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記事経営者の新しい安全義務法制定案が棚上げに
Directors' Duties? You'll Have to Wait

資料出所:Safety Management (BSC)
July / August 2006
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2007.06.18

先ごろ、英国 安全衛生委員会 (HSC: Health and Safety Committee)委員長のビル・キャラハン(Bill Callaghan)は、企業経営者の安全責任を強化する新しい安全義務法の制定案が棚上げされた旨を下院議会で述べた。

事の発端は2004年7月、英国下院の雇用年金専門委員会(Work and Pensions Select Committee)が英政府に対し、企業経営者の安全義務にかかわる法律制定を要請したことである。

その後、同委員会は英国安全衛生庁 (HSE)に対し、「民間企業経営者および公共機関責任者に、安全義務を課すために実現可能な方法の検討」を指示した。

しかし5月に、HSEの安全担当責任者らは、制定案の検討を棚上げにし、経営者の責任強化という新しい法律制定の可能性を再検討する前に、法人殺人罪および企業改革の法案に企業経営者の責務を含めるか否かを検討すると決した旨を、雇用年金専門委員会に通達した。

経営者の安全義務にかかわる新しい法律では、大企業の経営者は裁判にかけられず、不公平に中小企業の経営者だけが罰則の対象になることを懸念する雇用年金専門委員もいる。

それに対しキャラハンは、HSEが事業者や利害関係者らと協力して、経営者の安全衛生責務にかかわるさらに信頼のおける(当局の権威ある)指導を策定すると述べている。

英国下院雇用年金専門委員会は、2004年に発表した、その検討結果にかかわる重大な報告を補足する意味でHSC/HSEに異議を唱えているが、HSEが勧告と事業場監督をバランスよく実施しているかという点でもHSEを問題視している。

先ごろ、英国労働組合会議(TUC)(Trade Union Congress)は、2002年、2003年以来、安全監督官による事業場訪問件数が25%以上減少するなど、監督と告発件数の減少は新記録を更新したと主張した。また、重大災害で告発された事業者は40人中わずかひとりであったともTUCは指摘している(Safety Management 2006年6月号、7ページ参照)。

HSE最高長官のジェフリー・ポッジャー(Geoffrey Podger)は、雇用年金専門委員会から監督と告発件数の減少について懸念しているかと問われ、HSEは引き続き「調査と法の施行に対し、これまでとほぼ同量のリソースを投じていく」と言い切った。

またポッジャーは、「HSEでは監督と調査の際に選び抜いた少数の事業場を対象に、多くの時間をかける傾向がある。リスクが高い、または、従業員が特に安全リスクにさらされやすいと考えられる理由がある、のいずれかである事業場をHSEが慎重に選択しているのであれば、この方法は正当化できる」とも述べた。

「現在の監督レベルでは抑止効果はいまだにないと決めてかかるのは間違っている」とポッジャーは、雇用年金専門委員会に回答している。

法人責任センター(Centre for Corporate Accountability: CCA)の広報担当者は、本誌(Safety Management)に、HSCが経営者安全義務法の新制定案を棚上げしたことは「非常に失望した」とコメントしている。広報担当者は、HSC委員長のビル・キャラハンは、経営者の責任を強化する新しい安全義務法の制定案の審議を進める「意向がない」ことは明らかであり、改革を引き伸ばす口実として法人殺人罪を引き合いに出していると述べている。

またCCAは、HSEによる法の施行レベルに対して下院議会が抱く懸念に同感し、「監督官の監督件数の減少理由は理解しにくい」と述べている。

またキャラハンとポッジャーは、HSE自体が十分な点検を怠っている可能性があることを考慮すると、HSEがバンスフィールド石油貯蔵所爆発火災(Buncefield blast)について調査することは適切かとの見解も問われた。キャラハンは、前トーリー党大臣であったニュートン・オブ・ブレントリー上院議員の議長任命手順などに触れ、調査委員会が独立していることを保証する適切な手順がある、と下院議会に断言した。

ポッジャーは、「われわれは自分たちによる裁判所での裁判官や陪審員になろうと思っているのではない」ともコメントしている。バンスフィールド石油貯蔵所爆発火災の前にHSEが最後に実施した点検時期を問われ、ポッジャーは、爆発のほんの一週間前に安全監督官が訪問していたことを認めた。

ポッジャーは問題の貯蔵所の中央にある燃料タンクは監督が行われていなかった、と述べたが、「HSE側に手抜きがあったことを示す証拠は何もないと、個人的には考えている」と言い添えている。

雇用年金専門委員会が提示したもうひとつの問題は、優れた安全記録を達成し、事業者責任保険料(employers' liability insurance premiums)を低減した企業に対し、HSC/HSEが保険会社と協力して実施する報償授与制度の効果が表れているか、という点である。

「総じて、この報償制度は高い関心を引く方法ではないと、保険会社は考えていると思われる。われわれが期待していた進展は達成できなかった」とポッジャーは認めている。

2005年9月に行われた調査では、外部が検証した安全管理制度を導入しても、事業者責任保険料の低減には奏功しないと, 7割以上の事業者が考えているとの報告が出されている。