このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > アメリカ OSHA 鳥肉加工業向けガイドライン 筋骨格系障害予防のためのエルゴノミクス

OSHA 鳥肉加工業向けガイドライン
筋骨格系障害予防のためのエルゴノミクス

資料出所:OSHAホームページ
(仮訳:国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます
http://www.osha.gov/ergonomics/guidelines/poultryprocessing/poultryall-in-one.pdf




労働安全衛生庁(OSHA)
米国労働省
www.osha.gov

鳥肉加工業向けガイドライン
OSHA 3213-09N
2004

筋骨格系障害予防のためのエルゴノミクス



鳥肉加工業向けガイドライン

 
筋骨格系障害予防のためのエルゴノミクス

米国労働省
労働安全衛生庁(OSHA)

OSHA 3213-09N
2004



目次

 

要旨
   

3

序論
    4
エルゴノミクス・プロセス
    5
  マネジメント支援の実施
    5
  労働者の参加
    5
  研修の実施
    5
  問題の特定
    7
  解決策の実施
    8
  傷害報告への対応
    8
  エルゴノミクス的な取り組みの評価
    9
解決策の実施     10
  ワークステーション     11
  器具     16
  マニュアル・ハンドリング     18
  個人用保護具     21
その他の情報源     22
参考文献     23



要旨
 

 本ガイドラインは、鳥肉加工施設における労働者の業務上筋骨格系障害(MSDs)の発生件数低減と軽度化を目的とした対策案を提供するものである。対策案の策定にあたり、労働安全衛生庁(OSHA)が現行の手順やプログラム、エルゴノミクス1に関して入手可能な科学的情報などを検証し、同業者組合及び専門職組合、労働団体、個人企業、その他の関係者の代表からの意見を反映したものである。本ガイドラインは、特に鳥肉加工業界向けに作成されたものであるが、ここに示されている対応策や解決策は他の業界においても役立つものと考えられる。
 職場における労働とMSDs発症との関係については依然研究の余地がある。しかしOSHAは、多数の鳥肉加工施設が蓄積してきた経験が、労働者を確実に災害から保護するための行動の根拠となると考えている。なおこれらの傷害の理解が進み、情報と技術が進歩するのに伴い、本文で述べた対策案は変更される可能性がある。
 本ガイドラインは、OSHAの『精肉工場向けエルゴノミクス・プログラムマネジメントガイドライン(Ergonomics Program Management Guidelines for Meatpacking Plants、以下「精肉工場向けガイドライン」)』を一部反映したものである。精肉工場向けガイドラインに示されている内容の多くが、いくつかの鳥肉加工施設で既に実施され、成果を上げていることが鳥肉加工業界の事業者および労働者からOSHAに伝えられている。関係者は、事業者が既に実施している効果的なプログラムを乱すことのないよう、本ガイドラインに精肉工場向けガイドラインを反映するよう提案した。これら2つのガイドラインは類似したものだが、いくつか異なる点がある。鳥肉加工業向けガイドラインには、実用的なエルゴノミクス的解決策が精肉工場向けガイドラインよりも多く含まれており、「蓄積外傷性障害」や「CTD」ではなく、「筋骨格系障害」や「MSD」という用語が用いられ、OSHAが最近発行したエルゴノミクス・ガイドラインによく似た形式になっている。
 本ガイドラインの核となっているのは、鳥肉加工業者が既に実施しているさまざまな解決策の説明である。OSHAは、鳥肉加工業者がこうした解決策を、これ以降に示すような、さまざまな要素を含む系統的改良プロセスの一環として検討することを勧めている。こうした改良プロセスの導入によって、職場で実施される解決策が、傷害発生件数やコストの削減に役立つと考えられる。
 またOSHAは、特に小規模企業の事業者は、本ガイドラインに述べられている全ての対策を実践することによって実現する包括的なプログラムほど本格的な対策を必要としていないことも認識している。更にOSHAは、小規模企業の事業者の多くが適正なエルゴノミクス・プロセスの実践に際して支援を必要としていることも理解しており、OSHAの無料コンサルティング・サービスがエルゴノミクスやその他の安全衛生上の問題に関する支援を行っていることを、こうした事業者に伝える意向である。このコンサルティング・サービスは、OSHAのガイドライン施行活動とは別個の独立した取り組みである。OSHAのコンサルティング・サービスに関する情報はOSHAのウェブサイト(www.osha.gov)で閲覧できる。

 本ガイドラインの本質は助言であり、情報を提供するものである。新しい基準、あるいは規則ではなく、新たな事業者の責務を生じさせるものでもない。米国労働安全衛生法では、事業者がエルゴノミクス的なリスクファクターに対応しなければならない範囲が、一般的義務に関する条項(29 U.S.C.654 (a) (1))によって定められている。事業者によるガイドラインの不履行は違反ではなく、一般的義務に関する条項に違反した証拠にも当たらない。また、OSHAによる本ガイドラインの作成は、一般的義務に関する条項に基づき事業者に責務があることを示すものではない。本ガイドラインで、対策が提案されているが、事業者がこれを導入していない場合、一般的義務に関する条項に違反した証拠には当たらない。更にここで提案されている対策は、個々の雇用に関するニーズおよび人的資源に適応させることができるものとして考案されている。従って、ガイドラインの実施形態は、各職場の状況に応じて異なる可能性がある。



