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安全衛生に関するコミュニケーション
Communicating the health and safety message

資料出所 : Job Safety Management
March 2006
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日2006.12.12

編注

日本では「労働安全衛生法」により50人以上の事業場では衛生委員会または衛生委員会と安全委員会の設置が義務づけられており、委員会の委員長以外の委員の半数は、労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表するものの推薦により指名することになっており、労使一体となって安全衛生問題に取り組むようになっている(労働安全衛生法第17条から第19条)

それ以外の事業場は労働安全衛生規則第23条の2により「事業者は安全衛生に関する事項について関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない」となっているが、英国における同様の法律について解説されている。

安全の問題について従業員と協議をしている企業は低い災害発生率という恩恵に浴しているにもかかわらず、従業員が安全衛生に関する意思決定に完全にかかわっているのは4割の職場に過ぎない。Cronerコンサルティング社のNasar Farooqが、労働者との協議に関する法律について概説し、職場の安全向上について従業員と協議する方法を提案する。

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従業員の安全衛生に影響を与える事項については、従業員と協議し、また参画させることがその組織の安全衛生にとって大きな利益をもたらすということは、これまでずっと認識されてきた。1990年に行われた安全衛生庁(HSE)の委託研究によれば、事業者が労働組合の安全衛生代表と十分に協議を行っているところでは、組合のない職場に比べて災害発生率が25パーセント低いという結果が得られている。1990年代の始めに行われた別の調査では、労働組合又は非組合の安全委員会を持つ企業は、そうでない企業に比べて50パーセントも事故発生率が低かった。

しかしながら、このような明らかなメリットにもかかわらず、また安全衛生問題を従業員と協議することはすべての事業者にとって法的要求事項であるという事実にもかかわらず、そうしていない企業が多いということは明らかである。HSEは安全衛生に関する手続やルールを定めたり、見直したりする際に、従業員が完全に参画している職場は、全英国で40パーセントに過ぎないと推定している。

このような状況を考えると、英国安全衛生委員会(HSC)が、「労働者が安全衛生へ参画する質と量の改善」をHSCの「大ブリテン島のおける2010年以降の職場の安全衛生戦略」における主要目標の一つとして取り上げたことは当然であるといえる。HSCによると、「労働者の積極的な参画」は安全衛生における他のすべての施策を成功させるのに不可欠だということである。これにより、事業者は作業現場から「現実性のチェック」を受けることができ、安全衛生活動が法令遵守に確実につながるようになる。

HSCは今後数年間で安全協議についての事業者と従業員の行動が変わり、すべての従業員がリスクマネジメントに完全にかかわるようになることを望んでいる。これは、事業者と従業員が安全衛生の問題を単に協議するにとどまらず、協力と信頼の精神をもって共同で解決するようになってほしいという考えである。

事業者の出発点は、安全衛生協議に関する法律を理解することである。その次に、事業者はこれらの法的要件(安全衛生情報及び教育訓練の提供も含め)を遵守するための措置をとり、そのあとに、リスクマネジメントに労働者に完全に参画させることによってベスト・プラクティスを達成するよう努めるべきである。

2つの重要規則

法律によれば、事業者は安全衛生問題に関して全従業員と協議しなければならないが、これに関する重要な規則が二つある。第一は1977年安全代表及び安全委員会規則(Safety Representatives and Safety Committee Regulations、SRSCR)であり、第二は1996年安全衛生規則(労働者との協議)(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations、HSCER)である。

1977年の規則の下では、もし事業者が労働組合を認知し、その労働組合が安全代表を指名しているか又は指名しようとしているときは、事業者はその者が代表する集団に影響を与えるような事項についてはその安全代表と協議をしなければならないことになっている。他の留意点は次のとおりである:

  • 合意により、組合の安全代表は、組合のメンバーでない従業員のグループをも代表することができる。
  • 組合の安全代表は、業務に関して、ありうる潜在的な危険、災害原因、及び安全・衛生・福祉に関する従業員の全般的な苦情について調査し、事業者に対してその問題を取り上げる権限を有する。
  • 労働組合代表は、災害・疾病又はその他の事故があった場合は特に、職場の点検を行うことができる。また、安全衛生監督官との議論の場で従業員を代表することができ、これらの監督官から情報を入手することができる。
  • 2人以上の組合安全代表から要求された場合、事業者は安全委員会を設立しなければならない。
  • 組合代表は安全委員会の会議に出席することができる。

しかしながら、労働組合に所属していない、或いは組合代表にルートをもっていない従業員が多いため、1996年の規則では、組合を承認していない事業者に対し、直接又は選ばれた代表者を通じて、従業員と協議することが要求されている。実質的にはすべての正規従業員及びパートタイム従業員が、労働組合に所属するか否かに関係なく、安全衛生の問題に関して協議を受けなければならない。

