このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > イギリス パフォーマンスの公開

パフォーマンスの公開
−企業ホームページでの安全衛生情報−
By Lieu Nguyen BA PhD MIOSH *1

資料出所: Institution of Occupational Safety and Health (IOSH)発行
Journal 」 Volume 6, Issue 2, December 2002 p.51
(仮訳 国際安全衛生センター)



要約

 この論文は、社会に対する説明責任、透明性、熱意、及び「最善のやり方」を示すために、企業がどの程度インターネットを活用して、安全衛生パフォーマンス(ホームページ上の年次報告書に含まれている以外の)を公開し、かつデータを最新のものに保っているかを調査し評価した結果を報告するものである。この作業は、最近、英国安全衛生委員会(Health and Safety Commission: HSC)が英国のトップ350社に対して行った「HSCガイダンスに従って、毎年安全衛生方針とパフォーマンスを報告してほしい」との要求に関連するものである。

 この論文では、企業のホームページにおける安全衛生情報の位置や、見つけ易さといった技術的問題も検討する。

 この論文では、透明で、アクセス可能な報告によって「パフォーマンスを公開する」ことにより、企業がお互いに比較を行うことが出来るし、また様々な関係者にその企業が安全衛生を真剣に考えていることを示すことが可能になるという事例を紹介する。

 この調査の結論としては、すでにいくつかの企業が非常に質の高い方法でその安全衛生パフォーマンスをインターネット上に報告していることである。この傾向は促進されなければならないが、それを価値あるものとするためには、情報の品質(現在は様々である)が確保されなければならない。さらに言えば、安全衛生パフォーマンスを公開する場合は、それがインターネット*2経由であれ、年次報告書であれ、或いは安全衛生リポート・企業の社会的責任リポートであれ、現在のような統一を欠く一定しないやり方ではなく、合意に基づく最低要求事項を満たしたものとするべきである。

キーワード
企業報告company reporting、企業の社会的責任corporate social responsibility、インターネットInternet、イントラネットintranet、パフォーマンスperformance、原則と方針principles and policies、目標targets、ホームページwebsites。


*1

安全衛生プロジェクトマネジャー、RoSPA、Birmingham、UK

*2 この論文ではインターネットとウェブは同義語として扱う

序論
 政府の「安全衛生の活性化(Revitalising health and safety)」計画(環境・運輸・地域省(DETR)/英国安全衛生委員会(HSC)2000)では、2010年までに達成する国家安全衛生改善目標として次のようなものを掲げ、2004年までにそのおのおの目標の半分を達成するとしている。
(i)

労働災害。業務上疾病による損失日数を30パーセント減らす

(ii) 業務上疾病の率を20パーセント減らす
(iii) 死亡災害、重傷災害の発生率を10パーセント減らす

 しかし、この全国レベルの数字をどうやって企業、グループ、業種ごとに自分たちの目標に変換するかということに関してはほとんどガイダンスがなかった。

 英国のトップ350社の年次報告書(印刷物)で安全衛生情報が提供されているかどうかに関する最近の英国安全衛生庁(Health and Safety Executive: HSE)の調査(Peeblesら 2002)によると、227社の年次報告書を調査したが、そのなかで安全衛生情報が入っているのは107社だけで、またその情報の質には大きな違いがあった。関係する安全衛生情報データが入っている107社の報告(30パーセント)のうち、88パーセントに安全衛生原則に関する情報が入っており、34パーセントには死傷者の数や災害件数といったパフォーマンスのデータが入っていたが、パフォーマンスの改善目標を入れていたのは僅か13パーセントであった(第1図参照、この論文において後で検討する)。このリポートではまた、1995年には、フィナンシャル・タイムズ株価指数(FTSE)100社のうち、47パーセントが年次報告書で安全衛生情報を報告していたが、2001年にこの割合が60パーセントまで増大していると述べている。そして「現在、上場企業が安全衛生事項をその年次報告書に含めることは、法律上は義務づけられてはいないが、HSCは安全衛生事項の報告を促進すること、及び共通基準で報告できるようにするためのガイダンスを提供することを目指している。」と言及している。

 「安全衛生の活性化」(DETR/HSC 2000)の行動ポイント2は、大企業が安全衛生報告を公開することをその中心に置いている。共通基準を策定するためには、これらの情報を伝達することが必要だが、その手段として企業の年次報告書が選択された。しかし、安全衛生パフォーマンスを報告するためには企業のホームページを含むさまざまな方法がありうると言えよう。


報告・情報伝達手段としてのインターネット
 伝達の手段として、インターネットは多くの使い方があり、年次報告書に対しても様々な形で利用できる。従って、インターネットの安全衛生情報は、年次報告書に含まれているものとは違う場合もあるだろう。まず、いくつかの定義*3が役に立つだろう。
*3 http://whatis.techtarget.comによる