エルゴノミクス−−     人間の生理的・心理的な特徴に配慮して、疲れやストレスなどをできる限り軽減し、快適な労働環境の構築を目指す工学技術



序論
 

 鳥肉加工業界は1980年代半ば頃から、業務上筋骨格系障害(MSDs)の問題に注目しはじめた。MSDsとは神経、腱、筋肉、および手、手首、肘、肩、首、腰を支える構造の傷害である(1, 2)。1986年に鳥肉加工業界の一部が、研修や、MSDsの発生件数およびその関連コストを減らす手段としてのエルゴノミクス・プロセスおよび医療介入について提言するガイドラインを作成した(3)。
 OSHA は1993年8月、『精肉工場向けエルゴノミクス・プログラムマネジメントガイドライン(Ergonomics Program Management Guidelines for Meatpacking Plants、以下「精肉工場向けガイドライン」)』を発行した(4)。精肉工場向けガイドラインでは、職場におけるエルゴノミクス関連の問題を特定し、改善するため事業者がエルゴノミクス・プロセスを実施することを主に勧めている。また、同ガイドラインは、主に精肉工場を対象にしたものであるが、多くの鳥肉加工施設がこのガイドラインで示されている対策案を基にしたエルゴノミクス・プログラムを立ち上げた。
 鳥肉加工業界は、業務上の外傷および疾病の発生件数を過去10年間でほぼ半減させている(5)。しかしこうした取り組みにもかかわらず、鳥肉加工業界ではいまだにMSDsが発症し続けている。労働統計局によると、2002年に報告された3000件の休業のうち、30%以上(976件)がMSDsに関連するものであった(6,7)。鳥肉加工作業の多くは肉体労働であり、中には鶏や七面鳥の加工作業で毎日2万5000回以上も肉をさばいている労働者もいる。
 こうした加工作業は、反復運動、力、不自然な姿勢、振動などの因子が傷害を生ずるリスクを増加させるということが明らかになっている。鳥肉加工における多くの作業は、冷凍・冷蔵された製品の取り扱いを伴うか、あるいは寒冷環境下で行われている。寒冷にリスクファクターが重なると、MSDsを発症する可能性が増加する(1)。これらのリスクファクターに過度にばく露するとMSDsの発生する可能性がある(2)。
 本ガイドラインでは、反復運動または過度な運動によって生じる以下のようなさまざまな傷害や疾病をさして「筋骨格系障害(MSD)」としている。
      手根管症候群
      腱炎
      回旋腱板損傷(肩の損傷)
      上顆炎(肘の損傷)
      ばね指
      筋肉損傷および腰痛
 事業者は、労働環境における出来事やばく露状況がMSD の原因になっている、あるいは発症に関連している場合、または既に発症していたMSD を顕著に悪化させた場合は、OSHAの記録管理規則(29 CFR 1904)に従って、そのMSDが業務に関連している可能性を考えるべきである。例えば、労働者が手根管症候群を発症した場合は、事業者は当該労働者が業務上使っていた手の動きと、その運動が行われていた時間を検証する必要がある。労働者が手根管症候群を発症し、当該労働者の作業内容が頻繁な手の動き、あるいは手に力を入れたり、不自然な手の位置を保ったりすることが必要となる場合、その障害は業務に関連してくる可能性がある。一方、作業内容が手の動きをあまり必要としない場合は、その障害は業務に関連していない可能性がある。
 職場以外での、かなりの身体の運動をともなう活動も、MSDsの原因または一因となりかねない(1)。また、MSDsの発症には遺伝的要因や性別、年齢などの要素が関連していることもある(1)。MSDsの発症報告は、仕事に対する不満や単調な作業内容、職務上の裁量範囲が狭いなどといった社会心理的要素と関連しているという報告もある(1,2)。しかし本ガイドラインでは、MSDs発症に関連する職場の身体的要因にのみ言及する。
 本ガイドラインは、業務上のMSDsの発症を減らすことを目的とした、職場および作業内容に関する対策案を提示するものである。鳥肉加工業者は通常、作業方法や機材、ワークステーションの設備などを改善することによって、この目的を達成することができる。多くの場合、コストを大幅に増加させることなく実施することができ、多くのエルゴノミクス的改善が作業に必要な時間を短縮することによって効率化に結びつく。既に多くの鳥肉加工企業がMSDsの発症件数や、労災補償コストを減らし、効率を向上するためのプログラムを立ち上げている(8,9)。



エルゴノミクス・プロセス
 

 既に多くの鳥肉加工業界の事業者が、OSHAが1993年の精肉工場向けガイドラインで示した対策案を実施している。OSHAは、本ガイドラインが事業者がこれらの対策案を基に既に確立している効果的なプログラムを乱すべきではないと考えている。しかし、本ガイドラインは、特に鳥肉加工業務向けに考案されたものであり、精肉工場向けガイドラインを改訂、拡充しながらも、それらと矛盾することがないよう考慮されている。例えば、後述の「解決策の実施」の項では、鳥肉加工業者が自らの施設で実施を検討することができる、具体的な解決策が提示されている。これらの解決策は、精肉工場向けガイドラインが発行されて以来10余年にわたって発展してきた、鳥肉加工業界における技術革新を反映したものである。同時に本ガイドラインは、特に鳥肉加工業界における作業内容や作業工程向けに整理されている情報以外にもいくつかの情報を提供している。例えば、OSHAは後述の「解決策の実施」の項で、鳥肉加工業者が自らの施設で実施を検討することができる、22項目の具体的な解決策である。

