このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > イギリス 有害物質の潜在危険性

有害物質の潜在危険性

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年1月号 p.30

(仮訳 国際安全衛生センター)


 
 有害物質の不適切な使用、貯蔵、取り扱いにより、英国の多くの労働者が健康上の問題に直面している。以下に職場における事業者の危険有害物質ばく露防止対策について考察する。   

 安全衛生ハザードの中には、特定の産業に特有に見られるものもあるが、危険・有害物質に接触することで従業員が負傷や疾病を患うリスクは、英国のほとんどすべての事業場に潜在的に存在する。
 この主な理由として、安全な作業手順が守られていない場合には潜在的に有害となる物質が非常に多岐にわたって存在していることが挙げられる。このような有害物質には、溶剤、洗浄剤、塗料、接着剤、印刷インクなど、作業時に直接使用する物質と、ハンダ付け時や溶接時のヒュームや粉塵のような、作業工程で生じる物質の双方が含まれる。

問題の重大性

 有害物質がもたらす問題の重大性は、安全衛生庁(HSE)の統計から裏付けられている。たとえば、現在16万人以上が、作業が原因で罹患したり、または作業により悪化したりした喘息やその他の呼吸器系疾患を患っているが、毎年あらたに罹患していると診断されるのは7,000人にものぼる。さらに、(溶剤やセメントなど、一般的によく使用される多くの物質に接触することが原因で発症する)業務上の皮膚炎など職業性皮膚障害を患う労働者は39,000人にのぼるとHSEは見ている。
 有害物質へのばく露が原因で生じる潜在的な結果も過小に見積もってはならない。たとえば、アスベスト関連物質への過去の被ばくが原因で同関連疾患で死亡する労働者数は年間3,000人にのぼり、職業性のがんによる死亡労働者数は年間6,000人になるとHSEは見ている。

法規の改正

 一方では、英国の事業場で、有害物質へのばく露の結果疾病を患う労働者数の減少を目指し、安全衛生委員会(HSC)は法規を継続して策定、改正して、事業者がその従業員を確実に適切に保護する手段を講じる手助けをしている。
 その一例は、2002年11月にHSCが職場のアスベスト管理規則(Control of Asbestos at Work Regulations)を改正し、作業をする建造物内でのアスベスト管理を対象とする法規を強化した事に見られる。改正法の下では、事業者と、建造物所有者や管理会社など、作業をする建造物の責任者は、2004年5月21日以降、その管理下にある事業場内でアスベストの存在や潜在的な存在を識別するための適正な手段を講じるという、明確な法的義務を負うことになる。
 さらに、以下のことが事業者に要求される。

アスベストを含む素材の所在と状態を記した書面による最新の記録の記帳と保管
確実に存在しないという証拠がない限り、すべての素材にはアスベストが含まれている可能性があると仮定すること
アスベストを含む可能性のある素材について必要なだけの情報を書き留めておき、他人がその素材を見分けられるようにすること
アスベストを含む素材の状態を監視し、それらが劣化していないことを確認すること
上述のリスクの管理計画を作成、実施して、アスベストを取り除く作業に責任を有するすべての人員にアスベストの存在箇所と状態を確実に知らせること
  
 HSEは、事業場におけるアスベスト管理にかかわる新しい公認実施準則(Approved Code of Practice)とガイダンスを発行し、アスベスト管理の法規にかかわるさらに詳しい情報を提供するウェブサイト(www.hse.gov.uk/asbestos)も立ち上げて、2004年5月21日以降要求される法的義務を事業者が遵守できるよう支援をしている。
 一方、2002年12月には、石油、溶剤、木材粉塵、塗料、ワニスなどの可燃性物質、爆発性物質にかかわる作業でのリスク管理を目的とする新しい規則が導入された。
 「2002年危険物質及び爆発性雰囲気規則(Dangerous Substances and Explosive Atmospheres Regulations 2002: DSEAR)」は、職場で使用する、あるいは職場に存在する危険物により生じる火災や爆発に対しリスク管理を行うために事業者がとらなければならない手段を示すものである。しかし、これらの新しい規則は、まったく新しい要求事項を含めるのではなく、20以上の古い法律を、一括りにまとめたものに置き換えることで、事業者の既存の義務をより明確にすることを目的としている。

許容濃度(Occupational exposure limits)

 さらに、2003年10月、HSCは許容濃度(Occupational exposure limits(OELs))に対する既存制度を簡略化して、職場での従業員の有害物質への被ばくを防止し、管理する法的責務を事業者が容易に遵守できるようにする提案書を発表した。
 既存制度では以下の2種類のOELsが規定されている。

許容濃度基準(Occupational Exposure Standards(OESs))−科学的知識に基づき定めた、常時、有害物質を含む環境下で作業する労働者の健康リスクに及ぼす兆候がない水準。
最大許容濃度(Maximum Exposure Limits(MELs))−「安全な」水準に達していない物質か、または事実上「安全な」水準に達するよう管理することができない物質に対して定める水準。

