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安全メッセージのコミュニケーション
COMMUNICATING THE SAFETY MESSAGE

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2005年3月号 p.30〜36

(仮訳 国際安全衛生センター)



 業務上の傷害と疾病を防止するには、労働者への安全衛生に関する情報の伝達が不可欠である。本稿では、従業員との協議、安全標識の用意、一人で作業する労働者の監視など、必要な人のもとに適切な情報が確実に届くようにするための方法についていくつか取り上げる。

 機械類へのガードの設置、過度の騒音の防止、保護具の提供、刃から守る安全な手段の使用など、職場をより安全で健康な場所にするために事業者が講じることのできる手段はたくさんある。
 しかし、事業者と労働者との間で効果的なコミュニケーションが行われなければ、さまざまな管理手段もその効果を十分に発揮できないおそれがある。監督者は、職場に存在する潜在的なハザードに対して従業員に注意を促し、こうしたハザードを回避する方法を示すとともに、それと同じくらい重要なこととして、安全衛生問題に関する従業員の意見にも耳を傾ける必要がある。
 安全衛生委員会(Health and Safety Commission : HSC)は、自分の意見を言うことを推奨され、安全衛生に影響力を持つことを許されている労働者の方が、そうでない労働者より一層安全かつ健康に労働できるとしているが、上のような事情を考慮すれば、それももっともである。
 実際、安全衛生委員会(HSC)は、労働者の積極的関与は「安全衛生に関するほかのすべての介入措置を成功させるのに不可欠である。労働者の積極的関与によって、事業者は現場からの"実態のチェック"を得ることができ、安全衛生に関する各種活動についても、その確実な遵守が助長されることになる」と述べている。職場での良好なコミュニケーションが非常に重要であるというこの認識は、必ずしも安全専門家特有のものではない。たとえば英国労働組合会議(Trades Union Congress: TUC)は、労働者の関与は「安全衛生マネジメント・システムを成功させるためのかなめ」の1つであると主張しているし、小規模事業者連合(Federation of Small Businesses)は、「労働者との協議は」多くの企業の「収益に直接影響を与えうる」とコメントしている。

事態改善の後押し


 政府は2004年3月、WSA(Worker Safety Advisor: 労働者安全アドバイザー)チャレンジ基金(Challenge Fund)の運用を開始したが、これは職場における安全衛生協議の推進がねらいだった。このときから向こう3年間、WSAチャレンジ基金は、労働者の関与を推進・確実にすることで労働安全の向上をめざすプロジェクトに対し、総額300万ポンドの援助を行うことになっている。
 WSA制度では、特別な訓練を受けた安全アドバイザー(これをWSAという)が、安全代表(safety representative)のいない小中規模の企業を訪問し、安全に関する意識の向上、および労働者と事業者間のコミュニケーションの改善をはかることになっている。チャンレジ基金の第1ラウンドは2004年3月〜5月に実施され、労働組合、地方当局、事業者団体、ボランティア組織などが実施するプロジェクトに対し、33,000〜100,000ポンドの助成金が与えられた。第2ラウンドの対象組織団体への助成金の交付は2005年4月から開始される予定で、最大で2年間にわたり200,000ポンドが交付される。
 安全衛生委員会(HSC)のビル・キャラハン(Bill Challaghan)委員長は、チャレンジ基金について次のように述べた。「これは、資金を最も必要とする人たち、すなわち小企業の事業者と従業員にとって、必要なものを手に入れられる絶好の機会だ」
 WSAの訪問は、対策が後手に回りがちな小規模事業部門における労働者の関与を推進するうえで大きく貢献すると期待されるが、安全上の課題に関して協議を行おうとする事業者にとって、最も一般的なのは、労働組合の安全代表、および安全委員会を利用することである。
 英国安全衛生庁(HSE)発表の数字によれば、労働組合が任命した安全代表と事業者との間で十分に協議が行われている職場の重傷率は、協議がまったく行われていない職場の約半分である。
 1977年安全代表及び安全委員会規則(Safety Representatives and Safety Committees Regulations 1977)では、労働組合の存在を認めている企業は、労働者たちに関わりのある安全衛生の問題について、当該労働組合が任命した安全代表と協議しなければならないことを定めている。
 労働組合の安全代表は、次のような役割を果たす。
職場の潜在的危険、および職場の災害原因を調査する。
安全、健康、および福利厚生の問題に関する従業員の一般的な不満を事業者に伝える。
特に災害や、懸念を生じるような出来事の後で、職場の監督を実施する。
安全監督官との話し合いにおいて労働者を代表し、安全監督官から情報を受け取る。
 事業者の側も、2人以上の労働組合安全代表から求めがあれば、安全委員会を設置しなければならない。安全委員会は要求があってから3か月以内に設置する必要があり、会合には労働組合の安全代表が出席しなければならない。
 安全委員会はほかの問題についても取り扱うことができるが、事業者は、安全上の課題に関して安全委員会に独自のアイデンティティを持たせ、こうした課題がほかの会議の議題に回されないようにする必要がある。
 安全委員会の議題は企業ごとに異なって当然であり、安全委員会の作業の内容および会合の開催頻度は、企業規模や遂行業務の種類など、さまざまな要因に左右される。
 したがって、製造業の企業における安全委員会の優先課題は、事務系企業の安全委員会のそれとは大きく異なる可能性がある。ただし、多くの労働者、とりわけ小規模企業で雇用されている労働者は、労働組合に属していなかったり、労働組合の安全代表に話をもって行くことができないことがある。このため、1996年安全衛生(労働者との協議)規則(Health and Safety (Consultation with Employees) Regulations 1996)では、労働組合の存在を認めていない事業者に対し、直接従業員と協議するか、または選挙で選ばれた代表を通じて協議することを義務付けている。

