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安全情報の伝達方法
Communicating the health and safety message at work

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年3月号 p.32

(仮訳 国際安全衛生センター)



 事業者が労働者の安全を適切に守るために複雑な手順や特別な装置を用意したとしても、労働者自身が自分たちの仕事場にあるハザードについて自覚がない場合には、ほとんど役に立たない。よって、スタッフの安全を守るためには、効果的なコミュニケーションが欠かせない。以下では安全メッセージを伝達する最善の方法のいくつかについて、概略を述べる。    

 最初のうち、事業者と労働者間の効率的なコミュニケーションというものは、機械防護や高所での作業、聴覚の保護や危険有害物質等への接触のコントロールといった、良く知られている健康・安全対策と同じくらい重要には見えないかもしれない。
 しかし、業務上の負傷や疾病のリスクに対処するために事業者がどんな方法を用いたとしても、それでもなお、労働者が自分たちの仕事場に存在するハザードやその防止策を理解していることを確かめるために、労働者との適切なコミュニケーションが必要である。

コミュニケーション

 仕事場でのコミュニケーションといったときには、例えば特定のハザードについて人々に知らせる安全標識やポスターを掲げることや、単独作業者、または離れたところで作業している者と連絡をとること、緊急時の避難に対処したり、スタッフに指導書、ビデオその他の訓練用のツールを与えることが含まれている。
 もちろん、コミュニケーションは双方向のプロセスでなくてはならない。事業者はスタッフに安全衛生についての正確な関連情報を伝えなくてはならないと同時に、仕事場でのハザードについて労働者が持っている考えや懸念にも耳を傾ける必要がある。
 仕事場の安全衛生問題について労働者と協議することの重要性は、昔から指摘されてきた。例えば1970年代のローベンス報告(1970's Robens Report)は1974年労働安全衛生法(Health and Safety at Work Act 1974)の先駆けとなったが、この報告では、業務上の安全衛生の普及に労働者が携わることは、業務上の安全衛生のより高い基準を確保していくために重要であると結論づけられている。

スタッフとの協議

 その一方で、安全衛生庁(HSE)の推測によると、労働者が組合に指名された安全代表と十分に協議できるという前提のある仕事場の労働者は、そのようなスタッフとの協議の制度をもたない仕事場と比べて、重大な傷害発生率が50%低い。
 それにもかかわらず安全衛生委員会(HSC)は、ほとんどのイギリスの会社では、まだ安全衛生について労働者と十分な話し合いが行われていないことを指摘している。例えば、雇用研究所(Institute of Employment Studies)がHSCの代理として行った調査によると、10%の事業者が従業員と安全衛生に関わる問題について話し合っていない。
 実際、2004年3月にHSCが発表する労働者との協議に関するステートメントでは、イギリスでの働き方のパターンの変化や、小さな"知識ベース"の企業の成長が、安全衛生についてスタッフと十分に協議する事業者数を大きく減らしてしまうかもしれないことが指摘されている。
 このステートメント―労働者参加に関する共同宣言―では、もしこの減少がチェックされないままであれば、イギリスにおける仕事場での負傷や疾病事例の削減は難しいとされている。
 しかしながら、HSCは最近仕事場における安全衛生の協議に関する新しい規則の導入を棚上げすることを決定した。HSCによると、提案された規制の内容―「1977年安全代表及び安全委員会規則(Safety Representatives and Safety Committees Regulations 1977)」と「安全衛生(労働者との協議)規則(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations 1996)」の統合をはかろうとしたもの―についての労働組合と事業者側の意見の不一致により、効果的な規制措置を実行できないようになった。
 この結果HSCは、協議や協力の改善には、労働者安全アドバイザー(Worker Safety Advisor: WSA)制度のように法令に頼らない方法に集中する方が得るものが多いと判断した。
 WSA制度の2002年のパイロット事業では、特別な訓練を受けた安全アドバイザーが、今の段階では安全代表がいない中小企業を訪れてスタッフとの協議の推進や安全意識を改善した結果、訪問を受けた企業の事業者の4分の3以上が、訪問の結果、安全に関する自覚をもつようになったことがわかった。
 そして2003年10月には労働・年金省アンドリュー・スミス大臣が、300万ポンドのチャレンジ基金を捻出して、HSCがWSA制度を国中に広めることが可能となったと公表した。まずは建設業、ボランティア部門・小売業者がターゲットとなる。
 本誌との最近のインタビューでは、安全担当相デス・ブラウンが以下のように述べている。
 「WSAの業務の中心は、特に労働者の参加や協議の準備ができていない中小企業において、サポート、アドバイス、トレーニング対策を通して、事業者と労働者の協力関係を築くことにある」。

