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建設業における労働災害の防止のための新しいガイダンス

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2002年10月号 p.12〜14

(仮訳 国際安全衛生センター)


発注者と元請業者が、作業上の安全衛生をより効率的に管理できるよう支援する試みの一環として、英国安全衛生庁は、安全衛生法の下で彼らの責任を示した新しいガイダンスを発表した。

元請業者のための新ガイダンス

 英国安全衛生庁(HSE)は新しいガイダンス(小冊子)を発行した。このガイダンスは、作業活動を管理したり実施する際に、発注者と元請業者が、自分たちだけでなく、作業員や一般市民の身の安全を守っていくための実用的な手順を提示している。

 『発注者と元請業者の共同責任(Use of contractors - a joint responsibility)』というタイトルのついたガイダンスは、発注者と元請業者が、安全衛生上の全般的な責任に従う方法を解説している。ガイダンスは、発注者と元請業者を次のように定義する。発注者は「元請業者を使用する事業者」であり、元請業者は「発注者のもとで働く従業員ではなく、発注者の所有する土地や建物で働く人びと」である。

 このガイダンスには、作業の安全を確保するために発注者と元請業者がとるべき実用的な手段と、発注者と元請業者が安全衛生義務を正しく遂行しなかった場合、どのような不都合が生じる可能性があるかを示すケーススタディがいくつか提示されている。さらに当ガイダンスは、発注者と元請業者双方に対して、より詳細な指針を示している。


安全責任の明確化

 この新しい小冊子の発行に際し、安全衛生委員会(HSC)会長、ビル・キャラガンは次のようにコメントした。

 「このガイダンスは、一つの文書で安全衛生責任全般が明らかになるという点で、特に発注者と元請業者に有益なものとなるでしょう。仕事を下請けに出すと、責任まで押しつけることがあるものです。しかし、安全衛生上の責任は転嫁できるものではありません。責任は、発注者と元請業者双方にあり、両者の協力は、安全衛生を適切に管理する上で極めて重要です」

「小冊子に記述されているアドバイスは、斡旋業者から派遣された労働者(agency workers)や発注者の土地建物へ配達を行なう業者、『1994年建設(設計および管理)規則(CDM : Construction (Design and Management ) Regulations)』の対象となる作業には適用されない」と明示されている。CDMが適用されている場所では、発注者、元請業者やその他の人々には、特定の法的責任が課せられる。

 「発注者と元請業者の双方は、両者のいかなる関係においても、安全衛生法の下で責任を付与される」という説明でガイダンスははじまる。そして、「発注者が、元請業者に委託しようとする作業内容のすべてを特定することが重要である」と強調している。


特定の法的責任

 ガイダンスにおいては、作業の安全管理に関する6つのステップを概説しており、第一に「発注者は、元請業者が安全に作業を行なう能力を有しているか、確認しなければならない」と述べている。小冊子は、発注者が元請業者の能力を判定する際に調査すべき内容をいくつか列挙している。

 調査すべき事項は以下の通りである。
  その元請業者は、発注者が委託しようとしている種類の作業を実施した経験があるか
  その元請業者はどのような安全方針をもち、どのように実施しているか
  その元請業者の最近の安全実績はどのようなものかーーー例えば、これまでに発生させた事故の件数は何件か
  その元請業者はどのような資格や能力を有しているか
  下請け業者を選定する際に、その元請業者はどのような手順を踏んでいるか

 さらに発注者は、彼らの安全衛生方針声明、手順、許可システムを請負業者に示すべきである。そして、元請業者がそれに従って行動しているか、確認しなければならない。

 下請け業者の選定は、おそらく元請業者に一任すべき内容ではあるが、「発注者が元請業者を選定する際に用いた基準と同程度の基準で下請けを選定するべきである」と小冊子は助言する。そして、「元請業者が、下請け業者の能力をテストするために効率的な手順を踏んでいるかどうか、発注者は確認するべきである」と小冊子は指摘する。


安全リスクを特定する

 元請業者は、請負仕事で生じる安全衛生上の危険要因を特定するために、リスクアセスメントを実行するべきである。元請業者と発注者ーーー両者はすでに、土地建物内で行われる作業に関するリスクアセスメントを実行しているはずだがーーーは、作業による危険を低減し、管理するためにどのような手順を踏むべきかという問題に関して意見の一致をはかるべきである。もし、計画された仕事に下請け業者が参画しているようであれば、その業者も、この段階でガイダンスで述べられているこの手順に加わるべきである。

 続けて小冊子は、「発注者、元請業者、下請け業者は、作業員の安全衛生に影響を与えるかもしれないあらゆる業務に関して、彼らに適切な情報、指示、訓練を与えなければならない」と述べている。さらに、発注者、元請業者、下請け業者は、作業が引き起こす危険、安全ルールや緊急事態への対処の仕方といった危機管理手段に関する安全情報を交換しあっているか、相互に確認しなければならない。

 またガイダンスは、「作業員および作業によって影響を被りかねないすべての人々の安全を確保するために、互いに協力し、協働していくことが重要である」と強調している。このことを確実に実行していくには、「作業が安全に実行されていることを確認するための定期的な状況報告が行われているか」、「発注者、元請業者、下請け業者間でミーティングが開かれているか」、発注者は確認しなければならない。

 さらに、「発注者、元請業者、下請け業者は、安全衛生上の問題に関する従業員たちの相談に応じなければならない」と小冊子は説明している。こうした相談は、労働組合が認知されている場合には労働組合安全代表者を介して行うべきだが、労働組合が存在しない場合には、従業員によって選出された安全代表者を介して行うべきである。


建設業者を監督する

 「元請業者の仕事を効率的に管理監督するために発注者が何をするべきか、決定しなければならない」とガイダンスは明言している。そして、発注者と元請業者との間で同意されるべき数々の事項を概説している。双方の同意が必要な事項は、以下のとおりである。

  どのような装置を手配あるいは使用すべきか、もしくはすべきでないか
  どのような個人用保護具を使用するべきで、誰がそれを供与するのか
  使用される作業手順について
  作業を安全に実施するにはどれくらいの人員が必要か
  事故をどのように報告し、その記録をどのように保管するか

 さらに小冊子は、「発注者と元請業者は、自分たちの安全実績を監視すべきだ」と述べている。その方法として、「リスクアセスメントが最新のものに更新されているか調べる」、「管理手段が機能しているかチェックする」ことが挙げられる。また、「発注者は、元請業者と下請け業者が同意した通りのやり方で作業を行っているか、定期的にチェックするべきだ」と小冊子は述べている。

 さらに「元請業者および下請け業者は、作業が安全に行われているか、日々チェックを怠ってはならない」とガイダンスは述べている。チェックが行われていない場合には、作業が安全に行われることを確認するために必要な手段が(どのようなものであれ)実施されるまで、発注者は作業を中断させなければならない。

 小冊子は最後に、「今後の作業を管理し、実行していく上で役立つような安全に関する教訓を学ぶため、発注者と元請業者は、作業が終了した時点で今まで行ってきた作業を振り返って再検討しなければならない」と述べている。