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事業者責任強制保険会社にスポットライト
ELCI Insurers under the spotlight

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」July/August 2003 p.6-8

(仮訳 国際安全衛生センター)


 「すべての関係者に公平な取引を確保するために、保険業界の標準に焦点を当てることになるだろう。」 これは、労働大臣(Minister of Work)のNick Brown氏が、現在行われている事業者責任強制保険(Employers' Liability Compulsory Insurance, ELCI)の見直しを論評して、政府を去る前に残した最後の言葉の一つである。

 「昨年の事業者責任保険料の値上げで、多くの企業が大きな打撃を受けた。」ことを同氏は認めつつ、政府は困難な状態にある市場の展望を全力で改善するつもりであると語っている。

 先月公表された第一段階の報告書は、労働・年金省(Department for Work and Pensions , DWP)が主導したELCIシステム運営見直しの一部である。これには、財務省(the Treasury)、通商産業省(Department of Trade and Industry), 憲法問題省(Department for Constitutional Affairs)も参加した。公正取引局(Office of Fair Trading)も、なぜ最近保険料が値上げされたかを調査し、英国の責任保険市場の「5ヶ月間事実調査」を公表した。

二正面作戦

 DWPが発表した政策は、ELCI市場をよりよく機能させること、全体システムを改善することという二つの点で効果があるだろうとBrown氏は語っている。「短期的には、我々は現在の市場の主体性を支援するが、一方でもっとリスクに見合う保険料のベースとなるものを開発して、より公正なシステムとなることを目指して作業している。」

 2003年秋に出される中間報告では、政府が今後どのような方策を取るつもりかが示されるが、その間、政府はすでに提起された問題点に対処するプログラムを開発すべく、企業、保険業界、および労働者代表と迅速に作業を行うことを目指している。

 「法的費用、リハビリテーション、長期の職業病リスク、及び法令執行といったことが、この件の核心である。」とBrown氏は語っている。

 保険業界の標準に焦点を当てることについて、政府は短期的には4つの目的をあげている。
  • サービス水準を向上させる。例えば保険を更新するための最低通知期間を変更して、企業がいろいろなELCIを比較検討できるようにする。
  • 安全衛生成績が良好な会社に報いるために、より公平な「リスクに見合った」保険料とするよう業界と共同で作業を行う。これは、特に中小企業が興味を持っている点である。
  • 保険逃れの悪徳企業が得をしないよう、ELCI執行手続きを改善する。
  • その会社がどのように安全管理をしているかが保険会社によくわかるような自己評価プログラムを保険業界と共同で開発する。



アスベスト関連疾病と振動に起因する白ろう病による補償要求が1996年から上昇している。事業者責任強制保険が施行された1969年には補償要求の大多数は負傷によるものであった。全体に占める割合では、現在はストレスによるものが増加しているが、難聴については1996年の34%から2000年には9%と劇的に減少した。


法的費用

 長期的には政府は、既存の方法の利点を最大化しながら、法的費用に焦点をあてていくとDWPは語っている。また、より早い、より費用効率の高い紛争処理も検討するということである。

 見直しでは、リハビリテーションが英国の補償システムの中でより中心的な役割も果たすようにすべきであるとされている。しかし、災害保険と長期的職業病保険を分けようという動きに関しては、基本的に分けることが正しいかどうかを評価する前に、もっと多くの証拠が必要であるとDWPは語っている。

 責任保険市場の調整と企業への影響という観点では、DWP報告書はEL市場では全般的な失敗はなかったと結論づけている。「保険料は1999年まで低く抑えられていて、2000年を過ぎてから上がり始め、2002年の間にかなり上がった。保険料のこの段階的変化が非常に急だった業種もいくつかあった。この上昇による悪影響は、新保険料水準への移行が急速だったこと、業界からの事前連絡がなかったことによりさらに増大した。多くの企業、特に小企業がこの市場調整の結果として、困難に直面していた。

 報告書はまた、英国におけるEL保険の平均的なコストは長年、企業の人件費に比較して相対的に低かった(2001年でわずか0.25パーセント;もっと高い分野もいくつかあるが)ことを示している。そのため、保険業者が2000年に保険料設定方針の変更を始めたのに伴い、2002年には平均的な上昇が約40パーセントになったと報告書は述べている。

 しかし、小企業や、保険業界が高リスクとみなしているいくつかの業種では、保険料がもっと高くなることがしばしばあった。例えば、全国屋根工事業者連盟では2002/2003年度の会員の保険料上昇を116パーセントと推定している。