インターネット
 インターネット(「ネット」、「ワールドワイドウェブ」、又は「ウェブ」とも呼ばれる)は、コンピュータネットワークの世界的なシステムであり、あるコンピュータのユーザーがもし許可を受けていれば他のどのコンピュータからでも情報を得ることができる、ネットワークのネットワークである。インターネットは、世界中で何億人という人がアクセスできる、公開された、共同運営の、自立的な機能である。


イントラネット
 イントラネットは、企業内に限られた私的なネットワークである。互いにつながった多くのLANで構成されている場合もある。イントラネットの主要な目的は、企業情報、計算機のリソース、非公開の情報を従業員と共有することである。

 多くの企業が、他の非公開企業情報やリソースとともに、イントラネットに安全衛生情報を流していることはありそうなことである。しかし、イントラネットは外部の一般人からアクセスすることが出来ないので、この調査の対象はインターネットで公開された情報のみに限られる。


コミュニケーション手段としてのインターネットの長所と短所
 インターネットは、印刷された企業報告書やその他のメディアより、即時的、動的でアクセスもしやすいコミュニケーション形式である。また、定期的に最新の情報を提供する可能性も持っている。さらに、インターネットは、コミュニケーションのためには、より民主的な方法であるかもしれない。例えば、多くの個人やグループが、ホームページを立ち上げ、一定のセクションに情報を提供することが可能だからである。企業のホームページに情報を出すことの出来る人間がたった1人だとしても、それは必ずしも、情報が中央集権的にコントロールされていることを意味するわけではない。なぜなら、情報は多くの専門化された情報源又は部門(例えば人的資源、広報、安全衛生、マーケティングなど)から来るからである。

 インターネットの利点が明らかなため、多くの人にとって日常の仕事を行うのに不可欠なものになりつつある。これによって人々は、都合のよい時に、ほとんどどこからでも迅速かつ容易に情報を見つけること(特に優れた「サーチ・エンジン」の助けを借りて)、もっと詳細に知りたいときの窓口を見つけ、大きいファイルについてはダウンロードし(保存し、プリントする)、他の人と情報を共有する(電子メール、オンライン会議室、テレビ会議を通じて)ことが可能になる。この情報の共有、それも「好事例」や「他者から学ぶ」といったものが、インターネットをこのように役立つものにするのである。

 調査の目的や一般的な情報収集から見た場合、インターネットにはこのメディアに本質的な不利や困難もある。即ち事前連絡なしで、新規情報が追加されているかもしれないし、修正、削除されていることもある。従ってこの調査に関していくつかの注釈が必要であろう(例えば、調査実施時に入手可能であった情報に基づいた調査結果であること、ホームページの情報の正当性を確認するために企業に接触するということはしていないことなど)。情報がメンテナンス・更新をされておらず、従って種々のユーザーのニーズに対して重要でなくなるという危険もある。インターネットは巨大なネットワークであるため、リンクが容易に明らかにならない場合もあり、徹底的に検索してもまだ情報を見つけることが出来ないということもあり得る。この調査においても、筆者が、後で説明する方法で行っても適切なホームページを見つけることができなかった例もあり、他にもこのような経験をされる方がおられよう。


インターネット経由の伝達のキーとなるサイト閲覧者
 企業の安全衛生実績を広い対象に伝達する、強力かつ直接的、そして発展しつつある手段として、インターネットは、印刷物だけのときに較べて、企業とより広い関係者の間の接点を作ることができる。関係者とは、従業員、経営者、株主と投資家、顧客、供給者、請負業者、保険業者、規制当局、競合他社、メディア、研究者、安全団体、および一般公衆である(第1表参照)。すでにいくつかの企業がこの方向に動いていて、ホームページを使って、投資家やメディアのためのリンク、ダウンロード可能なファイル、フィードバックのための様式、種々の問い合わせ窓口の情報など、広範囲のサービスを提供し、後に続く者に対する基準を形成しつつある。

第1表 安全衛生情報に関するホームページ利用者とそのニーズ
ホームページ利用者 ホームページ利用者の付加的なニーズ/興味
従業員(現在の、将来の) 就労に関する他の方針、形態、調査、協議方法、イントラネット
経営者、管理者 取締役会や他の管理組織と責任、法的要求、他の業務目標や業務執行と安全衛生との関係
株主、投資家 パフォーマンス目標の進捗状況、参画と実施の計画、将来目標、経営に対する安全衛生のコストとベネフィット、倫理的事項
顧客 安全、製品安全に対する熱意と原則、道徳的な業務執行、窓口
供給者 安全データシート、認証
請負業者 安全に関する要求事項、入場資格、安全方針、パフォーマンス、目標
保険業者 比較指標の使用、目標、安全衛生計画、安全衛生損失によるコスト
規制当局 規定の文言のみならず精神面でも熱意を示すような、より厳しい基準、安全衛生マネジメントシステムの実施、パフォーマンスの測定と目標
競合他社 比較指標の使用、最善のやり方の共有、計画を実施するツール
メディア 報告
研究者/学生 報告、他の関係文書
安全団体 表彰、安全衛生促進及び研究の担当者
一般公衆 アクセスし易さ、詳細窓口

