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資料HSEの実効あるリスクアセスメント/マネジメントに関する資料

HSE [イギリス安全衛生庁]
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2008.03.25

実効あるリスクマネジメントに関するよくある質問とその回答(FAQ) [ 原文 ]

用語の定義

ハザードとは?
ハザードとは、危害をもたらす可能性のあるあらゆるものをいう。たとえば、足場に手すりがないこと。
リスクとは?
リスクとは、ハザードが人や物に特定の危害をもたらす可能性をいう。たとえば、足場に手すりがない場合、建設作業員は足場から墜落・転落して骨折する可能性がある。
リスクマネジメントとは?
リスクマネジメントとは、職場に存在するリスクのアセスメントを行い、リスクを防止するための各種の実効ある安全衛生措置を講じ、実際にこれらの措置が確実に機能するようにするプロセスをいう。
リスクアセスメントとは?
リスクアセスメントとは、危害を防止するのに十分な予防措置をすでに講じているかどうか、それとも危害を防止するためにさらに措置を講じる必要があるかどうかを判断するために、作業中に人々に危害をもたらす可能性があることを注意深く検討することである。
「ALARP」、「SFAIRP」の意味は?
HSEではこれらの略語を使うことがある。ALARPは「合理的に実施可能な範囲でできるだけ低く(as low as reasonably practicable)」であり、SFAIRPは「合理的に実施可能な範囲で(so far as is reasonably practicable)」である。これら2つの略語の意味は、本質的には同じである。ただし、英国労働安全衛生法と各種規則の中で最もよく使われるのは、後者のSFAIRP(so far as is reasonably practicable)の方で、ALARP(as low as reasonably practicable)という用語は、実際にリスクに関わる当事者がよく使う。
「合理的に実施可能な」の意味は?
「合理的に実施可能な(reasonably practicable)」とは、職場における安全衛生上のリスクを防止する措置を講じるための(経済的な費用だけでなく、時間と手間も含めた)コストが、当該リスク低減の効果と「はなはだしく不釣り合いである(grossly disproportionate)」場合を除いて、職場における安全衛生上のリスクを防止する措置を講じる必要があることを意味している。こうした措置については事業者が各自で判断して講じることもできるし、広く受け入れられている優良事例(good practice)を適用する方法もある。

