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安全メッセージのコミュニケーション
COMMUNICATING THE SAFETY MESSAGE

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年3月号 p.32

(仮訳 国際安全衛生センター)



 働いている人たちへ安全に関する情報を伝えることは、労働災害・疾病を防止するために必要不可欠である。本誌は以下に、例えば労働者との協議や安全標識といったいくつか方法を詳説する。必要な人に正しい情報が確実に届くようにするためにこれらを利用することができる。

 個人用保護具や機械のガードなどの安全対策ほど良く知られてはいないが、職場における効果的なコミュニケーションは、労働災害や疾病を減少させるために非常に重要なもので、仕事中におきる多種多様な状況に対応するものである。

労働者とのコミュニケーション

 実際、事業者は、安全衛生に影響する事項について労働者と協議するにせよ、単独作業者と連絡をとるにせよ、非常時の避難方法を確立するにせよ、職場の潜在的危険について標識を掲出するにせよ、なんらかの方法で、労働者と安全衛生問題についてコミュニケーションを行う必要が頻繁にあるだろう。

 事業者と労働者の間でよくコミュニケーションがとれていることのメリットを見出すことは容易である。例えば、ポスターやリーフレットは、仕事を安全に行うために労働者に十分な情報を提供することに役立つし、労働者との協議を通じて、事業者は職場の潜在的な安全上の問題を知ることができる。一方、労働者に避難方法を知らせておくことにより、職場の火災又は緊急事態の場合にパニックやけがのリスクを減らすことができる。

 しかし、安全のメッセージを労働者に効果的に伝えるためには、事業者自身もとるべき安全衛生対策を知っていなければならない。必要な安全衛生情報は、多種多様な情報源から得ることができる。具体的には、事業者は安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)から安全衛生問題に関する公式なガイダンスを入手することができる。

権威あるガイダンスを入手する

 安全衛生法令を遵守するために不可欠な公認実施準則(Approved Codes of Practice : ACoPs)をはじめとするツールを発行する他に、HSEは、広範囲にわたって小冊子、リーフレット、ビデオ、CD-ROM、ポスターなどを出版しており、事業者及び労働者は、有害化学物質から職業性ストレスに至るまで、またVDTの使用から密閉空間に至るまでのトピックについて、権威あるガイダンスを手に入れることができる。また、インターネットを使って政府部門、労働組合、事業者団体、専門誌などの豊富なオンライン安全衛生情報源にアクセスすることもできる。

 例えば、過去数ヶ月の間、HSEは、事業者が各種安全衛生様式をオンラインで選んで記入し、それを提出することができるよう、HSEのホームページを拡張した。さらに、HSEは、例えば、アスベスト管理、職業性ストレスへの取り組み、筋骨格系障害の予防、振動への暴露減少などの問題について、包括的なガイダンス、アドバイス、オンライン情報をまとめた個々のページを作成した。

 しかし、労働者がさらされる安全衛生リスクについて事業者が知っていることも必要だが、事業者が潜在的な安全衛生問題について自分たちの労働者と議論することも不可欠である。実効のあがる安全協議を行えば、労働者を動機づけるのに役立つだけではなく、会社内に効果的な安全文化が醸成されることの助けにもなる。

 これは、事業者が労働組合指名の安全代表者と十分に協議を行っている職場での重傷災害発生率が、協議が全然行われていない職場に対して約半分であるというHSEの統計によって実証されている。

 従って、事業者と労働者のコミュニケーションがよくとれていれば、災害や疾病の率が低いという結果になり、損失日数が減少し、災害にあった労働者からの補償要求も少なくなるため、経営にとって経済的メリットがあるということは明らかである。

労働者との協議ができていない

 しかし、安全衛生委員会(Health and Safety Commission : HSC)によれば、まだ多くの英国企業で、安全衛生問題について労働者と適切に協議を行うことができていない。実際のところ、1999年に雇用問題研究所(Institute for Employment Studies)がHSCの委託を受けて行った調査によれば、1割の事業者が、労働者の安全に影響がある問題でもまったく労働者と協議を行っていなかった。

