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作業関連の負傷:労働者の出勤状況と雇用への影響

フィリップ・ジェームス
ミドルセックス大学(イギリス)(注25)

資料出所:European Agency for Safety and Health at Work(欧州安全衛生機構)発行
「Safety and Health and Employability」1999年度版 p.48-p.50
(訳 国際安全衛生センター)

この記事のオリジナルは下記のサイトでご覧いだだけます。
http://osha.europa.eu/publications/conference/conference99/proceedings.pdf


ここでは、表題の3点についてイギリスの現状との関連で述べてみたい。具体的には労働者の作業関連の負傷の規模、これらの負傷に伴なう労働者の欠勤の程度、負傷が経済活動に与える影響である。

作業関連の負傷の規模

公式統計によると、イギリスでは毎年約400件の死亡災害があり、また重大な傷害または4日以上欠勤の原因となる負傷災害が194,000件発生している。しかしこれらの数値は、実際の労働災害件数を大きく下回っている。短期の欠勤の原因となった災害を除外しているだけでなく、公道上での運転など特定の活動で発生した災害は対象から外されている。また事業者が報告しない災害があるため、包括的なデータになっていないとみずから認めている。

安全衛生庁が委託した各種調査による推計は、現役労働者と退職労働者の自己申告データを収集しているため、労働傷害件数、作業関連疾病の規模をより正確に表している。これによると、毎年、全労働者の約4%にあたる100万人を超える労働者が労働災害に遭遇している。また現在、現役労働者と退職労働者の総数の5%近くにあたる約200万人の労働者が、作業に起因する、または作業によって悪化した疾病を患っている。もっとも多い疾病を重要度の高い順にあげると、第1が筋骨格系障害、第2がストレス、うつ状態、不安、その他ストレスに起因する疾病、第3が下気道疾患、第4が難聴、耳鳴り、その他の耳の障害である。

労働者の出勤状況

1995年/1996年に労働災害に遭遇した労働者のうち、56万人(53%)余りが欠勤した。このうち15%が1日から3日、39%が4日以上の欠勤であった。1995年に作業関連疾病にかかった労働者についてみると、3分の1強(712,000人)が過去1年間失職状態にあり、このうち311,000人は退職により失職している。この他、575,000人はそれぞれの条件によって1日も欠勤せず、185,000人は欠勤に関する情報がなく、545,000人は一定期間欠勤している。こうした欠勤による労働損失日数は19,515,000日と推計されているが、負傷災害による欠勤も計算に含めると、2,500万日強に増加する。

疾病による欠勤を病名別に分類すると、80%強が次の3つの疾病となる。

  • 筋骨格系障害

  • ストレス、うつ状態または不安

  • 外傷(trauma)

経済活動

上述のとおり、作業関連疾病を患っている労働者の約20%が、退職以外の理由で経済活動に参加していない。これがどの程度、疾病の直接の結果であるかは不明である。しかし1995年度自己申告作業関連疾病調査で、前年にそうした疾病にかかったと報告した労働者の回答から、この問題についての一定の考察が可能である。

調査対象者中、1,188人が作業関連疾病にかかったと報告した。このうち、全体として307人(26%)が、疾病の結果、転職せざるをえなかったと述べた。204人は、過去12ヵ月間働いておらず、このうち54%は長期疾病/障害状態にあり、2%は一時的疾病状態にある。この他、67人は過去12ヵ月間に働いたが転職せざるをえなかった。比率はそれぞれ21%と3%である。

また安全衛生委員会(HSC)の推計によると、毎年25,000人以上が作業関連負傷または疾病により失職し、復職を果たしていない。

結論

以上の分析から、イギリスにおける作業関連の負傷の規模は依然きわめて大きいことが知られる。またそうした負傷により、毎年2,500万日を超える労働損失日数が発生し、さらに何十万人もの労働者が経済活動に参加しない状態になっていることを示している。

したがって以下の点で、なすべき課題の多いことは明白である。

  • 筋骨格系障害と精神的障害をはじめとする作業関連の有害因子を予防すること。

  • そうした有害因子が労働者の出勤状況と、現在および未来の雇用機会に与える影響を緩和すること。

第1の点に関しては、事業者に対し、作業に伴なうリスク把握の改善と、そうしたリスクの回避または最小化のための十分な対策を促す必要がある。第2の点に関しては、労働者がリハビリテーションなどの支援を利用でき、早期復職と雇用確保を実現できる効果的な体制を確立することが中心になる。

第1の分野では、まだ課題は多いとはいえ、事業者の取り組みを促すための対策が欧州と各国の両方の段階で活発に実施されている。対照的に、作業関連の有害因子の影響を緩和することへの関心はきわめて低かった。この点について、たしかに現在はある程度の対策が行われており、そのことは欧州委員会発行のワーキング・ペーパー「障害をもつ人々の雇用水準の引き上げ:共通の挑戦」(注26)にも示されている。ただ、いまの欧州段階での議論が実際に、またどの程度、具体的行動につながるかは現段階では不透明である。

しかしながら、イギリスの実状をふまえると、被災した労働者の仕事の確保と復職に向け、事業者に支援拡大を促すことは緊急の課題になっている。たとえば、前年中に就労不能給付を受け、かつ復職した障害者を対象とした1993年の調査によると、その77%もが事業者からなんの支援も得られなかったと回答している。また現時点でのデータによると、産業医と看護師を雇用している事業者はきわめて少なく、労働者の復職支援に必要な理学療法士、エルゴノミクス専門家、精神分析医などの専門家との定期的連絡を行っている事業者はさらに少ない。

現状改善のための可能な方法を検討することは本稿のテーマを超えるものであり、論述は控えるが、1点だけ触れておきたい。事業者に対し、作業関連因子により負傷した被害者の復職支援の強化を促すことだけに的を絞った改革は、そうした負傷の多くがストレス関連の疾病と筋骨格系障害であることをふまえると、行き詰まる可能性が高い。そうした状態が労働に基づくものであるかどうかの判定がきわめて困難な場合が多いからである(注27)


注25 http://www.mdx.ac.uk/
注26 本文書は、http://www.independentliving.org/LibArt/EU/employ.pdfで入手可能。注)
注27 出所:Bunt, K. 1993 "Occupational Health Provision at Work. HSE Contract Research Report(「労働衛生規定」HSE労働契約調査報告)"57/1993
Erens, B. and Ghate, D. 1993 "Invalidity Benefit: A Longitudinal Survey of New Recipients. Department of Social Security Research Report.(「障害者給付:新規受給者の長期的調査」社会保障庁調査報告書)"、London:HMSO
Health and Safety Commission. 1997. "Health and Safety Statistics 1996/1997(「衛生安全統計1996/97」)"Norwich:HSE Books
Health and Safety Commission/Department for the Environment, Transport and the Regions. 1999 "Revitalising Health and Safety(「安全衛生の活性化」)" London:DETR
Jones, J., Hodgson, J., Clegg, T. and Elliott, R. 1998 "Self-Reported Work -Related illness in 1995.(「1995年度自己申告作業関連疾病調査」)" Norwich:HSE Books


訳注)現在この文書は、http://osha.europa.eu/publications/conference/conference99/proceedings.pdfで入手可能です。


この記事の出典「Safety and Health and Employability 1999」(英語)は国際安全衛生センターの図書館でご覧いただけます。