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安全に荷物を届ける
DELIVERING ON SAFETY

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年9月号 p.18-20

(仮訳 国際安全衛生センター)


 
 世界中の900の事業所から毎週330万個にものぼる小包、書類、貨物が配達される状況の中、エクスプレス配送サービス会社TNTの45,000人の従業員は、まさに重労働に追われている。十分な災害調査や各地での安全キャンペーンを通じた適切な訓練がいかに従業員の安全衛生に役立っているかを、ルーシー・ウェブスターが探る。

 TNTという名前に馴染みのない企業はほとんどないだろう。エクスプレス配送サービスをめったに利用しない人々でも、世界中の道路や空をいろどるTNTのマークのついた18,000台のオレンジ色のトラックや38機の航空機をまちがいなく目にしたことがあるはずだ。

貨物

 TNTは、世界中で16万人以上を雇用するTPG社の一部門である。TNTは200か国以上で営業し、45,000人の従業員をもつ。900の事業所から、毎週330万もの小包、書類、貨物が配達されている。著者はTNT Express社の安全衛生環境部長ハリー・ティンドに会って、このような大会社が安全衛生にどのように取り組んでいるのかについて話し合った。
 TNTは、書類や小包だけでなく、医療用品、スペア部品、危険物等を事業場から事業場へと運搬している。同社は、9つの地域事業単位に分かれており、個々の事業単位の規模は異なるが、活動それ自体は全地域で同じである。「顧客から見るかぎり、本社のあるオランダとオーストラリアとでは、まったく同じ状況です。我々は簡単に言えば荷物を集めて配達するのですが、運送の方法は国によって違っており、従って、リスクの種類とレベルもそれぞれ異なります」ティンドは言う。
 さらに、彼はこう付け加えた。「安全衛生基準は本社で作成されますが、全ての方針及び安全衛生管理システムは、管理委員会の合意を得て承認されることになっています。いったん承認されると、委員会は支援と資源を提供します。この管理委員会のメンバーの何人かは、どこかの事業単位の責任者でもあります。このことは、彼らが委員会の委員及び事業単位の責任者として2つのレベルで安全衛生の責任を担っていることを意味します」

グッドプラクティスの合意

 TNT Express社が常時、安全衛生基準をたえず改善するために実施しているもののひとつに、年に4回開催する優良グループ(excellence group)の会合がある。「この優良グループ制度の目的は、グッドプラクティス(優良規範)の検討・議論、合意、そして方針の見直し・開発をおこない、どんな支援ツールが必要かを特定することです」とティンドは説明した。
 TNTはいくつかの重要な業務プロセスによって運営されており、プロセスごとに優良グループがあり、全てのプロセスは、その重要性において平等な取扱いとなっている。安全衛生優良グループは、ティンドが委員長を務めており、各事業単位からの安全衛生マネージャーとその他の部門からの代表者で構成されている。同様に、ティンドは、安全衛生の要件が考慮されるよう、他の優良グループの会合にも出席している。
 TNT Express社の事業所は、従業員が5人程度しかいない「サテライト」と呼ばれる出張所から、1,500人もの従業員がいる主要拠点(ハブ)まで、広範囲に渡っている。そのため、多くの異なる経営手法が必要とされている。文化、言語、訓練及びリスクは、事業所ごとに大きく異なっているが、優良グループは国の枠を超えて優良事例を紹介するための体系的なフォーラム(討論の場)を提供している。

国内の品質基準

 安全衛生にとくに関係深い重要なプロセスのひとつに訓練がある。2000年に、TNT Express社は「人への投資(Investor in People)」基準の認定を受けた。これは、スタッフの教育訓練や開発により企業業績を改善するための一定レベルのグッドプラクティスを設定する国内の品質基準であり、同社は現時点でこれを達成した世界で唯一の企業となっている。その結果、高い訓練基準を維持することに大きなウェイトが置かれている。
 「主な目的は、スタッフを訓練し、安全に業務を遂行できる適切な能力を身につけてもらうことです」TNTの地域安全衛生マネージャーのマイク・パトリックは言う。「マネジメントの各段階は、必要とされるレベルの訓練に結びついています。例えば、地方事業所の中堅クラスのマネージャーは、リーダーシップ及び管理技能の訓練を受け、可能であれば、彼らがほかの人々にも学んだことを伝達できるように、トレーナーとしての訓練も受けることになります」