 あるHSEの委託研究報告(Mansley 2002)では、機関投資家が投資を決定するときに、その企業の安全衛生管理能力とパフォーマンスを検討しやすくするためにはどんなアドバイスが出来るかを研究した。投資家は一般的に、良好な安全衛生成績は良好なマネジメントと関係しているという考え方を支持していて、この分野での企業の実績をもっと知りたいと考えていることが分かった。単一の尺度で、作業に起因するリスクの管理について決定的な成功とか決定的な失敗を示すものは存在しないが、この報告では投資家が種々の企業の安全衛生パフォーマンスを比較するときに役立つと考えている指標を6つ特定した。それらは次のようなものである。
(i) 取締役会メンバーで安全衛生に責任を持つと指名された者がいるかどうか
(ii) 安全衛生マネジメントシステム及びパフォーマンスに関してどのレベルまで報告しているか
(iii) これまで死亡災害が何件あったか
(iv) 損失時間を伴う災害の率
(v) 常習的欠勤率
(vi) 安全衛生関係損害のコスト

 しかし、報告書は「投資家は安全衛生専門家からの提案も歓迎するだろう」と付け加えている。

 筆者の意見では、安全衛生情報の伝達のためにホームページを利用しよう、或いは作成しようと考えている企業は、企業とその関係者のニーズと関心を反映しつつ、少なくともそのホームページの中に安全衛生マネジメントシステムのデータが含まれるようにすべきである。具体的には安全文化についての情報、安全衛生に対する参画と責任、方針/原則、パフォーマンス、目標、及び窓口/フィードバックのやり方などである。さらに、例えば第1表に掲げたような関連情報への道案内をしておくことにより、様々な閲覧者や対象としている閲覧者(従業員、規制当局、投資家等)がホームページに対して持っている特別なニーズや興味も、把握できるかもしれない。


方法
 この調査は、英国のトップ350社に関するHSEの委託研究(Peebleら 2002)の報告書で取り上げられ研究された企業のホームページの場所を探し、調査することによって行った。企業のホームページを探すためには、よく使われるインターネットサーチ・エンジン「Google」と「Alta Vista」を使用した。企業のサイトが検索機能を持っている場合は、キーワード「安全衛生」を入力することによっても検索を行った。ホームページは、2002年8月と9月の間に調査したので、この時点で入手可能であった情報が対象となっている。

 調査期間中は、企業のホームページを見つけるために企業に接触することはしなかった。理由は、その企業のサイトを見つけることがどれぐらい容易であるかテストするため、および調査を行っているということが、調査期間中にホームページの内容の変化に影響しないようにするためである。もしこの調査のフォローアップとして研究を行う場合は、ホームページの存在及びそれを通じての安全衛生報告が改善されたかどうか、そしてもし改善されていればその理由を知るために、直接、接触することもできるだろう。これは、本調査の時点で、ホームページが見つけられなかった企業、又はこの調査の時点では適切な或いは十分な情報を持っていなかった企業を調査するためには有効だろう。

 ホームページアドレスが判明したあとは、安全衛生情報がトップページから直接たどり着くことが出来るか、安全衛生・社会的責任報告のところから行くことが出来るか、方針/手続文書のところから行くことが出来るかを確認しながら調査を行った。125のホームページに年次報告書があったが、これは調査しなかった。なぜなら、この調査の目的が年次報告書以外に存在する安全衛生情報を対象としているからである(このため、HSEの研究との重複は回避されている)。

 ホームページの情報は、企業年次報告書における安全衛生情報研究(Peeblesら 2002)及びHSCガイダンス(2001)で使用された格付けシステムに従って評価を行った。第2表に示すように情報を3つのカテゴリーに分けて検討した。

 350社に対してこの解析を行った結果は、データベースを作り、ホームページアドレス、安全衛生情報の場所、前述の格付けシステムによる情報の評価(低、中、高、及び情報がない場合の「N」)のデータを格納した。安全衛生関係の受賞や成績などの付加的な情報も集めた。(「結果」の17参照)。この調査で判明した主な事項は以下で詳しく述べる。

