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NORA(National Occupational Research Agenda)について

資料出所:NIOSHホームページ http://www2a.cdc.gov/NORA/NORAabout.html

(仮訳 国際安全衛生センター)

 1996年4月、NIOSHとそのパートナーたちは、今後十年間、NIOSHだけにとどまらず、労働安全衛生関係諸組織全体の労働安全衛生研究を方向付ける枠組みとしてNORA(National Occupational Research Agenda)を公表した。NORAの策定にあたっては、NIOSH外部の500近くの組織および個人の意見が採り入れられた。NORAの策定前は、労働安全衛生の分野における全米レベルでの研究課題は存在せず、また、いかなる分野の研究課題であれ、NORAのように広範な意見とコンセンサスが得られたものはなかった。NORA策定のプロセスは、(以下に掲げるような)上位21の優先研究課題についての見事なコンセンサスとなって結実した。

NORAの優先研究分野

疾病と傷害(Disease and Injury)
アレルギー性および刺激性皮膚炎(Allergic and Irritant Dermatitis)
喘息および慢性閉塞性肺疾患(Asthma and Chronic Obstructive Pulmonary Disease)
受胎および妊娠の異常(Fertility and Pregnancy Abnormalities)
聴力損失(Hearing Loss)
感染症(Infectious Diseases)
腰部障害(Low Back Disorders)
筋骨格系障害(Musculoskeletal Disorders)
外傷性傷害(Traumatic Injuries)
作業環境と労働者(Work Environment and Workforce)
新技術(Emerging Technologies)
屋内環境(Indoor Environment)
複合ばく露(Mixed Exposures)
仕事の組織(Organization of Work)
リスクを有する特定集団(Special Populations at Risk)

調査研究の手段とアプローチ(Research Tools and Approaches)
がんの研究方法(Cancer Research Methods)
管理技術と個人用保護具(Control Technology and Personal Protective Equipment)
ばく露評価の方法(Exposure Assessment Methods)
保健サービスの調査(Health Services Research)
介入措置の効果の調査(Intervention Effectiveness Research)
リスク評価の方法(Risk Assessment Methods)
職場の疾病および傷害の社会的経済的影響(Social and Economic Consequences of Workplace Illness and Injury)
監視調査の方法(Surveillance Research Methods)


 NORAが生まれた背景には、官民両部門における労働安全衛生研究は、限りある資源を分野を定めて重点的に使うことで効果を上げられるはずだという認識があった。また、NORAの策定者たちは、米国の職場のさまざまな変化と多様化の進む労働力に対処する必要性も認識していた。米国経済における職業の分布は、引き続き製造業からサービス業へとシフトしている。長時間労働、コンプレストワークウィーク(compressed work week)注)、交替制勤務、不安定化する雇用、パートタイム労働、および一時雇用は、今日の職場の現実である。米国の労働者数は2008年には推定1億5,500万人に達し、このうち少数民族は28%、女性は同48%を占めると見積もられている。

 NORAでは、発生率が依然高い職場の傷害と疾病を最も削減できそうな分野に研究の対象を絞るという、広く認識されている必要性を考慮している。毎日、平均9,000人の米国労働者が仕事中に就労不能傷害を負っており、16人が仕事で受けた傷害によって死亡し、137人が業務関連疾病で死亡している。こうした犠牲の経済的負担は依然として高い。NIOSHが資金援助したある研究で得られたデータでは、職業上の傷害および疾病の直接・間接費用は毎年1,710億ドルにのぼることが示されている(傷害によるものが1,450億ドル、疾病によるものが260億ドル)。こうした費用は、エイズの330億ドル、アルツハイマー病の673億ドル、循環器系疾患の1,643億ドル、がんの1,707億ドルとも並ぶものである。

 NORAの策定は、労働安全衛生研究の方向付けと推進へ向けたNIOSHと多数のパートナーの取り組みにおける最初の一歩にすぎなかった。しかしすでにNORAが公表された時点で、NORAの実施へ向けた決意、すなわち21の優先分野における活動と資源を増大させるという共通の決意があった。NORAの実施が始まって最初の5年間で、NIOSHとそのパートナーが実際に示したのは、NORAによって21の優先分野で資金調達と研究活動が推進されているということだった。この成功を後押ししているのは、パートナーシップから生まれた20のチーム(筋骨格系障害に関する2つの優先研究分野は1つのチームが担当している)である。

 NORAが策定される以前、労働安全衛生研究はバラバラに行われていて、重要な問題に対する「行き当たりばったり」的なアプローチが弊害になっていた。NORAにより、米国は職場の傷害、疾病、および死亡に対し、より適切に対処できるようになっている。

 職場の傷害と疾病の問題に対処するのに必要な新しい研究を促進するうえで、NORAは大きな成果をあげている。主な取り組みが始まったのは、NIOSHとその連邦レベルのパートナーである3つの機関がNORAの10の優先研究分野に対し約800万ドルの助成金を交付した1998会計年度で、これは外部の労働安全衛生研究に対する連邦政府の資金援助としては過去最大のものだった。NIOSHは引き続き1999会計年度もこうしたパートナーシップを推進し、さらに6つの連邦機関と共同で、分野を絞った2つのRFA(Request for Applications)を公表した。

 この動きは2000会計年度も続き、次の9つの連邦機関が加わった:国立がん研究所(National Cancer Institute: NCI);国立心臓・肺・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute: NHLBI);国立老化研究所(National Institute on Aging: NIA);国立アルコール乱用・アルコール中毒研究所(National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism: NIAAA);国立アレルギー・感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases: NIAID);国立関節炎・筋肉・皮膚研究所(National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases: NIAMS);国立聴覚・伝達障害研究所(National Institute on Deafness and Other Communication Disorders: NIDCD);国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences: NIEHS);環境庁(Environmental Protection Agency: EPA)。これら連邦レベルのパートナーは2000会計年度、NORA関連分野に対し600万ドルを超える資金援助を行った。NIOSHは2000会計年度、NORAのすべての分野に対し(1999会計年度から600万ドル増の)総額約3,270万ドルに達する助成金を交付した。



注)コンプレストワークウィーク(compressed work week)−−−1日当たりの労働時間を変則的にして、「1日8時間x週5日」よりも集約されたスケジュールにすること。たとえば、「10時間x4日、1日休み」、「9時間x4日、4時間x1日」等。