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オフィス(事務所)の安全衛生

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2002年7/8月号 p.32-41
(仮訳 国際安全衛生センター)



 一般的なオフィスのなかに危険が潜んでいるとは、あまり考えないものである。しかし、実際は、オフィスには危険の防止について留意すべき箇所がかなりある。そこで、オフィスで働く人びとの安全衛生を確保するために、事業者が特に注意しなければならない点をポイントを絞って説明する。


 オフィスが危険な労働環境とは考えにくいものである。無論、建設現場や製造工場での労働に比べれば、事務労働の危険度はかなり低い。しかしながら、オフィスで働く人びとがさまざまな危険---仕事上のストレスから、危険な電気機器の取り扱いまで---にさらされているのも事実だ。そのことを裏づけるかのように、英国安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)は、1994/95年度から1998/99年度の5年間で2,000件近くの重大な傷害事故、そして6,300件を上回る4日以上の休業災害がオフィスで発生していると述べている。
 ところが、当局に報告されている職業性の傷害や疾病の事例はほんの一握りで、事業者から、実際の17%しか報告されていないのではないかと英国安全衛生庁(HSE)は見ている。英国ではおよそ400万人がオフィスで働いている。そうした人びとを危険から守るため、事業者は、オフィスにおける安全衛生上の危険を特定し、その低減のために有効な対策をたてることが極めて重要である。


ディスプレイ装置(display screen equipment)

 事務労働で健康影響が懸念される最大の危険要因は、ディスプレイ装置(DSE)によるものである。ディスプレイ装置そのものが健康に悪影響を与えることはないが、ワークステーションの使い方が悪ければ、オペレータは手や腕、そして手首を痛める---いわゆる作業関連性上肢障害(work-related upper limb disorders:WRULDs)が発生する恐れがある。
 労働医学研究所(Institute of Occupational Medicine)の研究によれば、キーボードを日常的に操作する人びとの実に半数以上が上肢障害の症状を経験しているという。そして、調査対象となった労働者の14%が上肢障害の症状を改善させるために医師の診療を受けている。


一時的な眼精疲労

 労働医学研究所の研究によれば、一時的な肉体疲労や疼痛、そして手根管症候群に代表される柔組織の慢性的な障害を含めた作業関連性上肢障害(WRULDs)の症状は、週のうちかなりの時間をキーボード作業に費やす人や、休憩もとらずに連続的に何時間もキーを打ち続けるオペレータに多発している。作業関連性上肢障害に加えて、ディスプレイ装置を使う労働者は、視力減退、目の充血や痛み、頭痛の原因となる一時的な眼精疲労にもなりやすい。ディスプレイ装置そのものが目の障害の原因になることはないが、以前から目に不調を感じていた労働者はそのことを一層自覚させられるようになる。
 職場の機械類や化学薬品の安全な取扱いといった、非常に限られた分野に関する法令はすでに制定されているが、これだけオフィスに健康影響や傷害を引き起こす危険が存在するにもかかわらず、事務労働者の安全や健康を守るための規則は制定されていない。
 なお、1999年職場安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)は、スリップ、つまずき、墜落・転落などの事故、化学薬品の取り扱い、マニュアル・ハンドリング(注 重量物の運搬等)作業の実施等について事業者にオフィス環境全般での安全衛生に関する危険要因を特定するよう定めている。


コンピュータ機器の安全な取り扱い

 1992年安全衛生(ディスプレイ装置)規則(Health and Safety ( Display Screen Equipment) Regulations 1992)は、DSE規則とも呼ばれ、---こちらの呼称の方が一般的であるが---どこのオフィスでも見られるようになったコンピュータ機器の安全な取り扱いを促進するために設けられたものである。この規則は、事業者に、ディスプレイ装置作業についてリスクアセスメントを実施し、ディスプレイを使う労働者に対して視力検査及びディスプレイ装置の安全な使用法に関する教育を行うよう義務づけている。
 リスクアセスメントを行う者は、使用頻度、継続時間、集中度、仕事のペースを各自考慮に入れる。そして、ディスプレイ装置や家具や労働環境を含むワークステーション全体に加えて、それぞれが取り組んでいる仕事内容や各作業者の特別なニーズについても検証すべきである。
 リスクアセスメントは、ユーザーやオペレータが作業を行う全てのワークステーションについて実施しなければならず、定期的に(機器を変更したり、作業者が変わった時など)見直しが必要である。

