致命的な疾病
資料出所:NIOSH発行「Worker Health Chartbook 2000年度版」
(訳 国際安全衛生センター)
3 致命的な疾病
事業場における致命的な疾病は、18世紀にベルナルディーノ・ラマッツィーニ(Bernardino
Ramazzini)がはじめて労働者の疾病に関する系統だった記述をまとめて以来、公衆衛生関係者の関心の対象となってきた(ラマッツィーニ、1713年)。疾病は傷害に比べて仕事に関連づけることが一般に困難である。職業性の暴露に関係する疾病の多く(例、結核[TB]、ガン、中枢神経系疾患、および喘息)は、職業性の暴露がない場合の発生と差がない。疾病の業務に関連する側面は、一部の疾病の進行と暴露の間の長い潜伏期間や、医療専門家の作業関連疾病についての見落とし、または職歴に関する情報が入手できないなど多くの理由から認識されないままという可能性がある。この章では、もっぱら、または主として業務に関連づけられると一般に認められている症状を取り扱う。例えば肺ガンは、業務関連のものであると考えられるケースは、男性の症例の16%から17%、女性の症例の2%であり、これは除外している。
じん肺
じん肺は、完全に事業場の要因に帰される呼吸器病の区分である。1968年から1996年まで、じん肺は米国における114,557件の死亡の根本的な原因、または一因であった(図1-10参照)。じん肺による死亡の最大数は、石炭労働者じん肺(CWP)に帰されるが、この疾病による死亡は年を追うごとに減少している(図3-1)。対照的に、石綿肺による死亡は、1968年の100件未満から1996年には1,200件弱に増加している(図3-2)。同時期に、珪肺による死亡は減少し(図3-3)、綿肺による死亡は1979年から1996年にかけてかなり変動しており(図3-4)、不特定、及びその他の種類のじん肺は減少している(図3-5)。
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図3-1 死亡証明書上に根本的な原因または一因としてCWPが記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1968年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-2 死亡証明書上に根本的な原因または一因として石綿肺が記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1979年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-3 死亡証明書上に根本的な原因または一因として珪肺が記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1968年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-4 死亡証明書上に根本的な原因または一因として綿肺が記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1979年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-5 死亡証明書上に根本的な原因または一因として不特定及びその他のじん肺が記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1979年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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州ごとのじん肺による死亡
石綿肺の死亡率は、北東部、南部および西海岸の諸州で最も高く(図3-6)、CWPの死亡率はアパラチア鉱山地域で最も高い(図3-7)。珪肺の死亡率は、石綿肺またはCWPの死亡率に比較して地理的な地域による集中傾向が見られない(図3-8)。綿肺による死亡は繊維生産州に集中している(図3-9)。不特定およびその他のじん肺に関する死亡率のパターンは、CWPのそれに類似している(図3-10)。
訳注) 図3-6、図3-7、図3-8、図3-9、図3-10は省略。
性別および人種ごとのじん肺による死亡
様々な種類のじん肺による死亡の分布は、性別(図3-11)および人種(図3-12)によって異なる。女性の綿肺による死亡は28%に達しており、それ以外のじん肺による死亡では5%未満である。黒人は、珪肺による死亡の15%、綿肺による死亡の13%を占めており、それ以外のじん肺による死亡では7%未満である。
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図3-11 じん肺による死亡の、性別ごとの種類の分布、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-12 じん肺による死亡の、人種ごとの種類の分布、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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職業ごとのじん肺による死亡
様々な職業とじん肺による死亡を関連づけた比例死亡比(Proportionate mortality
ratios : PMRs)を図3-13から3-17に示す。1.0を超えるPMRは、その条件により、ある職業または業界で予想されるよりも多くの死亡が発生したことを示している。1.0を超える下方信頼限界が95%のPMRが統計学的には重要である。全国データの大きなサブセットから計算したPMRは、鉱業用機械オペレーターが、相対的に非常に高いCWPおよび不特定またはその他のじん肺による死亡率を有していることを示している(図3-13、3-14)。絶縁作業労働者および関連する職業では、石綿肺に関するPMRが最高となっている(図3-15)。金属およびプラスチック加工、手作業によるモールデイング加工、および鉱業における破砕・研磨に従事する労働者は、珪肺による死亡のPMRが最も高い(図3-16)。繊維機械オペレーターおよび修理工は、綿肺についての相当のPMRを有している(図3-17)。