マネジメント支援の実施

 しっかりしたマネジメント支援は、エルゴノミクス・プロセスを効果的に実施する上で欠かせない要素である。OSHAはマネジメント支援がすべての労働者の目に見えるかたちで実施されることを奨励している。一般的に、経営者は以下のようなかたちで目に見える支援を提供することができる。
      労働者の安全と健康の重要性を常時伝達する。
      適切な管理者、監督者、およびその他の労働者を、エルゴノミクス・プロセスのさまざまな要素に関する責任者に任命し、連絡をとる。
      エルゴノミクス・プロセスに十分な資源を投入する。
      生産工程と生産改善を、安全衛生関連の課題と結びつけて考える。
      すべての管理者および労働者は、エルゴノミクス・プロセスのもとで自分たちの責務を全うする責任があるということを周知徹底する。

 「赤身の肉に関するガイドラインはこれまでも、そして今後も、[MSD]をマネジメントする上で有効なツールである。」 タイソン・フーズ(10)。

労働者の参加

 効果的なエルゴノミクス・プロセスは、労働者の積極的な参加が不可欠である。労働者の参加は、エルゴノミクス・プロセスの問題解決能力を高めるとともに、リスクファクター認識の手助けとなる。エルゴノミクス・プロセスにおける労働者の参加は、職場改善の際、それらをより受け入れやすくすることにもつながる。エルゴノミクス・プロセスに労働者を参加させる方法を以下に示す。

      MSDs発症およびその初期兆候の、迅速かつ正確な報告を促す手続きを確立する。
      労働者が、作業内容や設備・機材、手順の考案、職場におけるリスクファクターの報告、研修などに関わることができるシステムを構築する。
      労働者が報復を恐れることなくエルゴノミクス的課題を提起できるような、苦情または提案を伝える手順を確立する。
      労働者に職場の改善に関するフィードバックを求める。
     

問題を特定し、課題を分析し、解決策を提案するために労働者グループを組織する。


 「エルゴノミクス・プログラムは我々の労働力に大きな影響を与えた。このプログラムは、過去3年間に事故発生件数および損失時間の割合を減らすために役立つ基盤を提供してくれた。」 コンアグラ・フーズ、冷蔵食品グループ、七面鳥事業部(11)。


研修の実施

 研修もエルゴノミクス・プロセスにおける重要な要素である。労働者は研修を通して、職場におけるエルゴノミクス的課題、および傷害を負うリスクをどのようにして最小限に抑えることができるかということに関する情報を確実に得ることができる。研修は、鳥肉加工業界のエルゴノミクスに関わった経験のある人物によって実施されるべきである。また、研修はすべての労働者が理解できる内容および言語で実施されなければならない。
 OSHAは、すべての労働者にエルゴノミクス的課題に関する一般研修を受けさせることを奨励している。この研修は安全衛生に関する初期研修に組み込むことができる。一般的に、この研修には以下の要素が盛り込まれるべきである。

      OSHAの傷害および疾病の記録および報告に関する規則(29 CFR 1904)が定める、業務上の傷害および疾病を報告する手順。
      当該企業が実施しているエルゴノミクス・プロセス。
      エルゴノミクス的リスクファクターの特定方法。
      適正な作業実施および設備・機材の使用を含む、傷害を回避する方法および手順。
      MSDsおよびその初期兆候の判別方法。
      重篤な傷害が発症する前に、MSDsの初期兆候に対応することの利点。

 またOSHAは、鳥肉加工業に就いている労働者に、エルゴノミクス的課題に関する、作業内容に即した研修を受けさせることも勧めている。OSHAは、最低限でも以下の労働者にはこうした研修を受けさせるよう勧めている:傷害を被る危険性がある労働者、監督者、管理者、技術者および保守管理担当者、そして医療担当者。

傷害を被るリスクがある労働者

 OSHAは、傷害を被るリスクがある労働者には、一般研修のほかに、フルタイムで生産現場に就かせる前に実践的エルゴノミクス研修を受けさせるよう勧めている。既に多くの鳥肉加工施設が、新規採用または配置転換された労働者向けに実践的エルゴノミクス研修を行うための、専用加工ラインを稼働させている。これらの研修用ラインは、労働者にエルゴノミクス研修を受けさせるのに理想的な環境である。OSHAは、こうした労働者には最低限でも以下の分野に関する研修を受けさせるよう勧めている。

      ナイフの手入れ、使用、取り扱い方法。
      特別な器具および装置の使用方法。
      MSD予防につながる、個人用保護具を含む安全装置の使用方法(手袋の正しい着用方法など)。
      適切な荷の持ち上げ方とリフト装置の使用方法。

監督者

 監督者は、エルゴノミクス・プロセスを効果的にマネジメントし、すべての労働者が安全な作業方法を確実に守れるように、傷害を被るリスクがある労働者と同じ研修を受けるべきである。OSHAは、監督者にはこのほかに、危険な作業内容の判別方法、それらを改善する方法、エルゴノミクス・プロセスを効果的に実施させる方法、そしてエルゴノミクス的改善の追跡方法に関する研修も受けるよう勧めている。また監督者は、労働者が安全な作業方法に関する追加研修を受ける必要があるかどうかについて判断する方法、および作業を制限されている労働者の監視方法に関しても指導を受けるべきである。

