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協議に関する規則案の棚上げ
Consultation regulations shelved

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年3月号 p.6

(仮訳 国際安全衛生センター)



 
 職場における安全協議にかかわる一連の規則案を安全衛生委員会(HSC)が発表した3年後に、当該提案があまりにも官僚主義的であるという懸念から、その提案は棚上げされた。この代案として、HSCは各種の非規制的な施策を立案し、労働者との協議の改善を計画している。
   

 職場での安全衛生にかかわる労働者との協議にかかわる新規則採用の提案は棚上げされたとHSCはこのたび発表した。
 HSCが提案した規則の適応範囲に対し、諸労働組合と企業が合意に至らなかった結果、HSCは、「1977年安全代表及び安全委員会規則(Safety Representatives and Safety Committees Regulations 1977)」と「1996年安全衛生(労働者との協議)規則(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations 1996)」を統合した単一の包括的な規則案策定の中止を決定した。

非規制的な施策

 その代案として、HSCは最近、「労働者参加に関する共同宣言(A Collective Declaration on Worker Involvement)」という声明書を立案した。この宣言書は、安全衛生に影響する事項に関する労働者との協議を改善するため、HSCが施行を予定している各種の非規制的な施策を明確にしたものである。
 HSCが当初2000年12月に提示した規則案では、労働組合がない職場の労働者が、安全衛生問題について事業者と直接協議するか、又は選ばれた安全代表を通じて協議するかのどちらを希望するかを決めることができるようになるものであった。
 さらには、当初の提案では、安全代表が作成した公式の申し立て書に対し、事業者が書面で回答することが要求されることになっていた一方で、安全代表の選出管理と、安全委員会設立に関わる新たな法的責任を企業が負うことになっていた。

複雑かつ官僚主義的な規則

 しかしながら、2003年7月の会合で、上記2規則の統合案は「複雑かつ官僚主義的」であるとHSCは結論した。提案された新規則では、安全衛生にかかわる労働者の参加と、労働者との協議の改善は期待できないのではないかとHSCは疑念を呈している。
特に、新しい規則案の内容にかかわる労働組合と経営者団体の意見の相違により、労働者との協議に対する実効のある新しい法的規制への取り組みが実現不可能となったとHSCはコメントしている。
 この結果、非規制的な施策にリソースを集中させて、事業者と労働者間のパートナーシップを改善することがより効果的であろうとHSCは決定した。
 英国労働組合会議(Trade Union Congress: TUC)は、労働者との協議にかかわる規則改正に対するHSCの不手際を「機会の喪失」と評した。TUCの上級安全衛生政策専門官であるヒュー・ロバートソンは、「1977年安全代表及び安全委員会規則」を緊急改正して安全代表の権利を拡大するための推進運動をTUCが継続するということを「Safety Management」誌に語った。
 しかし一方で、新しい規則の策定を棚上げにするというHSCの決定を歓迎する向きもある。英国産業連盟(Confederatin of British Industry: CBI)だ。
 CBIの安全衛生政策長であるジャネット・アシャーソンは、2つの規則を統一するという労働組合が支持した当初の提案は、「時代遅れで、あまりにも規範的」とコメントしている。

共同宣言

 HSCは規則の改正計画を当面は断念したが、その代案として、労働安全衛生に影響する事項についての労働者との協議と参加を改善するため、HSCが採択予定の各種の非規制的なイニシアティブを示した「労働者参加に関する共同宣言」というステートメントを協議決定した。
 正式には2004年3月初旬に公表される予定であるこのステートメントは、HSCの新しい「2010年以降に向けた英国における労働安全衛生戦略(Strategy for workplace health and safety in Great Britain to 2010 and beyond)」の一部を形成するもので、その目的は、「労使が自分たちの職場での安全衛生にさらに深く関与するためのパートナーシップ構築の促進」である。
 HSEは今後の数ヶ月間に一連のイベント開催を予定し、このステートメントに示された施策に労働組合や経営者団体などの利害関係者を確実に取り組ませることを目指している。
 この新ステートメントによると、英国の事業者は現在、安全衛生問題に関してそのスタッフを十分に関与させていず、またスタッフと十分な協議を行ってもいない。この問題への対処を支援するために、HSCは、安全衛生専門会議を開催する労働協議会、経営者とスタッフとの間の討論、安全に対する協力的で開かれた企業文化の養成というようなイニシアティブを促進すると語っている。