 報告書によれば、保険料が最も上昇したいくつかの業種では、さらに別な問題に直面している。保険会社があまりにリスクが高すぎると見なした業務の打ち切りである。

 ほとんど事前連絡なしで、大きく値上がりした保険料の請求がきたため、まったく商売をやめてしまった会社もいくつかある。

「不意をつかれる」

 報告書によれば「企業は、2002年の保険料値上げのスピードとその度合いに関して不意をつかれた。」 保険業者から、またある時は仲介業者からの企業への連絡が悪かったため、事業者に対し保険料の値上げの事前連絡が殆どなかったという結果になった。

 保険業界のサービス水準が一定でないと言うことは、更新通知が更新日時の直前になされ、保険料について協議する時間、新価格体系に対応する時間、他のEL保険を探す時間がほとんどないということがしばしば起こったということである。

 間際の更新通知でEL保険に加入しなければならないという問題が生じることがあったとしても、EL加入が出来るかどうかが重要な問題として出てくることはなかっただろうとDWP報告書は述べている。市場には十分な保険会社があり、保険加入をまったく拒否されたという会社のはっきりした例を見つけるのは困難であったということである。

 「入手した証拠によれば、企業の圧倒的大多数は、相当な値段を払うにしてもEL保険に加入出来ることを示している。それは法令が守られている水準も高いということだ。」最近の「小企業調査」では、法令遵守率が93パーセントであると報告されている。しかし保険業者のサービス水準と価格設定方針は世間の注目をあびている、とDWPは語っている。

 民間企業として保険業界も早期の連絡と説明をするよう努力をしてきた。過去にしばしば問題のきっかけとなった早期更新の重要性も認識している。強制保険であるために、顧客は提供されるサービスの水準に対しては敏感なのである。

 更新のやり方を調査し、改善された水準を普及するため、政府は保険業界と共同で作業することを希望しているが、同時に、企業側も新しい保険料に対する計画、早期更新の計画の必要性についてもっと認識すべきだと報告書は述べている。

 企業は専門仲介業者の専門知識の重要性をもっと理解するべきである。企業は最も役に立つ仲介業者や最善の保険業者を捜すようこころがけるべきである。これまでの問題から、効果的な安全衛生活動を行っていることを示すことが重要であることははっきりしている。また保険料が、優れた安全衛生活動や補償要求実績を反映せず、保険業者の「標準保険料率」をもとに設定されるということは、しばしば小企業から提起される不満であると言われている。

 結果を改善することに関し報告書は、長期的対応については安全衛生の改善が中心的なものであり、労働災害の数を減らすことがEL保険のコスト低減に役立つと述べている。政府は、これがやがて出される英国安全衛生委員会(HSC)の戦略的計画のキーとなる要素と考えている。 政府は、リスク見合いの保険料設定という保険業界の活動を今後とも促進するし、英国安全衛生庁(HSE)のリスクアセスメントと結びつけられないかも模索している。

 報告書によれば、現在ELシステムは、負傷したり、健康を害したりした労働者に対し早期にかつ効果的にリハビリテーションを行うことを奨励するようにはなっていない。リハビリテーションをELシステムの中心に据えるためには、健康を回復し苦痛を緩和することが金銭補償という次善の策よりも重要だとされるようにカルチャーを変えることが必要である。

インセンティブのコスト

 DWPはこの検討を関係者と進めたいと考えており、政府はリハビリテーションや他の健康サービスを提供することに関して、企業と保険業者のインセンティブ費用も調査する予定である。

 これは、補償水準の決定にあたりリハビリテーションも考慮するということである。

 報告書は、また、政府がELCI執行の仕組みを改善するために行動する予定であるということも明らかにしている。これには、毎年の保険通知書を当局のデータベースに照らしてチェックできるようにするシステムも含まれている。また、徴収する罰金、経営者に課す責任、起訴のために当局に与えられる時間などについて、現在の規則が十分かどうかも検討する予定である。

広範囲に及ぶサポート

報告書は、リハビリテーションにより大きい役割を持たせることについて、広範囲のサポートが得られたと述べている。「災害対応の中心にリハビリテーションを据え、EL及び英国の補償システムの目的とカルチャーを根本的に変化させるために、意欲・機会の両方が存在している。」
  • 事業者責任強制保険のレビューのコピーは、以下でDWPのホームページからダウンロードできる: http://www.dwp.gov.uk