第2表 原則・パフォーマンス・目標の情報を評価する方法
カテゴリー 評価基準 点数付け
原則
  • 広範囲をカバーする方針
  • 実質的なリスク管理戦略とシステム
  • 安全衛生目標
  • 目標に対する進捗状況
  • 従業員との協議及び従業員代表
  • 「低」:5項目のうち、1項目が報告されている
  • 「中」:2〜3項目が報告されている
  • 「高」:4〜5項目が報告されている
パフォーマンス
  •  災害・疾病・危険事象の件数
  • 死亡事故の状況、発生防止対策
  • 発症した、或いは悪化した身体的、精神的障害の件数
  • 災害・疾病による損失日数
  • 是正勧告書の件数
  • 安全衛生関係違反による訴追の件数と性格
  • 企業の総コスト
  • 「低」:7項目のうち、1〜2項目が報告されている
  • 「中」:3〜4項目が報告されている
  • 「高」:5項目以上が報告されている
目標
  • 例えば、企業が目標、目的をもっていることを概説する文章
  • 例えば、2003年までに災害発生率を50%減少させる
  • 例えば、上記の他に健康障害の発生率を10%減少させる
  • 「低」:一般的な情報が報告されている
  • 「中」:1つの数値目標がある
  • 「高」:2つ以上の数値目標がある


結果
1. 筆者が、ホームページ上の年次報告書以外のところで安全衛生情報を発見できたのは、英国のトップ350社のうち僅か129社であったが、これを対象としてその質とアクセスのし易さを評価した。HSEの年次報告書についての研究(Peeblesら 2002) では、107社の年次報告書(印刷物)における安全衛生情報の品質が調べられたが、これと同等の数である。

2. 情報の品質は大きな違いがあり、これは、関係するホームページを見つけることの容易さやナビゲートの容易さに関しても同様であった。

3.  安全衛生情報がある場所は、専用の全社安全衛生ページから、社会的責任報告書、環境報告書などのダウンロード用文書まで、様々であった(第3表参照、この論文で後に議論する)。

4. 安全衛生情報が「非常に見つけやすい」と評価されたホームページは13件 (10パーセント)だけであった(トップページに安全衛生の表示があった)。残りのホームページは、「比較的見つけやすい」もの(「当社について」、「企業の社会的責任」、「方針」、「従業員」、「環境」などの下に入っているもの)と「見つけにくい」もの(例えば「報告」、「FAQ」などの下に入っているもの)に分けられる。

5. 安全衛生情報は、「企業の社会的責任」か、「地域社会」の下に置かれているものが一番多く、52件(40パーセント)がこのようなやり方だった。この数字の他に、「企業の社会的責任」の項目はあるが、そのなかに安全衛生情報は入っていないというホームページがたくさんある(「考察と提案」セクションを参照)。

6. 広範囲の付加的情報があった(例えば、取締役会レベルのグループ安全担当重役、災害調査のようなリスクマネジメント活動、倫理方針、地域社会の課題、認証、受賞、「安全衛生の活性化」のような政府主導の活動、製品安全、業務上の交通事故といった問題になりつつあるリスクなど)。

7. 調査した企業の7パーセント(25社)ではホームページを見つけることが出来なかった。これは、必ずしもそれらの企業がホームページを持っていないということではなく、企業の合併、売却、買収やホームページアドレスの問題といったことによるものかもしれない。

8. 安全衛生情報があった129社のホームページのうち、123社 (95パーセント)が方針や原則を報告していた。HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002)では88パーセントであった。77社(60パーセント)がパフォーマンスデータを報告していたが、HSE年次報告書研究の場合は34パーセントであった。64社(50パーセント)企業の安全衛生目標を報告しているが、HSE年次報告書研究の場合は13パーセントであった(第1図参照)。



9. 安全衛生情報があった129社のホームページのうち、56社 (43パーセント)で、「原則、パフォーマンス、目標」の3つのカテゴリー全部でなんらかの情報があった。3つ全部で「高」又は「中」と評価されたのは15社(12パーセント)であったが、全部で「高」と評価されたのは、僅かに6社(5パーセント)しかなかった。

10.安全衛生情報があった129社のホームページのうち、123社 (95パーセント)が原則又は方針についての情報を提供しており、これらの情報の大部分の品質の評価は「中」又は「高」であった(第2図参照)。要約すれば、27社(21パーセント)が「低」、57社(44パーセント)が「中」、39社(30パーセント)が「高」と評価された。HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002)の結果(分析した報告書が107社でそのうち 94社・88パーセントが安全衛生に関する原則を報告していた。)との比較を第2図に示す。



