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国立労働安全衛生研究所
(National Institute of Occupational Safety and Healt, NIOSH)について


資料出所:NIOSHホームページ http://www.cdc.gov/niosh/about.html

(仮訳 国際安全衛生センター)

国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)について

 NIOSHは、業務関連傷害・疾病の防止を目的とした研究および勧告を行う連邦機関である。NIOSHは、米国保健社会福祉省(Department of Health and Human Services: DHHS)管轄下の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)の1組織である。


NIOSH創設の経緯と使命

 1970年の労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act of 1970)により、NIOSHと労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration: OSHA)が創設された。OSHAは米国労働省(U.S. Department of Labor)が管轄する組織で、職場の安全衛生に関する規制を策定、執行する役割を担う。NIOSHは保健社会福祉省が管轄する組織であり、労働安全衛生分野における研究、情報、教育、および訓練の提供を通じて、働く男女のための安全で衛生的な労働環境の確保を支援することを目的として設立された機関である。NIOSHは、情報の収集、学術研究の実施、および、これらを通じて獲得した知識の製品とサービスへの応用によって、業務関連の疾病、傷害、障害、および死亡を防止するために、国内外でリーダーシップを発揮している。NIOSHに課せられた使命は、すべての米国労働者の安全衛生にとってきわめて重要な意味を持っている。毎日、平均9,000人の米国労働者が仕事中に就労不能傷害を負っており、16人が仕事で受けた傷害によって死亡し、137人が業務関連疾病で死亡している。リバティ・ミューチュアル(Liberty Mutual)の2002年職場安全指標(2002 Workplace Safety Index)の推計によると、労働傷害の直接費用は1999年に401億ドルに達し、同間接費用は2,000億ドルを超えるまでになった。


戦略目標

NIOSHが掲げる目標は次のとおりである。
  • 業務関連の疾病および傷害を減少させるための研究調査の実施
  • 各種の介入措置、勧告、および能力構築を通じた安全で衛生的な職場の推進
  • 国際協力を通じたグローバルレベルでの職場の安全衛生の強化
詳細については「NIOSH戦略計画概要2004〜2009年(NIOSH Strategic Plan Outline 2004-2009)」を参照のこと。


NIOSHの所在地

 NIOSHの本部はワシントンDCにあり、オハイオ州シンシナティ、ウェスト・バージニア州モーガンタウン、ペンシルバニア州ピッツバーグ、ワシントン州スポーケン、およびジョージア州アトランタに研究所と事務所がある。専門とする分野が多岐にわたるNIOSHには1,400人を超える職員がおり、疫学、医学、産業衛生、安全、心理学、工学、化学、統計学など、幅広い専門分野がカバーされている。


NNIOSHの研究

 NIOSHの科学者たちは分野横断的なチームを構成して活動しており、業務関連の傷害および疾病を防止または減少させるために、組織内外の研究を組み合わせた重点的なプログラムを実施している。1996年には、NIOSHおよび500を超えるパートナーが、21の優先研究分野における労働安全衛生関係諸組織の取り組みの指針となる枠組みとして、NORA(National Occupational Research Agenda)を設けた。NORAでは、外傷性傷害、喘息および慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)、聴力損失、および管理技術といったさまざまな研究分野が網羅されている。これらの優先分野は、NIOSHの連邦レベルおよび非連邦レベルのパートナーからの幅広い意見を採り入れて決定された。NIOSHは1996年以降、組織内外の研究の調整を図って、NORAの優先分野への取り組みを強化している。

その他の研究:


最近の研究業績

 NIOSHの研究は労働安全衛生を大きく前進させている。NIOSHの業績には以下のようなものがある。
  • 建設業における職場の死亡事故の主要原因である墜落・転落を引き起こす各種リスク要因をより適切に研究するために、高所にある作業場をシミュレートするバーチャルリアリティ(仮想現実)技術を開発した。

  • 医療現場における結核の伝染防止を目的とする紫外線殺菌照射の効果を評価した。

  • 看護補助員、病棟勤務員、および付き添い人の腰部傷害を防止する最新式つり上げ装置の評価を行った。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹る危険が高い業界と職業を特定し、職場でのばく露に起因するものの割合を業界別職業別に見積もった。

  • 鉱業向け騒音制御技術の現状を明らかにし、3,600件を超える聴力検査を実施する一方で、労働者に対し聴力保護の教育訓練を行った。

NIOSHのその他の最近の研究については、NIOSHのプログラムの概要を参照のこと。


予防、監視、および教育訓練とコミュニケーションに関するNIOSHの各種プログラム
  • NIOSHの健康への危険有害性の評価(Health Hazard Evaluation: HHE)プログラムは、事業者、労働者とその代表者、および他機関からの職場評価の要請に応えるものである。HHEプログラムにより、NIOSHは現在のハザードを特定し、ばく露の抑制と、疾病、傷害、および障害の防止のための実際的かつ科学的に有効な対策を勧告する。最近のHHEでは、ミズーリ州の電子レンジ用ポップコーン加工工場で頻発していた珍しい呼吸器疾患について調査が行われた。NIOSHは、労働者の疾病の原因が、人工バター香料から発生した蒸気の吸入によるばく露であることを突き止めた。工場を操業する会社は、労働者を保護するためのNIOSHの各種勧告を制度として取り入れ、NIOSHの科学者らは、この問題の本質と広がりをさらに詳しく見極めるために、実験・検査とアウトリーチの取り組みを続けている。