想定していた目標の達成

 安全担当相は以下のことも述べている。「WSAのパイロット事業でもわかったように、我々はWSAが事業者と労働者が想定していた目標を達成する手助けとなるようなスキルやコミットメントをもたらすことを確信している。チャレンジ基金を成功に終わらせるために、より広範囲の関係者、すなわち、事業者、事業者団体、労働者、労働組合等が協力できるようになることを期待している」。
 また、HSCは他の活動もいくつか企画していくことを予定している。安全衛生の改善や労働者との協議の社会的、財政的な利益向上のために、安全代表と協力して、より多くの労働者が仕事場の安全衛生問題に取り組むように奨励していくこともそれに含まれる。HSCはWSA制度や類似したイニシャティブが事業者とスタッフとの安全衛生に関する協議を改善していくことを望んではいるが、新しい規則の作成の中止決定は、安全衛生協議における事業者の法的な責任を変更しないでいることを意味している。

安全委員会規制

 事業者にとっては特に、今まで挙げた諸規制―1977年安全代表及び安全委員会規則や1996年安全衛生 (労働者との協議) 規則―のうちどれが自分たちに当てはまるかを知ることが重要となってくる。単純に言うと、前者は労働組合と認識されるものが存在する組織にあてはまり、後者はそれ以外の組織にあてはまる。事業者が労働組合の存在を認識できて、その組合には指名された代表がいる場合には、事業者はその人たちと関連する安全問題について話し合わなくてはならない。
 労働組合に指名された安全代表は以下の機能を備えている。
  • 業務上災害原因と作業の危険可能性を調査し、安全・衛生・福祉問題に関する労働者の一般的な不平に事業者と共に応じる。
  • 労働者の代表として安全監督官―HSEの監督官と地方環境衛生担当官のどちらか―と話し合って情報を得る。
  • 仕事場での調査を実行すること−特に事故が起きてしまった場合。2人以上の労働組合安全代表が設立を要求した場合には、場合には事業者は安全委員会の設置義務がある。安全委員会は設立要求に応じ、3カ月以内に設置すること。労働組合安全代表は、安全委員会の会合に出席しなければならない。
安全委員会

 しかし、安全委員会の本質は企業によって異なる傾向にある。例えば製造業の会社の安全委員会は、事務系の会社の安全委員会とは優先するものの順位が異なるだろう。事実、企業の大きさから業務形態までの多くの要因が安全委員会の業務に影響を与える。その一方で事業者は安全委員会が他の委員会とどう関わっていくのかを考える必要がある。
 安全委員会が他の問題に取り組むことは可能だが、事業者は委員会が安全衛生に関連する問題にはっきりとしたアイデンティティを保持し、とりくむべき問題が他の会合の別の議題にすりかえられることがないように気をつけなくてはならない。会議の頻度などのほかの問題は、仕事場の性質や委員会が対応しなくてはならない仕事の量に応じて変わる。
 その一方で、社内に労働組合がない会社の事業者は、直接労働者と或いは選ばれた代表者を通じて協議を行う必要がある。つまり、フルタイムとパートタイムのすべての労働者が事実上安全衛生問題について相談に応じられるべきで、労働組合に所属しているかどうかは関係ない。
 そして、企業は出向労働者や長期間の派遣スタッフや請負業者の労働者と協議する必要は法律上はないが、それでも彼らが安全に働くことができるよう十分な情報を与える必要がある。