リスクアセスメント

リスクアセスメントは、なぜ重要なのか?
安全衛生上のリスクを防止すれば、事業者は事業運営をより確実なものにすることができる。なぜなら、事業がリスクにさらされる可能性もそれだけ低くなるからである。リスクアセスメントは、事業者自身、労働者、そして一般公衆における災害と疾病の発生防止に貢献する。災害と疾病は人命を奪う場合があるだけでなく、生産物の逸失や設備の損傷、保険料の負担増、さらには裁判所への出頭義務などによって、事業にも大きな損失をもたらす。事業者には、職場においてリスクアセスメントを実施し、リスク防止計画を実施する法的義務がある。
リスクアセスメントはどのように実施するのか?
HSEの資料「5ステップリスクアセスメント」を参照してほしい。この資料では、労働安全衛生のためのリスクアセスメントの実施方法について説明している。この資料で説明されている方法が唯一のリスクアセスメントの実施方法というわけではなく、特により複雑なリスクや環境を対象としたリスクアセスメントの実施方法など、ほかにも優れたさまざまな方法がある。ただし、多くの企業にとっては「5ステップリスクアセスメント」で説明している方法が最も容易であるとHSEは考える。
リスクアセスメントの実施方法は、HSEの5ステップリスクアセスメントだけか?
いいえ。HSEでは、「5ステップリスクアセスメント」が容易なリスクアセスメントの実施方法だと考えているが、これがが唯一の認められる方法だというわけではない。
ほかにもさまざまな方法が存在し、そのほとんどは、次に示す「5ステップリスクアセスメント」と同じ手順に従っている。
  • ハザードを特定する
  • 誰がどのような危害を被る可能性があるか見極める
  • リスクを評価し、予防措置について検討する
  • 調査結果を記録し、予防措置を講じる
  • リスクアセスメントを見直す
ほかの方法では、上の「リスクを評価する」段階が異なっていることが多い。この「リスクを評価する」段階でHSEが勧めているのは、事業者が自分の講じている各種防止手段と優良事例とを比較して、さらに措置を講じる必要があるかどうかを判断することである。しかし、よく見られる別の非常に有益な方法では、危害が発生する可能性と危害が発生した場合の重大度をカテゴリー分けし、これら2つのリスク決定要因の組み合わせから、リスクマトリクスを作成して、リスクレベルを判定する方法をとっている(下記を参照)。どのリスクを最優先させるべきかは、リスクレベルによって決まる。ほかの方法でリスクアセスメントを実施する場合もそうだが、リスクアセスメントのプロセスを必要以上に複雑にするべきではない。たとえば、カテゴリー分けするときは、カテゴリーの数を増やし過ぎないようにする。
      危害発生時の重大度
    若干有害(Slightly Harmful)1 有害(Harmful)2 極めて有害(Extremely Harmful)3
    危害発生の可能性 ほとんどない(Highly unlikely)1 無視できる(Trivial)1 許容可能(Tolerable)2 中程度(Moderate)3
    まずない(unlikely)2 許容可能2 中程度4 甚大(Substantial)6
    ありうる(Likely)3 中程度3 甚大6 許容できない(Intolerable)9
マトリクスを使うと、各種措置の優先付けを簡単に行うことができる。マトリクスの使用は、アセスメントの件数がきわめて多い場合に適しているが、特に複雑な状況を対象とする場合に威力を発揮する。ただし、マトリクスを使用するには、危害が発生する可能性を正確に把握するために、かなり高度な知識と経験が要求される。危害発生の可能性を正確に把握できないと、不要な防止措置を講じたり、重要な防止措置を見落としたりすることになりかねない。専任で安全衛生分野を担当する人々は、しばしばこのマトリクスを使う方法を利用する。マトリクスを使う方法は、「5ステップリスクアセスメント」の「優良事例」アプローチの代わりに使用できる良い方法である。
誰をリスクアセスメントに参加させるのか?
アセスメントを実施する際は、必ず従業員と安全代表を参加させる。これをどのように実現すればよいかについては、HSEの「労働者の参加(Worker Involvement)」ウェブページを参照してほしい。また、新入社員、若年者、出産後の女性や妊婦、障害者など、特別の配慮が必要な労働者にも、必ず声をかけることが大事である。
リスクアセスメントの記録には、なにを記述する必要があるか?
リスクアセスメントの記録では、次が明らかとなるように記述する必要がある。
  • ハザードの適切なチェックを行ったこと。
  • 影響を被る可能性のある人に実際に質問を行ったこと。
  • 影響を被る可能性のある人数を考慮しつつ、重要性の明らかなすべてのハザードを対象にしたこと。
  • 予防措置が合理的で、残存リスクは低いこと。
  • リスクアセスメントのプロセスに従業員またはその代表を参加させたこと。
リスクアセスメントは、いつ実施するのか?
リスクアセスメントは、リスクを生じる作業を行う前に実施し、必要に応じて見直す必要がある。
実施したリスクアセスメントの見直しは、いつするのか?
変化のない職場はまれである。企業活動には、新しい装置や化学物質、作業手順の導入はつきものであって、これらのものが新しいハザードをもたらす可能性がある。したがって、毎年を目安に以前のリスクアセスメントが適切かどうかを見直し、改善が進んでいること、少なくとも後退はしていないことを確認する必要がある。
同じ年度内であっても、職場に大きな変更があった場合には、躊躇することなくリスクアセスメントを見直し、必要であれば修正を加える。可能であれば、変更を計画する際にリスクアセスメントについても考慮しておくのがベストであり、そうすることで事業者としても対応に柔軟性を持たせることができる。
「5ステップリスクアセスメント」のステップ5を参照のこと。
「優良事例」(good practices)とはどういう意味で、どうやって見つけるのか?
優良事例(good practice)とは、HSEまたは地元当局から法律遵守の模範例として認められた事例をいう。優良事例は必ずしも「一般慣行(custom and practice)」を意味せず、「一般慣行」が劣悪な事例である場合もある。優良事例についての情報源はたくさんあり、HSEでは各業界と協力して優良事例の指針を作成している。HSEのウェブサイトHSEのインフォライン(Infoline)、そして「職場の健康ホットライン(Workplace Health Connect)」が大いに役立つはずである。