リスクに関する懸念の表明


 労働組合安全代表の場合と同様、選挙で選ばれた代表には、安全衛生監督官との協議において選挙母体たる従業員を代表し、職場の潜在的リスクや危険な出来事の発生に関して懸念を表明し、さらに同僚労働者の安全衛生に関わる一般的問題を事業者に伝える権限が与えられる。
 事業者は、選挙で選ばれた代表がその職務を確実に通常業務の一環として(追加の業務ではなく)遂行できるようにする必要がある。また事業者は、選ばれた代表と労働組合安全代表のどちらに対しても、適切な教育訓練、施設、および妥当な量の有給休暇を与えて、これらの人々が協議に関する義務を適切に履行できるようにしなければならない。
 ただし、英国労働組合会議(TUC)による最近の調査では、協議に関する既存の各種規則は機能していないという結論が下されている。2004年11月発表の「労働組合のトレンド:安全衛生の重視(Trade union trends: focus on health and safety)」と題されたこの調査レポートによれば、事業者から当然のこととしてひんぱんに協議を求められている安全代表は全体の3分の1に満たないという。また、リスクアセスメントの作成過程への安全代表の関与についてはほとんど改善がみられず、自身の関与について満足している代表はわずか29%にすぎないことも指摘されている。レポートではこうした点をもとに、リスクアセスメントに関する安全代表との協議が確実に行われ、安全代表との協議全般に関する現行規則が確実に執行されるようにするために、安全代表及び安全委員会規則と安全衛生(労働者との協議)規則の見直しを安全衛生委員会(HSC)に求めている。
 労働者との協議とならんで、事業者は1999年職場安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)の下で安全衛生の問題に関する適切な情報を労働者に提供する一般的な義務を負っている。ここでいう適切な情報には、次のものが含まれる。
作業によって生じる可能性のあるリスクと危険、およびこれらのリスクを削減または除去するのに必要な管理手段。
従業員の健康と安全に大きな影響を与える可能性のあるあらゆる変更。たとえば、手順や装置、作業方法の変更。
安全衛生関連法の遵守推進を目的として、事業者が適任者(competent people)との協力に関して取り決めた内容。
安全衛生教育の計画。
新技術の導入が安全衛生に及ぼす影響。

具体的な情報

 一方、その他の法律が、より具体的な情報の提供を事業者に義務付けている場合がある。たとえばマニュアル・ハンドリング作業に関する規則(Manual Handling Operations Regulations)は、労働者が持ち上げたり運んだりする積荷の重さに関する情報の提供を事業者に義務付けている。
 また、従業員に提供する情報については、事業者はこれを容易に理解できるものにするとともに、従業員の教育、知識、経験のレベルを考慮したものにする必要がある。
 同時に、提供される情報の理解を妨げるような言語上の問題や障害を抱えている従業員、および英語が母国語ではない従業員に対しては、事業者は特別の注意を払う必要がある。
 実際、英国安全衛生庁(HSE)と労働組合会議(TUC)は、事業者が安全に関するアドバイスを英語でのみ提供しているために移民労働者が安全衛生に関する教育から締め出されかねないという懸念を抱き、新しい安全情報については、ロシア語、アラビア語、ベンガル語、中国語、スペイン語など、21の言語に翻訳して発行することにしている。

