このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > イギリス 鉄道労働者の死亡災害の急激な増加

鉄道労働者の死亡災害の急激な増加

資料出所:Job Safety Management June 2005 p.12
「Sharp rise in rail worker deaths」

RSSB「2004年安全作業報告書(ASPR)」要約
資料出所: http://www.rssb.co.uk/pdf/ASPR2004-rsum.pdf

(仮訳 国際安全衛生センター)


  鉄道安全基準委員会(RSSB−Rail Safety and Standards Board)から最近発表された安全作業年次報告書によると、死亡、あるいは重傷を負った鉄道労働者の数が2004年は急増した。
  この増加数は主に鉄道保線作業労働者の死亡者及び負傷者が大幅に増大したためである。2004年に死亡した9人の鉄道職員のうち8人は保線作業に従事する者であった。-----これは1991年以降最も高い数である。保線作業労働者が重傷を負った数も83名から124名へと49%上昇した。
  労働者が高圧電線や走行している電車に接近して作業しなければならない保線作業は、英国で最も危険な仕事の一つである。HSEの統計によると産業廃棄物処理リサイクル業における労働者10万人当たりの死亡率だけが保線作業における死亡率よりも高い。しかし、この報告書では鉄道安全に関するその他の分野では改善の兆候も見られる。自動車の運転手が赤信号で通過する場合のような信号無視の事故(SPADs: the signals passed at danger incidents)の数は379件から346件へと減少した。-----これまでで最も低いレベルである。
  この全体的な下降傾向は続いている。SPADs関係では2001年3月以来60%減少した。減少理由は、運転士のマナーが良くなったこと及び問題に対処する広範な対策が実施されたことにある。2003年に設置された列車防護警報システム(TPWS: the Train Protection and Warning System)もまた脱線あるいは衝突を起こすSPADsの危険を減少し、安全性を向上させた。
  更に報告書は次のように述べている。全体的には乗客や一般公衆の死亡、重傷及び軽傷発生率は変わらないけれども、公衆への安全確保のために2004年、いくつかの重要な分野で改善がなされた。
  鉄道事故で一般公衆の死亡の最大原因である線路への侵入に関連する死亡事故の割合は31%減少した。この理由として一般公衆の事故死(自殺を除いた数)が全体的に減少したことによるものである。事故死は2003年に57名,2004年には42名で、そのうち、線路内に侵入したことによるものは34名であった。
  報告書は一連の対策及びキャンペーンにより、人々が鉄道線路に侵入することのリスクを認識するようになったため減少したと確信していると述べている。
  報告書にコメントしながら、エイダン・ネルソン(RSSB政策戦略対策委員長)は次のように話している。“2004年はSPADs及び鉄道線路侵入のリスクに取り組む業界の努力の成果が実を結びつつあることが見られた年であった。しかしながら、去年11月のアフトン ナーベット〔そこの踏切で車が列車と衝突して7人が死亡〕での衝突は平面交差踏切の誤った使用による災害への取り組みを、より幅広い地域社会の人々と共に行うことの必要性を強く思い出させるものである。”
  RSSBの安全作業年次報告書はhttp://www.rssb.co.uk/aspr.aspで見ることができる。


RSSB「2004年安全作業報告書(ASPR)」要約
http://www.rssb.co.uk/pdf/ASPR2004-rsum.pdf

報告書の背景

  この2004年の年次安全作業報告書(ASPR: the Annual Safety Performance Report)は、この1年間を通じて鉄道関係の安全パフォーマンスを述べたものである。それは死傷災害率、事故率と事故の前兆となる出来事を含めた広範囲にわたる安全パフォーマンス指標を詳細に分析したものである。この報告書は主に鉄道網管理インフラ(NRCI: Network Rail controlled infrastracture)及び駅に関するリスク及び影響を及ぼすリスクについて報告する。

報告書の意図

  • 鉄道に関する安全上のリスクを体系的に見直し、変わりつつあるリスク分野を特定する。

  • 安全パフォーマンスが変化した分野において、変化した理由を特定する。

  • 2004年適用可能な安全計画で樹立された安全目標の推移に関する報告書。この報告書では、比較対照として、2003年/4年の鉄道グループ安全計画(RGSP)で設定された目標を使用する。

  • リスクを低減し、且つ有効性を評価するために2004年中に着手するイニシアチブを議論する。

  • 特に、特定のトピック分野における最も詳しい説明が見られる他の報告書を参照する。

ASPRの構成変化

  この報告書は前年の報告書と比べかなり短縮されている。この変更は、RSSBが提示したこの1年間を通して鍵となるトピック分野における新しい一連の詳細な安全パフォーマンス報告を紹介するために行われた。この報告は安全パフォーマンスに関し、最も頻繁且つトピックに基づいた最新のものを提供している。トピックの報告は1年を通して(トピックしだいで)3か月ごと、6か月ごと、年1回のサイクルで1年間の状勢の概要を示したASPRと共に出されることになっている。