多くの労働者参加の奨励

 このステートメントには、より多くの労働者の安全衛生への参加を奨励するために、HSCが採択予定のさまざまな非規制的な施策も規定されている。たとえば、HSEの公示の中で労働者との協議を強調することなどが挙げられる。
 特に、このステートメントには「労働者安全アドバイザー(Worker Safety Advisor: WSA)」制度をHSCが進めることなどが含まれている。
 このイニシアティブの下、特別に訓練を受けた安全アドバイザーが、今の段階では安全代表がいない中小企業を訪問して安全に対する認識を深めさせ、協議を推進させることになる。
 英国の6地域で、建設業、自動車産業、サービス業、ボランティア部門(非営利目的でのサービス業)などの88人の事業者が自主的な枠組みで最近実施したパイロット事業では、安全衛生に影響する事項についての労働者とのコミュニケーションと協議が活発になった。
 たとえば、2002年3月から11月まで、WSAが実施したパイロット事業の結果、関係する事業者の4分の3以上が、WSAの訪問により、その職場における安全衛生への認識が向上したと考えている。一方、従業員の約70%が、WSAが訪問したことで安全衛生に影響する事項についての協議レベルが改善されたと報告している。

WSAチャレンジ基金

 パイロット事業が成果を上げた結果、労働・年金相のアンドリュー・スミスは、2003年10月にWSAチャレンジ基金を創設すると発表した。この基金では、2004/5年度4月より2006年/7年度までの3年間に事業を広く展開するために300万ポンドが用意される。又、労働・年金省はHSCに、WSAによるパイロット事業を全国規模に広めるとする提案の策定を依頼している。
 「Safety Management誌」との最近のインタビューの中で、デス・ブラウン安全担当相はWSAによる基金は「労働安全衛生の将来の改善を推進する」助けとなると語った。(SM February 2004, page6 参照)彼は、「労働者が安全衛生管理に適正にかかわることはきわめて重要だと思います。労働者がかかわることで、リスクを適切に識別、抑制できるようになります」ともコメントしている。
 HSEによると、WSAのパイロット事業は当初建設業、ボランティア部門(非営利目的でのサービス業)、小売業に採用されるものとみられている。
 HSEによれば、企業や団体内でWSAのパイロット事業に取り組むためのチャレンジ基金に対する、労働組合、業界団体、職業団体などの「ソーシャル・パートナー」からの要請を2004年3月末以降認める予定であるという。

巡回する安全代表

 さらにHSEは、WSAチャレンジ基金を巡回安全代表(Roving Safety Representative: RSR)計画の基金としても活用して、農業部門の労働者も安全衛生により深く関与させられるか、その可能性についての報告を2004年6月に行うことを予定している。
 TUCのヒュー・ロバートソンは、WSAチャレンジ基金の創設を歓迎し、関係団体が基金を要請することをTUCは奨励するとコメントしている。またロバートソンは、WSAのパイロット事業の効果と欠点を学んで、安全問題への労働者の関与と協議をさらに確実に改善できるイニシアティブを将来立てることが大切であるとも語っている。

制限つきのイニシアティブ

 しかし、スタッフの安全問題への関与と協議を進める方針を英国産業連盟(CBI)が確実に支援する一方で、その事業の真価がいまだ立証されていないため、WSAのパイロット事業は非常に制限されたイニシアティブであるとCBIは見ているとジャネット・アシャーソンは語っている。
新しいステートメント「労働者参加に関する共同宣言」は、2004年3月初旬以降、HSEのWebサイト www.hse.gov.uk/new/index.htm にて、入手できる予定である。


注)公表された「労働者参加に関する共同宣言」は、www.hse.gov.uk/workers/involvement/involvement.pdfで入手できる。