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英国安全衛生庁(HSE)


2005年度建設設計者安全衛生イニシアチブ推進月間 報告書

Designer Initiative 2005 Report

資料出所:HSE ホームページ:
http://osha.europa.eu/news/local_news/news_article.2005-06-27.5

(仮訳 国際安全衛生センター)



2005年度建設設計者安全衛生イニシアチブ推進月間
報告書

英国安全衛生庁(HSE)(建設課)
スコットランド、ノースウェスト及びニューカッスルアポンタイン事務所

報告者:  HSE(建設課)エディンバラ事務所
Paul Franklin
2005 年 6 月 27 日 



目次
1. 
 
概要 
 
 
1.1 
 
 
1.2
 
 
 
1.3
 
 
1.4 
 
2.   設計者のパフォーマンスの評価基準
     2.1   法的要件についての知識
     2.2   教育訓練の提供とその水準
     2.3   CDM を実施するための設計の実施事例システム
     2.4   事務処理と記録システム
     2.5  

実践的なリスク低減/ハザード除去

     2.6   残留リスクに関する情報のコミュニケーション
     2.7   設計分野の比較
     2.8   事前に HSE から受けた勧告の影響
3.   結論
     3.1   2005 年度調査結果の概要
     3.2   イニシアチブ推進月間中のHSEからの勧告
     3.3   イニシアチブ推進月間の成功
     3.4   今後の取り組みの提案



1. 概要

  2005年4月18日からの4週間にわたって、スコットランド及びノース・オブ・イングランドのHSE 建設課監督官は、3年連続して「設計者に現場のイニシアチブを取らせよう(Take a Designer to Site Initiative)」を再び提唱した。討議の焦点は、高所作業であった。

1.1 イニシアチブ推進月間の目的

  1. 高所作業の優先的な主題である設計の問題に責任を有する設計者に影響力を与える。
  2. 現在の設計者のパフォーマンスを評価し、2004 年度の評価と比較する。
  3. 設計者が「建設(設計・管理)規則1994(Construction (Design and Management) Regulations 1994: CDM)」の要件に準拠しない場合、適切かつ有効な法的措置を取る。
  4. 設計実例、特に高所作業に関連するもので、優れたもの、拙いものの双方に関する情報を集める。
  5. 設計者のパフォーマンスについての監督官の認識を強化する。
  6. 建設設計規律における HSE の役割について認識を高める。
  7. 現場訪問時に、明らかとなった問題に対処する。

1.2 評価基準

  設計者のパフォーマンス指標として、以下の主要な6分野を選定した。

  1. 法的要件についての知識
  2. 教育訓練
  3. CDMを履行するための設計実例システム
  4. 事務処理/記録システム
  5. 実践的なリスク低減/除去
  6. 残留リスクに関する情報のコミュニケーション

  さらに監督官は、設計者はHSE と事前の接触があったか、また設計者がその接触を役立てているかを確認するよう求められた。

  監督官は、パフォーマンス指標について、口頭で指導し、指導内容を以下の評価段階で格付けするように求められた。

評価段階
1 2 3 4
良好 ほぼ良好 一部不良 不良

1.3 2005年度調査結果の概要

  評価基準についての判定では、全般に、過去3年間で設計者のパフォーマンスは継続的に改善された。(結果に大きな影響を及ぼした今回のイニシアチブ推進月間中に、非常に多くの構造技術者及び設計者兼構造技術者に面接したことを注目されたい。)

  注目すべき優良事例で監督官が特定したものは、以下のものであった。

  • 注文者、計画責任者及び元請による積極的な設計者の活用
  • 安全衛生の実践知識を習得するための訓練の基本を認識している設計者の増加
  • 安全衛生が付加されるものではなく、設計の一部又は一体として認識されていること
  • チームによる設計への取り組みの増加
  • 設計段階におけるリスク低減の顕著な成果

  全般的に改善されているが、現場作業の視察において今年度も引き続き目立った好ましくない事例がみられた。それらは以下のものであった。

  • 目的のために役立たない大量の事務処理の実施
  • 残留リスクに関する情報のコミュニケーションの不足
  • 建設作業中及び保守作業中の請負業者の役割についての知識の欠如
  • 高所作業の主要な管理として、親綱の使用

