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職場のストレス低減
Reduce the pressure

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年10月号 p.54

(仮訳 国際安全衛生センター)



 The Health and Safety Executive(HSE)では、職場関係ストレスの効果的な取り組み方について、新しい管理基準の発表を計画している。しかし、この問題に対処するために必要とされた対策としては、優良管理事例(good management practice)が一番役に立つとストレスコンサルタント、キャロル・スピアーは主張する。


  多くの事業者には、この問題に関し認識不足が見られる。それは、1993年に労働安全衛生マネジメント規則(Management of Health and Safety at Work Regulations)が施行され、全ての事業者は、ストレスのような心理社会的ハザードを初めとする職場のハザードについて定期的にリスクアセスメントを実施しなければならなくなったことである。このアセスメントは、職場ストレスが原因となって引き起こされた障害を被る労働者のリスクを特定し、回避し、あるいは低減するために活用されなければならない。
  さらに2004年11月HSEは、職場ストレスに関する新しいマネージメント基準を発表することとしている。
  今回提案された基準は、法で規制されるものではないが、企業が職場のストレスレベルを測定し、その原因を特定し、この問題に取り組むスタッフに役立てることを目的としている。職場でのストレス・リスクを適切に管理していないということで、安全衛生法規により送検された事業場は今のところないが、事業者には問題に対処する手段を講じなければならないというプレッシャーが、徐々に掛っていくものと思われる。
  職場でのストレスが原因となった障害を被る労働者のリスクを評価し、コントロールする法的要件の裏には、単純な事実がある:事業者が労働者を人間として・・・尊厳と尊敬の念を持って、労働者の貢献を評価・認識し、彼らと効果的な意志の疎通を図り、彼らが何をすべきか、そしてその理由を確実に理解することで・・・処遇するようになって初めて、企業の職場ストレスは低減し、労働者の生産性が高まり、福祉が向上することになる。
  HSEが職場のストレスに初めて具体化に取り組んだのは、1995年に発行されたガイダンスであった。これは、2001年に「労働関連ストレス対処方法・・・労働者の健康と福祉の向上、維持のための管理者向ガイド(Tackling Work-Related Stress: A managers guide to improving and maintaining employee health and well-being)」(HSG218)として、より詳細なガイダンスに改められた。これは、労働関連ストレスのコントロール方法を基としたリスクアセスメント・・・他の職場リスクの全てを評価するために使用されるものと同じ方法・・・が定められている。

重要な職場ストレッサー

  ガイダンスは、労働関連ストレスに関する新しいマネージメント基準として、2003年6月に公表されている。この基準では6つの重要な職場のストレッサー・・・作業要求、管理、支援、関係、役割、変化・・・を低減する目標を設定している。この目標達成のためには、一定の割合のスタッフが、ストレッサーの管理方法に満足しているということを示すことが事業者にとって必要となる。この内容は、HSEが今年末に発表を予定している基準の最終版に記載されることとなっている。
  職場のストレスに取り組むための特別な法規は存在しないが、事業者は1974年の労働安全衛生法(Health and Safety at Work Act)により一般的な責務を有している。この法律は、過度なあるいは不断の職場のストレスにさらされることも考慮に入れ、労働者の健康に影響を及ぼさないように、合理的な対策を講じることを目的としている。
  又、1999年の労働安全衛生マネージメント規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)でも、ストレスを含む種々の安全衛生リスクを特定するために、職場のリスクアセスメントを実施し、適切な管理対策が確実に実施されることを事業者に要求している。事業者がこれらの責務を順守しない場合には、HSEにより訴追されるおそれがある。又、有害なレベルの職場ストレスによりばく露した結果、障害を被った労働者から損害賠償請求が行われる際に、法的要件を順守しなかったことが追求利用されることになる可能性がある。
  さらに法では、5人以上の労働者を有する企業は、安全方針を文書で作成しなければならないとされている。これには、労働関連ストレス、いじめ、いやがらせを防止する上での対策が含まれていなければならない。
  職場ストレス原因は多種多様だが、以下は最も重要ないくつかの潜在的根源である。克服できないものない。効果的なストレスマネージメントの鍵の1つは、これらのストレッサーが発生するおそれがある場所を認識し、ストレッサーが現実の問題となる前に、それに対応する準備があるかということである。

ストレスの主原因

  職場ストレスの主原因には、次のようなものが特定されている:

  • 企業内での不適切、あるいは不十分なコミュニケーション、特に人事異動期間中についての;
  • 家庭及び仕事に基づいたストレスは成長し、お互いに影響し合い増大する;
  • 個々人に与えられた作業要求は、各々の能力に適合したものでなければならない。そして、作業量は作業要求にふさわしい作業方法に見合っていなければならない;
  • 過重労働及び過少労働ともにストレスになり得る;
  • 交替制勤務及び夜勤は、本質的にストレスが多く、災害発生の高いリスクにつながるおそれがある;
  • 自宅勤務は、労働者に孤独感を感じさせるおそれがあるので、支援体制が必要となる;
  • ホット・ディスキング(編注:職場で個々人の机を決めていないこと)や、短期間契約は、特別なプレッシャーにつながる;
  • 役割のあつれき、不明確で変化する役割は、全てストレスにつながる;
  • 神経をすり減らし、いじめがある管理の仕方・・・相談、支援、管理でのバランスが必要となる。
  • 中間管理職のコミュニケーションスキルの不足。管理職は、コミュニケーション訓練が要求され、通常の人よりも、このスキルが必要となる;
  • 余剰人員整理のためには、スペシャリストを訓練するという特別なニーズが必要となる;
  • 照明が不適切で不十分な職場は、スタッフが不快に思い、かつモチベーションが高まらない環境となる;
  • 新技術の導入において、計画的かつ、斬新な方法で行われない場合には、ストレスレベルを高める;
  • 労働者が常に働いていることを要求されているように感じる職場環境;