作業変更時のリスクアセスメント

 ワークステーションを変更あるいは移動する場合、又は、作業の内容を著しく変更する場合には、改めてリスクアセスメントを行うべきである。事業者は、危険を低減するために、ワークステーションが最低限の必要条件を満たしているようにしなければならない。その必要条件とは、高さを調節できる椅子や適度な照明といった、あらゆるワークステーションが通常備えるべき良い条件のことである。
 事業者は、特に以下の点に留意する必要がある。

  • 作業者に不快感を与えるまぶしさ(グレア)や反射がないこと。
  • 画面上の像が安定していて、ちらつきがないこと。
  • 画面の明るさやコントラストを調節できること。
  • 画面上の文字がはっきりとして鮮明で、適切な大きさであること。
  • 作業者に合うように画面やキーボードを調節できること。
  • 手や腕を支えながら仕事ができるように、キーボードの前に十分なスペースがあること。
  • キーボードの表面が反射してまぶしくないように、つや消し仕上げになっていること。

 ラップトップやその他のポータブルなパソコンを使用する際には、さらに注意が必要である。なぜなら、こうしたパソコンの画面やキーボードは概して小さく、快適に長時間使用することは難しいからである。そこで、携帯用パソコンのユーザーは、楽な姿勢で座り、長時間使用する際にはこまめに休憩をとりながら、キーボードを打つのに適した高さの、安定した平らな場所にパソコンを設置して作業を行う必要がある。


視力検査等

 事業者は、コンピュータを使用している、あるいはこれから使用する労働者については、目の検査と視力検査の機会を提供し、その費用を負担するように法律で義務づけられている。しかし、視力検査は労働者から要望があった時に実施すればよく、また、自営業者には実施を義務づけてはいない。
 視力検査の結果、ディスプレイ装置を操作する際に労働者が眼鏡を使用しなければならない場合、事業者には、眼鏡の基本的なフレームとレンズの費用を負担する義務がある。

 事業者は、適切な仕事のパターンを確立し、働きやすいようにワークステーションを整備し、労働者に対して必要な目や視力の検査を実施するとともに、労働者が、ディスプレイ装置を正しく操作できるように教育・訓練されているようにしなければならない。
 教育の方法としては、ビデオ、壁にはった図、コンピュータ搭載用CD-ROM、情報を満載した小冊子、授業やセミナーなどがある。
 教育の内容には、次の事項が含まれていなければならない。

  • ディスプレイ装置の操作がもたらすリスク
  • 正しい姿勢を保ち、時々姿勢を変えることの重要性
  • 家具を調節してリスクを避ける方法
  • 無理に体を伸ばすような動きをしないですむようにワークステーションを整備する
  • 画面が反射したり、まぶしく感じられないように調整する
  • 画面を調整したり、表面をふく
  • 作業に変化をつけたり、ディスプレイ装置の操作に休憩をはさむ
  • チェックリストや質問票に回答することによってリスクアセスメントに加わる
  • 規則の実施に関する責任の所在を明らかにする

 安全と健康に関するほかの多くの分野と同様、ディスプレイ装置を使って安全に作業をするために最も重要なことは、ディスプレイ装置が健康に及ぼすリスクについて、十分に労働者に説明することである。事業者はディスプレイ装置を使用する労働者に、休憩をとったり、作業に変化をつけることの重要性、そして視力検査を受けたり、必要に応じて機器を変える権利があることを十分に周知するべきである。さらに、事業者は、健康と安全を脅かす危険要因がディスプレイ装置以外にも数多くオフィスに存在することを認識しなくてはならない。


防火対策

 防火はあらゆる職場において極めて重要な課題であり、多量の紙類を保管するオフィスにおいても同様である。
 オフィスには、火災の原因となりうる様々な物質や作業がある。例えば、燃えさしのタバコ類から紙くずに火が燃え移る可能性もあるし、電気機器の故障や欠陥が出火原因になることもある。
 このため、オフィスで働く事業者は、万一出火した際に職場の全員が無事避難できるように、避難路の確保や消火設備の設置など、適切な防火対策をとる必要がある。
 また、万一出火した際には、ビルで働く人びとが迅速かつ安全に退避できるような効率的な避難手順を予め設定しておくことも不可欠である。事業者が避難手順を決める時には---例えば規模の大きいオフィスでは、全員が避難路に一挙に殺到して将棋倒しになることを避けるため、段階的に避難する必要があるといったように---さまざまな要因を考慮しつつ行わなければならない。また、緊急事態が発生した時には、出火場所、規模、救出すべき人間の有無など、必要な情報は細大もらさず消防当局へ報告できるよう、従業員への指導を徹底させなければならない。
 労働者は非常口の位置や社外の集合場所も予め確認しておく必要がある。
 不測の事態に備え、毎年避難訓練を行い、火災警報器が鳴った時や出火を発見した際の対処方法について、明確な指示を記した出火対策に関する注意書きをビルのなかに掲示するべきである。



