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建設業における労働者の健康増進のためのパイロットスタディ

資料出所 : Safety Management
December 2005
(仮訳 国際安全衛生センター)


  「建設業の健康増進」と呼ばれる労働者の健康増進についての2年間のパイロットスタディが、2004年10月以来Leicestershire郡で行われている。プロジェクトディレクターのLawrence Watermanは、短期と長期の目標について、以下のように述べる。

 働くことは、体に良いことである。一般的に考えられるように、働くことにより、人々は身体的および精神的に健全でいつづけることができる。建設業に従事する労働者は、肉体労働によって咳に苦しみ、難聴、振動障害、腰痛となり、健康を害した状態にあるという有力な証拠がある。これは、建設業に従事する労働者が悲惨な状態にあり、労働力が慢性的に不足するという重大な問題が存在することを意味する。建設業は、1970年代前半に労働安全衛生法が導入されて以来、建設現場の安全については、いちじるしい進歩をしてきた。建設業は、いまだにイギリスにおける最も危険な職種ではあるが、昨年における死亡事故の件数は以前の4分の1となり、最もよい記録であった。しかしながら、健康の問題については、ほとんど取り上げられてこなかった。事故は、目立つために関心を引きやすいのだが、建設業においては、労働者の健康増進問題の方が、これが原因で失われる時間が大きく、離職する人の数も多いので、はるかに重大な問題である。

 ある研究では、煉瓦積み職人の10パーセントが、モルタルばく露による皮膚炎が原因で、早期に建設業から離職している。アスベスト規則の新たな改正が計画されているが、アスベストによって毎年数千人が死亡している中で、多くの建設工事労働者が、改修および解体工事において、アスベストにばく露していることを思い起こさなければならない。

 日々において、平均4,500人の建設労働者が、事故による傷害のため作業に就けないでいる。雇用研究所の調査によると、作業関連疾病により欠勤する建設労働者は、常に1万1000人に達している。このために、多数の大手請負業者と大規模プロジェクトマネジメント会社が労働者の健康増進プログラムの運用を開始しつつあるのだが、何万人もの建設工事に当たる労働者は、その対象とされていない。建設業は、小企業、零細企業および個人事業者によって占められており、建設工事労働者20人の中のおよそ19人は、従業員数3人以下の企業で雇用されている。

 以上が、2004年10月以来Leicestershire郡で行われている「建設業の健康増進」と呼ばれる、労働者の健康増進についての2年間のパイロットスタディの背景である。このプロジェクトにおいては、建設主導による再生を行っている郡の、数百の小企業および何千人もの労働者に対し、情報提供および労働者の健康増進サポートに重点を置いたプログラムを提供している。

 これは、2000年夏に開始された、安全衛生庁の国民的な議論「皆で健康を守ろう運動」から始まったものである。建設業においては、特殊な事情があるため、他におけるプログラムとは異なった扱いが必要であることを主張して受け入れられた。労働者の移動が多いことと、零細企業の拡散があるため、製造業においては意義がある、年に一度の健康診断の考え方は意味をなさない。

 建設業において経験を有する安全衛生コンサルタントのSypol社が、このパイロットスタディにおいて、特に建設業を対象とした労働者の健康増進サポートが、どのようにして実現できるかを見極めることを担当した。2004年10月に始まったこのトライアルに要した110万ポンドの資金は、HSE、労働年金省、貿易産業省、B&CE、UCATT、T&Gおよび個々の建設会社によって提供された。

 パイロットスタディのために設置されたチームは、筆者(Lawrence Waterman、Sypol社会長)が率い、経験豊富な安全衛生アドバイザーであり、専門家の資格を得ようとしているMichelle Aldousが運営に当たった。アドバイザーから成る現場活動チームは、RPS Business Healthcare社から選出された労働者の健康増進チームにより支援された。情報提供プログラムは、時間と予算の許す限り、目標とする企業と労働者のできるだけ多数に届くことを目標とした。

個別的説得

 Michelle Aldousのチームの最初の仕事は、これがやってみる価値のある計画であることを人々に説得し、この問題に対する広範囲にわたる無知を克服することであった。「これは無料のサービスであるが、人々が健康問題について、何も得るところがないと考えるなら、利用されることはないであろう。」Michelle は、次のように述べている。「郵送による労働者の健康増進相談の無料提供の呼びかけへの初期の反応は、一般に乏しかったが、電話による説明と目に見える活動(公共および業界行事における説明コーナーの設置、面談する会合の開催など)によって関心は高まり、いちじるしい進展が得られた。」

 「建設業の健康増進」チームの活動により、疑念は解消し、信頼が確立された。特に従業員が少数の雇用者からは、費用と時間の負担についての質問が多かった。MORIによって実施された基本調査によると、パイロットスタディの対象とした企業の大部分は、健康上の問題は何もないと信じていたことを示している。問題点は、現場の安全問題が目に見えるのに対して、健康問題においては、それが明らかになるまでに、何年もかかるということにある。

