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アスベスト(石綿)が原因で発症する病気の統計 -よく聞かれる質問と回答

資料出所:HSEホームページ
http://www.hse.gov.uk/statistics/causdis/asbfaq.pdf

(仮訳 国際安全衛生センター)


アスベストとは何ですか?

  アスベストとは、結晶化して細く長い繊維や繊維のかたまりとなったいくつかの天然鉱物をいいます。最も一般的なのは蛇紋石系アスベストで、なかでも最も多く採掘されているのがクリソタイル(白石綿)です。次に一般的なのが、クロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)を含む角閃石系アスベストです。アスベストの繊維は引っ張り強度が高く、耐薬品性、耐熱性があり、絶縁性にも優れているため、建材としても、断熱材としてもたいへん有用な素材です。そのため、アスベストは、世界中で広く利用されてきました。

アスベストはなぜ問題なのですか?
  アスベストは有害な物質ですが、アスベストが健康に対するリスクを生ずるのは、空気中に飛散したアスベスト繊維を人が吸い込んだときだけです。ですから、アスベストの繊維がなんらかの原因で大気中に飛散しない限り、たいていのアスベスト素材にはほとんどリスクはありません。アスベスト繊維を吸い込むと、肺がんや中皮腫(肺の内膜や下部消化管のがん)、石綿肺(肺の慢性繊維症)などの深刻な病気を引き起こす可能性があります。現在発生しているこれらの病気の多くは、過去に大規模にアスベストを使用していた産業でのアスベストばく露が原因となっています。けれど、アスベストは多くの建物で使われていましたから、アスベストへのばく露は、より広範囲の人々(特に建設業やメンテナンス作業者)に及んでいることになります。そのため、最近改定された職場のアスベスト管理規則(Control of Asbestos at Work Regulations)(2004年5月より発効)では、家庭用以外の建物の管理者に対し、建物のアスベストの管理を義務付けています。

そんなに危険なアスベストが、なぜそれほど大規模に使用されたのですか?

  アスベストが重宝された理由は、その高温への耐久性にあります。これに優れたアスベストは熱の保持が必要な処理過程での利用に最適な素材です。この繊維は、火炎、腐食、低温、酸、アルカリ、電気、騒音、エネルギー損失、振動、海水、霜、ほこり、害虫に対する抵抗性があるのです。一方、アスベストの使用に伴う危険については、長いあいだ、あまり理解されてきませんでした。アスベストによる病気は、アスベストばく露から発病までに長い年月がかかり、ときには数十年後に発病する場合もあります。だから、アスベストが広範囲に利用され、多くの人がアスベストにばく露されたのちにようやく、アスベストの健康リスクが知られるようになったのです。

現在、アスベストばく露のリスクがあるのは、どのような人たちですか?

  アスベストを使用した材料が壊れてアスベスト繊維が飛散すると、それを人が吸い込んでしまう可能性があります。しかし、アスベスト繊維は簡単に劣化、分解しないため、吸い込まれたアスベスト繊維は長期間にわたりそのまま肺に残ってしまいます。アスベストを使用した材料は手で触れると簡単にボロボロと崩れますし、ノコギリで裁断したり、こすったり、やすり掛けをすれば粉末状になりますから、健康上のリスクを生む可能性はいっそう高くなります。現在、アスベストばく露の可能性がもっとも高いのは、建設業やメンテナンス業で働いている人たちと、危険性はそれほどではありませんがアスベストの除去作業に携わっている人たちです。(厳密な予防措置をとらないとき、彼らにもリスクの可能性はあります)

アスベストばく露は、どんな病気を引き起こすのですか?