 そのためHSCは、より多くの事業者が、安全衛生問題について実効のある協議を促進することを狙って、職場の安全衛生協議を規定している法律を改正するための諮問文書(Consultative Document)を2003年夏に発行することを計画している。

 HSCによると、多くの事業者が安全衛生問題の協議を行っていない理由の一つは、このことを要求している法律がなく、全産業か、一部の特定業種に適用される一般的な義務しかないためである。それは次のようなものである。
1977年安全代表者及び安全委員会規則(Safety Representatives and Safety Committees Regulations 1977)−事業者に対し、労働組合に任命された安全代表者と協議することを要求するもの。安全代表者はまた、職場のハザードを調査し、災害の原因調査も行うことができる。
1996年安全衛生(労働者との協議)規則(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations 1996)−労働者が労働組合に加入していようがいまいが、事業者が安全衛生問題について労働者と協議することを要求している。

単一の規則

 上記の意見聴取文書は、既存の「1977年安全代表者及び安全委員会規則」と「1996年安全衛生(労働者との協議)規則」を統合して、職場の安全協議に関する単一の包括的な規則を作る案であろうと予想されている。

 規則案が採用されれば、労働組合がない職場の労働者も、安全衛生問題について事業者と直接協議するか、又は選ばれた安全代表者を通じて協議するかのどちらを希望するかを決めることができるようになるだろう。さらに、規則案では、選ばれた安全代表者の機能も規定することになるだろう。

 一方、意見聴取文書には、HSEが2002年3月から2002年11月まで試験的に行った「労働者安全アドバイザー(Worker Safety Adviser)」制度の評価も含まれることが予想されている。この任意の試行には建設、自動車、接客業、NPOなど100社以上が参加し、特別に訓練を受けた安全アドバイザーが、これまで安全代表者がいなかった職場、効果的な安全衛生協議の仕組みがなかった職場に送り込まれた。

職場の潜在的なハザード

 アドバイザーの役割は次のようなものである。
職場の安全衛生問題に関する事業者と労働者の議論を促進する
安全衛生問題に関して事業者と労働者をつなぐ。例えば、職場の潜在的なハザードを洗い出す、労働者の安全衛生に関する問題を調査する
職場の人が働きやすくするために改善を要する部分についてのアドバイスを行う

 この労働者安全アドバイザー制度の試行は、現在、安全代表者がいない職場すべてに任意の労働者安全アドバイザー制度が導入された場合、安全衛生水準の改善につながるかどうかを評価するために計画されたものである。現在その試行の効果とこれを全国的に実施することのメリットを評価するための調査が行われている。

 しかし、職場における安全衛生協議の有効性に関する最近のHSCの研究結果とは無関係に、協議に関する法律ははっきりしている。

 現在、すべての事業者は、1999年安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)により、安全衛生問題についての適切な情報を労働者に提供するという一般的な法的義務を負っている。この情報とは次のようなものである。
実質的に安全衛生に影響を与えるすべての変更、例えば、手順、設備、作業方法
安全衛生法令を遵守することができるよう、必要な資格・能力を持った者と共に働くようにするための仕組み
業務に起因して起こりそうな危険、これを減少させる対策、もし労働者がこれらの危険に対処せざるを得なくなったときに何をしたらよいか
安全衛生トレーニングの計画
新技術を導入する場合の安全衛生上の影響

 この他に事業者は、他の法令によって、より具体的な安全情報を労働者に提供することを求められることもある。例えば、1992年マニュアル・ハンドリング作業に関する規則(Manual Handling Operations Regulations 1992)によると、事業者は職場で労働者が持ち上げたり運んだりする荷物の重量についての情報を提供しなければならない。

労働組合を認める

 事業者が次に行うステップは、労働者と直接協議するか、又は安全代表者を通すかを決めることである。第一に、職場に労働組合を認めている事業者は、組合が任命した安全代表者が代表する労働者の安全問題については、その代表者と協議することが要求されている。

 さらに、組合安全代表者は以下のことを行う権利がある。
職場の潜在的な危険、労働災害の原因、安全衛生又は福利面の問題で労働者から提起された全般的な不満について調査する。
職場を点検する。特に災害が発生した場合
安全衛生監督官との議論で労働者を代表し、これらの監督官から情報を受け取る
安全委員会に出席する。2人以上の労働組合安全代表者が要求すれば、事業者は安全委員会(Safety committee)を設立しなければならない。

