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エグゼクティブ・サマリー

資料出所:NIOSH発行「Worker Health Chartbook 2000年度版」
(訳 国際安全衛生センター)


労働災害(死傷)および業務上疾病の理解および防止には、健康に現れる結果と、関係する事業場条件の双方について、識別、定量化および追跡を実施する集中した取り組みが求められる。労働安全衛生監視活動によって、防止に必要なデータの持続的かつ系統だった収集、分析、解釈および普及がもたらされる。現在の労働安全衛生監視データは、労働災害(死傷)および業務上疾病に関連する圧倒的な人的および経済的損失を示している。このような損失を削減するためには、近年、労働災害(死傷)および業務上疾病が全般に減少しているとはいえ、まだまだ取り組むべき課題が残されている。

労働安全衛生の現状を調査および評価する私たちの能力は時間の経過とともに向上してきた。しかし、労働安全監視衛生データは、異なった組織が異なった定義を用いて収集したものとして断片化したままである。私たちは、監視情報についても実体的なギャップを抱え続けている。特に業務上疾病を定量化しようという試みについて、監視システムはそれぞれに限界がある。それでも、このようなデータは、防止に関する取り組みの目標設定および評価に有益な情報を与えている。

このようなデータを、より利用しやすいものとするために、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)では、異なった出典からの安全衛生監視情報を一冊に整理したこのチャートブックをまとめた。この初めての試みでは、暴露や危険有害要因よりも、死傷および疾病の結果に焦点を当てている。複数の連邦機関の貢献によるものもある。公共部門の労働者や州ベースの監視システムに関する情報はほとんど含まれていない。このチャートブックの将来の版では、アメリカ合衆国労働者の労働災害(死傷)および業務上疾病の、より包括的な実像を把握できるような、新たなデータ・ソースとなることを目指している。


継時的な傾向

近年の全般的な労働災害(死傷)および業務上疾病の減少は、アメリカ労働省が「労働災害(死傷)および業務上疾病に関する調査」(SOII)で報告したように、民間部門における死傷および疾病の記録可能な事例に関する災害発生率に明らかである。1973年から1997年の間に、この比率は常勤労働者100名当たり11.0から7.1に減少している。最大の変化は、労働損失日以外の事例(*)における変化であり、これは同時期に常勤労働者100人当たり7.5件から3.8件に減少している。1988年から1997年の間に、就業不能をともなった事例の比率は40%減少したが、就労制限のみをともなった事例の比率は140%の上昇となっている。

国立外傷性職業死亡率監視システム(National Traumatic Occupational Fatalities Surveillance System:NTOF)でNIOSHが記録した継年的な労働災害(死傷)による死亡率は、1980年から1995年の間に相当(43%)減少しており、労働者10万人当たり7.5件から4.3件となっている。労働省の労働傷害による死亡の調査(CFOI)における死亡発生率は1992年から1997年の間に7%減少した。

継時的な業務上疾病に帰因する損失は、さらに説明が難しい。アメリカ合衆国における業務上疾病の負担を推定しようという取り組みは行われてきているものの、じん肺(粉じんによる肺疾患)を除き、死に至る業務上疾病の規模を記述する監視システムは存在しない。じん肺が記述可能なのは、原因を完全に業務に帰することができるためである。1968年以来、じん肺を根本的な原因、あるいは一因とすると診断された症状によって、114,000件を超える死亡が発生しており、そのほとんどは石炭労働者じん肺(CWP)である。CWPによる死亡は近年減少しているが、石綿肺による死亡は1968年から1996年の間に増加している(100件未満から1,200件弱)。


近年のデータ

死亡労働災害(傷害による)

1997年に、毎日、約17名の労働者が作業中に死亡災害にあっている。同年の6,238件の死亡労働災害(傷害による)のうち、42%(2,605件)は、通勤・退勤途上の事故を除き、輸送に関連している。大部分の自動車関連の死亡(約1,400件)は、幹線自動車道路での衝突事故が原因となっている。殺人は、死亡の第2の原因となっており、全体の14%に及ぶ。死亡の主要原因は性別によって異なり、男性の場合には自動車が、女性の場合は殺人が第一の原因となっている。65歳以上の労働者は、労働傷害を原因とする死亡率が最も高い。労働者数1〜10名の事業場における死亡率が最も高く(労働者10万人当たり8.6件の死亡)、労働者数100名以上の事業場における死亡率が最も低い(労働者10万人当たり2件の死亡)。死亡者数が最も多いのは、建設、運輸および公共施設、および農林水産業である。死亡率が最も高いのは、鉱業、建設、および農林水産業である。鉱業における死亡率は、全業界に対する国内平均の5倍を超えている。


致命的な業務上疾病

じん肺以外の疾病による死亡は、複数の理由から原因を事業場に帰するのが困難である。例えば、業務上の暴露の有無に関わらず、多くの疾病は同じように見える。中には、暴露と疾病の進行の間に長い年月の潜伏期間を伴うものもある。さらに、健康管理の専門家が、診断時に業務上のリスク要素を識別、または考慮しない可能性がある。様々な職業で、複数の疾病に対する死亡率の統計的な上昇が見られるが、このような死亡率の上昇が直接事業場と関係しているのかどうかは不明である。ただし、このような研究が、将来の調査、および仲介や防止に関する優先順位を決定する上での助けにはなる。例えば、じん肺を根本原因、または一因として死亡する労働者の死亡率は、職業やじん肺の種類によって異なる。鉱業用機械のオペレーターは、CWPおよびその他の特定されていないじん肺による死亡率が高く、絶縁物労働者および関連する職業は石綿肺による高い死亡率を持つ。各種の金属工、プラスティック加工、および鉱山職は珪肺による死亡率が高く、繊維機械オペレーターおよび修理工は、綿肺による死亡率が高い。