  アスベスト繊維が肺の中に蓄積すると、次のような病気を引き起こす可能性があります。
  • 中皮腫は、胸膜と腹膜の中皮にできるがんで、アスベストばく露がもっぱらの原因であると考えられています。中皮腫は、診断が下されたときには、ほとんどの場合致命的です。中皮腫は潜伏期間(ばく露の時期から発病までの期間)が長く、発病までには少なくとも15年、ときには60年かかる場合もあります。
  • アスベスト肺(石綿肺)は、肺の組織が瘢痕化する病気です。肺組織が瘢痕化すると肺の弾力性がなくなるため、気体を交換する肺の機能が阻害され、血液中に十分な酸素が取り込めなくなってしまいます。さらに、アスベスト肺によって呼吸が制限されるので、肺の容積が小さくなり、気道での抵抗が大きくなります。これはゆっくりと進行する病気で、潜伏期間は15年から30年です。
  • 肺がんは、気管支にできる悪性腫瘍です。周囲の組織に浸潤して大きくなった腫瘍が、気道をふさいでしまうこともよくあります。この病気も、潜伏期間は長く、一般的な潜伏期間は20年です。
  • アスベストばく露に関連したもうひとつの病気は、び慢性胸膜肥厚です。これは、肺の内膜(胸膜)に瘢痕ができる、悪性ではない病気です。瘢痕化した部分は、胸膜プラークと呼ばれています。一般に、アスベストに関連した胸膜の病気が発症するには、アスベストばく露から少なくても10年はかかります。この病気は、治療法が見つかっていない慢性症状です。
アスベストによる病気は毎年、何件ぐらい発生していますか?
  • 2002年に中皮腫で死亡した人は1862人でした。
  • アスベストによる肺がんの死亡者数も、中皮腫の死亡者と同程度であると推定されています。
  • アスベスト肺が原死因とされている死亡診断書によると、2002年にこの病気で死亡した人は112人。2003年には、障害補償が655件ありました。
  • 2003年に新たに報告された、び慢性胸膜肥厚の障害補償件数は400件でした。
アスベストによる年間の病気の数はどのように推移していますか?
  • 中皮腫による死者の数は、1968年に153人、2000年に1633人、2001年には1860年、2002年には1862人と増加してきています。最新の予測では、中皮腫で死亡する英国人の年間総数がピークに達するのは2011年から2015年で、その数はおよそ1950人から2450人になるとされています。
  • 雇用年金省(Department of Work and Pensions: DWP)の労災補償制度(Industrial Injuries Scheme: IIS)(所定の職業病について、労働者に補償を行う制度)によると、新たに発症したアスベスト肺の年間総数は、1980年代より、不規則ながらも比較的堅調に上昇しており、2003年には現在の655人に達しました。しかしこの数は、実際の数字よりは低いだろうと考えられています。
  • 一般に、大量のアスベストにばく露された人々の肺がん件数は中皮腫と同程度、場合によっては中皮腫の5倍にもなります。この比率は、さまざまな要素によって変わりますので、英国全体の比率について厳密なことは言えません。しかしながら、より幅広い人々を対象にした調査の結果を見ると、きわめて大量のアスベストにばく露された労働者以外の労働者にも相当数の中皮腫が発生していますから、これは、英国全体での中皮腫に対する肺がんの比率は、アスベストにばく露された人々を対象とした疫学調査が示唆する1対5よりも低くなることを示しています。また、肺がんは、アスベストばく露と喫煙が相互に作用することで発生しやすくなる、とも考えられているため、今後、ばく露レベルが下がり続けていけば、中皮腫に対する肺がんの比率も低くなると思われます。なぜなら、低いばく露レベルでの中皮腫発生割合が高まる(つまり中皮腫1件あたりに対する肺がん件数が減少する)うえ、喫煙者数も1960年代以来、減少傾向にあるからです。
  • び慢性胸膜肥厚はこのところ増加傾向にありますが、これはIISが片肺だけのび慢性胸膜肥厚を認めるようになったことや、データ収集方法の変化が原因と考えられます。

アスベストによる病気の件数はあと何年ぐらい上昇を続けると思われますか?
  英国では、1960年代の半ばから終わりにかけてが、アスベストばく露のピークだったと考えられています。したがって、中皮腫による年間死亡者数のピークは、2011年から2015年の間で、その数は1950人から2450人と推定されています。

アスベストばく露のリスクが最も高い職業は何ですか?
  中皮腫になるリスクが最も高い男性の職業を1980年から2000年の死者数に基づいて10職種挙げると、金属板加工、車体製造、配管工とガス工事、大工、電気工、板金工、電気装置操作、組立工、建設労働者、電気技術者となります。中皮腫は潜伏期間が長いため(15年から60年)、この結果は一般に1980年代以前のばく露についてのものと言えます。このような職業やそのほかのハイリスクの職業は一般に、過去にアスベストを使用していた3つの分野に関係しています。その3つとは、造船、鉄道客車や機関車の建造、そしてビルや工場への保温材や断熱材の施工です。しかし、中皮腫で死亡している人の25パーセント以上は、どこでばく露したのかが確定できない建設業やメンテナンス業で働いていた人たちで、その人たちは除外されています。詳しくは http://www.hse.gov.uk/statistics/causdis/occ8000.pdf をご覧ください。

アスベストのリスクを減らすために、どのような対策がとられていますか?

  アスベストのリスクを抑えるためには、さまざまな対策がとられています。アスベストの利用や供給はもちろんのこと、アスベストやアスベスト製品の輸入も、いくつかの例外を除きすべてアスベスト(禁止)規則(Asbestos (Prohibition) Regulations)によって禁じられています。通常、アスベストを扱う仕事には許可が必要で、呼吸用保護具をはじめとした個人用保護具の使用など、厳密な対策が義務付けられています。現在では、より広い範囲の人々(特に建物のメンテナンスに携わっている労働者)へとアスベストばく露の危険性が及んでいるため、職場のアスベスト管理規則が最近改定され(2004年5月発効)、家庭用以外の建物の管理者に対し、建物のアスベストの管理が義務付けられました。

わたしが住んでいる地域は、中皮腫のリスクが高い地域であると認定されました。これは、この地域には問題があり、わたしはアスベストばく露のリスクが高いということでしょうか?