  2004年時ASPRは依然としてRGSPで取り上げた目標に対するパフォーマンスを記録するにとどまっていた報告書の構成は、2005年1月に発効した新戦略安全計画(SSP)の取り組み方を反映するものとなっている。

総合的なリスク

  2004年の鉄道関係の総合的なリスク水準(自殺と自殺と疑われるものを除く)は全般的に見て、2003年と比べると5%低減した。最も重要な改善分野は公衆に対するリスクであり、年間の死亡者は2003年に比べ27%低減した。リスク低減の大部分は不法侵入者が電車に衝突することが減ったからである。乗客に対するリスクはほとんど変化無く、2003年に比べると0.7%悪化している。しかし、作業要員に対するリスクは非常に増え、2003年以来43%高くなった。

列車事故とその前兆

  2003年にはなかったが2004年には、2件の列車死亡事故が発生した。最初の事故はアンキャスタで起きた。それは軌道上で2台の工事車両が衝突し、1人の保線作業労働者が亡くなった事故である。もう1件はウフトン踏切で起こった。それは旅客列車が踏切で1台の車とぶつかり、7人が死亡した事故である。死亡災害者数は、年間発生件数が少ないので、リスク対策の効果を評価するには適当でない。事故の前兆を検討するには、円形図形を利用されたい。2004年に死亡事故数が増えたことは、2004年を2003年と比べた事故の前兆の数とは関係がなかった:

  • 車の侵入は78件から69件に減少。

  • SPADsは379件から346件に減少。

  • 線路破壊は380件から334件に減少。

  • 線路のゆがみは137件から32件に減少。

  前兆表示方式(PIM)は衝突、脱線、踏切での列車と車の衝突及び列車火災を含む列車故から被るリスクをモニターするために使われる。PIMの基礎となるのはリスクとのつながりにウエートを置いた84の前兆を測定することである。PIMで出された数値は、2002年3月末に示されたリスクのレベルを100として算出したものである。PIMでも列車事故リスク数値が2003年末の90.2の値から2004年末の83.8に下がったことが示された。

  SPADリスクランキングツールは、可能性のある結果に貢献するそれぞれのSPADの特別特性の評価に基づき、SPADリスクでの変化を評価するために用いられる。2004年末のリスクレベルは、2001年3月に示したレベルの61%まで下がり、2003年12月のレベルからは15.3%下がった。この減少は運転士のパーフォーマンスが向上し、その結果として、SPADのレベルも下がったのである。そしてTPWSがSPADになりそうなことを減らし、安全性を向上させた。

個々の乗客の安全とセキュリティ

  個々の乗客の安全及びセキュリティとは駅での事故(たとえばつまずき、スリップ、転落)、暴力、走行中の列車からの転落や不法侵入などがもとで受けるリスクに対し、個々人を守ることである。2004年には5人の乗客が死亡した。その中で2人は階段で転倒、1人は踏切を渡っていて、1人はプラットホームから転落、もう1人は列車を目指し走っているうちに転倒した時のけががもとで亡くなった。この死亡者数は2003年に発生した数の50%に減少した。

  つまずき、スリップ、そして転落は、駅で起こる偶発的事故による傷害の最大原因である。2004年には、そのような事故による被災者は、死亡者数に換算して29.2人であった(3人死亡、129人が重傷で2660人が軽傷)。これは2003年に比べ7%増えている。事故が増えたのは、乗客数の増加(2.6%増加)と駅の小売店舗を利用する人が増えたことによる。

  2004年の列車乗降においてはは、死亡者数に換算して6.1であった(重傷33人、軽傷560人)。その大多数は、列車に乗るときより降りる際に起こった。乗る際の事故は2003年と比べ2004年には23%減少した。この改善は恐らく車中の情報連絡が良くなったのと、列車が動いている間に乗客が降りるのを防止するための、既存非インターロック式スラムドアストックを徐々に取り除いたためであろう。

  強盗、暴力、性的嫌がらせの割合は、英国運輸警察(BTP)の統計に基づくものである。強盗については、2004年の水準は2003年の水準と同じである。性的嫌がらせは、2004年は867人で13%増え、凶暴な暴力は2580人で、2004年は17%増えた。報告された出来事の増加は安全パフォーマンスの低下のためというより、報告されることが増えたことによるものであろう。1998年3月に報告の規則が改定され、整合性のある報告にするため2002年に新しい基準が導入された。鉄道に限らず、全ての犯罪を網羅している英国犯罪調査を見ると、暴力的な犯罪は増えてはいない。

公衆の行動

  公衆に対するリスクには、彼らの行動と関係した2つの主たる分野がある。つまり鉄道線路への不法侵入と平面踏切の誤った使用である。

  不法侵入:昨年鉄道線路上で一般の人が42人亡くなった(自殺を除く)。その内34人が不法侵入であった。2003年に比べ、2004年は事故と前兆両方に重大な改善が見られた;不法侵入は6%減り、異常接近は14%減った。鉄道ネットワークでの新しいリスクツールの使用も含め、多くの不法侵入対策が実施されている。重要な改善分野としては子供の不法侵入があり、2003年の死亡者数6人が2004年には2人に減った。