労働者と直接話す

 協議が安全代表者を通して行われる場合は、いくつかの方法が考えられる。例えば、代表者や労働者の意見のフィードバックが可能となるよう要点説明会議(briefing meeting)を行うこともできるし、労働者協議会や、掲示板、ニュースレター、実地調査を使うこともできる。会社が小規模であれば、事業者が労働者と直接話すと決めることもあり得る。これは事業者が労働者の意見を考慮することになり、適切な協議形式となる可能性がある。

 しかし、事業者が職場で労働組合を認めていない場合でも、協議は、労働者と直接でも、選ばれた代表者を通してでも、依然として行う必要がある。実際、1996年安全衛生(労働者との協議)規則によると、労働組合に加入していようがいまいが、安全衛生問題については事実上すべての正社員、パートタイム社員と協議しなければならないのだ。

 出向者、長期派遣社員、構内で働いているが従業員ではない者には協議の必要はないが、安全に働くための情報提供は依然として必要である。

選ばれた代表者

 組合によって任命された安全代表者と同様に、代表者として選ばれた者は、以下のことを行わなければならない。
安全衛生監督官との協議において、自分を選んだ労働者を代表する
自分が代表する労働者に影響があるような、職場の潜在的リスク及び危険事象について事業者に対し懸念を表明する
労働者の安全衛生に影響する全搬的問題について、事業者と共に検討する

 さらに、事業者が覚えておかなければならないことは、選ばれた代表者は、その義務を正規の仕事に加えてではなく、正規の仕事の一部として行うことができなければならないということである。事業者はまた、選ばれた代表者及び労働組合代表者が、協議の目的に関してその義務を適切に遂行できるよう、十分なトレーニングを実施し、適当な施設を与え、合理的な時間の有給休暇を与えなければならない。

効果的な協議

 また、事業者が次のことを確実に行うことも重要である。
労働者又はその代表者が、協議に完全にかつ効果的に参加できるよう、十分な情報を提供すること
労働者が協議に関係したこと(代表者の選挙に関係する、又は選挙の候補者になることを含み)を理由に解雇されないようにすること

 しかし、事業者は、協議が単に法的な義務なので応じざるを得ないというように考えるべきではない。効果的な協議とは、意志決定を行う前に労働者の言いたいことを聞き、考慮するものだということを事業者は認識すべきだ。例えば、新しい機械が職場に導入されることになっている場合、労働者が持っている具体的なニーズについて、労働者が相談を受けるのは妥当なことだ。新しい設備にお金を使ったあとで、同じ機械を使っている人は全く体格の違う人だけで、同じ条件ではうまく操作できないということが分かるようでは意味がない。

 協議プロセスで、労働者の意見を確実に聴取する方法の一つは安全委員会を設立することである。2人以上の労働組合安全代表者が安全委員会の設立を要求すれば、事業者は要求から3ヶ月内に設立しなければならない。

種々の優先事項

 安全委員会の正確な性格と課題は、会社ごとに違う傾向がある。例えば、製造業における委員会は、オフィス主体の企業の委員会に比べて優先事項は全く違う。企業規模から業種まで、多くの要因が委員会の業務に影響を与える。さらに、事業者は、安全委員会が企業内の他の業務委員会とどのように関係するかも考慮する必要がある。安全委員会はすべての安全衛生問題を扱わなければならず、この責任を他の委員会の課題として移行すべきではない。

 また、事業者は、労働者に提供するすべての情報が容易に理解できるものにするべきであり、かつ労働者のトレーニング、知識、経験のレベルを考慮しなければならない。同時に事業者は、情報の理解を妨げるような言語の問題がある者、母語が英語でない者に対して特別な配慮をしなければならない。

