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無理を防ごう

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2002年4月号 p.18-19
(訳 国際安全衛生センター)



HSEはこのほど、作業関連性上肢障害の予防法に関して、全産業界部門の事業者向けに改訂版の手引き注)を発行した。これについて、ベン・キスビーが本資料の主な変更点に迫る。

イギリスでは、作業に起因した上肢障害(ULD )による労働損失日数が年間420万日に上る状況の下、このほどHSEが、職場におけるULDの管理に関する改訂版手引きの小冊子を発行した。
「職場における上肢障害」というこの新しい手引きは、事業者が労働におけるULDを予防管理することを手助けするのを目的として作られ、事業者及び従業員がULD発症のリスクを低減するため、どのように協力することができるかを述べている。これは、1990年にはじめて発行された手引き「作業関連性上肢障害の予防の手引き」に取って替わるものである。


軽視できない
 この改訂版手引書の発行に当たり、HSEのアラン・ホワイトヘッド長官は、「これらの疾病は、労働生活に付き物の結果といって軽視してはならず、過去の職業病と同様、今日でも容認できないものである。今回、上肢障害に関する手引きの見直しを終えたことで、この病気に苦しんでいる多くの労働者、その家族及び事業者に希望を与え、この痛々しい消耗性障害に対処するための斬新な方法を示すことができることを嬉しく思う」と述べている。


組織的側面
 この改訂版手引書の発行は、職場での筋骨格系障害(MSD)を予防するために、安全衛生委員会(HSC)が継続的に実施しているプログラムの一環である。当プログラムの目標は、2010年までに、MSDによる作業関連性疾病例を20パーセント、及びMSDによる労働損失日数を30パーセント減少させることである。
この手引きの見直しでは、ULDの原因となる作業のリスク要因に対するHSEの見解の転換を反映するために改訂されており、ULDは事実上、いかなる職場でも起こり得るが、大抵の場合、予防できるとしている。このため、事業者と従業員の両者に正しい情報を提供し、作業関連性ULDを予防するための最も効果的な方法をアドバイスすることをねらいとしている。
 HSEは本小冊子の中で、過去10年以上に渡って行われた研究の結果、ULDリスクの管理は、作業者の仕事および作業環境の側面に、組織的また肉体的な面から取り組む必要があると明示している。このため、この小冊子では、これら両方の作業側面が扱われ、ULDリスクを管理するための7つの局面アプローチを提示している。まず冒頭にフローチャートを載せ、この7つの局面の概要を示している。


7つの表題
 このチャートは、使用者から受けるであろう多くの質問を概説し、7つの表題にてグループわけしている。この管理アプローチの段階は、以下のとおりである。

  • ULDの医学的症状における特性などの問題、またULDがどのように発症し、障害となるのかを認識する。
  • ULD問題に取り組むための適切な組織環境を整える。
  • 職場におけるULDのリスク評価を行う。
  • ワークステーションおよび設備設計の見直し、作業の交替または自動化、及び作業環境や日常業務の改良など、ULDのリスクを低減する。
  • 従業員に訓練を施し、情報を提供する。
  • 予防していない一切のインシデントを管理する。
  • ULD予防プログラムの効果性をテストするためのチェックを定期的に行う。


問題の程度
 この改正版手引きは、前回の手引きよりも4倍以上の量があり、またこれら7つの段階は、当冊子内でそれぞれ別の項目として考察される構成となっている。
 当手引きでは、ULDがMSDの中のサブカテゴリーと説明されており、筋肉、腱、靱帯、神経、またはその他軟質組織及び関節に起こる多くの症状が示されている。また「上肢」とは、首、肩、腕、手首、手、指を意味し、またULDの症状とは、患部の痛み、また患肢を動かす範囲や速度が減退することを指すと言っている。
 さらに、改正版手引きは、ULDがどの程度の問題であるかを概説しており、これによるとMSDはイギリスで最も発症する作業関連性疾病であり、100万件以上の自己報告による全業務上疾病件数の半数以上を占めているという。


ULDにかかりやすい業種
 これに加え、当手引きによると、イギリスでは年間、約50万件の上肢または首の障害のために、各作業者が平均13日欠勤するとし、労働損失日数は420万日に上ると推定している。また、事業者の損失額は、年間で2億ポンドと推計されている。
 また、ULDはある特定のグループまたは産業部門に限って起こるものではなく、ほとんどの製造業およびサービス業の至る所で広く発症すると明記している。そして、作業者グループの多くで、作業が適切に管理されていない場合、ULDにかかりやすいと述べている。これらの業種には、組立てライン労働者、清掃・家事労働者、建設作業員、衣服加工作業員、美容師、食用獣肉・鳥肉加工者、キノコ取り作業員、陶器取り扱い者、秘書、織物工などが含まれている。
 さらに、当改正版手引きには、4つの付録が新しくついており、企業向けに従業員が作業関連性ULDにかかるリスクを減らすためのいろいろな方法をまとめた、実生活のケーススタディが多数記載されている。また、別の付録には、リスク除去およびリスク評価のワークシートを添付、従業員がULD発病のリスクを伴う作業について、より詳しいリスク評価を行う時期と方法を判断できるように意図されている。一方、3つめの付録には、特定の作業に起因する様々なULDの医学的側面、およびULDの健康管理に関する参考資料が詳記されており、治療法やリハビリテーションの方法などが示されている。


法的責任
 最後の付録には、従業員に対する事業者の責任、およびULDの予防に最も関連のある様々な安全衛生規則についてまとめられている。
 最後にこの改訂版手引きには、さらに充実した参考文献一覧がついており、HSEの指針と範囲、および上肢障害の管理・予防に関連したその他の発行物の文書から引用された、すべての参考資料について、その詳細が示されている。また、多数の関連政府機関省庁や専門協会に関する情報の他、作業関連性ULDに関する情報が入手できるWebサイトの詳細もいくつか記載されている。

注) 「職場における上肢障害(Upper Limb Disorders in the Workplace)」HSG60(改訂版), ISBN 0-7176-1978-8の複写は、HSE Booksより9.50ポンドで入手できる。注文は、HSE Books (電話) 01787 881165、または(Fax)01787 313995まで。