相談プロセス

  1人で残って仕事することが自分の意志である場合、職場ストレスは、さほど大したものではない。この場合は、短期的な対応策や1回限りの急場しのぎの解決策によるのではなく、相談、確認、介入そして管理というプロセスによってのみ対応が可能となる。
  管理者は、この点で重要な役割を持っていて、短期的なストレス認識プログラムのようなものは、十分なものとはいえない。管理者は、職場ストレスレベルが非常に高いという徴候を認識しなければならない。又管理者は、労働者とコミュニケーションができるスキルが必要である。このスキルがない場合には、管理者はストレスを回避、あるいは、最小限とするような方法で、自分のチームを管理することができない。
  ストレスは極めて複雑な現象により、多種多様な方法・程度で、個々人に影響を及ぼすため、企業のパフォーマンスにも大きな影響を及ぼすことになる。
  ストレスが持たらす有害な結果としては、高い欠勤水準、作業のパフォーマンスの悪さ、低い勤労意欲、低い責任感、災害の増加、難しい労使関係、顧客との関係のまずさ、訴訟の可能性等があげられる。事実、スタッフの欠勤と労働関連ストレスとの関係データとして、欠勤統計が、ストレスの重要の指標‘ホット・スポット’として用いられることは、よく知られている。

合理的な思考力の低下

  ストレスが、企業及び労働者に影響を与える他の要因としては、次のようなものがある:

  • 高いストレスレベル下においては、人々は、想像力と合理的な思考力が弱まっていくことに気づく;
  • 要求された基準で自分の仕事を遂行できない場合、結果的にこのことが、自身のストレスになる;
  • ストレス関連問題は、それに取り組む必要な専門知識がない管理体制のもとでは、その結果、より一層悪化する可能性がある;
  • 事業者の低いモラールと認識不足により、訓練された貴重な人員損失がしばしば、発生する;
  • 業務の境界線がはっきりしていない場合、過度のプレッシャーの原因となる誤解につながる可能性がある;
  • 職場内に特有と思われるあつれきは、放置して置くと、企業及びその関係者の双方にダメージをもたらす;
  • 職業性ストレスは最も極端な形としては、職場内外でのいじめ、暴力、自殺の原因ともなりうる。

  欠勤及び重大な安全衛生事項の主要因子であるストレスに関し、事業者が企業内でこの問題を特定し、取り組むようにHSEが義務化していないことは、驚くことではない。だからといって、リスクアセスメントに関するHSEのガイドラインに従い、その結果について、対策を実施すること以外に、事業者は、職場ストレスの結果を緩和するためにできることはあるのか。
  最初で最後だが、重要なことは、職場ストレスに積極的に取り組むことである。個々の労働者及びその代表と相談するということは、1996年の安全衛生規則(労働者との相談)(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations 1996)で決められていることである。多くの企業では、納期というプレッシャー、作業要求の突然の変更に直面している。労働者もまた、自分達に課せられた絶えず増加し続ける要求に合わせるための必要な教育訓練と経験を必要としている。
  推奨できる教育訓練の一例としては、次のようなものがあげられる:
個人的に立ち直る力を与えるような訓練、時間管理訓練、コミュニケーションスキル訓練・・・特に管理者には、自分自身と他人のストレスの早期の警告となりうる徴候を発見するストレス認識感覚訓練。
  事業者が職場ストレスに対処しうるこの他の実用的な対策としては、ストレス関連疾病後、職場復帰するための労働者支援対策がある。これには注意深い管理が必要で、専門家の支援を必要とする労働者の場合、カウンセリングサービス提供が重要な支援対策となる。事実、労働者支援プログラム(Employee Assistance Programmes(EAP))とカウンセリングサービスは、労働者の福祉を確実なものとする上で重要な管理計画要素となるものである。

スタッフカウンセリングサービス

  さらに2002年の控訴院(Court of Appeal)の決定によると、個人情報を保護されたスタッフカウンセリングサービスを労働者が利用可能である場合には、事業者は個人的な傷害請求での治療責務違反に問われることは殆どないとのことであった。
  結局、職場ストレス低減の良好な管理方法とは、常識的な事項を実施することであり、単純に事業者及び労働者が共通の利益に向かって一緒に働くことを要求しているだけである。ストレス低減に対し共同責任を分かち合うということは---これが成功する場合----労働者が仕事を楽しく遂行する手助けをすることであり、その結果、企業が発展繁栄することになる。