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 労災死亡調査データの分析

(資料出所:OSHAホームページ
Job Safety & Health Quarterly (JSHQ) Volume 14 Number 2 Winter 2003
(仮訳:国際安全衛生センター)
原文(英語)はこちら


安全衛生庁(OSHA)は、データ収集プログラムの活用により、
もっとも必要とされるところに資源を集中的に割り振ろうとしている。

フレッド・ウォルターズ(Fred Walters)

 データの収集、分析、解釈なくしては、常習的な問題の多くは改善されないものである。米国の事業場における労災死亡事故をいかに低減させるか、その対策策定を推進するために、OSHAそれに積極的に取り組んでいる。

 米国労働省統計局(the U.S. Department of Labor Bureau of Labor Statistics (BLS))によると、2001年度の米国内の事業場の労働災害死亡者数は、9月11日の同時テロ犠牲者数を除くと5,900人であるが、2000年度からの減少率は1%に満たない。しかし、全米での2001年度の就職率が僅かに減少したため、労災による死亡率は前年度から変わらず労働者10万人あたり4.3人であった。

 BLSの分析データは、OSHAの労災死亡調査によるデータを主要ソースとしている。OSHAの労災死亡調査時に、OSHAは死亡事故が発生した職場と、その事故に関連する周囲の状況と労働者の情報を収集する。収集した情報は、業種別の監督官がOSHAの統合情報管理システム(Integrated Management Information System (IMIS))に入力する。

 OSHA建設業局の疫学者であるリチャード・ラインハート(Richard Rinehart)は次のような見解を語っている。「この取り組みから、OSHAはBLSが提供する全国規模のデータをさらに詳細に分析し、傾向をつかみ、死亡事故と最もかかわりの深い職種および労働内容を特定できるようになる」。また、「死亡事故関連データを分析することで、OSHAは労災による死亡者数削減のための資源の配分方法を決めやすくなる」とも語っている。死亡事故関連情報の調査・評価に基づき、OSHAは考察対象として最も死亡率の高い労働者のグループ2つを以下のように挙げている。

  • 「建設業労働者」全職種の死亡率平均に比べ、建設業労働者の死亡率は常に高いことによる。

  • 「ヒスパニック系労働者」全職種の死亡率平均に比べ死亡率が高く、言葉の障壁による問題が影響する場合があり、不平等に危険度の高い職種や職業に携わることが多いことによる。
 毎年、建設関連事故で亡くなる労働者数は、他のいずれの職種の事故死亡者数に比べても多い。2001年には、BLSの報告では就労中に亡くなった建設業労働者は1,225人で、その約3分の1が墜落・転落による死亡であった。全国規模の労災死亡関連データの分析により、建設業では墜落・転落が死亡事故の主要原因であることが示されているため、OSHAは全米規模の地域別重点プログラムを多数用意し、墜落・転落事故が最も起こりやすい事業場に対してOSHAの資源を割り当てている。

 BLSデータについて、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が行ったある分析によると、建設業で数多くある危険度の高い仕事の中でもとりわけ危険なものは、電気通信塔の建設であった。近年、ワイヤレス通信の需要が高まるにつれ、電気通信業は著しく成長し、その従事労働者の想定死亡率は建設業界でも最も高いものである。これらの分析結果に基づき、犠牲者数を減らすべく、OSHAは現在NIOSHおよび全米塔建設業者協会(National Association of Tower Erectors)と密な連絡をとりつつ対策づくりに取り組んでいる。

 ヒスパニック系労働者が労災により死亡する危険性は、非ヒスパニック系労働者に比べ高い。2001年のラテンアメリカ系労働者の労災による死亡率は、前年比7%増の10万人あたり6人(前年は5.6人)となり、死亡者数は815人から891人に増えた。この問題への対策は多くあるが、そのひとつとしてOSHAは新しい労災死亡関連データ収集方法をあらたに導入した。この方法では、特別のアンケート調査を用いて言語障壁の可能性や、言語障壁以外で仕事にからむリスク要因に関する情報を収集した。さらに、OSHAは上級管理者レベルのヒスパニック系労働者問題プロジェクトチーム(Hispanic Worker Task Force)を形成した。このプロジェクトチームでは、勧告策定に資するため、上記のアンケート調査の情報を利用している。

O SHAは労災死亡調査中に収集したデータをさらに有効的に分析する方策を検討中である。このように死亡事故調査データの収集・利用法を更新し、分析することは、依然として多い労災死亡事故問題への新しい対処策をOSHAが追求するための推進プログラムやアイディアのひとつとなろう。

 OSHA長官であるジョン・L・ヘンショー(John L. Henshaw)は、BLSの2001年労災死亡データ発表時に次のように語っている。「建設業労働者、ラテンアメリカ系労働者、墜落・転落による死亡者数がそれぞれ増加していることを非常に懸念している。我々の課題は、OSHAのプログラム改良を継続させ、最高の効率が得られるようシステムを調整し、従来以上に深く問題に取り組むことで労災死亡者数を低減させることである。良い結果を得るまで我々の活動は終わらないことを約束する」