管理者

 管理者は、エルゴノミクス・プロセスおよびそこで自らに課せられている責務について、熟知していなければならない。OSHAは、管理者がエルゴノミクス・プロセスを効果的に実施できるよう、各自の所管分野に関連するエルゴノミクス的課題に関する十分な研修を受けさせることも勧めている。

技術者および保守管理担当者

 OSHAは、これらの担当者に、作業内容およびワークステーションの設計および適切な保守管理を通してエルゴノミクス的問題を予防し、改善することを目的とした研修を受けさせるよう勧めている。OSHAは、工場の技術者および保守管理担当者に、業務で使う器具に関連するエルゴノミクス的課題に関する研修を受けさせるよう勧めている。

医療担当者

 鳥肉加工業者の多くが、労働医療サービスを提供するために医療担当者を雇用している。OSHAは、これらの医療担当者に、MSDsの予防、早期発見、評価、治療、およびリハビリに関する研修を受けるよう勧めている。またOSHAは、これらの医療担当者に、労働者が直面する可能性のあるエルゴノミクス的問題の種類を把握するため、鳥肉加工施設におけるさまざまな作業内容を熟知するよう勧めている。

問題の特定

 OSHAは鳥肉加工施設において、エルゴノミクス的問題を系統的に特定するための三段階プロセスを確立するよう勧めている。このプロセスは、職場の労働条件だけでなく、既存および新規の施設、加工工程、物資、設備・機材に関して計画している変更にも対応するものである。鳥肉加工施設におけるエルゴノミクス的問題を特定するための三段階プロセスには以下の要素が含まれている。

      利用可能な情報源からの情報の収集。
      特別な器具および装置の使用方法。より詳細な分析が必要な作業内容を特定するための、労働環境に関する初期アンケート調査の実施。
      リスクファクターが特定されているワークステーションについての、エルゴノミクス的労働危険性分析の実施。

利用可能な情報源からの情報の収集

 エルゴノミクス的問題を特定する際には、最初のステップとして、入手可能な情報の検証および分析を行うべきである。問題または潜在的問題に関する情報は、OSHA様式300及び301の報告書、応急処置記録、労災補償請求に関する報告書、事故およびニアミス調査報告書、および保険会社の報告書を含むさまざまな情報源から得ることができる。また事業者は、労働者の面接およびアンケート調査や、労働環境の検証および観察からも有用な情報を得ることができる。

労働環境に関する初期アンケート調査の実施

 次のステップは、初期職場アンケート調査の実施である。初期職場アンケート調査は通常、職場のリスクファクターを探すために、エルゴノミクス・チェックリストを用いて行われる。鳥肉加工業者によると(8)、鳥肉加工施設における最も重要なリスクファクターは以下の通りである。

      反復運動 ― 同じ動き、または一連の動作を継続して、または頻繁に行う。
      力 ― 作業(重量物を持ち上げるなど)を行う上で必要な、または装置や器具を制御しながら扱うために必要な筋力。
      不安定なまたは固定した姿勢 ― 肩より高い位置に手を伸ばす、膝を曲げる、しゃがむ、作業台の上にかがむ、ものを持ち上げながら胴をひねる、などの安定しない、または固定した位置で器具(ナイフやハサミなど)を持つ、または使うなどといった、身体に負担をかける姿勢をとること。
      振動 ― 手および腕にかかる負担を増加させる可能性がある、手で持つかたちの動力式器具の使用。
 寒冷と上述のリスクファクターの組み合わせも、MSDs発症の可能性を高くする可能性がある(1)。鳥肉加工における多くの作業は、冷凍・冷蔵された製品の取り扱いをともなうか、あるいは寒冷環境で行われる。
 すべての労働環境に、これらのリスクファクターがすべて存在するわけではなく、またこれら因子のうちのひとつ、またはすべてが存在すれば、必ず傷害が発生するわけでもない。しかし事業者は、業務や作業内容、ワークステーションの設備などを審査および分析する際にどのリスクファクターが存在しているかを判断するため、これらのファクターを検証すべきである。複数のリスクファクターをともなう業務および作業内容は、MSDsを引き起こす可能性が高い(2)。

エルゴノミクス的作業ハザードの分析の実施

 三番目のステップは、上述のステップで危険性が高いと特定された作業について、作業上のハザードを分析することである。作業内容のアセスメントは、観察および作業内容について労働者と面談を行うことで、十分実施できることが多い。作業内容についての労働者との面談は、完全に加工工程を把握するために役立つ。十分な分析によって、調査対象となったそれぞれの作業内容の中に存在するすべてのリスクファクターが特定できると考えられる(12)。


解決策の実施

 本ガイドラインの「解決策の実施」の項には、さまざまな課題の解決策が提案されている。鳥肉加工業者は、エルゴノミクス的目標を達成するために、ワークステーションを改善し、設備を購入し、作業手順を変更しなければならない場合がある。多くの場合、問題を解決することのできる、単純で低コストの解決策が見つかることがあり、例えば、リスクファクターにさらされる可能性を減らすために、台車を使ったりカットアウトを施したりすることもできる。事業者は、新規工場を計画する、または既存の工場を改修する際には、エルゴノミクス的課題を考慮に入れるべきである。大幅な変更はこうした際のほうが実施しやすく、低コストあるいは追加コストなしにエルゴノミクス的設計を導入することができる。

