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有害物質管理規則2005年改正の解説

資料出所 : Job Safety Management
January 2005
(仮訳 国際安全衛生センター)


 昨2005年、有害物質管理規則(COSHH規則)について、事業者が自己の従業員の有害化学物質に対するばく露の防止を一層容易に行えるよう、安全衛生庁(HSE)によるグッドプラクティスについての勧告と、これにリンクした職業ばく露限界に関する簡易なシステムを導入する大幅な改正がなされた。

 安全コンサルタントSypol社のHeather Jacksonが、この改正が事業者にとって何を意味するのか、また、どのように遵守すべきかを解説する。

 2004/2005年の報告によると、英国では業務上の疾病に200万人が罹患し、このために3500万労働日が失われたと見積もられている。毎年およそ6,000人が有害化学物質に対する過去のばく露が原因であるがんによって死亡し、その他の職業に関連した疾病により500人が死亡している。職業性疾病は、事故よりもはるかに重大な問題なのである。

 職業性疾病の主な原因は、アスベストとその他の有害化学物質へのばく露、騒音、振動、ストレスおよび筋骨格系異常をもたらす状態である。これらの領域については、指導と規制のために別立ての立法がなされている。

 この記事は、有害化学物質から従業員を守るための法規−有害物質管理規則、すなはちCOSHH規則の最新の改正について解説するものである。

 有害化学物質には、直接作業で使用する溶剤、塗料、工程の化学物質、ヘアケア製品、洗浄剤などの物質が含まれている。作業、工程において発生する物質も有害化学物質として分類される。これらの例としては、溶接ヒューム、サンドブラスト、研まによる粉じん、ガスおよびベーパーがある。

 また、作業場所において発生する有害な物質もCOSHH規則の対象となる。これらには、小麦粉、穀物粉じん、植物胞子およびその他の微生物などが含まれる。

 有害化学物質に対するばく露は、がん、喘息のような肺疾患、皮膚炎他の皮膚疾患、出産異常など多種の形態の疾病の原因となる。

 有害化学物質は、大規模な化学プラントに存在するだけではなく、ほとんどあらゆる作業場所−オフィス、商店、レジャーセンター、育児室、学校、スーパーマーケットおよび病院においても存在するのである。COSHH規則は、事業者に対し、その従業員を有害化学物質に対するばく露から確実に保護し、疾病とならないようにすることを求めている。すべての事業者は、リスクアセスメントを行い、保護が確実にできる抑制手段を実施しなければならない。

 COSHH規則が最初に制定されたのは、1989年であり、それ以来改正が繰りかえされてきた。最新の改正が発効したのは2005年4月である。

なぜCOSHH規則が改正されたのか?

 COSHH規則がなぜ改正されたかは、この記事の最初に示した数字から明らかである。COSHH規則の制定後15年間が経過したが、有害化学物質へのばく露によって、いまだに年に数十万人が病気となり、数千人が死んでいる。

 HSEの行った調査によると、多くの企業、特に中小企業が、この規則を全く知らないか、知っていても自分たちには適用されないと考えていることが、明らかとなった。COSHH規則を認識していた企業においても、適切な実施がされていたものは、ごくわずかであった。保護具の使用への頼りすぎとばく露の除去または抑制に対する関心が足りなかったため、抑制に関する階層構造(優先順位)が適用されていなかったのである。

 いくつかの視点において、有害化学物質に対するばく露抑制を支援するためのツールであるばく露限界システムの理解が不十分であった。このために、多くの場合において、平易なグッドプラクティスの適用が妨げられてきたように思える。この調査結果と欧州委員会理事会指令による新たな必要性とによって、2005年のCOSHH規則の改正が行われたのである。