リスクに対する懸念の表明

労働組合代表と同じく、選ばれた代表者は安全監督官との協議において自分を選んだ従業員を代表することができ、また潜在的なリスクについて懸念を表明すること、同僚作業者の安全衛生に影響するようなものであればいかなる事項でも事業者に対して提案する権限を有する。

従業員と直接協議するか、選ばれた代表者を通じて協議するかは事業者次第である。もし事業者が直接従業員と協議すると決めた場合は、事業者は全員に最も適した方法を選ぶことができる。

例えば、小企業であれば事業者が従業員と定期的に話をすることも可能である。このような場合であれば、こういう非公式な形で従業員の意見を考慮に入れるということでも、おそらく安全衛生問題協議の適切な形式と言えるだろう。

しかし、もし事業者が、選ばれた代表者を通して従業員と協議することを決めたなら、従業員は自分たちを代表する者を1人以上選ばなければならない。そして、事業者はこれらの選挙が行われるように手配しなければならない。

どちらの規則によっても、安全衛生協議に参加したことをもって(個人としてであるか安全代表としてであるかを問わず)、従業員が、解雇やその他の不利益を受けることがあってはならない。

合理的な費用を負担する

事業者は、労働組合代表及び選ばれた代表者がその役割を果たすことができるよう、また教育訓練に出席できるよう必要な有給休暇を与えなければならない。さらに、すべての安全代表に対して、その役割を実行するために、適切な支援と施設(例えば掲示板や会議室といったコミュニケーションのための施設)を提供しなければならない。

また、1974年労働安全衛生法(HSWA)の下では、事業者は、従業員に対して安全衛生事項に関する適切な情報、教育及び訓練を提供するという一般的な義務を負っている。より広く言えば、事業者は、従業員に対し安全衛生情報を提供することに関連して、1999年労働安全衛生管理規則(MHSWR)の要件を知っておく必要がある。

協議に関しては、事業者が以下の事項について「分かりやすく」かつ「適切な」情報を従業員に提供することを求める規則が最も関心が持たれる部分である。

  • 事業者による全般的なリスクアセスメント(規則の要求事項となっている)によって特定された従業員の安全衛生に対するリスク
  • 予防及び防護措置
  • 差し迫っている重大な危険に対応する手順
  • その手順の指揮をとるよう指名されている者と同じ構内にいる他社の従業員からその企業に通報されたリスク
  • 同じ構内を占めるほかの事業者によって、その組織に通報されたあらゆるリスク

労働安全衛生法の下で作られたほとんどすべての規則、例えば、手作業に関する規則、COSHH(有害物質管理規則)なども同様に、事業者が個別の安全衛生情報(例えば荷物の重量や有害物質にばく露されることを避けるために払うべき注意など)を従業員に提供することを求めている。

安全衛生に関して従業員と協議するということは、単に従業員に情報を提供するということではない。良い事業者は、安全衛生に関する決定を行う前に、従業員の意見を聞いてそれを考慮に入れる。すなわち、コミュニケーションは双方向であるべきである。HSCは次のように言っている:「作業機器、工程又は作業組織に関する決定によって、従業員の安全衛生が影響を受けそうな場合、事業者は提案していることの内容を従業員か、その代表に伝えるための時間をとらなければならない。また、事業者は決定を下す前に、従業員かその代表が意見を述べる機会を与えなければならない。従業員又はその代表に対しては、協議で完全にかつ効果的に役割を果たすことができるよう十分な情報を与えなければならない。」

HSEは、安全衛生協議を改善するために事業者が行うべきステップを提案している。それは次のとおりである:

集中して行動する

事業者は、集中的なアクションを取るために、災害や疾病の原因といった主要問題に絞って取りくむとよい。

そうすると、従業員の参画が中心的な役割を果たす、具体的な活動を策定することができる。具体的な問題への対策を従業員に支持して貰えれば、従業員はその対策を守るようになるだろう。

説明会やツールボックスミーティングを開く

安全衛生に関して、事業者の意図を従業員に伝え、それに対する従業員からの反応を得るためには、このような話し合いが不可欠である。ある活動を時間が経っても継続させるようにするためには、これらの話し合いがカギとなる。しかしながら、このような話し合いの場は、事業者が指示し、かつ活性化させる必要がある。

調査を実施する

従業員に対して調査を行うことにより、従業員が与えられた知識をまだ持っているかどうか、また現在の安全衛生水準に満足しているかどうかを知る助けとなる。

Cronerコンサルティング社のある顧客は、従業員が社内の安全衛生水準及び法令遵守のレベルについてどのように認識しているかを測るために従業員に対するアンケート調査を行った。この調査は、会社の安全衛生方針とその仕組みをよりよく認識させることにも役立った。

調査のフォローアップをきちんと行えば、企業が従業員のコメントに耳を傾け調査結果に対してアクションをとったということを示すことができる。これにより従業員との間で信頼性を確立することができ、コミュニケーションの改善につながる。

また別の顧客は、職場に提案箱をたくさん設置し、安全対策の考えや提案を従業員が書いて出せるようにした。提案については職制が評価を行い、提案をした従業員にフィードバックした。