11.安全衛生情報があった129社のホームページのうち、77社 (60パーセント)が、安全衛生パフォーマンスの情報を提供していた。多くの企業が1〜2組の数字、例えば死傷災害による損失日数などを出しているにとどまり、このカテゴリーの情報の品質は「低」と評価されているものが多い(第3図参照)。この理由をはっきりさせるためには、さらに研究が必要であるが、例えば、企業は依然としてマイナスで不利な「事実や数字」を示すことを嫌がっているのかもしれないし、意味のあるやり方で安全衛生パフォーマンスを測定していないかもしれない。情報を提供しない理由は、さらに「考察と提案」セクションで検討する。要約すれば、45社(35パーセント)が「低」、25社(19パーセント)が「中」、7社(5.5パーセント)が「高」と評価された。HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002)の結果(分析した報告書が107社でそのうち 36社・34パーセントが安全衛生パフォーマンスを報告していた。)との比較を第3図に示す。



12.安全衛生情報があった129社のホームページのうち、64社 (50パーセント)が、安全衛生目標の情報を提供していた。このカテゴリーの情報は、大多数が「低」品質と評価されている(第4図参照)。要約すれば39社(30パーセント)が「低」、13社(10パーセント)が「中」、12社(9パーセント)が「高」と評価された。これは、10パーセントが安全衛生に関する数値目標を示し、別の9パーセントが、2つ以上の数値目標を示して「高」と評価されたことを意味している。しかし、設定目標は達成できなかったが、過去の改善を基に努力を継続し、将来その目標を達成することを目指すとしている企業がいくつかある。HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002)の結果(分析した報告書が107社でそのうち 14社・13パーセントが安全衛生目標を報告していた。)との比較を第4図に示す。



13.HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002)の結果と比較すると、例えば原則と方針を報告しているパーセンテージなど、同等である項目もいくつかある。しかし、パフォーマンス・目標の報告の数や品質に関しては、一般に、印刷物の年次報告書よりホームページの情報の方が良いようである。

14.この調査では、ホームページにおける安全衛生情報の場所と、ナビゲートして適切な情報に行き着くことの容易さにも注目した(第3表参照)。一般にホームページをデザインする場合、「3回クリック」ルール、即ち閲覧者は、多くとも3回クリックすれば必要な情報にたどり着くことが出来るというのが最善の方法だと言われている。安全衛生をトップページに置いているのは僅か13社であった。安全衛生情報の入口は、「当社について」又は「企業情報」が最も多く(注3参照)、「企業の社会的責任」、「社会的責任」、又は「地域社会」がこれに続いた。ホームページを容易にナビゲートして情報を発見するためには、最初の入口及び2番目の入口を考慮することが重要である。第3表は、以下のセクションで述べる提案の根拠となっている。

第3表 企業ホームページにおける安全衛生情報の場所

場所/入口 第1の入口注(1) 第2の入口注(2)
当社について、会社、企業/グループ情報注(3) 57
会社の社会的責任、社会的責任、地域社会 24 28
安全衛生・環境、安全衛生、安全 13 28
環境 9 10
報告注(4) 4 11
投資家 4 7
当社のメンバー、従業員 3 8
方針 2 9
パフォーマンス 1 6
その他 1
注)
(1) ホームページへの直接又は第1のリンク
(2) 関係情報にたどり着くまで2つのリンクを辿る必要がある(例えば、「当社の情報(第1の入口)」をクリックし、次に「当社の社会的責任(第2の入口)」をクリックする)。
(3) 「当社について」は最もよく使われるルートで、安全衛生情報を置くための最善の場所の一つである。しかし、ここはいつも最もアクセスし易い場所とは限らない。なぜなら、安全衛生情報は通常ここからさらに下の階層(企業の社会的責任、環境、パフォーマンス、報告など)にあるからである。
(4) これは企業の社会的責任報告、環境報告、安全衛生報告等のことであるが、年次報告書は含まない。

15.HSEの年次報告書研究は、227社の報告書(印刷物)を調べ、そのうち107社で安全衛生情報を掲載していた。企業のホームページについての筆者の調査では、125社の年次報告書が見つかったが、この調査は行わなかった。なぜなら、この調査の目的は、これに追加される、又はこれに代わる(或いはその双方)安全衛生情報の場所とその内容をホームページ上で特定し評価することだったからである(企業が、適切な安全衛生情報を年次報告書に取り入れることが普通のやり方になれば、そのコピーをホームページで提供してその場所を示すことが促進される、と筆者は考えている)。

16.多くの企業が、現在はホームページに掲載されていない安全衛生パフォーマンスデータが、将来はホームページ上で公開されるだろうと報告している。この理由は、企業が社会的責任を報告する傾向があること、報告についてのHSCガイダンス、特に大企業グループでの記録照合システムの改善などが影響している。