傷害報告への対応

 効果的な安全衛生プログラムを実施している鳥肉加工施設においても、傷害および疾病が発生する可能性がある。早期報告、診断、および介入は、傷害の重症化を防ぎ、治療の効果を上げ、身体障害が残る、または永久的な損傷を受ける確率を最小限に抑え、労災補償請求を減らすことができる(3, 9, 12)。多くの事業者が、早期報告とともに適切な治療および/または作業の制限を行うことが、傷害に関連して発生しうる、より深刻で費用のかさむ様々な問題に発展することなく、労働者を完全に回復させるのに役立つことを確認している(3, 9, 10, 12)。OSHAの傷害および疾病の記録および報告に関する規則(29 CFR 1904)は、事業者に業務上の傷害および疾病の記録を義務付けている。また、業務上の傷害または疾病を報告した労働者を差別することを禁じている(29 U.S.C. 660 (c))。
 OSHAは事業者に、以下の分野に対応するプロセスを実施することを奨励している。

      傷害および疾病の記録
完全で記述的、正確な傷害および疾病の記録は、問題分野の特定および発生状況の評価に用いることができる。
      早期発見および報告
MSD発症につながる可能性のある兆候の早期発見は、原因となりうる問題を検証し、傷害および疾病が発生する前に対策を講じる機会を与える(3, 10, 12, 13)。
      系統的な評価および紹介
雇用主の中には、労働者からの報告を評価し、予防的治療を受けさせるとともに作業制限を実施し、労働者に医療機関を紹介するのに明確に定義された手順または規定が、MSDsの重症化を最低限に抑える効果的で安定した方法であることを確認しているものもいる(3, 8, 10, 12)。
      予防的治療
MSD発症初期に予防的治療を受ければ、より侵襲的な治療の必要性を排除することができる可能性がある。予防的治療には、傷害または疾病の性質や重傷度に応じて施される、休息、温冷療法、非ステロイド抗炎症薬、運動、就寝時の添え木などが含まれる(3, 10, 13)。
      慎重な職場復帰(作業の制限)
作業の制限または軽減はMSDsの治療に最も役立つ処置のひとつである。適切な指示により、労働者は事業者のもとで生産的な作業に携わり続けながら、徐々に回復することができる。MSDsの症例の中には、完全に回復するまでに数週間(または、まれに数ヶ月間)、作業を制限する必要がある場合がある(3, 10, 12)。
      系統的な監視
労働者からの報告の系統的な追跡調査は、グッドワークプラクティスを拡充し、予防的治療の受診プランを改良し、作業の制限を調整し、労働者を医療機関に紹介する機会を与える(3, 12)。
      医療資源
医療従事者の雇用、または外部の医療従事者と恒常的な関係を構築することにより、事業者は、労働者からの報告に迅速かつ効果的に対応し、労働者の症状を確認し、医療機関を紹介し、治療を受けさせ、傷害を被った労働者の回復状況を観察することができるようになる。

 「特に早期介入等の効果的な医療マネジメントによって、業務上の重症の[MSDs]をほぼ完全になくすことができる。」 タイソン・フーズ(10)。

 MSDsの兆候および症状の早期報告および慎重な職場復帰プログラムは、特に重要である。OSHAは、さらに重症のMSDが発症する前に、MSDsの初期兆候を報告するよう労働者に求めることを事業者に勧めている。
 鳥肉加工施設の中には、傷害に関する報告を受け、対応ができるようにMSDsの予防および治療に関する研修を受けた医療従事者を雇用しているところもある。これらの施設では、こうした医療従事者をエルゴノミクス的な取り組みの中に全面的に組み込んでいると報告している。OSHAは、これらの医療担当者に、最新の業務および作業手順を常に把握し、身体への負担が軽い作業内容を特定し、労働者と常に密接な関係を構築しておくために、最低限でも定期的、系統的に職場を巡回するよう勧めている。

エルゴノミクス的な取り組みの評価

 エルゴノミクス・プロセスの実施状況を評価し、進展を監視する、手順およびやり方も重要である。評価および追跡調査は、継続的な改善および長期的な成功の核心である。OSHAは、目標および目的を達成できているかどうか判断するために、エルゴノミクス・プロセスを定期的に評価するよう勧めている。こうした評価には、明確に定義されている目標および目的を検証し、プログラムにおける変更を提案し、解決策の効果を評価する管理者、監督者、および労働者からの報告が含まれなければならない。評価手法には以下項目が含まれる。

      傷害および疾病の発生率および労災補償請求の傾向分析。
      労働者を対象にしたアンケート調査および面接。
      作業/場所の変更に関するアンケート調査。