この活動は、安全の改善につながるとともに従業員にも良いことがあった。というのは、実際に安全衛生について効果がある提案やアイデアに対しては、個人又はその部に250ポンドのボーナスが与えられたからである。

ワーキンググループ

従業員を参加させたワーキンググループを設立すると、現実の作業方法に基づく検討を行いやすくなる。ワーキンググループは、担当する業務の性質によって、常設のものでも一時的なものでもよい。必要なときはいつでも会合を持つべきである。

自分の組織のリソースを確認する

安全衛生委員会が問題や解決策を検討しているとき、委員会の外にある自分たちのリソースになかなか気づかないことがしばしばある。他の者の専門的な意見(例えば、安全衛生メッセージを従業員に伝える方法を見つけるために営業部などの意見)を利用することによって、コミュニケーション、連帯感、参加意識などが顕著に改善されることがよくある。

悪いニュースには率直に対応し、良いニュースはさらに進める

どの企業でも悪いニュースは瞬く間に伝わる。従業員と信頼関係を保とうとするならば、悪いニュースはできる限り公表し、透明性を保つということが企業にとって重要である。

しかしながら、良いニュースはずっと遅く伝わることが多い。多忙な日常業務のために、企業は成功例があってもそれを常に広く知らせることができているわけではない。従って、安全に関する成功例を企業全体に知らせて最大限に活用するということは良い考えであり、また従業員の連帯感を醸成することに役立つ。このために定期的なニュースレターを発行することもできるだろう。

企業の安全衛生が変わることのメリットを伝えるためにはケーススタディも強力な方法かもしれない。

簡単明瞭に

安全衛生情報はすべて、職場の人が理解できるように簡単明瞭である必要がある。多くの場合、事業者が従業員と対面して説明するのがベストである。事業者は従業員が本当に関心をはらっているかどうかが分かるし、従業員は質問をすることができる。

従業員が言われたことを理解したということを確認するために、テストをしたり、伝えたことを繰り返してもらうなどのやり方を考えるのも時には良いかもしれない。

また、安全衛生に関する訓練や情報提供に使う文書、視覚資料の原稿を管理職や従業員代表に見せて、そのコメントを貰う機会をつくるとよい。これはその人たちが、従業員に対する最善の伝達方法、広い対象に最も効果的に伝える方法について助言を与える、ベストの立場にいるからである。

職場によっては最善の方法は、従業員に面と向かって話す方法かもしれないし、或いはメール、イントラネット、ビデオ、パワーポイント、更にはi-Podによるポッドキャスティングということもあるかもしれない。また別な職場ではリーフレット、ポスター、写真、ニュースレターの方が効果的なこともあるだろう。

Cronerコンサルティング社のある顧客の企業では、会社のイントラネットを昼休みの間、トイレと従業員食堂で利用できるようにしている。また、双方向の安全衛生ゲーム及び安全ディスカッション・フォーラムも使われている。

しかしながら、従業員の安全改善提案に対する表彰制度を導入すると決めた場合、事業者はそれが建設的なものになるように注意深く管理し実施する必要がある。例えば、職場における災害件数を安全改善の尺度として使用すれば、競争している部は、ボーナスを得るために災害件数を過少に報告するかもしれない。

協議と参画のメリット

従業員との協議及びその参画が安全成績に及ぼす影響を調べたHSEの委託研究では、安全に係る事項を従業員と協議し、またリスクマネジメントに従業員を参画させた場合のメリットが明確に示されている。職場の安全衛生に従業員を効果的に参画させることにより、生産的で進取の気象にとんだ職場風土がつくられ、災害・疾病による社会的コストを下げ、より良いリスクマネジメントにつなげることができる。

従業員の仕事に関連した日々の問題及び将来計画に従業員を参画させることも、職場で前向きな安全衛生カルチャーを醸成するために重要である。しかしながら、従業員の参画は万能薬というわけではなく、それ自体では安全衛生の改善にはつながらないということは留意しなければならない。事業者もまた、問題に取り組むために十分な時間とリソースを割り当て、効果的な安全衛生マネジメントシステムが行われるようにしなければならない。

参考文献

1)安全衛生を従業員と協議する:法律へのガイド
(Consulting Employees on Health and Safety : A guide to the law, HSE)
新しいウィンドウに表示しますwww.hse.gov.uk/pubns/indg232.pdfPDF

2)HSEの労働者参画と協議に関するウェブサイト
(HSE worker involvement and consultation website)
新しいウィンドウに表示しますhttp://www.hse.gov.uk/involvement/

3)安全衛生に労働者を参画させることの障害、HSE調査研究報告書、Ecotec社がHSEに代わって実施。
(Obstacles Preventing Worker Involvement in Health and Safety, HSE Research Report, Ecotec Ltd for HSE, 2005)
新しいウィンドウに表示しますhttp://www.hse.gov.uk/research/rrpdf/rr296.pdfPDF


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