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ケミカル・エッセンシャルズ
Chemical Essentials

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年5月号 p.12-16

(仮訳 国際安全衛生センター)



 化学物質による健康・安全・環境へのリスクを管理するための総合的なアドバイスを企業に提供する新しいオンラインシステムが開発されている。HSEの化学物質・可燃物対策課のクリス・ウィリアムズが、その機能について説明する。   

 ケミカル・エッセンシャルズとは、職場における化学物質の使用に関して、健康・安全・環境面の総合的なアドバイスを与えるオンライン・ガイダンスツールを開発する、省庁間の枠を超えたプロジェクトである。このアドバイスは、個々の企業のニーズに合わせて作成されるもので、主な法的要件の順守を手助けするものである。最終的目標は、インターネットを通じて無料でこれが活用できるようにすることである。
 英国安全衛生庁(HSE)、環境庁、スコットランド環境保護庁(SEPA)は共同で、今回提案されたシステムの運用ルールを開発するとともに、関心をよせている関係者にその概念を例示し、最終的なシステムがどのように機能するかを示すデモンストレーションモデルの開発をも行った。
 民間の調査によると、小企業は使用する化学物質を管理するために何をすべきかについての、健康・安全・環境面での総合的なアドバイスを歓迎しそうである。こうしたニーズを満たすことが、ケミカル・エッセンシャルズの狙いだ。

法的要件

 職場で化学物質を使用している130万の小企業が守らなければならない多くの法的要件がある。これらの企業は、労働者の健康を守り、火災および爆発のリスクを防止しなければならないと同時に、大気中への放出、水中への排出および廃棄物の処理に関する環境法規を順守しなければならない。最低限、これらの企業は3つの別々の規則を順守しなければならない。何を実施しなければならないかは化学物質によってそれぞれ異なり、また、化学物質が使用される工程によっても異なる場合がある。

現行の対策

 HSE、環境庁、およびSEPAは、すでに企業の化学物質管理対策を主導しており、それには無料のインターネットガイダンスが含まれている。この対策には次の2つがある:
  • HSEの「COSHHエッセンシャルズ(COSHH Essentials)」――これは、化学物質の健康へのリスクを企業が管理しやすいようにデザインされたインターネットツールである。COSHHエッセンシャルズは、包括的なリスクアセスメントスキームを用い、リスクアセスメントのプロセスから、タスクベースの実際的なものまで、労働者の健康を守るためのアドバイスを提供するものである。
  • ネット規則(Net Regs)――これは、環境庁、SEPA、北アイルランド環境・遺産保全局が共同で開発したオンラインプロジェクトであり、わかりやすく示された法体系とグッドプラクティスによるガイダンスにより、環境法による標示方法の順守について産業別にアドバイスを行うものである。
 今回のケミカル・エッセンシャルズは、これら両方の方法に基づいて構築されている。
 ケミカル・エッセンシャルズの概念開発は、公的機関の共同プロジェクトを行い易くするための国家財政委員会の「予算節約のための投資(Invest to Save Budget)」資金25万ポンドによって可能になった。
 このプロジェクト管理は、HSE、環境庁、SEPA、環境・食料・農村地域省および貿易産業省から代表メンバーが出ているプロジェクト委員会により行われている。また、専門家グループは、産業界、労働組合、環境関係団体および無所属層の代表から成り、貴重なアドバイスを提供している。プロジェクト開始前に、150以上の検証を実施した結果、今回のケミカル・エッセンシャルズの目的に十分合致したシステムは1つもなかった。提案された特徴のいくつか、あるいは全てをカバーするインターネットシステムはあるが、その大部分は専門家向けのものである。
 ケミカル・エッセンシャルズは、自然界にある化学物質、合成された化学物質または化学製品を取り扱う企業に役立つものである。このシステムとガイダンスは、専門用語を極力使用せず平易な英語で、COSHHエッセンシャルズの管理ガイダンスシートと同じフォーマットで記述される。さらに、ユーザーが印刷できるようにPDFフォーマットで作成される。