  平面踏切:一般の人々の事故死は2003年の13人から2004年には7人に減った(自殺を除く)。車利用者の死亡者数は8人から4人に減り、歩行者の死亡者数は5人から3人になった。

自殺

  自殺による死亡者数は、2004年では前年より13人増え196人になった。しかし、それは近年余り変わらない数である。自殺者にとって、駅や踏切が最大の進入路として用いられ続けている。即ち全自殺者の半数以上は今日、駅や踏切で発生している。ウフトンで起こった出来事にもかかわらず、踏切で車を巻き込むような自殺はまれである。走行中の列車からの飛び降り自殺は、今日では鉄道自殺の中ではごくわずかである。それは1990年の早い時期から、非インターロック式スラムドアストックを徐々に取り替えてきたからである。

労働者の安全

  労働者のリスクとしては主に3つの分野がある;スタッフに対する暴力、線路上あるいはその付近での作業に関連するリスク、そして列車の乗務員が列車事故や他の列車事故に巻き込まれることである。

  報告された労働者への暴力には、言葉の上での暴行、身体的暴力による脅し、身体的暴力行為を含む。全般的に見て、労働者への暴力は過去5年間増え続け、2004年には6%増えて3,847件であった。しかし身体への傷害の数は、今や身体への暴力の数と同レベルになった(ちょうど2,800件以上)。その増加の大半が言葉の暴力に関するもので、実際の鉄道職員への暴力が増加したと記録するよりは、暴力の記録されることがが増加したとする方が多分正しいと思われる。暴力の53%は駅で発生し(それも2004年の増加がわずかだった理由である)、他はほとんど列車内で起こっている。金銭取扱い従事者、プラットホームのスタッフと列車内スタッフは最も襲われ易い人々である。料金を払おうとしない行動と関連する暴力の数は、総数の約30%にのぼった。

  線路際での作業:線路際は走行中の列車に極めて接近したり、しばしば防護されていない高圧電流電源があり、作業者にとって危険な環境である。線路際での仕事に従事している人々即ち鉄道工事作業者にとって、この環境は建設工事型作業において生じるハザードと同じ類いである。鉄道工事作業者に対する個々のリスクは、英国の他のハイリスク産業に匹敵するほど高い。英国産業界で鉄道工事作業より、ハイリスクであるのはただ1つ、廃棄物リサイクル作業である。

  この2、3年間鉄道工事作業者の事故率は死亡、負傷共にかなり増えてきた。2004年は特にひどく、鉄道工事作業者の死亡者数は8人で、1991年の12人以来最も高い数値であった。2004年には2件の複数の死亡事故が起きた(テベイとヘッドネスフォード)。2004年以前における、複数死亡事故は1998年エブヴェール乗換駅で発生したものである。重傷者数は近年急に増え、2003年のレベルより49%も増加した124人であった。

  2004年の列車乗務員の死亡者数は1人のみであった。それはウフトンの踏切で列車が車と衝突して脱線し、運転士が死亡したものである。

結び

  2004年にはかなり改善した分野があった。最も顕著な分野は:

  • SPADリスクが2001年3月末を基準とするレベルの61%減り、その多くはTPWSが使われた成果によるものである。
  • 列車のドアに関係した乗客の死亡者数は、2004年はわずか1人で、最も低いレベルであった。この減少は非インターロック式スラムドアを列車から撤去したことによる。
  • 記録された不法侵入での死亡者数は31%減少し(49人から34人へ)、不法侵入の前兆の発生率もまた減少した;ニアミスは14%減り、報告された不法侵入行為は6%下がった。
  • 軌道の障害数の減少。

  しかし、リスクがかなり大きくなった1つの重要な分野は、作業者の安全であり、特に 鉄道工事作業者のリスクが高くなった点であった。この1年の間に鉄道工事作業者の安全面はかなり低下し、それは死亡、傷害両方の統計値に表れている。鉄道工事作業者の8人の死亡というのは、1991年以来最も高い数値である。2004年には走行中の列車に衝突されたが作業者は誰も死ななかった。死亡者ゼロは歴史的にずっと目標とされてきた。鉄道工事作業者の重傷者は124人で2003年より49%増になり、過去15年間(重傷を同一の基準で比較することができる期間)で最も高い数値である。

  RGSPに代わるSSPは2005年1月に実施された。SSPは従前のRGSP方式から前進し、意欲的で、費用のかからない安全目標を掲げている。SSPは鉄道リスクプロフィールの分析に基づいた、業界の重要な取り組み、更に、リスクに対処するための現行の主な特色あるいは計画された活動を要約しているものである。

  今日、当業界にとってのチャレンジは、RSSBメンバー及びその他の責務保持者がそれぞれに独自の計画を策定し、そして、それぞれの業務分野内および他の企業と相互協力して、リスク要因に取り組むためのリソースと投資を配分することである。



「Job Safety Management」は国際安全衛生センターの図書室でご覧いただけます。