 評価を通して判明したすべての問題点について、対策を講じるべきである。



解決策の実施
 

 鳥肉加工におけるエルゴノミクス的な解決策には、ワークステーションおよび設備、作業手順、個人用保護具、およびマネジメント面における変更が含まれる。これ以降に提案されている解決策は、関連事項を完全に網羅するリストとして作成されたものでもなく、OSHAがあらゆる施設でこれらがすべて実施されるように期待しているわけでもない。鳥肉加工施設は、自らの施設に適した革新的なエルゴノミクス的解決策を、ここから発展させて構築するよう奨励されている。精肉工場向けガイドラインと同様、OSHAは事業者に、鳥肉加工施設におけるエルゴノミクス的問題に対応する際により好ましい手法として、実行が可能な場では工学的技術を用いるよう勧めている。しかしOSHAは、各施設に適応した様々な解決策が必要となることも認識している。
 OSHAは、適切な作業手順を実行するよう事業者が労働者を訓練するよう勧めている。適切な作業手順には、空気圧式および動力式器具の適切な使用および保守管理、正しい切断技術、適切な重量物の持ち上げ方、および正しいナイフの手入れなどが含まれる。効果的な個人用保護具の使用および保守管理も重要である。例えば、正しく着用された保温手袋は、ものをつかむ能力を損なうことなく、寒冷環境での作業に役立つ。
 多くの鳥肉加工業者は、リスクファクターにさらされる長さ、頻度、および程度を、マネジメント面での解決策を用いることによって減らせることを確認している。以下は、マネジメント面において、鳥肉加工業者が効果的に用いている解決策の例である。
    作業ローテーションは、肉体的疲労や特定の筋肉および腱にかかる負担を緩和することができる可能性がある。作業ローテーション・システムを構築する際に、事業者は通常それぞれの作業の性質および必要とされる労力を分類した上で、適切に負担を軽減できるよう、ライン内で頻繁な反復運動が必要とされる作業とそうでない作業の間、および/または同じ作業エリア内あるいは工場全体の中で身体を曲げる動作をともなう作業と、伸ばす動作の間で労働者を交替させるよう、スケジュールを組み立てる。また、作業に使われる身体部分も考慮し、反復運動または不自然な姿勢を保つことを強いられている身体部分を完全に休ませるか、またはよりゆっくりとしたペース、かつ不自然でない姿勢で動かすことができるようなかたちでローテーションを組む。リスクが高いと考えられている作業(振動する器具を手で持って行う作業や骨の除去作業など)を適切に割り振る、または寒冷にさらされる時間を最小限に抑えるために、ローテーション・スケジュールを用いる。
    人材配置の際に「予備要員」を確保しておくと、スケジュールで決められている休憩の間に定期的な休憩を挟むことができる。
    鳥肉加工施設においては、新規採用または配置転換された労働者、長期休暇から戻った労働者、またはその他の目的で長期間休んでいた労働者は、作業内容に慣れ、これから行う肉体労働に必要な体力をつけるための慣らし期間を必要とする。OSHAは、これを適切に行うために、新規採用または配置転換された労働者については軽い作業内容から徐々に仕事量を増やしていくよう勧めている。またOSHAは、慣らし期間のあいだ、労働者に、経験を積んだ研修者のもとで作業および評価に関する研修を受けさせることも奨励している。
    休憩は疲労した筋肉を楽にし、使われていた一連の筋肉を休める時間を労働者に与える。
    生産ピーク時に、休憩に対応し、作業内容拡大プログラムを立ち上げ、ローテーション・プランを組み換える選択肢を広げられるだけの十分な労働力が確保できるように、労働者に複数分野の研修を受けさせておく。
    定期的に器具の予防的な保守点検作業を行うことによって、器具が正しく作動するようにしておく。


 リスクファクターにさらされるとともに寒冷環境におかれると、MSDの発症率が増加する可能性がある。事業者は通常、労働者が温まることができるように、温かく乾いたエリアを設け、頻繁に短い休憩をとらせることで寒冷にさらされる影響を最小限に抑える。また、寒冷環境で作業を行うときには、適切な服装および個人用保護具を着用することも重要である。
 以下に示されている解決策は、関連事項を完全に網羅するリストとして作成されたものではなく、エルゴノミクス的解決策の例に過ぎない。個々の鳥肉加工施設は、各自の施設のニーズに見合った革新的手法を模索する際の起点として、これらのアイディアを用いるとよい。



ワークステーション
 

ワークステーション ― カットアウト
説明:
労働者が作業台の上のアイテムにより近づくことができるように、作業面の一部を除去する。

対象:
身体を大きく曲げたり、遠くまで伸ばしたりしなければ作業台の上のアイテムに届かないとき。

留意点:

  • アイテムを労働者の近くに置くことで、過度な身体の曲げ伸ばしを最小限に抑えることができる。手を伸ばす範囲は最大でも、背筋の伸びた姿勢で腕の長さ以内に抑えるべきである。
  • 膝および足の位置で凹ませたデザインによって、労働者がより近い位置で作業できるようにすることで、身体の曲げ伸ばしを減らすことができる。
  • カットアウトを施すことで、鳥肉部位、器具、加工原料、その他の物品などを置くための作業スペースを拡大することができる。
  • 角張ったものに触れることによる不快感を避けるために、作業台の角を丸くしておくこと。

ワークステーション ― 袋詰め機およびその他の包装システム
説明:
丸一羽の鳥または鳥肉製品を包装し、包装したパッケージを輸送コンテナに詰めるために使われる、メカニズムおよび固定装置。

対象:
加工済みの製品を包装するとき。

留意点:

  • 自動袋詰め機では、丸一羽の鳥または鳥肉部位が横または縦に移動して袋に入る。これらのシステムの中には、自動的に個数を数える、または重さを量ることができ、在庫管理の際に必要な情報を得られるものもある。
  • 半自動化システムの中には、手で袋を配置してその中に製品が移動する、または落ちるようにするものや、製品を入れやすいように空圧で袋を開かせるものもある。
  • 中身の入った袋の口を、自動的にとめたり、閉じたりできる機械もある。
  • 多くのシステムは、労働者が手を交互に換えて操作できるようになっている。
  • プラスチック・フィルムの再装填には巻き上げ式システムのほうがよい。
  • 手で持つスクープ(杓子)を使う場合は、手首を不自然なかたちにしなくてもよいように、曲がった柄のついたものを用いるべきである。柄は、握りやすいように、ゴム製またはざらついたプラスチック製のものにするべきである。
  • 包装済みの食肉は、箱に直接入れた後、封をし、ラベルを貼り、パレットに乗せるために自動包装機械に送ることができる。

ワークステーション ― ティルター(傾斜機)およびダンパー(投入機)
説明:
中身を外に出すために、容器を傾ける、または逆さにする機械装置。

対象:
容器の中身を機械、別の容器、廃棄物容器の中、または作業台の上にあけるとき。

留意点:

  • 特に中身が氷の場合は、かき出す手間を省くことができる場合がある。
  • 身体の曲げ伸ばしを最小限に抑えるために、ティルターまたはダンパーの位置を調節することができる。
  • 容器をティルターまたはダンパーのところまで移動する際には、台車を使うこと。

ワークステーション ― シュート(滑り台)
説明:
作業台にあけられた穴につなげられたトンネル式の構造で、鳥肉部位またはその他のアイテムを落とし込んで、別の場所に移送することができる。

対象:
切り離した鳥肉部位またはその他のアイテムを移送するとき。物品は容器に直接落とし込んだり、バキューム(吸引)・システムを通して移送される。

留意点:

  • シュートの開口部は、加工作業に支障をきたさず、遠くまで手を伸ばす必要もないように、取り扱われる鳥肉部位の大きさに適したものにする。
  • 加工する鳥肉部位が労働者の近くに置かれるようにすることで、身体の曲げ伸ばしを最小限に抑えることができる。手を伸ばす範囲は最大でも、胴を直立した姿勢で腕の長さ以内に抑える。


ワークステーション ― ダイバーター(誘導装置)
説明:
コンベヤーまたはスライドの上のアイテムを、ある方向に誘導する機械装置。

対象:
身体を大きく曲げたり、遠くまで伸ばしたりしなければコンベヤーまたはスライドの上のアイテムに届かないとき。

留意点:

  • 加工する鳥肉部位が労働者の近くに流れてくるようにすることで、身体の曲げ伸ばしを最小限に抑えることができる。手を伸ばす範囲は最大でも、胴を直立した姿勢で腕の長さ以内に抑える。
  • 労働者がラインの両側で作業を行うことができるように、加工する鳥肉部位がコンベヤー、スライド、または作業エリアの両側に配分されて流れてくるように調節する。


ワークステーション ― 重量計
説明:
鳥肉、鳥肉部位、加工食肉、および廃棄物の不必要な運搬をなくすため、重さを量るプロセスを生産工程の中に組み込む内蔵式重量計。

対象:
作業中にアイテムの重さを量る必要があるとき。

留意点:
  • 重量計を床の中に組み込むかたちで設置すれば、台車を傾斜の上まで押し上げることなく、当該位置まで水平に移動させるだけで重さを量ることができる。
  • 重量計は、労働者の背後の別の作業エリアではなく、当該作業エリア内の手の届きやすいところに配置すること。鳥肉を持ち上げることなく重さを量ることができるように、重量計は作業台と平面になるように設置すること。
  • 箱詰めされた製品については、最初の入荷の際に包装ステーションの床に組み込まれた重量計で重さを量り、あとで再度量る手間を省くことができる。
  • 重量計は、コンベヤーやシャックル・システムに組み込むこともできる。


ワークステーション ― シャックル
説明:
鳥肉部位を加工したり別の作業エリアに移動したりする際に、配置および固定するために使われる機械装置。

対象:
吊した状態で加工作業が行われるとき。

留意点:

  • 自動吊し換え機によって、鳥を吊す際に発生する手作業を減らすことができる。
  • 鳥の足をシャックルにはめやすいように、鳥の重量を支えるラックまたは補助板などを用意すること。
  • 吊し換えの必要性を最小限に抑えるために、シャックルの長さが鳥を支えるのに適しているようにすること。
  • 鳥が動いたり、労働者が遠くまで手を伸ばしたりすることを最小限に抑えるために、鳥の後ろに横木またはガイド・バーを設置することを検討すること。
  • 労働者が鳥を持ったり持ち上げたりする際に、胴をひねることなく前方にわずかに手を伸ばすだけで鳥に直接触れることができるよう、シャックルを適切に配置すること。
  • 鳥の重さを支えながら、鳥の足がシャックルにはめやすい向きで流れてくるように、コンベヤー・システムを設計すること。鳥とシャックルが自動的に並ぶような設計が望ましい。
  • 鳥どうしが絡まってしまうことのないように、シャックルのあいだに適切な間隔をあけること。シャックルのあいだに適切な間隔をあけることによって、作業のやり直しや、絡まっている鳥を離す手間を減らすことができる。