電気機器

 ディスプレイ装置を含むワークステーションを使いやすいように設計し、安全に使用することは重要だが、オフィスの電気機器が適切にメンテナンスされ、問題がないか定期的に検査することも同様に大切である。なぜならオフィスの電気機器の不具合を原因とする職場の事故が多発しているからである。摩耗したリード線や配線の悪いプラグがオフィスの感電事故や火事の原因となる場合もある。
 事業者は、扇風機、湯沸かし、コピーなどのポータブルなオフィス機器の保全検査に利用されるポータブル機器検査システム(PAT)を、ポータブル電気機器がもたらす危険を回避するために利用することができる。
 ポータブル電気機器の不具合の95%は、外側からの点検で発見できることを英国安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)は証明している。このため、法律上の要件を満たすには、定期的に目で点検すれば、それで十分と言えよう。
 また、事業者はアースの必要な機器と電気機器につながるプラグやリード線について、点検と検査の両方を実施する必要がある。


スリップ、つまずき、墜落・転落

  職場の安全衛生上の危険で特に目立つのはディスプレイ装置や電気機器によるものだが、HSEの調査によると、職場で最も頻繁に発生している事故はスリップ、つまずき、墜落・転落によるものである。
 実際に、1994/95年度から1998/99年度までの間にオフィスで発生した大事故のうち、半数がスリップ、つまずき、墜落・転落によるものであった。
 しかし、こうした事故の多くは比較的容易に原因を突きとめられ---例えば、ケーブルが床をはっていたり、飲み物がこぼれていたり、段ボールの箱が通路をふさいでいた等---簡単に対処できるものである。
 原因究明が容易とはいえ、スリップやつまずきによる事故が頻発していることから、事業者はこうした事故を減らすための対策を講じる必要がある。
対策は、次のとおりである。

  • ケーブルが通路を横切らないようにする---ケーブルをカバーで覆い、床面に固定させること。
  • すりきれたカーペットや床材は、補修したり、新品と交換する。
  • 床に何かをこぼしたら、速やかに拭き取る。床が乾かず、しばらく濡れたままの状態になるときは標識を掲げ、周囲に注意を促す。
  • 階段や廊下の照明は十分に明るくし、階段吹き抜け部分に必ず手摺りをつけること。
 オフィスで働く人びとの健康と安全を確保する上で、労働環境の整備は極めて重要である。そのために、事業者は十分な天井高と床面積、何もおかれていないスペースを提供しなければならない。健康を確保するためには、最低でも一人あたり11立方メートルの空間が必要と考えられている。


快適な職場環境

  1992年職場に関する(衛生、安全と福祉)規則(Workplace (Health, Safety and Welfare) Regulations 1992)では、仕事部屋の温度の上限に関する規定はないが、最低でも16℃以上に保つように提唱しており、「仕事がやりやすい快適な温度に保たなければならない」と明記している。職場が異常に暑かったり、寒かったりする時は、部分的に暖房したり冷房したりできるような装置を設置すべきである。


光源

 また、職場の照明も従業員にとって重要な問題である。オフィスに自然光---窓や天窓を通して---を採りいれられるなら、可能な限りそうすべきだが、それだけでは不十分で、人工的な照明が必要な場合もある。どのような光源を利用するにしても、安全に作業が行えるように十分な明るさを確保しなければならない。
 一般的に、職場の照明は、働く人びとが危険---スリップやつまずきなど---を察知できるだけの明るさがあり、環境や仕事の種類に適したものを選ぶべきである。
 一方、労働者の作業の種類によって適する光源も変わってくる。例えば、ビジュアル・ディスプレイ装置を使って作業をする人は、スクリーンがギラギラと反射したりせず、眼精疲労を起こしにくい光源が必要である。


