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NHS職員は暴力行為に対処する教育訓練が必要とNAOが言明
NHS staff still need more training to tackle violence, says NAO

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年5月号 p.4

(仮訳 国際安全衛生センター)


 国民保健サービス(National Health Service : NHS)の職員が被災する可能性のある暴力行為の防止改善はうまく進展しているとしながらも、英国会計検査院(National Audit Office : NAO)はNHSの急患・精神病棟・救急車などのトラスト注)で働く職員が受けた暴力行為・攻撃的行為の事故報告件数はここ2年間で13%増加していると発表している。

改善目標

 「より安全な職場:NHS所属の病院・救急職員に対する暴力行為・攻撃的行為からの防御について(A Safer Place to Work : Protecting NHS Hospital and Ambulance Staff from Violence and Aggression)」と題する報告書において、2001/02年度 の事故報告は95,000件であった事を述べ、NHSトラストのうち、保健省の2002年4月までに20%低減させるという国家目標を、わずか5分の1しか達成していない、といっている。
 NAOはちょうどNHS職員の安全衛生リスクの管理について発表しようとしているところであるが、そのNAO院長のJohn Bourn(ジョン・ボーン)卿は「まさに傷病の治療救助そのものに努めている人々自身が日々暴力行為・挑発行為の対象となっているということは容認できない。」と語った。
 NAOは、報告が多少増えてきたのは、報告の必要性についての認識がいくぶん高まってきていること、また、暴力行為・挑発行為とはどういったことかという共通定義の使用がより普及してきたためとしている。
 しかし、「多くのNHSトラストは、病院の仕事が増加してきたこと、また患者の期待値が高くなっていること(とりわけ待ち時間に関して)、これらが暴力行為の現行の水準を増加させる一因となったと考えている」ともNAOは述べている。

暴力行為の脅威

 「関係した人達への直接的影響はさておき、暴力行為を受けたこと、あるいは暴力行為の脅威はストレスと病欠の原因となり、職員の士気を低下させ、深刻な職員不足の中で職員が衛生分野を離れることになる。」とボーン卿は述べた。 
 また、「健康サービス機関の"ゼロ・トレランス・ゾーン"キャンペーン(Zero Tolerance Zone campaign)を通じて、よくなって来ている。」といった上で、「NHSは事故の追跡調査、職員の教育訓練および他の政府機関と協同した活動により、全トラスト中に明確な改善が行われることを示す必要がある。」と付言した。 

職員の補充

 作業に関連した事故費用に関して自らが行なった見積をもとに、NAOは報告書に取上げられている暴力行為・攻撃的行為にかかった直接費用は少なくとも1年で6,900万ポンドはあると思われるといっている。
 この数字には、職員補充費用や、NAOが人的費用と記し、かなりの額に上るとされるストレス・低士気・生産性損失・高離職率に関する費用は含まれていない。
 NAOはNHSトラストにおけるすべての業務に関連した事故の直接費用は、職員補充費用・治療費・損害賠償の要求を除いて、1年間に1億7300万ポンドと見積もっている。
 この報告書の主要な所見の一つは、有効な戦略と、現場で練り上げられた方針で底支えされたしっかりしたリスク評価を基にした暴力行為低減対策が必要ということである。英国安全衛生庁(HSE)はNHSトラストには職員が暴力行為によるリスクに置かれる状態のリスク評価が不十分であるという懸念を明らかにしているとNAOは述べている。

異なった定義

 報告書によれば「約90%のトラストは方針を有しているが、その内容は暴力行為に関して20余の異なった定義があるというようにまちまちであり、また、その方針の作成に当たって職員や他の関係者に対する一貫した意見聴取は行なわれていない。いくつかの戦略には、職員の自己防衛に関する法的権利と相容れないであろうという懸念がもたれるものがあるが、大半のトラストはその方針に関する法的な見直しを行なっていない。」という。
 NAOはまたリスク評価の教育訓練が必要であるという確証をほとんど見出すことができなかった。NAOは提供されている教育訓練のレベルとタイプ、また、教育訓練を受ける職員の人数やタイプも大きく異なっていることも知った。またうまくいくアプローチに関するきちんとした根拠に基づく情報も不足していると報告書は述べている。
 「4分の3の看護職員は導入(序論)教育を受けている。」と報告書に記されている。救急隊員、トラストの事故・緊急職員とともに、看護職員は暴力行為関連の教育訓練コースで専門家の指導を最も受けているグループであろうと思われると報告書は付言している。
 それに対して、医師はその半数しか導入(序論)教育を受けておらず、また、もっとも他の教育訓練コースにも参加してないグループのように思われると報告書はいう。
 また報告書は若手の医師は交替制勤務についているため、ことに教育訓練コースに出席することは困難であるとしている。受付・ポーター・他の補助部門の職員は稀にしか適切な教育訓練を受けていないと報告書にある。
 同時に、報告書は、看護人やその他のNHSの職員で、直接、公衆と交流を持つ者が、暴力行為のリスクに曝されることが高いと結論付けている。
 「ことに、精神衛生や学習障害のトラストにおける平均事件数は全トラストの平均件数の2.5倍である。精神衛生部門で働く職員が暴言を事件として報告するケースは少ないのだが。」

欧州委員会(EC)の暴力行為の定義:職員が職務上の行き掛かりで罵られ、脅され、暴行されるあらゆる事件で、彼等の安全・幸福・健康に対する、明確なあるいは暗黙の挑戦が内包されているもの。」

暴行を受ける危険性

 2000年英国犯罪調査書(British Crime Survey)によれば、看護人は保安要員についで2番目に暴行を受ける危険性が高い。
 「より安全な職場:NHS所属の病院・救急職員に対する暴力行為・攻撃的行為の防御について(A Safer Place to Work : Protecting NHS Hospital and Ambulance Staff from Violence and Aggression)」はStationery Office (tel : 0870 600 5522)で購入できる。価格は£10.75。また、英国会計検査院のウェブサイトからダウンロードすることもできる。
www.nao.gov.uk/whatsnew.htm



注)イギリスのNHS(国民保健サービス)は、GP(General Practitioner)と呼ばれる一般医と、NHSトラストと呼ばれる大病院との二本立てになっており、病気になった場合は、GPにまず受診し、より高度の医療が必要な時はNHSトラストの大病院に紹介されます。