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経営者の責務強化に関する労働組合側の主張
Right to reply…Directors’ duties

資料出所 : Job Safety Management
March 2006
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2006.09.25

 編注
 新しい法人殺人罪の提案とは別に、労働災害の防止における経営者の責任を明確とする法律を制定することが検討されてきた。この雑誌では、このような規制を行うことに対する経営者側の意見を2月号に、労働組合側の意見を3月号にそれぞれ掲載している。この記事は、労働組合側の意見である。しかし、本誌8月号のニュース欄によると、この法律についての検討は、法人殺人罪に関する法律の動向が明らかとなるまで保留されることとなった。

 本誌2月号で、経営者協会のGeraint Dayは、なぜ経営者の義務を新しく規定することが後戻りだと考えるのかを説明した。今回は、英国労働組合会議(TUC)の安全衛生担当役員であるHugh Robertsonが、悪徳上司を裁きの場に引き出すには法改正が必要であるという主張を展開する。

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 Geraint Day (経営者協会、Institute of Directors、 IoD)は、HSC(英国安全委員会)の最近の決定、即ち経営者の責務を検討することを取り上げて、HSCが企業との関係という点で、時計の針を戻そうとしているという主張を行っている。

 私はこの問題に関しては二つのポイントがあると思う。1番目は経営者に積極的に責務(positive duty)を課すことが必要かどうかということである。もう一つはHSCが企業のサポートを十分行っているかということである。経営者の責務に関しては、最近、経営者に対する裁判がいずれも敗訴していること、及び企業殺人(Corporate Killing)に関する内務省特別委員会の調査結果から、多くの人が経営者に対して新しい責務を課すために法を改正する必要があることを理解するようになった。この決定は、教育訓練の活用を含む総合的な対策という文脈の中で行われたものだが、HSCのすべての経営者側、労働者側、中立の委員から支持された。

 そしていまや、オブザーバーでもほとんどの人が、法改正が必要だと確信している。これは、単に役員会議室の風土を変えようとするだけではなく、安全に対して全く責任を持とうとしない経営者に対して、適切な制裁を課すことができるようにするためである。

法の強化

 現行の規制の枠組みがきちんと機能していれば、責任をとるべき者に裁判を受けさせることに今ほど苦労しなかっただろう。現状はそれとは反対に、法律違反をした企業は、ただ罰金を課されるだけであり、個人に至っては、意思決定をした者も、死傷災害を防止する措置をしなかった者も、通常は何の制裁も受けないのである。経営者が首尾よく起訴された場合でも、それは常に小企業においてであった。

 責任を果たしている経営者も、新しく規定される積極的責務を恐れる必要は全くない。実際、多くの経営者団体が、法を明確にし、強化するという決定を歓迎しているのである。

 この点は、HSCがもっと企業にフレンドリーであるべきだとする、Geraint Dayの主張の2番目の要素に関係するものである。ここで、HSEの目的を考えてみると、それは業務上でけがをしたり、病気になったりしそうな人を保護することである。私は英国労働組合会議と経営者協会がこれを達成する最も効果的な方法について意見が異なるのは、やむを得ないことだと思っている。しかし、そもそもHSEは規制機関であることに留意しよう。

 規制の効果を上げようとするために規制を少なくしよう、監督指導を少なくしようというのは、実際、理屈に合わない。私たちは、米国が規則を減少させて「自己規制」を導入したことによる悲惨な結果を見ている。最近英国において、監督指導のレベルが低下していることは、労働組合や被災者グループにとって大きな懸念であり、これは変えなければならない。さらに、監督指導活動の対象についてもっとよく考えなければならない。

合意可能な多くの分野

 しかしながら、当局による介入が企業に対してフレンドリーかどうかという点ではなく、どのような介入が効果的かという点に絞れば、多くの分野で経営者代表と労働者代表が合意できることがわかるだろう。確かに、現場にいることができたであろう監督官が、経営者を訴追しながら、すべての時間を法廷で過ごすということを望む人はだれもいないだろう。

 他方では、事業者が自分は訴追されることはないということが分かっているとしたら、改善しようという気にはならないだろう。良心的な経営者の多くは、競争相手が口では安全衛生法遵守を言いながら、実際は安全衛生に対して何の手段もとっていないのを見て怒りを感じている。

 労働組合もまさしく経営者と同様に、規制を簡素化して重複を避けてほしいと思っている。ただし、その結果として水準が下がらない限りにおいてであるが。

 だれも不必要な管理や負荷、重複を望む者はいない。事業者、労働者とも簡単明瞭な無料のアドバイスを利用したいと願っている。

 本当のところ、これはまさしくHSCが過去1年間してきたことである。例えば簡素化に関するHSCの相談ペーパーを見ると、HSCが上に述べたような提案を開発していることがわかる。そしてこれは企業にとって大きなメリットがあるだろう。動機が労働者と公衆の保護を改善しようというものについては、労働組合は衷心からこれらの活動を支持してきた。

過程において信を失う

 しかしながら、もしある変化が企業に優しくとか、保護を減らし、或いは無くすということで進められるものであれば、それは労働者やその代表が全体の規制システムを信用しなくなるというだけでなく、今でも企業に(そして労働者に)重くのしかかっている災害・疾病レベルをさらに悪化させるということにつながるだろう。