専門性

 ケミカル・エッセンシャルズは、従業員50人未満の企業を主な対象としているが、COSHHエッセンシャルズの経験から、ガイダンスは大企業や専門性を有するスペシャリストにとっても有益であることがわかっている。また、化学物質を取り扱う労働者や彼らの安全衛生代表にとっても価値あるものである。特に、下記の法の順守に今回のシステムが役立つ:
  • 2002年有害物質管理規則(Control of Substances Hazardous to Health Regulations 2002: COSHH)
  • 2002年危険物質及び爆発性雰囲気規則(Dangerous Substances and Explosive Atmospheres Regulations 2002: DSEAR)
  • 排出及び廃棄物に関する環境関連法令
 このガイダンスは法令の全ての事項を扱おうするものではない。しかし、主な実用面はカバーされており、カバーされていない分野についても、追加情報のヒントや参考文献を提供することにより補足している。また、騒音やマニュアル・ハンドリングといったその他の安全衛生事項に対するアドバイスは行わないが、効果が認められたグッドプラクティスは紹介することになるだろう。
 ケミカル・エッセンシャルズは、よく使用される化学物質及び化学物質を含む製品に関するアドバイスを行うことを主目的とし、バイオハザード、放射線、花火といった特注爆発物に関する法令、および植物保護製品の使用についてはカバーしていない。また、化学反応によるハザードという複雑な分野もカバーしていない。
 範囲を限定する理由は2つある:第1は、ケミカル・エッセンシャルズの対策がすべての分野に役立つわけではないこと。例えば、農薬の使用は製品許可の法規が適用され、許可の条件は製品およびその用途ごとに異なる。第2は、ひとつのシステムにいっぺんにすべてを組み込もうとすると収集がつかなくなるためである。今回のものが適切だとわかれば、これを発展させ、追加モジュールを加えることができる。

4つの基本的な選択肢

 ケミカル・エッセンシャルズは、融通性があり、ユーザーになじむものであることが望まれるので、アドバイスのレベルとタイプに応じた4つの基本選択肢を開発した。
 第1の選択肢は、このシステムでカバーされている法的要件に関する一般的アドバイス及び職場における化学物質の使用に関する一般的条件を提供するものである。例えば、化学物質の健康への影響については、ユーザーはHSE が発行する「COSHH規則の手引き(COSHH: A Brief Guide to the Regulations)(INDG136)」をプリントアウトできる。
 第2の選択肢として、使用される化学物質の種類および関連するリスクを確実に予測できるいくつかの業種や生産工程については、既成のリスクアセスメントを提供できる。ユーザーは単純に自分たちに関係のある生産工程を特定してアドバイスをプリントアウトするだけである。これは、現在利用可能なCOSHHエッセンシャルズにおける「直接アドバイス(direct advice)」に似たものである。このアドバイスでカバーされているトピックの例としては次のようなものがある。
 美容業、自動車修理業――例えば、イソシアネートを含む塗料(two-pack paint)のスプレー作業、鋳物業のヒューム、パン製造業あるいは小麦粉取扱い業。
 第3の選択肢は、化学物質あるいは化学物質を含む製品を混ぜたり、計ったり、吹き付けたりするような一般的業務に対する包括的リスクアセスメントである。ケミカル・エッセンシャルズは、ユーザーが使用しているものに関する基本的な情報から、健康・安全・環境に対するリスクを管理するための実際的なアドバイスまでを提供する。一般的に使用されている化学物質については、データベースがその物質に関する必要な全ての情報(例えば、例えば、リスクの段階、沸点、引火点等)を提供する。
 それ以外の化学物質および独自の開発製品の場合には、ユーザーは、安全データシートからデータを入力しなければならない。するとシステムは、その物質またはその物質を含む製品を安全に貯蔵、使用、処分するためにユーザーが実施しなければならない手順を割り出す。
 第4の選択肢は、多くの化学物質を一緒に貯蔵できるか、分離しなければならないかをユーザーが決定するための基本的なチェックである。ユーザーが物質名またはUNナンバーを入力すると、潜在的危険性がある化学物質の組み合わせについてアドバイスを得ることができる。

