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掘削作業の安全

(資料出所:OSHAホームページ
Job Safety & Health Quarterly (JSHQ) Volume 14 Number 1 Fall 2002
(仮訳:国際安全衛生センター)
原文(英語)はこちら

掘削作業は最も危険な建設作業の1つであるが、
基本的な防止対策を取ることで災害を防ぎ、命を救うことができる。
ドナ・マイルズ(Donna Miles)

 27歳の建設労働者が下水溝掘削中に、10フィートの深さの壁が崩れ落ち、粘土、泥土に埋まってしまった。泥土の上に手だけが出ていたのを見て、近くの同僚達は急いで駆け寄り、手やスコップで掘り起こした。45分後、切り傷と打撲を受けた被災者は、死に到ったかもしれないところを、穴から意識を失わない状態で救出された。

 多くの労働者はこのように幸運ではあり得ない。掘削及び溝掘削は最も危険な建設作業の1つである。土砂崩壊対策のとられていない溝の両壁のぬかるんだ土の重量は、溝の底で働いている労働者に突然打撃を加え、重大な傷害や死亡の原因となる。労働統計局の死亡災害調査(Census of Fatal Occupational Injuries)によると、2000年だけで38人の建設労働者が溝掘削中に死に到っている。例えば昨年秋、31歳のイリノイ州の男性作業員が5フィートの深さの溝の中で作業中、溝の側壁が崩壊し、その下敷きで死亡した。アリゾナ州では、33歳の男性作業員が溝崩壊により、積み上げられた溝土の下となり窒息死した。ミズーリ州では、12フィートの深さの支保工のない溝で管敷設作業中の労働者が土砂崩壊により埋没し、4時間後にようやく遺体が収容された。

 ジム・ブーム氏(OSHAの建設部門の労働安全衛生専門官)は、安全な職場を確保することに責任のある事業者が、掘削作業でよく知られた安全要件を順守していたならば、この種の死亡災害の多くは決して発生していなかっただろうと発言している。OSHAの掘削基準によると、事業者は5フィートより深い掘削作業の時は、傾斜をつけたり、階段状にしたり、支保工を設置したり、囲いを設置したりすること等により、労働者を保護しなければならないとされている。堅い岩盤のため、土砂が緩んだり、落盤したりする恐れがない掘削作業の場合は、上記のような対策をとらなくても良いという唯一の例外作業となっている。

 どのような対策をとるかは請負業者が決めることになる。そしてその対策は土の種類、含水量、掘削の深さ及び角度、結氷及び雪解けというような天候の変化、溝壁を振動させ、あるいは溝の中への機器あるいは資材の転落原因となるような近隣での作業等という種々の要因によって決まる。ブーム氏によると、請負業者がどのような対策を選ぶにせよ、とるべき対策はOSHA基準の要件を満足していなければならないと述べている。

 この予防対策が決定した後、請負業者は毎日、あるいは状況が変化する場合には頻繁に、現場を監督する有資格者(危険を認識する訓練を受け、かつ危険を是正する行動をすぐ取ることができる権限を有する人)を指名しなければならない。また請負業者は墜落・転落、荷の落下、移動用機器の落下等により災害を被る恐れのある掘削作業の労働者を保護するための特別な対策を講じなければならない。

 これらの必要な措置を取らない請負業者にとって、その代償は高いものにつくことになる。「労働者保護を犠牲にして時間を節約するというリスクを取る請負業者は、その結果どのようなことが起こり得るかをよく考えなければならない」とブーム氏は述べている。「最悪の結果とは生命の損失、あるいは労働不能傷害である。又、近道をするということは、機器の損傷、資産あるいは構造物損壊、保険損失あるいは保険料率の増加、訴訟、悪いニュースによる会社を見る世間の目、OSHA監督による処罰等につながることとなる。」ブーム氏は、これらのコストは企業あるいは法人に大きな打撃を与えることになる、と語っている。

 10月、OSHAはマサチューセッツ州フランクリンの建設請負業者に対し、崩落危険性が十分あるにも拘らず、故意に繰り返し労働者保護対策を取っていなかったとして、248,000ドルの罰金を課した。「掘削崩壊は突然、すばやく発生し、そしてしばしば致命的なものとなる。事業者が基本的、常識的でかつ法的要件でもある安全対策を再三再四怠ることは、決して許されない」とブレンダ・ゴードン氏(OSHAのサウス・ボストン地域所長)は述べている。

 又、10月OSHAはテキサス州フリスコの掘削会社が溝の中で水道本管敷設作業中、崩落の恐れがあるところで防止対策を講じることなく労働者を作業させていたということで56,000ドルの罰金を課した。その前の月、マサチューセッツ州ラドロー市の二つの請負業者が崩落の危険に対し、繰り返し労働者保護対策を怠ったとして110,000ドルの罰金を課された。そしてデラウェア州リホボスビーチの請負業者は、崩壊防止対策をとっていない溝で、雨水排水管設置作業中の22才の管敷設工が死亡した4月5日の事故で、49,500ドルの罰金が課された。

 今年初めアラバマ州の防水工事業者は、9フィートの深さの作業で溝壁に対する傾斜とか支保工といった措置あるいは労働者保護のためのその他の措置を講じていなかった。この溝壁が崩落した時2人の労働者は逃れたが、1人は埋没し救出前に窒息死した。OSHAは故意且つ5つの重大違反で99,000ドルの罰金を課した。ダラス市ではOSHAは15フィートの深さの溝の中で作業していた41才の技師が崩壊で埋没した件で、この企業を法違反で訴追した。この企業は崩落防止対策を怠り、十分な訓練を実施していない、現場で労働者監視を実施していないことで罪に問われた。

 改訂されたOSHA出版物2226「掘削(Excavations」は、掘削及び溝についての情報提供を行っている。これはOSHAウェブサイト www.osha.gov で入手可能である。「Newsroom」の「Publications」でクリックするとよい。


掘削作業安全対策
  • リーダーシップを発揮し、すぐれた安全衛生計画に取り組むこと
  • 安全作業を守り、危険状態を認識するために労働者を訓練すること
  • 最も作業に適した対策を選び、OSHA基準に従ってその対策を実施すること
  • 近くの構造物を安定に保つための支保工、すじ交い、補強材等といったサポート対策を実施すること
  • 危険を直ちに特定し、且つ是正することができる権限を有する有資格者を指名すること
  • 現場で崩壊の恐れがある個所、防止対策システムや機器の不具合、ハザードなガス、その他の危険な状態等に関する日常点検を実施すること
  • 溝の上を横断しないこと
  • 溝への出入りには、便利で使い易い手段を準備すること
  • クレーン機器、掘削機械から落下した荷や資材から労働者を保護すること
  • できる限り溝の近くに貯め水をしないこと
  • 酸素欠乏又はハザードなガスを掘削時にチェックすること。必要に応じ、保護具を使用すること
  • 作業現場で運転する移動式設備機械に対する警報装置の使用