2005年4月6日発効の最も重要な改正点は以下である。

  • 「作業場所ばく露限界」(workplace exposure limits-WEL)の導入。
  • 「最大曝露限界」(maximum exposure limit-MEL)「職業ばく露基準」(occupational exposure standard-OES)の定義の削除、および「適切な抑制」の定義の改正および、
  • 有害化学物質に対するばく露抑制のためのグッドプラクティスの原理を示した別表2Aの導入。
作業場所ばく露限界

 従前のばく露限界システムにおいては、最大曝露限界(MELs)および職業ばく露基準(OESs)が用いられてきた。このシステムにおいては、ばく露をOESより小さくするための努力に対する特別の法律上の義務がなかった。また、ばく露をOESかそれ以下に低減するための抑制手段を導入するまでの間、妥当な期間内においては、基準を超えたばく露が容認されていた。このことにより、OESが健康への悪い影響のない'安全な'限界であると、人々が受け取ることとなってしまった。しかしながら、安全な限界の概念は、科学的に確実なものではないのである。

 例えば、全部のOESsが確実な科学的根拠に基づいているわけではないため、すべての場合において、この限界値が健康を守るために信頼できるというわけではない。一方において、MELは超えてはなら限界であって、合理的に実施可能な限り、その値以下に抑制する義務があった。

 改正されたシステムは、OESsとMELsを用いることを廃止し、新しいタイプのOEL、すなはち作業場所ばく露限界(WEL)を導入し、グッドプラクティスの勧告にWELsをリンクすることにより、適切な抑制の重要性を強調するものである。

 グッドプラクティスによる抑制が有効に実施されるなら、事業者は従業員の有害化学物質に対する個人ばく露の測定を必要としない、ばく露の適切な抑制を達成することが期待される。WELは、15分間か8時間のどちらかの期間において、超えてはならない作業場空気中に存在する物質の平均濃度である。WELsとその他のOELシステムの対象となるのは、吸入により有害な物質のみに限られる。WELsの主目的は健康に対するリスクを抑制することであるが、WELのみによっては、全部の従業員に対する健康保護の絶対的な保証ができないことは明らかである。個々の人間のばく露への反応の違いについては、知識のギャップと不確実性が存在するからである。WELは超えてはならない限界であるが、適切な抑制手段を実施し、ばく露を実施可能な限りの低減を確保する義務がある。実施に際しては、限界は超えてはならないものであり、「有効に」とは、ばく露をその値以下に保つことを意味する。

ばく露の抑制

 呼吸器感作性、発がん性または変異原性を有する物質に対しては、合理的に実施可能な限り、ばく露をWELより低くすることが求められている。このことは、EUの職業ばく露限界科学委員会(SCOEL)作成の重要な文書である「職業ばく露限界設定の方法論」による勧告に合致している。この文書においては、「しかしながら、健康の保護を最大限に実施するためには、合理的に達成が可能な限り、ばく露をOELsより低減させるのが、賢明であることが常に強調されねばならない。これは、健康影響情報の不足しているOELsに対して特に言えることである。」と述べている。

有害性のバンディング

 396物質についてのMELsとOESsの値が、適切な保護のために有効と見なされて、ただちに新システムに移行された。職業環境で使用されなくなったもの-化学物質有害性警告システム(Chemical Hazard Alert Notices-CHANs)および'COSHHエッセンシャルズで専用指針シートの作成されているものは、OELsへ移行がなされなかった。

(www.coshh-essentials.org.uk(別窓)を参照)

 コントロールバンディングシステムは、一般的に他のいかなる物質に対しても、適切な抑制の確実な達成を可能とするだろう。この方法は、リスクフレーズによって、個々の物質の有害性を区分した上で、取扱量、物質の性状および使用方法によってリスクを評価し、有害性とリスクに応じた抑制のための戦略の選択を行うものである。また、このシステムは、OELまたはWELの設定がされていない、大多数の有害化学物質に対しても適用ができるし、吸入以外の経路において、有害な作用を生じる有害化学物質に対しても適用ができる。