包括的アセスメント

 包括的リスクアセスメントのルールは複雑なもので、ユーザーが正しいアドバイスを確実に得るための決定樹(decision trees)がいくつも含まれている。しかし、これらはユーザーには示されていない。化学物質とその使用方法に応じたアドバイスを作成するためには、システムは次のことを知っていなければならない。使用されている物は何か、そのハザードと特性、取り扱われている方法、含有量、適用される規則。
 一旦この情報が与えられたならば、このシステムは、次の各事項に関してアドバイスを提供する。
  • 化学物質の貯蔵。他の種類の化学物質から隔離あるいは分離する必要があるかどうかの情報を含む。また、「大規模災害管理規則(Control of Major Accident Hazards Regulations: COMAH)にもとづく必要条件を満たさなければならない可能性のある化学物質については、注意をうながすための印がつけられる。
  • 実施する業務のための化学物質の使用。環境への排出をコントロールするために必要な対策を含む。
  • 廃棄物処理。余剰物質、未使用および空の容器の処分方法を含む。しかし、システムで提供される廃棄物の取扱いに関するアドバイスは、ユーザーが情報提供した化学物質だけに適用されるものであり、加工工程中などの化学物質の変化は予測できない。
 このガイダンスに加えて、ユーザーが追加情報を入力し、さらに詳細ないくつかの追加事項を調査する選択肢もできる。例えば、総合的汚染防止管理(IPPC)制度あるいは溶剤指令(Solvents Directive)の範囲にあるかどうかを調査し、もしそうであるならば、ユーザーは何をしなければならないかを確認することができるというものである。また、例えば地方の規制機関の連絡先、地下水層や洪水保護地域に関するアドバイスといった、地域ごとの情報も入手可能である。
 この構想の進捗状況について言えば、「予算節約のための投資」の資金によって、プロジェクト委員会は、ケミカル・エッセンシャルズがユーザーからの入力によってどのように適切なアドバイスを選択するかのルールを作成することができるようになった。また、最終的にシステムがどのように機能するか、どのようなガイダンスを出すのかをデモンストレーションするCD-ROMの開発が可能になった。このデモンストレーションは、ユーザーの入力に応じて、あらかじめセットされた一連の画面が表示されるというものだ。ケミカル・エッセンシャルズの主な特色を例示し、ガイダンスの見本を提供する、6つの実際の例がある。プロジェクトは現在、第1フェーズの最終的段階、つまり最終的なシステムのもととなる技術的ルールの開発段階にきている。次の段階は、このルールをインターネットシステムに変換することである。それにはさらなる資金が必要であり、われわれは現在、政府および関係機関と交渉しているところである。

ガイダンスの妥当性

 実際のシステム運用は2006年になるだろうと予測している。目下、小企業を対象にCD−ROMによるテスト運用を実施しており、システムの使い易さ、ガイダンスの妥当性およびガイダンスのわかりやすさに関する企業の意見を求めている最中である。デモンストレーションモデルのインターネット版は、この数ヶ月のうちにHSEのウェブサイトで利用可能となるはずであり、われわれは特に構想およびアドバイスを提供する方法に関するフィードバックを求めている。
 もし電子システムの開発ができる財源が確保され、インターネット上で無料で公開されれば、ケミカル・エッセンシャルズは統合的な健康、安全、環境に関するアドバイスを提供できる。そうなれば、小企業が法を順守しやすくなり、労働衛生の向上と環境への害の低減に貢献することができる。