選出された代表者

 選出された代表者たちは、労働組合の安全代表と同様、自分たちを選出した労働者の代表として安全衛生監督官と話し合うほか、仕事場における潜在的なリスクや危険な出来事に関する懸念を示し、同僚の安全衛生に関わる一般的な問題に事業者と共に取り組んでいかなくてはならない。
 また、事業者は選出された代表者たちが、代表の仕事を自分たちの通常業務の一部としてそれぞれの責務を遂行できるように配慮しなくてはならない。企業や団体は選出された代表者や労働組合の代表に、適切なトレーニングや設備、適当な有給の時間を与えて彼らがきちんと協議できるようにしなくてはならない。
 事業者はどんな協議の方法を使うにしろ、労働者とは特に以下の点について話し合わなくてはならない。
  • 労働者の安全衛生に実質的に影響を与える可能性のある変更。例えば工程の変更
  • 事業者が安全法令を遂行する有資格者を配置する
  • 労働者が知っていなくてはならない業務上発生するリスクや危険に関する情報、これらのリスクを低減したり除去するための手段に関する情報、実際そのようなリスクや危険が発生した場合の対処方法に関する情報
  • 安全訓練の計画と組織化
  • 新しいテクノロジーがもたらす安全上の影響の重大性
 また、事業者には労働者が直面する安全衛生のリスクに関する情報を与える法的義務がある。たとえば、1999年労働安全衛生管理規則(Management of Health and Safety Regulations 1999)では、事業者は以下の情報を労働者に伝えなくてはならない。
  • 業務上、または業務の変更で生じうるリスクやハザードは何か
  • リスクのコントロールまたは除去のために設置された、またはされる予定の対策
  • 仕事場においてリスクに直面した場合に労働者はどうするべきか 
 そして、特定の安全衛生に関する情報を労働者に与えることを義務付ける規制は他にもたくさんある。それらは以下のものを含んでいる
  • 1992年マニュアル・ハンドリング規則(Manual Handling Operations Regulations 1992)―労働者が仕事場で持ち運ばなくてはならない積荷の重さに関する情報
  • 2002年職場のアスベスト管理規則 (Control of Asbestos at Work Regulations 2002)―労働者がアスベストばく露時のリスクや防止対策に関する情報
 事業者は自分たちが伝える情報の全てが、簡単に理解できるものであって、労働者のトレーニングや知識・経験のレベルを考慮したものであるようにしなくてはならない。それと同時に、事業者はスタッフの中で母国語が英語でない者や、情報を理解するのを妨げるような言語の問題を抱えている者には特に注意しなくてはならない。
 福祉に影響する問題について話し合うほか、働いている人々に広範囲の安全衛生に関する情報を伝えるために、事業者は安全標識を使用することができる。
 多くの種類の安全標識によって、人々は有害な化学物質の取り扱いや機械の操作などの特定の業務において生じうるハザードに警戒を呼びかけられ、又労働者はそのようなハザードの避け方、たとえば建設現場では保護帽の着用、工場内の歩行者通路の確保や火災時の避難通路の使用などを教えられる。
 安全標識の第一目的は、言葉を使わないで瞬間的に理解可能なメッセージを伝えることにある。よって、それぞれの標識には特定の色や形やシンボル―ピクトグラムとして知られている―があって、特定のハザードや対処方法について示している。しかし実際は、人々が十分にサインの意味に気がつくように、文章がピクトグラムと一緒に書かれている標識も多い。

なじみのない標識

 ほとんどの安全標識はそれを見ただけで説明がつくが、労働者の中には一般的にはあまり使われていない標識の意味には明るくない者もいる。その結果、事業者はなじみの薄い標識についてはその意味を労働者にはっきりと説明し、標識にかかれた警告を無視するとどのような結果につながるかに気づかせることが重要になってくる。もしも仕事場におけるリスクアセスメントで安全標識を掲げる必要があるとされた場合には、事業者は自分が1996年安全衛生 (安全標識と信号) 規則(Health and Safety (Safety Signs and Signals) Regulations 1996)を順守しているかを確認しなくてはならない。これらの規制は一般的には安全標識規則として知られているが、安全標識の選択、維持、効率的に使用していく責任を労働者に課している。
 その一方で、安全メッセージを伝える場合にはポスターも効果的なツールとなる。実際、全ての作業場ではHSEの"HSW法(Health and Safety Law): What you should know"ポスターを貼ることが法令で義務付けられている。そのポスターは安全衛生法令に関する情報を労働者に伝えるためにデザインされたものである。
 事業者は安全衛生法令の主な必要事項をまとめたリーフレットを労働者に与えることもできる。

掲示板

 事業者は他のポスターを使って特定の業務で生じる災害や災害回避の方法を指摘することができる。一方で、掲示板は労働者により広い範囲での安全衛生に関する情報を伝えるために使うことができる。
 また、ビデオやDVD、本やリーフレットも非常に効果的なトレーニングツールになる。これらは、安全衛生問題に関する一般的な問題−例えば仕事場で火災が起きたときに取るべき正しい対策をスタッフに伝えることー、又は積載型トラッククレーンの運転など特定のタイプの業務で発生する特定のハザードを強調するために使うことができる。

適切な協議

 事業者がスタッフメンバーとどのようにコミュニケーションをとるにしろ、労働者が業務上の安全衛生問題について適切に協議して、関わっていくことが不可欠だ。
 協議を行うことによって、労働者が自分たちに影響を与える安全衛生問題に気がついて事故を減らすことができるし、事業者は安全衛生問題についてスタッフと話し合う機会を持つことができる。スタッフは自分たちの業務に関連するリスクを最もわかるポジションにいることが多い。
 結論として、労働者と事業者の適切な協議やコミュニケーションは、仕事場における協力関係の向上につながり、スタッフのモチベーションや生産性の向上につながる。