 公認実施準則によると、物理的な検査を実施するとともに、事業主は、建物の入手可能な図面をすべてチェックし、またその職場のアスベスト含有材料の存在について情報を提供してくれる人間にはだれにでも相談をしなければならない。これは例えば、建築設計者、ビルの検査者、建物請負人、安全担当者、その建物に詳しい従業員などである。

 さらに、事業主は、職場に相当の変更があった場合は常に、アスベストに関する図面を見直す義務がある。図面はその設備が存在する限り、現地で入手可能でなければならず、また常に最新に保たなければならない。

 この公認実施準則には、事業主が構内でアスベストを含んだ材料(asbestos-containing materials:ACMs)を発見したらどうしたらいいかの手引きも含まれている。特に事業主はACMがどのような状態にあるのかを特定すべきであるとしている。もしACMがいい状態にあって、手を加えられたり、損傷されたりする恐れが少なければ、それをそのままにしておき、当該材料からの健康リスクを管理する計画を実施したらよいと、公認実施準則はアドバイスしている。リスクを管理するとは、合理的に実施可能な範囲で、構内にあるいかなるアスベスト繊維に対しても、だれも接触できないようにするという意味である。

 一方、ACMの状態がよくない場合、例えば相当程度損傷・劣化している場合、事業主はこれらが安全に除去されるか、補修されるように措置しなければならない。
 
 さらに公認実施準則は、6ヶ月〜12ヶ月ごとに、事業主がすべての特定された、あるいは疑わしいACMを検査し、材料が劣化していないか、損傷を受けていないかをチェックすること、もし材料が損傷を受けやすい場所(例えば車両や台車が衝突するような場所)にあれば、より頻繁に検査することを奨励している。

定期的チェック

 最後に公認実施準則は、事業主が定期的なチェックを行い、アスベスト管理のための仕組みが機能していること、皆が管理する義務を遵守するためにやるべきことを認識しているということを確認するべきであると述べている。

 HSEは、この公認実施準則を発行するとともに、新しいガイダンスブック「アスベスト管理のための包括的ガイド(A comprehensive guide to managing asbestos)」を発行した。この冊子は、主に大規模事業所か相当量のACMを含んでいると思われる大きく古い建物の中の人を対象としたものであるが、事業主が自分の構内のアスベストを管理するために、いま何をしたらよいのかを決める助けとなるよう作られている。またこの冊子は、ACM対策として適切な戦略をどのようにたてるかについて詳細なガイダンスを提供している。

例えば、事業主が職場のACMを効果的に管理するにはどのような手段をとる必要があるかについて詳細な情報を提供している。それは次のようなものである。
  • すべてのアスベスト繊維に対する暴露防止対策が実施されるまでは、構内において建物の構造に手を加えるような作業を行わないようにする
  • 損傷を受けているか、手を加えられているようなACMがあるかどうかの初期検査を行い、直ちに対策をとる
  • 管理義務を遵守するための戦略を策定する
  • 管理の優先順位をつけるためACMに関するリスクアセスメントを行う
  • 構内のアスベストを管理するための長期計画を策定する
  • 管理計画をモニターし見直しを行う

 この冊子は、例えば大規模化学工場や、NHS(英国の国民健康サービス)病院における実際のアスベスト管理の事例研究も提供している。そして、具体的な作業場(例えば教室とか不要になった倉庫の屋根など)でどのようにアスベストのリスクアセスメントを行うかを説明している。

しかしながら、このガイダンスブックは、CAW規則におけるアスベストのアセスメント義務は必ずしも全職場のアスベスト調査を行わなければならないという意味ではないことを強調している。

 新しい規則にコメントしてBill MacDonaldは次のように語っている。「この規則は、それぞれに合ったやり方で、遵守してもらうことができるよう、柔軟性を持って作られている。相当の経費が必要となるのは、それなりのリスクがあるときだけだ。」

 これらの説明は、ある保守党議員が土壇場でCAW規則によるアスベスト管理義務の立法を阻止しようと試みたあとに出てきたものである。2002年12月上旬の上院における議論の中でOnslow伯爵は、「新しく管理対象となっている白石綿が有害であるという十分な証拠がないため、この規則は無効にするべきだ」との主張を行った。

規則の導入延期

 同氏のコメントは、以前に保守党が行った、この規則の導入を延期しようという試みを繰り返したものである。
 
 2002年10月、下院における休会中審議で保守党は、白石綿は死につながる物質であるというHSEの主張に異議を唱え、それゆえ新規則は英国の事業主に不要な重荷を課すものであると述べた(Safety Management誌2002年11月号2ページ参照)。

 保守党はさらに、この規則は、悪徳業者が不必要なアスベスト調査や除去作業を行い、不当な価格を要求することを奨励するものだと主張した。

 しかし、Onslow伯爵に対する答えとして、労働年金部(Department for Work and Pensions)の政務次官であるHollis男爵夫人は、すべてのアスベストに発がん性があるというのが、科学的な専門意見の大多数であると述べた。また、新しい管理義務は、CBI(英国産業連盟)や小企業連盟(Federation of Small Business)を含め広い支持を得ていることを補足した。

 この規則を無効にするべきであるというOnslow伯爵の動議は審議の終わりに取り下げられた。

新しい義務の見直し

 しかしHSEはアスベスト管理の新しい義務についての運用を2003年に見直す予定であると発表した。あるHSEのスポークスマンは、Safety Management誌に対し「見直しに当たっては、事業主が自分なりのやり方で新規則に対応しているかどうか、またアスベスト管理の新義務に関連して、悪徳業者が事業主を不正に誤解させているような証拠があるかなどが考慮されるだろう。」と語っている。

次のものはHSE Books (電話) 017887 881165で入手可能。

非住居建築物におけるアスベスト管理(The management of asbestos in non-domestic premises)2002年職場のアスベスト管理規則の規則4 (Regulation 4 of the Control of Asbestos at Work Regulations 2002)公認実施準則, L127, ISBN 0-7176-2382-3, 価格 £9.50; 建物内のアスベストを管理するための包括的ガイド(A comprehensive guide to managing asbestos in premises), HSG227, ISBN 0-7176-2381-5, 価格£9.50

建物内のアスベストを管理するための簡易ガイド(A short guide to managing asbestos in premises)INDG223, ISBN 0-7176-2092-1

ポスター、アスベスト建築物:アスベストを含む材料が存在する代表的な場所(Asbestos building: Typical location for asbestos-containing material, ISBN 0-7176-2320-3, 価格 £7.50


HSEのアスベストに関するウェブサイトはこちら、参考文献に関してはこちらをご覧下さい。