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図3-13 職業ごとのCWPについてのPMR(および95%の下方信頼限界)、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-14 職業ごとの不特定/その他のじん肺についてのPMR(および95%の下方信頼限界)、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-15 職業ごとの石綿肺についてのPMR(および95%の下方信頼限界)、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-16 珪肺についての、職業ごとのPMR(および95%の下方信頼限界)、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-17 繊維機械オペレーターおよび修理工の綿肺についてのPMR(および95%の下方信頼限界)、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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悪性胸膜腫瘍
中皮腫に関する単一の死亡原因コードが存在しないため、(しばしば胸膜ガンである)悪性中皮腫を原因とする死亡率に代わり、悪性胸膜腫瘍(胸膜ガン)による死亡率が使用される。アスベストに対する暴露は、悪性中皮腫の主要な原因となっている。悪性胸膜腫瘍に関係する死亡者数は、1968年から1996年の間に増加している(図3-18)。症例の地理的分布を図3-19*に示す。1987年から1996年の間に、悪性胸膜腫瘍による死者の76%を男性が占め(図3-20)、白人の米国居住者がこのような死亡の94%を占める(図3-21)。悪性胸膜腫瘍について最もPMRが高い職業(図3-22)は、石綿肺について最もPMRが高い職業(図3-23)に類似している。
訳注) 図3-19は省略。
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図3-18 死亡証明書上に根本的な原因または一因として悪性胸膜腫瘍が記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1968年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-20 悪性胸膜腫瘍を原因とする死亡の、性別による分布および死亡者数、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-21 悪性胸膜腫瘍を原因とする死亡の、人種別による分布および死亡者数、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-22 悪性胸膜腫瘍についての、通常の職業ごとのPMR(および95%の下方信頼限界)、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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過敏性間質性肺炎
過敏性間質性肺炎は、しばしば職業に関係する肺疾患である。この疾病の例としては、農家、キノコ栽培家、小鳥商の肺疾患がある。過敏性間質性肺炎を根本的な原因または一因とする年間死亡者数は、全般に1979年以降増加している(図3-23)。症例の地理的分布を図3-24に示す。1987年から1996年の死亡者の30%弱が女性であり(図3-25)、95%が白人の米国居住者である(図3-26)。この疾病に関して極めて高いPMRを持つ唯一の職業は、非園芸農業者であり、(95%信頼区間[CI]を8.5〜15.6とする)11.6の値を有する。
訳注) 図3-24は省略。
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図3-23 死亡証明書上に根本的な原因または一因として過敏性間質性肺炎が記録された死亡者数、15歳以上の米国居住者、1979年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-25 過敏性間質性肺炎を原因とする、性別による死亡の分布および死亡者数、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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図3-26 過敏性間質性肺炎を原因とする、人種別による死亡の分布および死亡者数、15歳以上の米国居住者、1987年〜1996年(出典:1999年度NSSPM)
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いくつかの職業および死亡原因に関するPMR
米国労災死監視システム(National Occupational Mortality Surveillance System : NOMS)のデータを使用して、いくつかの職業および致命的な疾病に関するPMRを表3-1(*)に示す。じん肺および中皮腫以外の疾病に関係する死亡を事業場に関連づけることは困難である。従って、ある職業に対する死亡率が見かけ上高い場合、これはより厳密な研究で実証する必要がある。統計学的にかなりPMRが上昇しても、必ずしも職業と致命的な疾病の間の因果関係を示すわけではない。PMRの中には偶然高くなっている場合もあり、これは統計学的な意味を確保するために非常に多くのPMRを試験した場合に発生する可能性が高い。その他のPMRの上昇は、喫煙、飲酒、または医療や適切な食事が手に入るかどうか、といったその他の社会・経済要素のような交絡要素に対してさらに強く関係を持つという可能性がある。表3-1に示す情報は、致命的な疾病と職業間の可能性のある関係を識別するために使用することができるが、あくまで一層踏み込んだ研究を必要とする。結果はまた、記述、他の研究の評価、または健康増進活動に向けた職業集団の絞り込みに使用することもできる。NOMSに基づくPMRの利用に関する詳細な議論については、"Mortality be Occupation, Industry, and Cause of Death: 24 Reporting States(「職業、産業および死亡原因による死亡率:24州からの報告(1984-1988)」)"(NIOSH、1997年)を参照のこと。肺疾患に関するさらなる情報は、"Work-Related Lung Disease Surveillance Report(「作業関連肺疾患監視報告(WoRLD)」)"(NIOSH、1999年)から入手できる。
(*)JICOSH註−−−表3-1はこちらをご覧ください(NIOSHホームページへのリンク)
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