労働衛生

 パトリックによると、TNTが直面する安全衛生ハザードには次のようなものがある。航空機及び輸送車両の移動、作業関連上肢障害、請負業者の使用、車両メンテナンス、及び労働衛生(特にマニュアル・ハンドリング)。
 これらのハザードは、リスクアセスメント、徹底的な訓練、サプライヤーの選別、適切な監督、定期的監視と点検によって管理される。 「我々にとっての最大の課題(実際は、ほとんどの企業に関係する)は、作業員に安全な方法で作業をさせるようにすることです」とパトリックは言う。「我々はこれを、訓練、人材開発、管理技術に焦点を当てることで改善しようとしています。我々はハザードを特定し、実施している管理方法を調べ、その効果をモニターします」
 優良グループはまた、安全キャンペーンのためのアイディアを出し、それはその後各地で実施される。例えば、マニュアル・ハンドリングに関する特別キャンペーンが、最近ベルギーのリエージュにあるTNTヨーロッパ航空速達ハブ(European Air Express Hub)のエルゴノミクス委員会によって開催された。ここでは、ハブ内での貨物の積み下ろし時間がタイトであるため、マニュアル・ハンドリングの潜在的リスクが高くなっている。
 このほかに特別な注意を要するハザードとしては、危険物が挙げられる。「危険物に関しては、利益を上げること以上に安全面に高い優先順位を置いています」とティンドは言う。TNTが輸送する危険物の例としては、医療用サンプル、エアロゾル類、農薬類及びドライアイスがある。TNTは、厳格な社内方針で、運搬する危険物の種類と量を制限し、法が定めた管理基準よりも高い基準を適用している。

改善の必要な分野

 TNT Express社の災害に対する方針は、どんな小さな事故でも全ての災害は重要であるということである。「我々は、災害調査を実施するスタッフを養成し、彼らが何を学び取ったかを知り、改善の必要な分野を特定し、対策を樹立して、それが遂行されるようにします」とティンドは言う。「最も重要な点は、常に物事を掘り下げて考えることの重要性を教えてくれる文化を構築しようとしていることです。災害がなぜ発生したのかがわかったならば、次にはなぜ特にその災害が起きたのかを調査し、最終的に災害の根本原因にたどり着くまで探求します」
 彼は、さらにこう付け加えた。「我々は、IT技術を土台にした安全衛生災害管理システムを開発し、これに財政面及び人材面からのアプリケーションを統合しようとしている。そして、災害コスト、労働損失日数、必要な訓練に関する情報を提供する予定です。
 このシステムから、我々は災害発生状況、原因、適切な対策、対策実施担当責任者、対策が完了する日時についてのデータを得ることになります」TNTはまた、責任を問い詰めない企業文化を推進し、従業員や請負業者が災害を報告しやすいようにする一方で、リスクテイキング(訳注:危険を認識した上での行動)に関しては、ゼロトレランス(訳注:酌量の余地を認めない)の方針を取っている。
 TNTは、英国安全評議会(British Safety Council: BSC)の国際会員となって3年、英国内会員としては4年経過している。この3年間、英国及びアイルランド共和国の事業単位は、BSCの安全衛生マネジメントシステム監査で5つ星(Five Star Health and Safety Management System Audit)を獲得し、2003年には世界各国で60ヵ所の事業所がこれに追随した。
 「我々は3つ星を達成することを社内目標とした。しかし全く喜ばしいことに、ドイツ、スペイン、シンガポールをはじめとする多くの国々で、最初の申請で5つ星を獲得したのです」とティンドは語った。「みんなの努力を認めるほかに、5つ星の監査は従業員の注意を職場の安全に向けさせ、彼らに企業の高い到達基準を維持しようという動機を与えています」
 さらに、TNTの多くの事業所は環境管理標準ISO14001を既に獲得しており、この中にはTNTドイツのように傘下にある全ての50事業所で獲得している例も含まれている。また、TNT社全体で環境に対するイニシアチブが実施されている。例えばTNTの親会社であるTPGは、国連のグローバル・コンパクト(持続可能な開発を支える国際的企業が共に手を取り合う自発的イニシアチブ)に調印している。


環境面の到達目標

 TNTは、環境面の到達目標について従業員に伝達することに特に重点を置いている。従業員が目標達成のための自分たちの役割を認識できるようにするためだ。企業の到達目標には次のようなものがある。全車両からの排ガスを最小限にすること、企業が出す廃棄物量の低減、エネルギー使用量の低減、夜間便による騒音の防止、そして引き続き新しくてより持続可能な運用方法を模索すること。
 TNT Express社は、小包や貨物を世界中に早く簡単に配達できる能力を誇りにしている。しかし、それよりも重要なこととして、同社は世界中の全従業員の安全と環境的に持続可能な業務を最重要課題として認識している。「スピード、コミュニケーション、およびケアは、我々の業務に欠かせない特徴であり、顧客が我々ならきっと書類や荷物を安全かつ時間内に届けてくれるだろうと信頼してくれていることを、我々は理解しています。この点と労働者の安全確保とは、うまくバランスを取らなければなりません」ティンドは語った。
 「しかし、職場でのリスクは絶えず新しいものへと変化していますので、我々は現在の成功に甘んじているわけにはいきません。このことはつまり、実施している安全管理システムを絶えず評価して労働者を保護するとともに、我々の事業場で発生する全ての事故を厳格に調査しなければならないことを意味しています」