  多くの場合、ハイリスク地域は、造船所やアスベスト製造工場、鉄道車両基地など、アスベストが過去に大規模に使用された工場がある、あるいはそのような施設が近くにある地域です。これは、その地域ではこれらの産業に携わったことのある人口割合が全国平均よりも高く、そのような人たちのなかでは中皮腫の発生率が高い、ということを意味しています。また、過去にそのような工場が近くにあった地域には、環境リスクが存在する場合もあります。個人のリスクについて言えば、住居がどこにあるかということよりも、職業のほうが大きな意味を持ちます。現在リスクが一番高いのは、建物のメンテナンスに携わっている人たちです。

わたしの住んでいる地域での中皮腫の発生は、英国全体のそれよりも急速に増加しています。これは、わたしの住んでいる場所にアスベスト問題があるということでしょうか?

  これはおそらく、あなたが住んでいる地域の中皮腫発生件数はこれまで比較的低かった、ということでしょう。中皮腫による死者の地域分布に大きな影響を与えているのが、死亡診断書(死亡診断書がこの統計の基礎となっています)には最後に住んでいた住所しか記載されない、という点です。ある地域にあったハイリスク産業で、過去に大量のアスベストにばく露された人々が、中皮腫になる前に比較的リスクの低い場所に引っ越した、という可能性もあります。また、幅広い職業(建物のメンテナンス労働者など)にばく露のリスクがあるということは、すべての地域が影響を受ける可能性がある、ということでもあります。ですから、中皮腫件数の伸びは、これまでリスクが最も低いとされていた地域が最も顕著になるのです。

わたしの仕事は、ハイリスクと認定されました。これは、わたしもアスベスト関連の病気の発病を心配しなければいけない、ということですか?

  ハイリスクと認定された仕事に従事しているすべての人が必ずしもハイリスクというわけではなく、その職業に従事している労働者には、過去にアスベストにばく露された人が高い割合で存在する、というだけです。中皮腫の潜伏期間は長いうえ、死亡診断書(死亡診断書がこの統計の基礎になっています)には死亡者の最後の職業しか記載されていないため、記録に残っている職業でその人がアスベストにばく露したとは言い切れません。つまり、特定の職業におけるリスクの一部には、他の仕事でアスベストにばく露された人たちが後にその職種に移った、という要素もあるのです。

アスベストばく露によるリスクは、アスベストの種類によって異なりますか?

  最も幅広く使われてきたのはクリソタイル(白石綿)ですが、一般には角閃石系アスベスト(青石綿と茶石綿)のほうがリスクが高いとされています。HSEが最近発表した科学論文では、中皮腫や肺がんを発病するリスクを、アスベストの繊維タイプ別に分析しています。これによると、平均的な青石綿を白石綿と比べた場合、中皮腫となるリスクは白石綿の500倍、肺がんになるリスクも10倍から50倍となっています。茶石綿を白石綿と比べた場合も、中皮腫は100倍、肺がんは青石綿同様に10倍から50倍です。リスクがゼロのアスベストはありません。なお、アスベスト材を生産する際は、素材の特性を強化するためにさまざまなタイプのものが混合されています。

ばく露レベルがこの水準以下なら安全である、というような安全基準はありますか?

中皮腫
  ばく露レベルがこの水準以下であれば、中皮腫を発病するリスクはゼロだと言い切れる安全基準の存在の有無について、科学的コンセンサスはありません。しかし、アスベストにばく露された人々を対象とした疫学調査では、中皮腫のリスクがゼロとなるばく露レベルはきわめて低いものとなることが証明されており、もしそのような安全基準が存在するとしても、現在それを数値化することは不可能である、という見解が一般的です。実際的に考えて、HSEはそのような閾値があるとは考えていません。
アスベスト肺と肺がん
  肺がんとアスベスト肺についてはよくわかっていません。肺がんの安全基準を論じる場合、発がんプロセスは繊維症を引き起こす慢性的炎症プロセスの延長線上である、という概念が議論のベースになっていますが、一般に、白石綿は大量に吸引しない限り、臨床的に有意な肺繊維症は起こさないとされています。しかし青石綿と茶石綿についてははっきりしておらず、かなり低レベルのばく露でも肺繊維症は起こっています。つまり、青石綿や茶石綿のばく露に閾値があるとすれば、それもまた非常に低いものとなるはずです。

肺がんの主な原因は喫煙です。アスベストばく露と喫煙を組み合わせた場合の肺がんのリスクはどのくらいですか?

  喫煙とアスベストとの相互作用が、肺がんの原因となることは広く知られています。つまり、アスベストにばく露された喫煙者が肺がんになる可能性は、喫煙者が肺がんとなる可能性とアスベストばく露者が肺がんとなる可能性を合計したものより高いということになります。