致命的ではない傷害

1997年に、およそ570万の傷害がSOIIで報告されている。このような傷害は、民間部門で事業者の記録に残されている610万の死傷および疾病の93%に当たる。致命的ではない傷害の発生率は、1990年代に着実に減少した。農業、建設、製造および輸送の分野で報告されたこの比率は、全業界に対する常勤労働者100人当たり6.6件の平均を上回っている。捻挫、筋違い、および裂傷は、就業不能日事例で不釣り合いに大きな比率を占めている(1997年は80万件)。このような事例の半分近くは腰に関するものである。無理な作業が、腰の傷害の60%を超える原因となっている。

全国電子傷害監視システム(NEISS)によれば、1998年の病院の急患部門により処置を受けた労働傷害は360万件に及んでいる。このような傷害に関する比率は、男性および25歳未満の労働者の間で最も高い。裂傷、刺し傷、捻挫および筋違い、打撲傷、擦過傷および血腫が、急患部門により処置を受けた全傷害のうち70%の原因となっている。


致命的ではない疾病

1997年には、およそ43万件の非致死性の業務上疾病がSOIIに記録されている。このような疾病の約60%が製造部門で発生している。1997年の疾病災害発生率は、常勤労働者1万人当たり49.8件となっている。疾病の災害発生率は業界によって異なり、最高の発生率は製造部門で見られる。民間部門におけるこの比率は、事業所の規模により増加し、1,000人以上の労働者を抱える事業所で最も高い比率となっている。

外傷の反復による障害(手根管症候群[CTS]、腱炎、および騒音による聴力損失を含む)は、1997年にSOIIに記録された業務上疾病の64%となっている。CTSは、1997年に29,000を超える就業不能をともなった事例を記録している。1997年、CTS事例の半数が、25日以上の就業不能日を伴っている。騒音による聴力損失の就業不能をともなう事例の多くは、製造業で発生している。

1997年にSOIIに記録された業務上の疾病の13%(約58,000件)が皮膚疾患または皮膚の異常である。皮膚疾患または異常の下位区分とされる皮膚炎は、6,500を超える就業不能をともなう事例という結果であった。このような事例の半数以上が3日以上の就業不能日数を必要としている。

SOIIは、業務上の死傷および業務上の疾病の識別を、事業者の記録に依存している。SOIIに報告された疾病は、事業場での活動に最も容易かつ直接的に関係するものである(例、接触皮膚炎)。長期的に進行する疾病(癌など)、あるいは直接的に明白ではない事業場に対する関連性を持つ疾病は、SOIIに充分に記録されているという状態からはほど遠い。結果として、より積極的な形で業務上の疾病を追跡するための、これ以外の手法やデータ・ソースが開発されてきた。例えば、職業性リスク監視・発生通知システム(SENSOR)は、州監督システムにおける業務上の疾病を識別する機会を増すために、同時データ・ソースを各種確立している。カリフォルニアSENSORプログラムは、特に職業性CTSの監視を目的としている。1998年に州の補償システムに登録された医師の初期報告を通じて同プログラムで識別されたCTS事例のうち、30%がサービス業で、17%が製造業で発生している。現在、ミシガンSENSORプログラムは、騒音による聴力損失を監視している。製造業は、1998年に医師により報告された騒音による聴力損失事例のうち51%の原因となっている。珪肺監視については、7州が活動的なSENSORプログラムを有している。1993年から1995年の間で、珪肺の75%が製造業で発生している。さらに、4州が、職業性喘息監視のための積極的なSENSORプログラムを有している。1993年から1995年の間、最多数の事例が生じた業界部門は製造業(42%)およびサービス(31%)であった。

その他の公共および民間プログラムが、業界ごとの毒物に対する暴露、殺虫剤中毒、地下炭鉱労働者のX線、医療関係労働者の感染、および非喫煙者の自己報告による呼吸器疾患を記している。例えば、成人血中鉛疫学監視プログラム(ABLES)は、16歳以上の者における血中鉛レベル(BLL)の上昇を監視している。1998年に、25州の10,501名の成人が高いBLL(1デシリットル当たり25マイクログラム以上)を示した。


結論

このチャートブックに示すデータは、労働災害による死亡、傷害、および疾病の一部について、今後に期待のもてる頻度の低下を示している。監視は、職業性の筋骨格系障害および喘息のような新しい問題、および発生しつつある問題や傾向を識別する上で役に立ってきた。このような結果を監視する私たちの能力は時とともに改善されてきたが、このチャートブックは、労働衛生監視システムが未だ断片化していること、そしてある職業性の障害およびグループに関するデータが貧困である(または完全に欠如している)ことを示している。データは、疾病および死傷予防の取り組みの指針として必要となるデータを開発・強化するために、労働安全衛生監視活動を改善、拡張および調整することが強く求められていることを示唆している。政府および政府以外のパートナーとの活動を通じて、NIOSHは、今後も労働衛生監視を強化するための取り組みを継続する。


(*)労働損失日事例には、就業不能日事例、就労制限事例(すなわち労働者が制限された職務に配置される場合)を含む。