仕事内容の見直し

 オフィス内にはこの他にも数多くの危険が潜んでいる。オフィスで働く人びとは、職場で箱などの物体を運ぶ機会が多いと思われるが、そうしたものも誤った方法で動かすと重いケガ---腰の損傷、捻挫、骨折など---を負いやすい。例えば、1994/95年度から1998/99年度の間に物体を持ち上げたり、運んだりする作業によって、大きな傷害事故が116件発生しており、オフィスで発生した4日以上の休業災害件数の31%に相当する1,968件の事故が発生している。
 1992年マニュアル・ハンドリング作業に関する規則(Manual Handling Operations Regulations 1992)は、マニュアル・ハンドリング作業による傷害事故の危険を低減するための処置をとるよう要求している。「傷害事故をなくす最善の方法は、仕事のやり方を再設計したり、リフトやベルトコンベアーなどの機械類を導入するなどして、モノを持ち上げたりする作業を全面的にあるいは可能な限り撤廃することだ」とマニュアル・ハンドリング規則に定められている。したがって、たとえば重い箱を運ぶ際には、手で運ぶ前にまず道具を使って運べないかを考えてみるべきである。
 しかしながら、マニュアル・ハンドリング作業が避けられない場合には、事業者はリスクアセスメントを行わなければならない。職場に介在する危険でマニュアル・ハンドリング作業と関連するものすべてを見直し、それから仕事内容、負荷、個人の能力、持ち上げ作業等が行われる環境についてチェックする必要がある。
 マニュアル・ハンドリング作業を行う際、労働者は以下の事項に留意すべきである。
  • 自分で扱える以上の重いものを無理して運ぼうとしない
  • 運搬する荷物をしっかりつかんで運ぶ
  • 決して片手で荷物を運ばない
  • 荷物の重さを均等に分散させる
  • 腰でなく足の屈伸を利用して荷物を持ち上げる。

化学物質への暴露

 普通のオフィスビルは実験室に比べ、化学物質による危険がほとんどないように思われているが、コピー機のトナーや基本的な洗剤にも危険な化学物質が含まれていることを忘れてはならない。
 1999年有害物質管理規則(Control of Substances Hazardous to Health (COSHH) Regulations 1999) は、オフィスにおける化学物質ならびに有害物質への暴露の危険を特定するよう、事業者に命じている。そして、労働者がオフィスで化学物質を扱う際、その危険性を十分承知した上で作業を行えるように事業者は指導を徹底させなければならない。
 しかし、このような予防措置を講じても、オフィスの事故を完全になくすことは難しい。万一、事故が発生したら、まず会社の救急員(first aider)もしくは救護役に指名された担当者(appointed person)に連絡をする。従業員が50名未満のオフィスであれば、トレーニングを受けた救急員ではなく救護役に指名された担当者しかいない場合もある。救護役に指名された担当者は、会社のために救急措置に関する手配を受け持つ。


オフィスにおける職場のストレスへの取り組み

 HSEは、職場のストレスを職業性疾病の一つととらえ、その重大性に危機感を募らせている。1999年に行われた安全衛生庁(HSE)の調査によれば、従業員の5人に1人は仕事によるストレスを自覚し、なかでも事務労働者はストレスによる影響を最も受けやすいことがわかっている。
 近代的なオフィスの多くは、強いプレッシャーがかかる環境で、そこで働く人びとは強度のストレスを感じる場合がある。そして、それが免疫機能の低下や心疾患、そして不眠症などの肉体的および行動上の症状を誘発することもある。
 こうした結果を踏まえ、安全衛生委員会(Health and Safety Commission:HSC)は職業性ストレス問題と取組むために、あるプログラムを開発した。HSCは、そのプログラムの一環として、HSEに、仕事によるストレスと取り組むための、管理上の優良規範に関する新しい基準を設けるよう要求している。HSCは、仕事によるストレスの原因究明をさらに進めるため、2003年までは新基準は設定されないだろうと明言している。新基準が設定された後、HSCは、職場のストレスに関する公認実施準則(Approved Code of Practice)を導入するか否か、決定する。
 現在までのところ、事業者はオフィスのストレス問題と取り組もうとしても、頼りとする法的根拠がなかった。1999年職場安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)は、ストレスを含め、働く人の健康と安全を脅かす危険を特定するために、職場のリスクアセスメントを実行し、そしてその危険を管理するための適切な措置を講じるよう事業者に命じている。
 しかし、「ストレスに対処するために必要なのは、何よりも良い経営者と彼らの労働者に対する思いやりだ」とHSEは述べている。労働者たちを丁重に扱い、一貫した態度で接し、コミュニケーションを十分にとることで、彼らのストレスをかなり和らげることができる。
 そして、「職場のストレスを軽減するためにより積極的に行動したい」と考える事業者は、「仕事によるストレスを軽減する政策」を打ち立て、経営側と労働者が一体となって真剣にこの問題に取り組んでいくべきである。
 その際、仕事によるストレスが個人の問題ではなく、経営側、職員、そして組織全体が一丸となって取り組むべき労働衛生上の課題であることを、ストレス政策のなかで強調する必要がある。