実効あるリスクマネジメント

リスクアセスメントの実施にあたってコンサルタントに相談する必要はあるか?
ほとんどの場合、その必要はない。リスクアセスメントは、ほとんどの人が実施可能な簡単なプロセスであり、わずかな時間と少しの手間をかければできるからである。危険性の特別に高い工程や複雑な工程が存在する場合には、コンサルタントの協力が必要になるかもしれないが、多くの企業では事業者自身または従業員中の適任者だけで十分なアセスメントを実施できるはずである。HSEの「5ステップリスクアセスメント」リーフレットを活用してほしい。
常識に従うことが重要である。電気器具のプラグを別のコンセントに差し替えるのに電気技師は必要ないが、屋内配線を変更するときには、電気技師が必要になる。リスクアセスメントの場合もこれと同じである。
リスクアセスメントの結果は記録する必要があるか? 必要があるとすればなぜか? お役所的ではないか?
安全衛生法により、従業員数が5人以上の事業者は、アセスメントで見つかった重要な結果を記録することを義務付けられている。アセスメントを見直す際に以前とどこが変わったかチェックできるよう、アセスメントの記録を残しておくのは合理的なことである。また、アセスメントの結果を従業員と共有できる点でも記録の保持は有益である。さらに、安全衛生監督官から質問のあったとき、リスクアセスメントを実施したことの証明となる。
リスクアセスメントの記録に使用する様式は指定されているのか?
指定されていない。ただし、「5ステップリスクアセスメント」リーフレットに含まれている未記入の様式を使うことができる。事業者のリスクアセスメントを記録する方法は任意である。
リスクアセスメントに意味はあるのか?社内の人間はすべて大人だし、わざわざ人から言われなくとも自分の面倒は自分で見ることができるのだから。
すべての労働者は、安全衛生におけるリスクが適切に防止された環境で労働する権利がある。安全衛生に関する法律では、そうするための基本的な責任が事業者に課せられている。リスクアセスメントの実施は、事業者自身、労働者、そして一般公衆における災害と疾病の発生防止のカギである。災害と疾病は人命を奪う場合があるだけでなく、生産物の逸失や設備の損傷、保険料の負担増、さらには裁判所への出頭義務などによって、事業場にも大きな損失をもたらす。
一方、労働者も、自身の安全衛生に加えて、自分の行為によって影響を被る可能性のある人々の安全衛生について注意を払う義務を負っている。したがって、安全衛生に関する法律では、事業者と労働者が協力することを義務付けている。リスクアセスメントに労働者とその代表を参加させることは、こうした協力の最善の方法の一つである。詳しくは、HSEの「労働者の参加(Worker Involvement)」ウェブページを参照していただきたい。
リスクアセスメントは安全対策をいたずらに増やすだけで、そのほとんどは無駄なのでは?
そうではない。リスクアセスメントを適切に行うことによって、「合理的に実施可能」で、それを超えない範囲で、できるだけリスクを低く抑えるのに必要な措置を特定することができる。リスクアセスメントを実施することにより、ある工程が、すでに講じている措置によって十分安全であり、それ以上の措置を講じる必要がないことを示せる点は重要である。
HSEも自身がリスクを過剰視しているのでは?
HSEはそう考えていない。HSEが目指すアプローチは、到達不可能な目標である絶対の安全と、生命と経済に損失を与える劣悪なリスクマネジメントとの間で適切にバランスを取ることである。一言で言うなら、目標はリスクをマネジメントすることであって、リスクを除去することではない。詳しい説明については、「実効あるリスクマネジメント(Sensible Risk Management)」の項を参照してほしい。HSEでは、HSEの提案について広く意見を求めており、HSEと異なる見解を持つ人の意見にも耳を傾けている。

予防原則

予防原則とは?
予防原則(precautionary principle)を適用する必要があるのは、非常に特殊な状況に対してだけである。通常の事業者はまず該当しないと考えてよい。
予防原則の考え方は、何らかのもので危害が生じる可能性があると信じるだけのもっともな理由が存在するものの、完全なリスクアセスメントを実施するのに十分な科学的知識がまだない場合に、そのことを口実として何らの危害防止策も講じないことは避けるべきである、というものである。したがって予防原則が適用されるのは、少数の新しいハザードであり、これらのハザードがもたらすリスクについてまだ十分な知見が得られていない場合に限られる。予防原則は、リスクの多くの部分がすでに明らかにされているよく知られたハザードに適用するべきではない。

予防原則についての詳細

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