17.使用した格付け方法には入っていないが、イギリス王立災害防止協会(RoSPA)や英国安全評議会(British Safety Council)などの全国的な安全衛生表彰は、企業の熱意やパフォーマンスが認知されたことを雄弁に物語るものである。32社(約25パーセント)が、これらの受賞について紹介しているが、関連情報(パフォーマンス、原則、安全衛生マネジメントシステムなど)なしに受賞のみを取り上げていたのはごく少数であった。

18.外国向けも想定したホームページでは、企業又はグループの具体的データ、全国的データ(例えば英国)、本社データ(例えば米国)、国際的な規模と対象(例えばヨーロッパ及びアジアのセクタの数字)を含んでいるものもいくつかあった。しかし、調査したホームページの大多数は、英国に関連した数字を示していた。

 この調査結果は、方針/原則やパフォーマンスデータ、又は目標を全く持っていない企業がいくつかあるということを示している訳ではなく、これらは単に、現在その公開ホームページ上に見つからないか入手可能でないということを示しているに過ぎない。この結果は一つの判断基準*4に従って特定の情報が発見できたか/入手可能であったかを示すもので、その企業の方針/原則やパフォーマンス、及び目標が適切であるかどうかを判断するものではない。

*4 本論文の「方法」のところで示したように、比較のためHSEの年次報告書の研究における採点法に拠っている。


考察と提案
 ホームページに安全衛生情報が存在するか、そしてどこに存在するかということは、企業が誰にどのようにして情報を伝えようとしているかを示すものであり、重要である。オンラインの年次報告書を通してのみ入手可能であるとか、又は分かりにくい入口から階層を辿っていくような安全衛生情報は、関心を持っている人、或いは「ネットサーフィン」をする時間が十分にない人にとって不便である。この調査の対象となった企業は大手の企業であり、従って、ホームページでの報告について技術的・予算的な妨げがあるということは考えにくい。しかし、一般論として、企業が安全衛生情報をインターネットに載せる理由、載せない理由というのは明らかではなく、より一層の調査が必要である。企業のホームページに安全衛生情報が含まれていないか、或いは限定的なものしか含まれていないことについての考えられる理由は次のとおりである*5
(i) ホームページに安全衛生情報を入れることを十分考えていない
(ii) そうしても特に役に立たないと考えている
(iii) メリットよりもデメリットが多いと考えている
(iv) パフォーマンスを判断するデータがまったくないか、比較するデータがない
(v) すぐにアップできる形式になっていて確認済みという安全衛生情報がない
(vi) ホームページにデータをアップロードし、更新するための担当・予算が決まっていない

*5 これらの理由/意見は筆者の経験と他の安全衛生専門家との会話から出てきたものである。


 安全衛生情報を提供することに対してデメリット或いは障害と考えられていることも今後調査しなければならない。筆者の意見では、「パフォーマンス」と「目標」の場合の障害は次のようなものである。
(i) 広報が貧弱である
(ii) 証明の問題
(iii) 情報を維持し、更新し、見直しする問題
(iv) パフォーマンスを判断するためのデータ/比較データがない
(v) そのようなことを行っても社外では興味がないだろうという考え
(vi) 営者からのサポートの不足

 しかし、ホームページで安全衛生情報を提供していない企業も、報告を公開することのメリットがデメリットを上回ると考えるかもしれず、安全衛生をホームページで報告することを進めていこうとしている傾向が企業にあることは、このことを示し、裏付けていると言えよう。考えられるメリットは次のようなものである。
(i) 経済面、環境面、及び社会面での成功要素をビジネス戦略に統合していることを示して競争力を得る
(ii) 投資家や関係者に重要な情報を提供する
(iii) 持続可能性(sustainability)及び企業の社会的責任を報告することに寄与する
(iv) 「最善のやり方」の比較を容易ならしめる
(v) 安全衛生に関する成功、改善、熱意を強調する
(vi) 安全衛生受賞などの実績を強調し、広報や従業員のモラールに寄与する
(vii) 進捗状況を監視する
(viii) 透明度や説明責任を示す
(ix) 安全衛生報告、年次報告書、企業の社会的責任報告、外部情報源(例えば HSEホームページ)など、必要な情報の道案内になる

 ホームページで安全衛生情報を提供している企業でも、一般的に言って、企業情報の全体計画の中でどういう位置づけにするかについて考え抜かれたようには見えない。この調査では、これら安全衛生情報は、種々の見出し(例えば環境、投資者、地域社会、従業員など)の下に置かれていることが判明しており、そのため、安全衛生の重要性とそれに対する熱意が伝わっていないことがしばしばあった。これに比べて、環境問題はほとんどの企業ホームページで、しっかり作られており、目立ってアクセスしやすい場所に置かれている。