  これは、HSE やその他関係者の双方が、上述の重要な分野にかかわるガイダンスを引き続き策定しなくてはならないこと示している。主要なメッセ−ジが埋没しまうほど膨大な量の目的違いの一般的な事務の処理をして安心している設計者の誤った考え方が、現在進行中のCDM改定協議で‘事務は少ない方が良い’というメッセ−ジによって改められることが望まれる。

1.4 結論

  評価基準指標すべてにわたり、今年も引き続き向上が見られたことは、CDM に定められた事項の実施責任者、特に設計者に対し、HSE の事前の関与が継続的に影響を及ぼしていることを示している。しかしながら、HSE 以外の建設業関係者も、この 3 年間で設計者への関与の度合いと活動を増やしてきたため、HSE の影響力と、HSE 以外の建設業関係者の影響力を区別するのは不可能である。

  好ましくない事例を特定したことにより、どのような問題がさらに取り組みとガイダンスを必要とするか、わかりやすくなった。現在進行中の CDM 改定協議で‘事務は少ない方が良い’というメッセージを発信して、特に事務処理とコミュニケーションの問題に取り組みやすい環境をつくる必要がある。これ以外にもさらなる取り組みを必要とする問題については、3.4 項にまとめて記載した。

2 設計者のパフォーマンスの評価基準

2.1 法的要件についての知識

  全般的に、ほぼ 70% の設計者が CDM 及び関連法規がさだめる法的要件について精通するか、あるいは十分な知識を有すると評価された。CDM の第 13 条にさだめる義務の認識不足を指摘した監督官はいなかった一方で、多くの実施例から、新しく施行された「高所作業規則2005(Work at Height Regulations 2005: WAHR)」が設計者に認識されていることが示されている。さらには、設計者の多くが建設業評議会(Construction Industry Council: CIC)のガイダンスシート、HSE の出版物、HSE のウェブサイトを参照していることが明らかになった。


  70% の設計者が CDM および関連法規がさだめる法的要件について精通するか、あるいは十分な知識を有していた(2004年度イニシアチブ推進月間時の 60% から向上)。

  しかし、ある監督官が以下に指摘したように、一般的には設計者は CDM および関連法規以外の安全衛生法規についてさらに知識を深める必要がある。

  「わたしの全般的な印象では、設計者は CDM 以外の安全衛生にかかわる情報を得ていないため、リスクコントロールの分類段階を適用できずにいると思われる」

  しかし、安全衛生にかかわる法規への設計者の認識が 2004 年度に比べ向上している事実は、励みとなる。

2.2 教育訓練の提供とその水準

  かつては、設計者に対する安全衛生教育はほとんど行われていないと言っても過言ではなかったが、今回のキャンペン中は、驚くほど多くの教育の提供ソースと教育訓練機関が挙げられた。一例を挙げれば、建設業訓練委員会(The Construction Industry Training Board: CITB)の安全管理研修コース、労働安全衛生研究所(Institution of Occupational Safety and Health: IOSH)の「安全教育 5 日間コース」及び「建設にかかわる認識を深める1日コース」、CDM に定められた事項を実施する責任者、専門組織、外部の教育機関、組織内セミナー、建設技能証明書(Construction Skills Certification Scheme: CSCS)保有者へのタッチスクリーンテストなどである。このように教育の機会が増加したことは監督官が確認した教育機会の向上の説明となる。監督官は、設計者の 57% が教育の機会を受けていることに満足している。


  設計者の 57% が、CDM の法的要件の知識を有している(2004 年度のイニシアチブ推進月間時の 47% から向上)。

  安全衛生教育の内容は多岐にわたっており、また多くの監督官は、安全衛生教育は「継続的な専門能力開発(continuing professional development: CPD)」の主眼とはなっていないと報告しているにもかかわらず、設計者向けの正規の教育の大半は、CPD である。しかし、さらに気がかりなことは、監督官の報告によると、CDM にかかわる教育はまったく受講されておらず、また実践的な安全衛生教育を受講している設計者はほんの少数に過ぎないということであった。