職場での安全の権利


 2004年12月に発行された「あなたの健康と安全:労働者のための手引き(Your health, your safety: A guide for workers)」では、職場での安全の権利、事業者から期待すべき安全教育の水準、および、劣悪な職場の慣行によってみずからの安全が脅かされていると判断した場合に誰に訴えればよいかについて説明している。
 労働組合会議(TUC)のフランシス・オグレーディ(Frances O'Grady)副書記長はこの手引きについてコメントし、次のように述べている。「憂慮すべきことだが、職場での死亡災害と重傷事故は今後増加するおそれがある。言語障壁の存在は、安全メッセージが労働者の頭上を通り越してしまうことを意味しているからである」
 この新しい手引き(www.hse.gov.uk/workers/hse27.htmで入手できる)は、政府機関や事業者団体、労働組合、慈善団体、商業出版社から出される安全に関するさまざまな資料のうちの1つにすぎない。
 事業者がまず手を伸ばすのは、英国安全衛生庁(HSE)が発行した公式の指針(ガイダンス)であろう。英国安全衛生庁(HSE)は、安全衛生関係法令の遵守に不可欠な公認実施準則(Approved Codes of Practice: ACoP)やその他のツール類のほかに、ブックレットやリーフレット、ビデオ、CD-ROM、ポスター、オンライン資料などを幅広く揃えている。これらの文書は事業者と従業員の双方にとって大いに役立つものであり、安全衛生のほぼあらゆるトピックに関して権威あるアドバイスを手に入れることができる。
 最後に、事業者がしばしば具体的なコミュニケーション手順を確立する必要性を感じている作業分野として、一人または離れたところで作業している労働者の保護について取り上げておこう。一人または企業構内とは別の場所で作業する労働者、たとえば保守要員、外勤社員、在宅勤務者などの労働者は、安全衛生のリスクに対してきわめて弱い立場にある。

全面的な禁止はされていない

 安全衛生関係法令は一人で作業することを全面的に禁止しているわけではないが、ある種の作業に関して一人で作業することを禁じた規則がいくつか存在する。訓練中の若い労働者や通電中の電気機器に対する作業など、作業の種類によっては監督が義務付けられている場合がある。
 また、事業者は、一人で作業することに起因する危険の特定を目的としたリスクアセスメントの実施を法的に義務付けられている。リスクアセスメントでは、一人で作業する労働者にとって職場自体に特別なリスクがあるかどうか、作業に必要な装置や物質は一人で安全に取り扱うことができるかどうかを見極める必要がある。ついで、すべてのリスクを確実に除去または適切に管理できるよう、安全な作業のための取り決めを定める必要がある。ただしリスクアセスメントの結果、当該作業を一人で安全に遂行することは不可能であることが判明した場合には、事業者は、補助要員や適切なバックアップ要員など、別の取り決めを定める必要がある。
 一方、十分な監督を実施できない場合には、適切な訓練を行うことで、一人で作業する労働者が問題発生時にパニックに陥らないようにすることができる。場合によっては、事業者は一人で作業する労働者の安全と健康を監視するためのシステムを整備する必要がある。たとえば、一人で作業する労働者を監督者が定期的に見回る、電話や無線を使って監督者が定時連絡を行う、といったシステムが考えられる。

予見可能な緊急事態


 事業者は、一人で作業する医学的適性が従業員にあるかどうかをチェックし、予見可能な緊急事態によって当該従業員に余計な心身の負担がかかる場合があるかどうかを評価する必要がある。
 安全衛生に関するコミュニケーションは、多くの形を取りうる。具体的には、安全衛生上の課題をめぐる労働者との協議;安全代表および安全委員会との協力;潜在的リスクおよびそうしたリスクへの対処方法の労働者と請負業者への伝達;最新の関連法律および指針の全社レベルでの徹底;一人で作業する労働者や離れた場所で作業する労働者との連絡の維持;がある。
 ただし、事業者が最も注意すべきことは単純なことであり、それは具体的には、安全に関する問題について従業員に情報を周知することと、従業員の意見に耳を傾けることである。職場の傷害と疾病のリスクに適切に対処しようと思ったら、安全衛生のプロセスに労働者を十分に関与させることが不可欠なのである。