 この調査の結果(第3表)は、ホームページにおける安全衛生情報は、社会的責任の報告と強く関係しているか或いはその影響を強く受けていることを示している*6。安全衛生情報を持っている129社ホームページのうち、40パーセントは企業の社会的責任の下に安全衛生データを入れていて、安全衛生情報の置き場としては2番目に多くなっている。他に社会的責任の部分に、環境、持続可能性、倫理、地域社会の問題についての情報を置いているが、安全衛生についての情報はない企業ホームページも多い。これは、企業が置き場所を直そうとする機会がないということかもしれない。整合性を保つために、また安全衛生の地位を向上させるために、ホームページでの情報は、トップページ(一番アクセスしやすい)からの主要項目として、又は(整合性を高めるために)「企業の社会的責任」からアクセスできるようにするのがベストであると提案したい。さらに研究を行えば関係者がどれを好むかが確認できるだろうが、この調査の結果(第3表参照)に基づけば、そして、アクセスのし易さ、整合性、安全衛生の地位向上ということに価値を置けば、企業ホームページに安全衛生情報を置く場所の順序は次の提案のようになるのではないだろうか。
(i) トップページに、「安全衛生・環境」、「安全衛生」、「安全」などを置きここから入る
(ii) 「当社について」、「企業情報」、「グループ又は全社」から
(iii) 「当社の社会的責任」、「持続可能性」、「当社の価値観」、「地域社会」、「社会への参画」から
(iv) 「方針」から
(v) 「当社のメンバー」、「従業員」、「雇用」から
(vi) 「パフォーマンス」、「統計」から
(vii) 「環境」から
(viii) 「投資家」から
(ix) 「報告」、「その他」から

*6 社会的責任の報告は、他の多くの分野でも企業の報告に影響を与えている。例えば環境や地域社会活動などである。それゆえこの分野には一般的に整合度が高い傾向がある。

 多くの企業が、持続可能性報告の比較し易さと信頼性を向上させる必要性を確信するにつれて、経営面と社会面での目標が、企業の社会的責任セクションで明らかにされている。国際報告活動(Global Reporting Initiative, GRI2002)では次のように述べている。「今日、世界中で少なくとも2,000社が、営業面・環境面・社会面での方針、実施方法、パフォーマンスについての情報を自主的に報告している。一般的に言って、まだこの情報は整合がとられておらず、不完全で、証明されていないものである。これを測る方法と報告のやり方は産業、国、規制によって大きく異なっている」。

 しかし、報告の公開ということに関しては、「環境」、「持続可能性」のほうが、そして「地域社会」でさえも、安全衛生よりも良く行われている。企業の社会的責任の指標としての安全衛生は、種々のガイダンス(GRI2002ガイドライン、「地域社会における企業(2000)」報告、国連グローバルコンパクト(2000)原則など)に含まれている。しかしその求める内容も様々であり、強調すべき点やそれらの整合性がないことが、社会的責任を報告している企業でも安全衛生情報を含めていないことの理由であるかもしれない。

 GRIガイドラインでは「社会的パフォーマンス指標」(安全衛生も含む)の部分で次のように述べている。「社会的パフォーマンスの測定は、環境パフォーマンスの測定にくらべ十分合意されていない。」労働慣行の具体面は、主に国際労働機関(ILO)の条約などの国際的に認められている基準に基づいている。 社会的な問題には定量化が困難なものもいくつか存在するので、社会的指標は、方針・手続・管理の仕方などを含む、組織のシステムと運営について定性的な情報を提供することになる。GRIは、安全衛生のパフォーマンスを報告するための中心的な及び付加的な指標を述べるにあたって、社会的パフォーマンスの分野がまだ成熟の途上にあると指摘している。多くの企業が、報告の基礎として「企業の社会的責任ガイダンス」を使い始め、またHSC・HSEは、企業の社会的責任の問題の中で安全衛生の地位を向上させる活動を実施中であると述べている*7
*7 2002年RoSPA大会(RoSPA Congress 2002)におけるHSEの Kate Timmsの発表参照


 一般的にこの調査の結果は、HSEが年次報告書にある情報に関して行った調査よりも良い評価となっており、多くの点でさらに考察が必要である。考えられる理由の1つは、あるグループで情報が共有されていた場合、同じ情報が多くの企業のホームページに掲載される可能性があるということである。この調査では、もし1社のみしか必要な情報をもっていなかったとしても、これにリンクを張ったサイトは同様に評価されることになる。企業に提案したいことは、すべてのサイトを見直し、仮にリンクを示すものだけであっても、利用可能な情報を調整することの検討である。HSEの結果との違いの他の理由は、メディアの性質、即ち、分量、締め切り、プレゼンテーションの形式、ホームページ情報の閲覧者は印刷された情報の対象者とは異なるなどということと関係しているかもしれない。

 HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002)の結果と比較して、この調査で発見されたことは、企業の意志決定の方法は均質ではなさそうで、従ってある情報が種々の伝達手段を通して提供されるということである。例えば、いくつかの企業でホームページには安全衛生パフォーマンスの情報があるが、印刷された年次報告書にはない、又はその逆の場合である。HSEの年次報告書研究(Peeblesら 2002) では、「報告書は一般公開用ではない」としている企業がいくつかあったが、それらのうち少なくとも3社の報告が現在インターネット上で見ることが出来る。これは、企業の意志決定について疑問を持たせるものであると同時に、企業がHSEとどのように関わっているかという疑問も(おそらく)持たせるものである。

 企業の年次報告書に関するHSEの研究では、年次報告書に安全衛生情報が含まれること又は含まれていないことの理由、及び安全衛生の報告を行うことと安全衛生パフォーマンスの間に関係があるかどうかを調査する必要があると結論づけられていた。これらの疑問を中心にさらに研究が行われる場合は、ホームページの安全衛生情報も対象とするよう拡大すればいいのではないだろうか。

 この調査で、3つの指標(方針/原則、パフォーマンス、目標)全部が「高」と格付けされた企業でも、情報を常に最新にすること、安全衛生関係のページが容易に発見・アクセス・ナビゲート出来るようにすること、詳細情報を得るための窓口を設けることなどにより、さらに改善することが出来る。

 この調査の結果は、調査実施時に入手可能であったコンテンツ及び情報の品質について一般的な目安を与えるだけである。しかし、ホームページは数ヶ月間、比較的に変わらずに掲載されているので、この調査結果はある程度一般化できるものだし、当てはまるものである。ホームページを利用した報告についてさらに調査を行うとすれば、より多くの企業を対象とし、業種、企業規模、FTSE格付けごとの分析を行って、ホームページによる報告のパターンを特定する、というやり方があるだろう。


結論
 パフォーマンスに焦点を当てた安全衛生へのアプローチは、事故・災害の減少といったアウトプットだけでなく、危機管理能力や安全カルチャーといったものも示されるはずである。RoSPAのガイダンス、「最善のやり方に向かって(Toward best practice)」(2001)、および「変わるための目標(Targets for change)」(2002)では、パフォーマンス評価のためのより包括的なアプローチが必要で、それは、労使相談のうえ合意した目標を含んだ「証拠パッケージ」に基づくべきであると主張している。さらに、企業がそのパフォーマンスを公開して報告することを支援するために、HSC (2001)、イギリス労働安全衛生協会(Institution of Occupational Safety and Health (IOSH))(2002)、GRI (2002)のガイダンスが入手可能である。

 企業のホームページで入手できる安全衛生情報についてのこの調査は、ホームページにある年次報告書以外にも、より多くの、より良い安全衛生情報が得られることを示している。筆者は、「パフォーマンスを公開する」ための有効な方法としてインターネット利用を促進するべきだと考えている。なぜなら、それが種々の閲覧者のニーズに対処でき、現在の情報を改善し、更新することが可能で、他との比較が出来て最善のやり方を奨励することになるからである。年次報告書で適切な安全衛生パフォーマンス情報を提供する場合に懸念されることの1つは、これらの文書が大きく、仕事の量が増えるのではないかということである。たとえ年次報告書が、企業の安全衛生情報を報告するための、一般に認められた、主要な方法になっているとしても、インターネットによる報告であればこの負荷をある程度軽減することができるため、この点からも奨励されるべきである。企業は、ホームページに掲載している安全衛生情報の追加情報を年次報告書に示すことができるし、その代わりに、ホームページが年次報告書の安全衛生部分の目次になることもできるだろう。

 もしこの調査が、企業の安全衛生報告や公けの説明責任を改善することが必要であるという議論にある程度役立ったとすれば、次なる挑戦は、どのようにして現在の障壁を克服して、関係者のニーズを満たすかということである。近い将来に行われるであろう継続研究で、現在のものに比べ改善が見られるかどうかを評価し、ここで書いた方法でホームページを見つけることができない企業を調査し、企業が追加の安全衛生情報が含まれているイントラネット(従業員と管理者向け)を持っているかどうかを調べることでその結論が出るだろう。より一層の可能性として、安全衛生パフォーマンス情報を含んでいる企業サイトを結ぶためにポータル・ホームページ(訳注:様々なWebサイトやシステムへの入り口を、1つの画面に集約して表示すること)を作ることが考えられるだろう。ポータルページは、安全衛生パフォーマンスの報告に関しての好事例の貴重なネットワークとなり、企業が自分のパフォーマンス報告を開始したり改善したりすることを奨励することとなろう。