  • NIOSHは1998年、消防士の死亡の調査・防止プログラム(Fire Fighter Fatality Investigation and Prevention Program)を立ち上げた。このプログラムは、監視、死亡事故の調査、および実際的な種々の勧告の作成とその普及を通じて、消防士の職務中の死亡と傷害を減少させることを目的としている。プログラムの成果である個々の報告書は、全国25,000を超える自警および専任の消防担当部署に配布されている。

  • 国立個人用保護具技術研究所(National Personal Protective Technology Laboratory: NPPTL)は、マスク、手袋、安全帽など、個人用保護具の着用が必須である労働者の傷害と疾病の防止へ向けてリーダーシップを発揮するために、NIOSHのピッツバーグの敷地内に設けられた。NPPTLの戦略的研究プログラムは、新しい個人用保護具の開発が、労働環境や技術、労働者の人口構成の変化、さらに新たな脅威の出現に応じた、真のニーズを確実に満たせるようにすることを目指している。

  • NIOSHは、業務上の傷害と疾病を追跡するために、さまざまなプログラムを実施、支援している。こうしたプログラムとして、喘息をはじめ、珪肺、切断、火傷、皮膚炎、騒音によって引き起こされる聴力損失など、業務上の目立った健康現象の認知と防止を促進するための各州保健局との共同の取り組みである職業性リスク監視・発生通知システム(Sentinel Event Notification System for Occupational Risks: SENSOR)がある。またNIOSHは、全米の3分の2を超える州で成人血中鉛疫学監視プログラム(Adult Blood Lead Epidemiology and Surveillance Program: ABLES)を支援している。各州はABLESを通じ、鉛への過度のばく露の事例を追跡、対応し、広範な介入活動を展開している。

  • 1990年に策定された農業センタープログラム(Agricultural Centers Program)は、調査研究、教育、予防、および介入といった取り組みを通じて農業における種々の安全衛生問題に対処するための全国的な拠り所となっている。2001年には、全国各地の9つの地域センターが、地域および国のその他の農業関連組織と協力し、370を超える共同プログラムを開発した。

  • NIOSHは、16の地域レベルの教育研究センター(Education and Research Center: ERC)、および22の州とプエルトリコにおける35件の教育訓練プロジェクト助成金(Training Project Grants: TPG)を通じて、労働安全衛生の専門家および研究者の教育訓練を支援している。こうしたプログラムは、産業医、産業看護師、産業衛生専門家、およびその他の安全専門家に対する高い需要を満たすためには不可欠である。ERCでは、広範な生涯教育プログラムを通じて現役の専門家にも教育訓練を施している。

  • NIOSHのウェブサイトでは、NIOSHが提供するすべての情報と出版物にアクセスできる。2002年の訪問者数は一か月あたり500,000人近くで、平均月間ページビューは175万に達した。NIOSHでは、NIOSH en Espanolにより、労働安全衛生情報をスペイン語でも提供している。


NIOSHのサービス
  • NIOSHトピックページ - さまざまな労働安全衛生情報を主題別にまとめたもの。

  • HHEプログラム - 事業者または労働者からの要請によってハザードが存在する可能性のある労働条件の調査にあたる。

  • NIOSH出版局NIOSH 1-800番号 - 職場の疾病、傷害、および障害の防止に関する情報の普及を行っている。

  • NIOSHの教育訓練 - 労働安全衛生の専門家を対象に教育訓練を行っている。

  • 国際化学物質安全性カード(International Chemical Safety Cards: ICSC)、化学物質ハザード・ポケットガイド(Pocket Guide to Chemical Hazards)、NIOSHTIC-2など、多数のデータベース


州レベルでの活動


 NIOSHはその使命の一環として、労働者の安全衛生を向上するためのさまざまなプログラムを各州で実施している。こうした州レベルでの活動としてNIOSHが行っているものには、次のようなものがある。
  • 事業者、労働者、または州や連邦の機関から要請があった場合に、職場のハザードを評価し、対策を勧告すること。

  • 助成金および共同契約を通じて、州の労働者の安全衛生能力を向上させること。

  • 大学およびその他の組織で実施される幅広いトピックに関する労働安全衛生研究への資金援助。

  • 各種の労働安全衛生教育訓練プログラムの支援。

  • 州レベルでのプログラムの詳細については、NIOSHの州レベルでの活動のページを参照のこと。


NIOSHとOSHA


 NIOSHは1970年の労働安全衛生法によって設立されたが、OSHAも同じ法律によって設立された。NIOSHとOSHAは同じ議会法によって創設されたが、それぞれ役割の異なる2つの独立した機関である。NIOSHは保健社会福祉省の管轄下にあり、研究機関である。OSHAは労働省管轄下にあり、職場の安全衛生に関する規制を策定、執行する役割を担っている。NIOSHとOSHAは、労働者の安全衛生の保護という共通の目標へ向けて、しばしば協力して作業を行っている。

 NIOSHは、すべての職員が個人として尊重され、NIOSHの使命への貢献によってそれぞれが大切にされる職場を目指して真剣に取り組んでいる。すべての個人を受け入れ、大切にし、尊重する寛容な環境を育成することによって、組織としてさまざまな人々を惹き付け、募集し、雇用し、導き、育成し、雇用し続け、奉仕する能力を強化すること、これが多様性に対するNIOSHの姿勢である。