機械類へのガードの設置、過度の騒音の防止、保護具の提供、刃から守る安全な手段の使用など、職場をより安全で健康な場所にするために事業者が講じることのできる手段はたくさんある。
しかし、事業者と労働者との間で効果的なコミュニケーションが行われなければ、さまざまな管理手段もその効果を十分に発揮できないおそれがある。監督者は、職場に存在する潜在的なハザードに対して従業員に注意を促し、こうしたハザードを回避する方法を示すとともに、それと同じくらい重要なこととして、安全衛生問題に関する従業員の意見にも耳を傾ける必要がある。
安全衛生委員会(Health and Safety Commission : HSC)は、自分の意見を言うことを推奨され、安全衛生に影響力を持つことを許されている労働者の方が、そうでない労働者より一層安全かつ健康に労働できるとしているが、上のような事情を考慮すれば、それももっともである。
実際、安全衛生委員会(HSC)は、労働者の積極的関与は「安全衛生に関するほかのすべての介入措置を成功させるのに不可欠である。労働者の積極的関与によって、事業者は現場からの"実態のチェック"を得ることができ、安全衛生に関する各種活動についても、その確実な遵守が助長されることになる」と述べている。職場での良好なコミュニケーションが非常に重要であるというこの認識は、必ずしも安全専門家特有のものではない。たとえば英国労働組合会議(Trades Union Congress: TUC)は、労働者の関与は「安全衛生マネジメント・システムを成功させるためのかなめ」の1つであると主張しているし、小規模事業者連合(Federation of Small Businesses)は、「労働者との協議は」多くの企業の「収益に直接影響を与えうる」とコメントしている。
事業者の側も、2人以上の労働組合安全代表から求めがあれば、安全委員会を設置しなければならない。安全委員会は要求があってから3か月以内に設置する必要があり、会合には労働組合の安全代表が出席しなければならない。
安全委員会はほかの問題についても取り扱うことができるが、事業者は、安全上の課題に関して安全委員会に独自のアイデンティティを持たせ、こうした課題がほかの会議の議題に回されないようにする必要がある。
安全委員会の議題は企業ごとに異なって当然であり、安全委員会の作業の内容および会合の開催頻度は、企業規模や遂行業務の種類など、さまざまな要因に左右される。
したがって、製造業の企業における安全委員会の優先課題は、事務系企業の安全委員会のそれとは大きく異なる可能性がある。ただし、多くの労働者、とりわけ小規模企業で雇用されている労働者は、労働組合に属していなかったり、労働組合の安全代表に話をもって行くことができないことがある。このため、1996年安全衛生(労働者との協議)規則(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations 1996)では、労働組合の存在を認めていない事業者に対し、直接従業員と協議するか、または選挙で選ばれた代表を通じて協議することを義務付けている。
リスクに関する懸念の表明
労働組合安全代表の場合と同様、選挙で選ばれた代表には、安全衛生監督官との協議において選挙母体たる従業員を代表し、職場の潜在的リスクや危険な出来事の発生に関して懸念を表明し、さらに同僚労働者の安全衛生に関わる一般的問題を事業者に伝える権限が与えられる。
事業者は、選挙で選ばれた代表がその職務を確実に通常業務の一環として(追加の業務ではなく)遂行できるようにする必要がある。また事業者は、選ばれた代表と労働組合安全代表のどちらに対しても、適切な教育訓練、施設、および妥当な量の有給休暇を与えて、これらの人々が協議に関する義務を適切に履行できるようにしなければならない。
ただし、英国労働組合会議(TUC)による最近の調査では、協議に関する既存の各種規則は機能していないという結論が下されている。2004年11月発表の「労働組合のトレンド:安全衛生の重視(Trade union trends: focus on health and safety)」と題されたこの調査レポートによれば、事業者から当然のこととしてひんぱんに協議を求められている安全代表は全体の3分の1に満たないという。また、リスクアセスメントの作成過程への安全代表の関与についてはほとんど改善がみられず、自身の関与について満足している代表はわずか29%にすぎないことも指摘されている。レポートではこうした点をもとに、リスクアセスメントに関する安全代表との協議が確実に行われ、安全代表との協議全般に関する現行規則が確実に執行されるようにするために、安全代表及び安全委員会規則と安全衛生(労働者との協議)規則の見直しを安全衛生委員会(HSC)に求めている。
労働者との協議とならんで、事業者は1999年職場安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)の下で安全衛生の問題に関する適切な情報を労働者に提供する一般的な義務を負っている。ここでいう適切な情報には、次のものが含まれる。
2004年12月に発行された「あなたの健康と安全:労働者のための手引き(Your health, your safety: A guide for workers)」では、職場での安全の権利、事業者から期待すべき安全教育の水準、および、劣悪な職場の慣行によってみずからの安全が脅かされていると判断した場合に誰に訴えればよいかについて説明している。
労働組合会議(TUC)のフランシス・オグレーディ(Frances O'Grady)副書記長はこの手引きについてコメントし、次のように述べている。「憂慮すべきことだが、職場での死亡災害と重傷事故は今後増加するおそれがある。言語障壁の存在は、安全メッセージが労働者の頭上を通り越してしまうことを意味しているからである」
この新しい手引き(www.hse.gov.uk/workers/hse27.htmで入手できる)は、政府機関や事業者団体、労働組合、慈善団体、商業出版社から出される安全に関するさまざまな資料のうちの1つにすぎない。
事業者がまず手を伸ばすのは、英国安全衛生庁(HSE)が発行した公式の指針(ガイダンス)であろう。英国安全衛生庁(HSE)は、安全衛生関係法令の遵守に不可欠な公認実施準則(Approved Codes of Practice: ACoP)やその他のツール類のほかに、ブックレットやリーフレット、ビデオ、CD-ROM、ポスター、オンライン資料などを幅広く揃えている。これらの文書は事業者と従業員の双方にとって大いに役立つものであり、安全衛生のほぼあらゆるトピックに関して権威あるアドバイスを手に入れることができる。
最後に、事業者がしばしば具体的なコミュニケーション手順を確立する必要性を感じている作業分野として、一人または離れたところで作業している労働者の保護について取り上げておこう。一人または企業構内とは別の場所で作業する労働者、たとえば保守要員、外勤社員、在宅勤務者などの労働者は、安全衛生のリスクに対してきわめて弱い立場にある。