  このように教育を受けられる機会は豊富に存在するため、設計者は、労働安全関連の知識・能力の向上や、教育の構造的アプローチの育成を怠る口実を作れなくなってきている。この傾向が波及効果を及ぼして、本レポートで強調した設計者の多くの欠点がうまく処理できるようになることが期待される。

2.3 CDMを実施するための設計の実施事例システム

  CDM を履行するための設計実施システムにおいては、リスク低減を設計プロセスの中に確実に組み入れる必要がある。これを念頭に置いていた監督官は、設計実施システムが優れていた、または十分である事例が 64% であったことに満足している。チームの会合と同僚による評価が設計プロセスの一部として認識され、また多くの優良事例が見られた。優良事例の一例として、次のようなコメントが出されている。

  「調査した設計者は全員期待どおりに CDM に準拠する設計を行っている印象を受けたことはまちがいがない。CDM に確実に準拠することは、設計実施システムの標準的な手順や確認項目を含め、彼らのチーム設計哲学の一部となっている。」


  64% の設計者の CDM 実施にあたっての設計実施システムが優良か、あるいは満足いくものであった(2004 年度の強化週間時の 51% から向上)。

  実施システムの拙い方を見ると、設計実施の 36% が正式の手順をまったく踏まないか、または不十分な手順しか踏んでいなかった。またその多くが赤/黄/緑リスト1のコンセプトについて無知であった。たとえば、ある技術者は CDM 関連の社内手順の存在に気づいていたが、その社内手順の内容については無知であった。

  全般的に、リスク低減を根本方針として、設計者は CDM を実施するにあたり、構造的なアプローチをとることがやはりメリットとなるようである。

1赤/黄/緑リスト(red/amber/green lists)と、設計分野におけるリストの利用法について詳しくは、HSE の次のウェブサイトの設計者関連ページを参照のこと。Health and Safety in Construction. CDM - Designers can do more.

2.4 事務処理と記録システム

  あまりに熱心に、設計のリスクアセスメントを過剰実施することほど、混乱を招き、批判や誤った安心感を生み出すものはない。ほとんどの設計リスクアセスメントに対して多く見られたことは、そのようなリスクアセスメントの実施が設計というプロセスになんら価値を付加せず、一般・包括的なリスクアセスメントにすぎず、真の問題を隠し、それぞれの現場に特有の問題を詳細に論じていない、ということであった。設計リスクアセスメントに対する一般的な意見を以下に示す。

  「設計者は、事務処理をするために事務処理を作り出すことがあることを認めている。」

  「設計のリスクアセスメントは広範に及び、おそらくあらゆる建設プロジェクトにもっとも多く見られる項目を論じているため、リスクアセスメントの事務処理に紛れて一番重要な問題が隠れてしまっている。」

  「設計者は、職場の人々と交換・共有すべき残留リスクにかかわる情報がどのようなものであるかを、混乱しているように思われる。設計者は混乱したまま、誰かの役に立つだろうと期待して、思いつくままになにもかも記録している。」
  57% の設計者のリスクアセスメントに対する事務処理と記録の方針が優良か、あるいは満足いくものであった(2004年度のイニシアチブ推進月間時の 50% から向上)。

  設計のリスクアセスメントのプロセスにおいて過剰に事務処理が生成されていることは誰もが認めているが、この問題については今後も注目していく。

  事務処理と記録の方針が有用であれば、その方針に従って決定事項を簡単に記録、参照でき、監査証跡を提供でき、プロジェクトごとに固有に記録を残すことができる。きわめて重要なのは、事務処理を通じて残留リスクにかかわる問題の情報交換・共有をするべきだ、ということである。情報提供の効果的な手段として、注釈付きの図面を使用する例が見られた。このことについてはある監督官が次のようにコメントしている。

  「アセスメントのプロセスを簡単に追跡照合する方法は、ほとんどの情報を図面で記録することである」

  全般的に、設計者の事務処理と記録の方針のパフォーマンスについては、2004 年度に比べて向上しており、監督官は、設計の事例の 57% が申し分のない基準に達していると満足している。設計者はその事務処理を通じて、建設プロジェクトに高い価値を加え、現場ごとに特有のリスクを論じ、危険を除去するための設計行動の強調を確保する必要がある。

