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アスベストばく露労働者に対する保護策の改善

資料出所:the European Trade Union Technical Bureau for Health and Safety (TUTB)発行
「Newsletter」 No. 26 December 2004 p.22
(仮訳 国際安全衛生センター)
                        
アスベスト問題におけるヨーロッパおよび世界での取組みについての最新情報は、http://tutb.etuc.org > Main topics > Asbestos の特別レポートをご参照ください。
 

 2003年3月27日付けの指令(Directive)2003/181第5条の輸出用のアスベストを含有する材料や製品の製造を事実上禁止する新たな文言は明確な前進である。この他の評価すべき成果としては、職場におけるばく露限界の0.1ファイバー/cm3への引き下げと、以前は除外されていた分野の労働者への適用範囲の拡大がある。

コミュニティ指令(Community directive)における労働者のアスベストばく露限界の改訂履歴


 
1980年 委員会の最初の提案
 
1983年 指令
 
1991年 指令
 
2003年 指令
クロシドライト  
0.2ファイバー/cm3
 
0.5ファイバー/cm3
 
0.3ファイバー/cm3
 
0.1ファイバー/cm3
クリソタイル  
1ファイバー/cm3
 
1ファイバー/cm3
 
0.6ファイバー/cm3
 
0.1ファイバー/cm3
その他のアスベスト  
1 ファイバー/cm3
 
1ファイバー/cm3
 
0.3ファイバー/cm3
 
0.1ファイバー/cm3

 新たな指令で定められたばく露限界を根拠として、技術的に可能なあらゆる状況においてばく露レベルの低減を推進する予防措置の実施を怠ることがあってはならない。ばく露限界とは発ガン物質に対する全面的な予防策ではないことを認識し、技術的に可能な限り、最低レベルのばく露限界の実現を目指す必要がある。

 この指令には多くの憂慮すべき点があり深刻な不備が生じており、実効性に疑問が残る。議長国デンマークが提示した最終的な妥協案は、規制緩和の流れにある行政府に対して過剰な譲歩を示している。特に次の点が重要である。

  • 改訂後の指令は自営業者を適用対象としていないため、雇用者は予防措置の実施が求められない独立請負業者に作業を担当させることによって、その規定の実施を回避できる。また、現在の建築業界では労働力の不足は発生していない。
  • アスベストを使用した建築物または設置物のすべての取り壊し作業およびアスベスト除去作業は、適切な基準(作業員の訓練、適切な汚染防止機器、この種の現場での経験)を基に認可された専門の請負企業のみが実施するべきである。しかしこれを定める指令の規定は、この点について極めてあいまいな表現となっており(12b条)、各国のアスベスト除去市場においては、広範な不正行為が行われている。複数段階に渡る臨時的請負関係での労働者の就労(日雇い労働者、複数段階の下請けに含まれる零細企業など)は、大きな懸念材料である。取り壊しおよびアスベスト除去に関する共同体指令の条項は、ILO条約162(1986)から後退している。この条約の第17条では、監督官庁からこの種の作業の実施に関する資格認定を受け、作業の実施についての権限を付与された労働者または請負企業のみがこれらの作業を実施できると定めている。この指令が採択された時点では(ドイツ、ベルギー、スペイン、フィンランド、オランダ、ポルトガル、およびスウェーデンが採択)、ILO条約162の批准国はEU15か国中7か国に留まっている。また、EUへの新たな加盟国の中では、1か国(スロベニア)だけがこの条約を批准している。これは、2003年3月27日付け指令を策定するためのベースとなった1998年4月7日の委員会決議(Council Conclusion)において、アスベスト除去業者の資格認定管理問題が提起されたという事実を軽視するものである。また、経済社会評議会(Economic and Social Committee)と欧州議会(European Parliament)は、この12b条の文言を不十分と見なしている。
  • アスベストへのばく露を生ずる作業の届出に対する要件を厳格化する必要がある。個人としての身元確認が可能なレベルでのばく露労働者の名簿を保存し、効率的な確認作業を可能にするとともに、健康調査システムを稼働させる必要がある。コミュニティ加盟国の大部分で、アスベストばく露労働者の登録名簿に深刻な不備があることを考慮すると、これは特に重要なポイントである。作業届出手続きとばく露労働者名簿の連動が、問題の改善に有効であると考える。

 しかし、真の意味で深刻な問題は、指令の不備ではなく(これについては、国家レベルの規制実施による是正が可能である)、採択された条項の実質的な遵守である。その意味では、職場での健康に関する規定が効果的に機能しない傾向がある建築業界は、注意を要する業界のひとつと言える。この業界は、複数の専門分野に渡る予防サービスが機能しないことが多く、労働者の健康と安全確保を担当する代表者はそれぞれが業界のごく一部を担当している状態である。この業界は、極めて多数の分散化された中小および零細企業や多段階での請負業務という特徴を持つ。加盟国は、枠組み指令(Framework Directive)が定める構造的な対処方策の改善責任に正面から取り組む必要がある。これは、アスベストなどの具体的なリスクを対象とするあらゆる規制の実施にあたっての必須条件である。ヨーロッパで現在予防サービスの対象とされている労働者は全労働者のわずか50%と推測され2、安全衛生に関する労働者代表制度による対処は、実際に必要とされているレベルに達していない国がほとんどである。また各国政府は、労働監督官に対し、新しい規則の適切な運用を確認するための権限を新たに付与する必要がある。2006年に欧州共同体(European Community)の全加盟国で展開される今後の実行キャンペーンのテーマとしてアスベスト問題を選択した上級労働監督官委員会(Senior Labour Inspectors' Committee: SLIC)のイニシアティブは、歓迎すべき取組みである。

   
アスベストに関する優先課題
  ILO条約(ILO Convention)C162の批准。EU加盟25か国中、批准国は8か国に留まる。
  自営請負業者への予防規則の適用拡大
  アスベスト使用建築物登録計画の作成
  アスベスト関連職業病認定の改善
  アスベスト含有廃棄物の開発途上国への輸出禁止。特に、インドおよび東アジアの船舶解体場へのアスベスト使用船の移送禁止 。
 
  1. OJ、2003年4月15日のL97
  2. 2003年7月のTUTB Newsletter No. 21、19-37ページの予防サービスに関する特別レポートを参照