 「2002年有害物質管理規則(Control of Substances Hazardous to Health Regulations(COSHH))」では、従業員に対する有害物質へのばく露レベルは、OESsより低い水準、または、合理的に実現可能な範囲でMELより低い水準に低減することが事業者に要求されている。しかし、OESsとMELsの効果について理解していない事業者が多くいることをHSCは指摘している。たとえば、ある調査によれば、小企業の大半はOELsのことを知らないか、または、自分たちの職場のばく露レベルが規定の濃度を守っているか確認するのが困難と感じていることが明らかになっている。

実用的なガイダンス

 従って、OESsとMELsという既存の制度を、職場の優良衛生事例に基づいて作成されたガイダンスによる1つのOELsに統一することをHSCは提案している。提案された新しいOELs「職場許容限度(Workplace Exposure Limits(WEL))」では、職場大気中に含むことが許容できる化学物質の最大量が規定されることになる。
 提案された新制度の重要な特徴は、WELには、HSEがオンラインまたは書類として無料で発行する実用的なガイダンスが付随しているということである。
 HSCによると、危険な化学物質へのばく露管理方法に対するHSEの優良慣行勧告(good practice advice)を事業者が適用すれば、事業者はその有害物質のWELを遵守し続けることになる。
 しかしながら、HSCは、職場の有害物質にかかわる法規の主要要素であるCOSHHの改正案が提案されても、最も早くとも2004年半ばまでは改正法は施行されないであろうと指摘している。というのは、同規則に規定されている事業者の責務をより明確にする目的で2002年に政府がCOSHHを改正しているからである。

要因の一覧表

 特にCOSHHでは、事業者が職場の有害物質のリスクアセスメントを実施する際に、要因の詳細な一覧表を用意することを考慮するよう事業者に要求しており、また可能な限り、有害物質を有害性のない物質、あるいは有害性の少ない物質、または、有害性の少ないプロセスに代替させることの重要性を強調している。
 しかし、COSHHのリスクアセスメントを実施する際に事業者が従うべき基本的なステップには変更はない。 これらのステップでは以下のことを行う。

化学物質、取り扱い作業、具体的な作業方法に関する情報を収集すること。事業者は職場で使用する化学物質、あるいは、ヒュームや蒸気のような作業過程で生じる可能性のあるものを考慮しなければならない。
健康へのリスクを評価すること。事業者は、有害物質に何人の従業員がばく露する可能性があるか、また、皮膚吸収や経口摂取することにより有害物質が体内に取り込まれる可能性がないかを調査する必要がある。
リスク管理のために講じるべき措置を決めること。たとえば、危険の少ないもので有害物質を代替したり、有害なヒュームの蓄積を防止するために換気設備を導入したりすることがある。
労働者が5名以上の企業では、リスクアセスメントの結果を記録すること。
定期的に、または、たとえば作業に新規の化学物質が導入された場合のように顕著な変化があった場合は、リスクアセスメントの内容を見直し、更新すること。

 リスクアセスメントにより、職場での有害物質の使用が特定された場合、事業者はまず、より安全な物質で代替することで、作業員に及ぶリスクを解消または低減するよう努めなければならない。しかし、COSHHの改正版では、有害物質を代替品に交換するだけでは有害物質への従業員のばく露を防止できない場合に、事業者が講ずるべき管理手段を段階的に規定している。

工学的な管理

 段階的な管理手段は、事業者が以下のことを行って、有害物質へのばく露を管理することを要求している。
適切な作業プロセス、作業システム、工学的な管理の設計と活用、適切な作業機器と作業用資材の支給
たとえば、十分な換気設備や職場での適切な組織的手段を取り入れたりすることによる、発生源での有害物質へのばく露の抑制
その他の方法では有害物質へのばく露予防ができない場合の適切な個人用保護具(PPE)の支給

 しかし、事業者による作業中の有害物質への対処責務は、適切な管理手段の規定以外にもある。例えば、事業者は、従業員に対して、有害物質を安全に使用するにあたっての情報、教育訓練を確実に実施しなければならない。実際問題として、このことは、従業員が作業に用いる物質と、その物質を使用するにあたり被る健康上のリスクについて知っておくべきであることを意味する。
 一方で、従業員は、有害物質の包装の警告ラベルを読むことで特定の物質により被る健康上のリスクについて知ることができる。製品が危険物質である場合、製造者は、「2000年化学物質(危険有害性の通知並びに供給のための包装及び容器)規則(Chemicals (Hazard Information and Packaging for Supply) Regulations 2002(CHIP3))」により、危険な製品に有害マーク、警告、安全勧告のラベルを標示することが法的に要求されている。有害マークはつねにオレンジと黒色で彩色され、その物質により被る主な危険を説明している。さらに詳しいことは、製品に添付されている安全データシートで確認できる。