2.5 実践的なリスク低減/ハザード除去

  このもっとも重要な評価分野で、さらに大きな向上が見られたことは、励みとなる。設計者の 3 分の 2 以上が優良または十分な対策を講じていた。2004 年の報告と同様に、監督官は、顧客、計画監督者、元請などの設計者以外の関係者が建設的な意見・批評を出してリスク防止策の向上を促したことに言及している。

  特記すべき設計行動には、以下のようなものがある。

  「ある設計者は、彼の設計した建築物が鉄道の踏切にあまりに接近しているため、建設と保守作業がしにくくなるおそれがあると指摘した。そこで、リスクを大幅に低減させるために建設場所を移動する決断がなされた。」

  「ある設計者は、吊り具の使用を指摘している。吊り具の使用により高所作業そのものが減っただけではない。鉄骨組み立て業者によれば、作業を 1 日につき 1 時間短縮できると見積もられている。」

  「元々、先端を鉄骨で支持するように設計された庇は、数本の柱があるため、カーテンウォール設置用の移動式クレーンの使用範囲や長期にわたる保守作業が制限を受けることが確認され、片持ち梁(カンチレバー)に変更された」

  「高所作業を最小限にするために、スチール製のバルコニーはあらかじめ地上で組み立てておいてから、設置場所に吊り上げた」

  67% の設計者の実践的なリスク低減/ハザード除去が優良か、あるいは満足いくものであった(2004年度イニシアチブ推進月間時の 62% から向上)。

  2004 年の報告と同様の批判のあった注目点は以下のとおりである。

  • 設計にあたって建築の可能性建設計画(buildability)や保守にどのような影響が及ぶのかという知識が不足している
  • 改革することへの抵抗感をもっている
  • 設計者が高所作業のリスク低減を、親綱に頼り過ぎている誤り、及び
  • 屋根に親綱を取り付けるシステムの必要性の無視

  例1:屋根の保守作業者を保護するために、屋根に親綱が取り付けられる仕様(屋根はメンテナンスフリーと思われていた)。

  例2:屋根を完成させるためには、元請が足場の組み立て、撤去、再組み立てを行う必要がある複雑な屋根設計。

  例3:吊り上げポイントが備わっていない、大型で重量のある鉄骨を指定している。吊り上げポイントがないため、吊り上げ作業をより複雑かつ危険にしている。

  多くの注文者、下請業者及び元請業者が安全衛生に基づき設計上の問題点へのさらなる積極的な取り組みが注目されたのは励みとなる。建設計画(buildability)と保守がプロジェクトの一環として考慮された場合は必ず、経済面と計画面でのメリットがあったことが報告されている。しかし、設計者はハザード除去とリスク低減を具体化するために、さらに、設計事例を改革し、前進させる必要がある。

2.6 残留リスクに関する情報のコミュニケーション

  残留リスクに関する情報のコミュニケーションの評価で優良または十分とされた60%の事例に共通に見られたものは、建設プロジェクトの関係者と日常的に情報交換をするということであった。これには、設計チーム、注文者、企画監督者及び請負業者間の日常の連絡も含まれる。

  「このプロジェクトの残留リスクについては、この問題の対処方法を決定する前に、元請を含めすべての関係者が詳細に議論を尽くした」


  60% の設計者の残留リスクに関する情報のコミュニケーションが優良か、あるいは満足いくものであった(2004 年度イニシアチブ推進月間時の 52% から向上)。

  訪問した数カ所では、風圧、支保工及び組み立て手順のような重要情報が建設図面に記録されていた。この事例では、情報が大量の事務書類の下に埋もれて分かりにくくなることがないことは確実である。

  「できるだけ多くのことを図面に記録するという方針である。図面から、この建設物の鉄骨の特定の組立て指示と補強の必要があることがわかる」

  反対として、

  「もろもろのリスクアセスメントは一般に、たくさんのまったく読まれない情報を含んでいる」 がある。

  先に概観したように、設計のリスクアセスメントは、一般に、重要な問題---CDM の法的要件さえ隠してしまう的外れの事務処理を生み出す傾向がある。設計者は、携わっている建設プロジェクトに有用で特有の情報を伝達する必要がある。重要情報を強調する効果的な手段としては、注釈付きの図面と主要点の黒丸の使用がある。