 COSHH規則の別表2Aに示された、労働衛生の原理に沿ったグッドプラクティスの原理についての勧告は、以下の各項である。

  • 作業においては、健康有害化学物質の放出、流出、および拡散が最小となるよう、作業工程および操作方法を計画する。
  • 抑制手段については、すべてのばく露経路(吸入、皮膚吸収および経口摂取)に対して注意をする。
  • ばく露の抑制には、健康リスクの程度に対応した手段を用いる。
  • 抑制手段については、健康有害化学物質の流出と拡散が最小となり、最も有効で信頼できるものを選定する。
  • ある手段を用いることにより、ばく露の適切な抑制が達成できないときは、他の抑制手段と適切な個人保護具とを組み合わせて用いる。
  • 有効性を持続して維持するために、抑制手段のすべての要素について、定期的点検と見直しを行う。
  • 従業員の全部に、取り扱っている物質の有害性とリスクおよびリスクを最小とするために用いる抑制手段について教育と訓練を行うおよび、
  • 抑制手段の導入による安全衛生上の全般的リスクの増大がないことを確認する。

 ばく露の抑制は、健康上のリスクの程度に対応していなければならない。例えば、ミネラルテルペンのような非発がん性溶剤に対するばく露抑制のためのグッドプラクティスは、ベンゼンなどの発がん性物質を含む溶剤に対して適切でないであろう。毒性試験データがわずかしかないか、まったく無いか、健康リスク評価もされていない、健康に対する有害性が不確実である物質に対し、グッドプラクティスは予防措置として抑制の厳しさを増大させる必要性を示す。

作業内容に応じた抑制

 抑制のためのグッドプラクティスは、作業の規模に支配される。例えば、木材加工場の手仕上げ作業で生じる木材粉じんに対するばく露は、局所排気装置によって適切に抑制されるが、丸太の大規模機械加工におけるばく露抑制のためのグッドプラクティスは、工程の密閉と自動化となるであろう。同様に品質管理または研究開発のための実験室スケールの化学物質の配合と混合においては、囲い式フードにより適切に抑制できるが、工業的規模の生産では、クローズドシステムでなければならない。

 COSHH規則の昨年の改正において意図していることのひとつは、OELシステムを簡素化するに加えて、最も適切な抑制のためのグッドプラクティスについての情報を自由に利用可能とすることである。これは、事業者による技術的内容の決定が、常に必要なのではなく、HSEがその刊行物において勧告する、適切な一般的抑制手段を採用することを意味する。COSHH規則の承認済み実施基準(ACOP)は、義務遂行者が法律を守るための手段の例として、ふたつのやりかたを示している。そのひとつは、COSHH エッセンシャルズ(または、類似のグッドプラクティスに関する指針)を使用することであり、他のひとつは、適切、十分な労働衛生的な原理を出発点とすることである。

 HSEによる勧告の実施は、法による義務ではないが、事業者は、彼らの従う勧告が、「適切な抑制」と同等またはそれ以上に、有効であることを保証しなければならない。

COSHHエッセンシャルズ

 COSHH エッセンシャルズは、化学物質の使用における混合、乾燥などのさまざまな共通的作業に対する抑制に関する勧告を提供する。インターネットにおける対話型ツールとして、現在利用することができる。利用者は、使用する物質とそれを使用する工程に関するさまざまな質問に答えると、COSHH エッセンシャルズは、これらの有害性とばく露に関する情報からリスクを計算し、ばく露低減に必要な抑制技術についての勧告が提示される。使用される物質が呼吸器感作性、発がん性または変異原性を有し、重大な健康影響の原因となるとき、COSHH エッセンシャルズは、専門家の助言を求めるよう利用者に指示する。この改正により、規制する側も、守る義務を有する者も、個人ばく露の測定を必要としないで、有害化学物質に対するばく露が、適切に抑制されているかどうかを容易に判断できるようになる。

 これらの成果として、化学物質を扱う作業によって疾病となる人びとの数が、大幅に減少することを期待するものである。