有害物質ばく露の監視

 従業員に有害物質からのリスクにかかわる適切な情報を与え、教育訓練を実施するとともに、それ以外にも必要に応じて事業者が従うべき処置が2つある。
 その1つは、職場で有害物質にさらされている従業員に対しては、そのばく露状況を監視する必要があるということである。特に以下の場合、従業員がさらされている空気を監視する必要がある。
許容濃度を超えているかどうかが判別しにくい場合
管理手段が不備である場合、健康上のリスクが生じる可能性がある場合
管理手段が適切に機能しているかどうかを判別しにくい場合

 もう1つは、事業者が健康にかかわるサーベイランスを実施して、初期段階で従業員に健康障害の影響があるかを確認しなければならない場合があるということである。このサーベイランスは、次の場合に実施する必要がある。

特定の疾病または健康障害の影響に関連する物質に従業員がさらされ、そのばく露が原因で特定可能な疾病や健康障害の影響が生じたといえる合理的な可能性があり、またそのことが認識可能である場合、または、
ある種のベンゼン化合物製品のような、COSHHの別表6に分類されている物質やプロセスに従業員がさらされており、それらによる疾病や疾病が発生しそうな状態があるといえる合理的な可能性がある場合。

健康サーベイランス

 健康サーベイランスは、責任者、または訓練を受けた者が実施しなければならない。たとえば、皮膚の発疹症状の検査など、従業員に対する基本的な安全検査は、通常は適切な訓練を受けた監督者が実施する。しかし、臨床検査のような複雑な処置は、医師または産業看護師が実施しなければならない。
 職場に多く存在する有害物質の1つに、可燃性物質がある。職場でよく目にする可燃性物質の種類には、塗料溶剤から溶接用ガスまで色々ある。さらにこれ以外にも、上述のものより危険性は少ないものの、木工作業の木材粉塵のような可燃性物質も火災のリスクを生じるため、慎重に考慮することが必要となる。

可燃性物質

 可燃性物質の使用時に安全に作業するために、事業者と従業員は次の5つの方針に従わなければならない。

換気:可燃性液体や可燃性ガスが保存、使用されている場所では、新鮮な空気を十分に取り込んで、可燃性蒸気を消散させる必要がある。
発火源:有害物質を確実に安全に保存、使用するために、発火源が引き起こす危険を取り除く必要がある。発火源には、電気機器からの火花、暖房設備、裸火などがある。
封じ込め:可燃性物質は、こぼれ落ちたものの受け皿付きの、ふたのある容器に保存する必要がある。こうすることで、可燃性物質がこぼれ落ちても危険な場所に広がることを防止できる。
代替:可能であれば、可燃性物質の使用を避ける。可燃性物質を使用しないことが合理的に実現可能でない場合は、可燃性の低い物質を可燃性物質に代替させる。
隔離:可燃性液体は、他の工程や工場から隔離して使用、保存しなければならない。

 一方、その発散する蒸気やこぼれ落ちたものから、可燃性液体のリスクが生じる可能性がある。爆発や発火のリスクを低減するために、事業者と従業員は、トレーの上で可燃性液体を注ぐこと、こぼれ落ちた液体をふき取るための用具を難燃性にすること、汚染された用具を安全に廃棄することなどいくつかの手段を講じる必要がある。
 職場に可燃性粉塵が存在すると、もしそれが点火したら爆発する危険もある。可燃性粉塵による爆発を低減するために、事業者は、その作業場を掃除機で掃除して、工場内にほこりが入らないように、清浄にしておく必要がある。
 職場で使用、存在する危険物質による火災、爆発、または同様のリスクを管理するために事業者が講じるべき手段は、DSEAR規則2002に規定されている。

火災または爆発のリスク

 DSEARでは、事業者はその従業員に対する、仕事中に存在する、または存在する可能性がある可燃性物質や爆発性物質の危険を評定することが要求されている。次に事業者は、合理的に実現可能な限り火災や爆発のリスクを除去したり、低減したりする必要がある。
 特に、事業者は次のことを行わねばならない。

危険物の量を最小限にする
危険物を発散させない
危険物の発散を発生源で抑制する
たとえば換気システムを活用することなどで、爆発性混合ガスの生成を防止する
危険物の発散があれば、確実にそれを捕集、封じ込め、除去する

危険物質へのばく露の除去や抑制

 危険物質が原因となるリスクに対する事業者の取り組み責務は、新法規または改正法規により強化され、明確になったものの、基本的なメッセージは変わらない。つまり、企業は、有害物質へのばく露を除去したり抑制したりするための適切な手段を講じてはじめて、その従業員が十分な保護を受けていることを確認できるということである。
 リスクアセスメントの実施と、適切な管理措置の実施を確実に行うことで、事業者は職場をより安全な環境とし、有害物質にさらされ負傷・疾病を被る従業員数を減少できる。