2.7 設計分野の比較

  過去数年と同程度の総計124の事業所を訪問し、128の評価した設計実施例から、次表に要約する139の代表者を取り上げた。

 設計者  
82
 構造技術者  
31
 設計者兼構造技術者  
25
 その他(機械関係/電気関係)  
1
 総計  
139

  各種設計分野間の相異をおおざっぱに説明する方法は、先の 6評価基準のそれぞれの結果を総合することである。分野別に正確な評価結果を得るためには、それぞれの評価基準に重み付けを加味する必要がある。たとえば、パフォーマンスにおいてより根源的な意味を持つのは“事務処理システムの質”より“実践的なリスク低減対策”であることは明らかである。さて、今回の調査対象となったのは、設計者82、構造技術者 31、兼任者 25、その他1であるが、このようにサンプルが少数であると、この調査は単なる指針となるにすぎないと思われることがある。

  結果を見ると、パフォーマンスが良好またはほぼ良好という評価であったのは、設計者の 60%、構造技術者の 65%、兼任者の 70% である。

  一般的に、この評価基準において、構造技術者と設計者のあいだには大きな相違は見られなかった。

  また、予想通りであろうが、兼任者はその特質から、「残留リスクに関する情報のコミュニケーション」の評価においては、その 80% が優良または十分という調査結果であった。


  調査対象の設計者のうち 82 名は設計者であった。


  調査対象の設計者のうち 31 名は構造技術者であった。


  調査対象の設計者のうち 25は兼任者であった。

2.8 事前に HSE から受けた勧告の影響

  今年度の強化週間の間に調査した 139 の設計者の中で、事前に HSE から何らかの接触を受けた者は 53 名であった。HSE からの接触の内容は、監査、各種イニシアチブ、設計者の認識向上デー(DADs)、現場訪問などであった。そのような HSE との接触の大半では、以下のように肯定的な反応が見られた。

  「HSE による最近の訪問以来、設計者は[設計の実施例を通じて]発注者と早い段階で話し合いを持ち始め、現場のリスクについての認識を大いに高め、目的に合わせた教育を整え、一般的なリスクを単に眺めている態度をあらため、現場ごとに特有のリスクに注目するようになった。HSE と接触した設計者は、HSE の初回の訪問がすでに、設計者らの実施例と、現場でのリスクへの対処法や、担当者の教育訓練の仕方に大きな影響を及ぼしていると考えている」

  前述したように、HSE からの接触を受けた実施例と受けなかった実施例のパフォーマンスの違いをおおざっぱに区分する方法は、先の 6 評価基準のそれぞれの結果を集計することである。


  事前に HSE からの接触を受けた設計者の実践行動を、6 件の査定基準で評価集計した平均値


  事前に HSE からの接触を受けなかった設計者の実践行動を、6 評価基準で評価集計した平均値

  CDM の要件に準拠した実施例のパフォーマンスにおいては、HSE からの接触は肯定的な影響を及ぼし、接触を受けた設計者のパフォーマンスで優良または十分であったのは全体の約 74% で、接触を受けなかった者(全体の約 55%)に比べ、およそ 20% 多いことが明らかになった。

3. 結論

3.1 2005年度調査結果の概要

  6評価基準に則した評価では、全般に、過去 3年間で設計者のパフォーマンスは継続的に向上してきている(今回の強化週間中には、非常に多くの構造技術者および兼任者が見られ、それらが調査結果に大きな影響を及ぼしていることにご留意いただきたい)。

  注目すべき優良事例で監督官が特定したものは、以下のものであった。

  • 注文者、企画監督者、元請による、設計者への積極的な関与
  • 安全衛生の実践知識を習得するための研修訓練の提供を認識している設計者の増加
  • 安全衛生の問題を付随するものとして扱うのではなく、設計の一部または一体として認識する設計者の増加
  • チームによる設計への取り組みの増加
  • 設計のプロセスを通じた大幅なリスク低減の実現