安全標識

 職場の安全衛生情報の伝達によく使われて効果的な方法の一つが、安全標識の利用である。これは特に、事業者が、作業方法や工学的対策といった他の手段では回避したり対策することのできないリスクを労働者に警告する手段である。機械を操作する、化学物質を扱うなどの具体的な作業に伴うハザードを警告するため、またどのようにこれを避けるかを指示するために使うことのできる安全標識は多種多様である。安全標識の主目的は単純で、たとえ言葉が含まれていなくとも容易に理解できるメッセージを提供することである。その結果、個々の標識は、具体的なハザードや指示を表すために、ある種の色、形、絵文字(pictogram)として知られているシンボルを含んでいる。

個々のリスクを示す

 事業場のリスクアセスメントの結果、職場に安全標識を掲示する必要があると判明した場合、事業者は、標識が1996年安全衛生(安全標識と信号)規則(Health and Safety (Safety Signs and Signals) Regulations 1996)の要件に適合しているようにしなければならない。一般に安全標識規則(Safety Signs Regulations)として知られているこの規則は、安全標識の選択、維持、効果的な使用の義務を事業者に対し課している。

 さらに、安全標識規則は、個々のリスクを示すために事業者が用いなければならない具体的な標識を定めている。例えば、禁止と警告の標識、非常口、消火設備などである。この規則ではまた、電飾標識、手信号、音響信号、口頭による伝達、危険有害物質が通っている配管のマーキングも規定している。

効果的なコミュニケーション

 安全メッセージを職場でコミュニケートするということには様々な活動が含まれている。 それは、機械に警告標識を設置すること、安全代表者を選ぶこと、安全衛生問題についての労働者の意見を知るため協議を行うことなど広い範囲に亘っている。しかし、事業者と労働者の間で効果的なコミュニケーションを行う上で重要なものは非常に簡単である。例えば、労働者は仕事のリスクが一番良く分かる立場にあることが多い。従って、どのようにこれらのリスクに対処するかということに対して、事業者は労働者に意見を言わせる機会を設けるべきである。

 安全メッセージのコミュニケーションそれ自体だけでは、職場の安全を保証するのに十分ではないかもしれない。機械のガードや個人用保護具などの安全対策の必要性は依然として残る。しかしながら、これらの安全対策が完全に労働者を保護する、職場のハザードが特定されて対策されているということを確実にするためには、効果的なコミュニケーションが不可欠である。


単独作業者との連絡

 具体的なコミュニケーション手順がしばしば必要となる仕事の一つに、労働者が、1人又は離れた場所で働くことが必要な場合がある。例えば、通常の時間帯以外に働く保全要員、固定した基地から離れて働くモバイルワーカーなどである。

 英国の安全衛生法令では、全般的に単独作業を禁止するものはないが、ある種の作業で1人の人間が行うことを禁止する具体的な規則がある。例えば、若い人が訓練を受けている場合や、電源を入れたまま電気機器に対して作業を行う場合などは、監督者を必要とする。

 事業者は、単独作業により起こる危険を特定するためにリスクアセスメントを実施することが法律で要求されている。リスクアセスメントでは、職場自体が単独作業者に対して特別なリスクがあるかどうかとともに、仕事に必要な機器や物質を、単独作業者が安全に扱えるかどうかも考慮しなければならない。すべてのリスクが除去されているか適切に対策されている安全な作業の手配が必要である。しかし、リスクアセスメントの結果、単独作業では安全に仕事が実施できないということが判明した場合は、事業者は、例えば補助者、応援者など、他の手配を行う必要があろう。

 また監督が十分できない場合は、適切なトレーニングを行っておけば、不安定な状況になっても単独作業者がうろたえなくて済む可能性がある。事業者は、単独作業者の安全と快適さをモニターするためのシステムをつくる必要がある場合もある。例えば、監督者が定期的に単独作業者を巡回すること、又は電話を利用して定期的な連絡ができるようにすることなどである。

 事業者はまた、労働者が医学的に単独作業に適しているかをチェックし、緊急事態になっても身体的、精神的な負荷が加わることがないかを評価するべきである。単独作業者が病気になったり、災害にあったり、あるいは火災など緊急事態が起こる状況もあるだろう。従って、単独作業者が適切な救急施設を容易に使えるようになっていなければならず、またモバイルワーカーは、ちょっとしたけがの手当をするために常に救急セットを携行すべきである。