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事業者責任保険の政府変更案
Government proposes changed to employers' liability insurance

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年1月号 p.2-3

(仮訳 国際安全衛生センター)



 労働年金省(Department for Work and Pensions: DWP)の最近の報告書で示された政府案では、英国の30万もの小さな企業が、事業者責任強制保険(employers' liability compulsory insurance: ELCI)をかけることが免除されることになるかもしれない。

将来的改革

 報告書は、ELCI―――労働災害及び疾病に対する損害賠償請求にそなえて事業者が自らに保険をかけるシステム―――の将来的改革計画を検証すると共に、ELCIシステムの運用改善が既に進行しているイニシアティブの詳細を明示している。
 報告書「事業者責任強制保険の見直し:第2期報告(Review of Employers' Liability Compulsory Insurance: Second Stage Report)」は、労働年金省のELCIに関する中間報告書を発表した6ヶ月後に出された。両報告書は、ELCI保険料コストの最近の上昇(2002年平均40%増と推定される)に対する産業界の懸念を把握している。
 最新の報告書によると、全般的なELCIの状況は、2003年6月以来改善されてきており、保険料コストも10〜15%と緩やかな上昇となっている。しかし報告書は、将来的にも保険料が下がることは期待できないと企業に警告している。
 一方、報告書は、保険料の上昇をコントロールするため、以下によって経費を節減することが必要であると結んでいる。
  • ELCIシステムに関連する法的かつ事務的コストへの取り組み
  • 優良な安全衛生マネジメントの実践方法に関するより多くの情報を、事業者及び保険会社に提供すること。これによって優良な安全衛生パフォーマンスが保険料に反映されることになる。
  • 請求が増加するような傷害及び疾病の件数を減少させるため、英国企業の安全衛生パフォーマンスを改善すること。
 しかし政府はまた、企業所有者のみが働いている英国の30万の有限会社には、現行法の下で義務づけられているELCIへの加入を免除する提案をしている。政府は、免除するかどうかを2004年3月中に決定し、その後できるかぎり速やかに必要な法規の改正を行う。注1)

保険料の急激な上昇

 ELCIのコストを安定させるための政府戦略についてのコメントとして、デス・ブラウン安全担当大臣(Des Browne, safety minister)は次のように述べた。「政府は、多くの企業が保険料の急激な上昇、更新手続の遅れ、そして企業の安全衛生記録を反映していない保険料に直面していることを認識している」
 更に「我々は、実行可能な解決方法を見出すために産業界及び保険業界と共にこの問題に取り組んでおり、このパートナーシップは既に企業に役立っている」
 「政府はこの問題に背を向けるつもりはない。我々は、傷害、疾病及び欠勤による企業のコストを減少させ、リハビリテーションを改善し経費を削減するために、よりよい安全衛生を推進することを目的として、よりいっそうの努力をしている」

リハビリテーション

 特に報告書は、英国の労災補償システムにおいて、病気や負傷した労働者のリハビリテーションにより中心的な役割を与えようと政府が取り組んでいることを伝えている。この新しい取り組みには、職場でのリハビリテーションの利用を増加させること、そして補償レベルを決定する際にリハビリテーション規定を考慮することが含まれていると報告書は述べている。

枠組みの作成

 第一段階として、政府は、2004年夏に「職業リハビリテーションの枠組み(Framework of Vocational Rehabilitation)」を発表する計画である。報告書によると、これは次のようなものとなる見込みである。注2)
  • 効果的な治療処置の枠組みを作る(例えば、リハビリテーションの最も効果的な種類を特定することによって)
  • リハビリテーションの重点、領域及び範囲を定義する
  • 労働者リハビリテーションサービスを改善するために現在実施している作業の概要を提示する
 一方、報告書はまた、「Making the Market Work」の詳細についても記述している。これは、2003年9月に英国保険業協会(Association of British Insurers: ABI)によって着手されたイニシアティブで、業界団体及び同様の機関が有する安全衛生計画を、保険会社が採用するべきベストプラクティスの特徴と比較してABI委員会が評価するものである。
 ABIの総合保険部長ジョン・パーカー(John Parker, Head of General Insurance)によると、このイニシアティブは、保険会社が期待する安全な作業方法を特定し、保険会社がELCI保険料と優良な安全パフォーマンスとをより密接にリンクさせることを可能にするものである。

パフォーマンスの測定

 報告書はまた、英国安全衛生庁(HSE)が安全衛生マネジメント指標(Index of Health and Safety Management)(企業等が、同じ業界の他企業の安全パフォーマンスと自社のそれとを比較検討できるようなもの)の開発を計画しているとも記述している。この指標は、企業が保険設定時に自社の安全衛生活動を評価する際にも役立つものとなる。
 HSEでは、2004年の早い時期に大企業向けにこの指標のオンライン版を出し、2004年4月には小企業にもこれを広げる意向である。
 報告書は更に、ELCIシステムの改善を目的とした別の一連のイニシアティブをも検討している。これには次のようなものがある。
  • 昨年、貿易産業省(Department of Trade and Industry)によって発表された、建設会社がELCIの補償をより利用しやすくするための新しいガイダンス
  • 全ての有効なELCI証明書(certificates)のデータベース化。これによってHSEはELCIの補償がない企業に監督指導の焦点を当て易くなる。
補償請求費用

 報告書はまた、ELCI保険料コストの上昇を、より効率的な補償請求解決によっていかに遅らせることができるかを検証している。現在、請求支出費用の約40%が法的経費であり、法的・事務的コストが小額の補償請求に対して非常に不釣合いになっている。
 この結果、政府は弁護士協会等と協力して請求プロセスを調査しようとしていると報告書は述べている。特に、政府は2004年6月から、小額の補償請求をより効率的に解決するためのパイロットスキームを実施することにしている。

 「事業者責任強制保険の見直し:第2期報告(Review of Employers' Liability Compulsory Insurance: Second Stage Report)」は、労働年金省(DWP)のウェブサイトからダウンロードできる。www.dwp.gov.uk/resourcecentre/policy_strategy.asp#e



国際安全衛生センター注1)
従業員のいないオーナーのみの企業については保険加入が免除されることが、2004年10月に発表された。詳細は以下を参照のこと。
http://www.dwp.gov.uk/mediacentre/pressreleases/2004/oct/elcl-1410-emp.asp

国際安全衛生センター注2)
発表された「職業リハビリテーションの枠組み(Framework of Vocational Rehabilitation)」については、以下を参照のこと。
http://www.dwp.gov.uk/publications/vrframework/#links