  今年度は全般的な向上が見られたが、現場作業の調査結果で今年度も引き続き目立った好ましくない実施例があった。それらは以下のものであった。

  • 有益な目的のためではない、大量の事務処理の生成
  • 残留リスクに関する情報の非効率的コミュニケーション
  • 建築中および保守中の請負業者の役割についての知識の欠如
  • 高所作業の転落防止の主要保護具としての、親綱の使用

  以上の結果から、HSE やその他関係者の双方が上述した重要要素にかかわるガイダンスを引き続き策定していかねばならないことが明らかになった。設計者が誤った安心感を持ち、本来の目的ではない一般的な事務処理を大量にさせないようにするために、現在進行中の CDM 改定協議の結果を受け、さらに、‘事務は少ない方が良い’というメッセージを発信することが望まれる。大量の一般的な事務処理の陰に、本来の重要なメッセージが隠されてしまっているからである。

3.2 イニシアチブ推進月間中のHSEからの勧告

   
2005年度
 
(2004年度)
 口頭勧告のみ(訪問時)     112
    (72)
 文書による勧告(書簡、訪問報告書)     8
    (28)
 訪問によるフォローアップ     14
    (22)
 イニシアチブ推進月間中に通達     3
    ( 0)

  フォローアップとしての対応は、書簡、訪問ともに減少しているが、これは、実践行動の水準が向上したことを示しているようである。改善のための通達 3件がイニシアチブ推進月間中に出されており、その他の対応は、その後に実施されている。

3.3 イニシアチブ推進月週間の成功

  今回のイニシアチブ推進月間で調査した、設計者のパフォーマンスに対する監督官からのフィードバックシートを見ると、先の 6 件の評価基準全般にわたって監督官たちの対応の仕方と期待することが共通しているように思われる。このフィードバックシートの結果を活用すると(たとえデータ数がかなり少ないとしても、)統計データを集計しやすくなる。

  6件の査定基準すべてにわたり、今年も引き続き向上が見られたことは、CDM に定められた事項を実施する責任者、特に設計者に対し、HSE の事前の関与が継続的に影響を及ぼしていることを示している。しかしながら、HSE 以外の建設業関係者も、この 3 年間で設計者への関与の度合いと活動を増やしてきたため、HSE の影響力と、HSE 以外の建設業関係者の影響力を区別するのは不可能である。

  現在 HSE は設計者に対し、監査、設計者の認識向上デー、現場訪問など、さまざまな接触をしているため、今年度に HSE から事前の接触があったと報告した設計者の割合が全体の半分に満たなかったことは、驚くべきことであろう。従って、事前に HSE からの接触を受けていなかった設計者に優先的に接触をするべきである。

3.4 今後の取り組みの提案

  • 監督官は引き続き、設計者への接触に不可分な要素として(事前に HSE からの接触を受けていなかった設計者に焦点を合わせて)事前に、また、(現場で偶発事象が生じ、監督官がその事象の要因をさかのぼって調査できる場合に、その事象の後の)事後にも、設計者や CDM に定められた要件を満たす責任を有するその他の当事者に関与する必要がある。事前に HSE からの接触を受けていなかった設計者に優先的に関与するべきである。
  • HSE は引き続き、地方当局、官公庁、その他の国家機関に関与して、建設と保守にかかわるリスクを予防するための、相互に許容可能な設計方法に合意する必要がある。
  • HSE は引き続き、王立英国建築家協会(Royal Institute of British Architects: RIBA)、王立スコットランド建築家協会(RIAS)、構造技術者協会(Institution of Structural Engineers: IstructE)などの建設設計団体に関与して、その会員に対して CDM への認識の向上、教育訓練、優良事例の励行推進を促す必要がある。
  • 好ましくない実践例を特定したことにより、どのような問題がさらなる取り組みとガイダンスを必要とするか、わかりやすくなった。現在進行中のCDM改定協議の結果を受け、さらに、‘少ない方が良い’というメッセージを発信して、特に事務処理とコミュニケーションの問題に取り組みやすい環境をつくる必要がある。