 プロジェクトチームは、リスクのばく露を低減させる4名の作業現場チームと労働者の検診を行い、個人的な健康問題について話し合う2名の健康チームにより構成される。彼らは、郡内において多数の事業者と共に活動し、国のスケールで行うにおいては、どのように行うべきかの貴重な情報を得つつある。パイロットスタディは、現在Leicestershire郡において、毎週新しく、およそ10の企業を診断し、1カ月あたり100件以上の建設労働者に対する検診を行っている。

 チームが技術的に重点をおいているのは、ストレスなどを除く以下の5つの健康問題である。

  • 筋骨格系障害、これは建設業において最も広範な問題である。
  • 皮膚炎など皮膚の問題を生ずる建設資材。
  • 喘息のような問題を生ずる、空気中に存在の粉じんやヒュームなど。
  • 補償問題の重要な原因である騒音および騒音性聴力損失。および
  • 手持ち工具の振動に対する過剰ばく露が原因で生ずる手・腕の振動障害と白ろう病。

 パイロットスタディで得られた重要な知見は、小さい工務店における労働者の健康増進活動の確立は困難であるが、作業条件の改善については、多くの可能性が存在するということである。人々は一旦プロジェクトに加わると、それが非常に役立つことを認識するのだが、労働者の健康増進が、比較的容易に是正のできる原因によって、悪い影響が生じているということを理解させるのは、難しいことであった。以下の例のような簡単なことを行うだけで、多くの効果が得られるのである。

  • セメントを扱った後には手を洗う。
  • 寒冷時に振動工具を使用するときは、手袋を用いる。
  • 日射しが強いときは、シャツを着る。および
  • 使用場所の近くに資材を配送し、作業場内での移動を避ける。

移動の多い労働者の問題

 このパイロットスタディによるアドバイスは、費用のかかる機械設備などの導入ではなく、材料や部品を使用場所の近くに置いて移動の負担を軽減するなどの実務的な面に向けられることが多い。

 初期の調査結果によると、対象とする労働者の多くが、その移動の多いライフスタイルが原因で、医者にかかっていないことが明らかとなった。このような援助プロジェクトの直接的効果のひとつは、健康チームが移動検診装置を用いて、建設現場を訪問することにより、健康サービスが、今までは縁のなかった人々に届くということである。これは、健康上の問題が、作業に関連していても、していなくても、悪化して就労できなくなる前に、早期に指摘できることを意味する。例えば、食事の改善によって、高血圧から救うことができる。

 パイロットスタディが終了した後においては、ふたつの方向の可能性が考えられる。ひとつは建設業の健康増進を国全体で実施することだが、莫大な費用を必要とする。これに代わるものとして、5つの地域グループが策定している、建設業の特殊な需要を満たす一般的なサービスを提供する新作業場所健康連結計画に、私たちは参加することができる(2005年3月のSafety Management 2ページを参照)。パイロットスタディの結果を踏まえ、次になすべきことの議論を広範囲に行わねばならない。

 「建設業の健康増進」は、この産業における小企業とその労働者に対し、重要なメッセージをどのようにして、最も上手に到達させるかを徹底的に検討しているが、あらゆる企業、慈善事業および政府団体は、健康問題に対処するそれ自身の方法を探求しなければならない。200万人が就労不能による給付金を受け取っており、別の200万人が今の状態では、作業により病気となるか、健康を悪化すると主張している。

 さらに、昨年において業務上疾病により失われた3000万労働日の存在を考えると、パイロットスタディの結果を待った上で、労働者の健康増進への活動を始めることは許されない。何百万人もの人々の福祉が、この活動の成果にかかっているのである。

現代の安全衛生戦略においては、労働者の健康増進に関する計画は、必須要件である。HSEは、大企業に対し、職場の傷害と疾病を減少させるための「三つの適合プログラム」(Fit 3:作業への適合、生活への適合、未来への適合)に対する戦略の開発を要請している。組織における労働者の健康増進マネジメントへの包括的なアプローチの主要な要素としては、次の4つがある:

作業に対する適合と適応/就労制限

 これは、従事する作業に人々を適合させるものであり、通常、質問票により調査を行い、専門的な評価を経て、問題を見いだして対策を検討する。

作業上の健康リスクに対するばく露の管理

 労働者の健康増進プログラムの主体は、労働者の健康増進を作業による悪影響から防護することである。これは、医学的な問題ではなく、リスクアセスメントと抑制に基づいた安全衛生マネジメントの一部である。職業性喘息、皮膚炎、騒音性難聴、手・腕の振動障害および他の業務上のストレス、筋骨格系障害などの疾病から労働者を防護する手段は、より良いマネジメントの実施およびこれらの要因に対するばく露の低減である。

 リスクマネジメントという面において、労働者の健康増進は労働安全と共通しているが、用いる技術内容は異なる。

健康診断

 労働者が職業性疾病のリスクにばく露しているときは、健康モニタリングを行う必要がある。モニタリングの内容は、リスクの程度によって定まる。

作業の保持とリハビリテーションプログラム

 あらゆる努力にもかかわらず、人々は疾病となり、作業を続けられなくなることがある。労働者の健康増進プログラムの核となる最終部分は、健康上の問題を検出するための体系的なアプローチである。早めに対応することにより、人々が早期に回復するか復帰して、作業を続けることを援助できる。