ワークステーション ― ジグ(治具)、固定装置、マンドレル(芯金)、および製品を配置するために使われるその他の装置
説明:
鳥肉部位を加工する際に、配置および固定するために使われる機械装置。

対象:
製品を適切に配置することで過度な力や不自然な姿勢を最小限に抑えられる、切断および骨の除去作業で用いる。

留意点:
  • 切断する、または骨を除去する際に、製品を傷めることなく鳥の胸を確実に固定できる装置を設計すること。鳥が固定されれば、労働者は両手を使って骨から肉をはずすことができる。装置は機械式でもバキューム(吸引)式でもかまわない。
  • 固定装置を用いると、ナイフを持っていない手で鳥をつかむ回数が減る。高さを調節して固定できるようにすることで、労働者は腕を不自然なかたちにせず作業をすることができるようになる。固定装置は、腕を不自然なかたちにすることなく直線ナイフ:柄と刃が直線になっているナイフ)を使うことができるように、最低でも二つの異なる角度に調節できるようにするべきである。
  • 腱を除去する際には、腱の端を固定具にはさんで機械アームを使って腱を肉から引きはがすようにすることで、肉を良好な状態に保つことができる。固定具を用いることによって、手で持ったりつまんだりする回数を減らすことができる。


ワークステーション ― イス、腰掛け、および背もたれ
説明:
固定位置で作業をする労働者を補助する装置

対象:
固定位置で座って、または立って作業が行われているすべての場所。

留意点:

  • 最も適切な補助装置を選ぶことで、自然な姿勢を保ちやすくなり、座ったままの状態、または立ったり座ったりしながら、あるいは立って作業を行っている最中の疲労を軽減できる。
  • これらの装置を用いたために、さらに手を伸ばしたり、身体を曲げたり、胴体をひねったりすることが生じないようにすべきである。

推奨されるイス

  • 目視による、または触覚を用いた検査を必要とする作業や、その他の分解または加工作業では、背もたれの付いたイスを用意してもよい。イスは、行われる作業および労働者の身体の大きさを許容できる幅で調節可能なものにすべきである。

  • 背の高いイスは、足をかけて登り降りができるフットレストのような機能が付いているものにするべきである。フットリングの長時間にわたる使用は、足の血流を悪くさせる可能性があるため、長時間にわたって作業が行われる場所には足置きを設置するべきである。
  • 足置きは足全体を置くことができるだけの幅と、足を横や前後へ多少動かして足の位置を変える余地があるだけの大きさのあるものにするべきである。膝を極端に曲げたり、あるいは伸ばしたりしなくてもよいように足置きを配置すること。膝を弱い鈍角に保てるくらいが望ましい。高さの調節できる足置きが望ましい。姿勢、力、衛生上の問題を発生させることのない調節機構を選ぶこと。いつどのようにイスを調節するべきかを労働者に教えること。
  • 高さの調節ができない場合は、最も身長の低い人にも対応できるように、最低でも二つの異なる高さの固定足置きを設置すること。低い方の足置きを使う際に邪魔にならないように、高い方の足置きをやや凹ませるようにすること。
  • イスの座面の奥行きは、腿(もも)をささえることができるだけの深さがあるべきだが、膝のうしろには触れないようにすること。
  • イスは、腿を水平に保つことができる角度にするべきである。
  • 背もたれは高さを調節でき、背中上部から腰までを支えることができるだけの大きさのものにするべきである。背もたれの形は、腰の部分で内側にカーブする身体の線に沿うものにするべきである。
  • 肘置きは作業に必要な動作の邪魔になる場合がある。肘置きを使う場合は、高さと幅を調節可能なものにするべきである。

推奨される座/立式腰掛け

  • 背の高い腰掛けまたは傾斜イスは、労働者がもたれたり、体重をかけたり、胴の角度を変えたりすることができる座面を提供する。
  • 傾斜イスでは、もたれることしかできない。平らなイスでは、労働者は片足を床につけ、もう片方の足の腿を支えるためにイスに乗せることができる。
  • 不意に動くことのないように、基盤は固定しておくべきである。

推奨される背もたれ、またはもたれるための装置

  • もうひとつ別のタイプのもたれるための道具として、固定された、安定的で高さの調節が可能な座面をともなわない独立した背もたれがある。この道具は、背中上部と腰の両方を適切に支えることができる。清掃および公衆衛生面で必要な空間が確保できる。上述の提案の多くは、背もたれ、およびもたれるための道具にもあてはまる。
  • 労働者が胴を前にかがめなくてもすむように、道具を配置すること。
  • 作業場付近を通るその他の労働者の通行を妨げることのないように、道具の後ろに十分な空間が確保されているようにすること。


ワークステーション ― 作業のやり直し

説明:
摘出および切断作業のために設けられたワークステーションまたは作業エリア。

対象:
不要な部位を除去するために特別な取り扱いが必要な、傷んだ鳥を対象。

留意点:

  • こうした鳥肉部位を通常の加工ラインから離れたところに移動することで、ラインの流れを妨げることなく、十分時間をかけて詳しく調べ、不要な部位を除去できる。
  • 必要な場合は空圧式または機械式切断装置を用いて、手の力をかける作業を最小限に抑えること。
  • 自然な姿勢で終始作業できるように鳥肉部位を配置するには、固定装置および/または前方にやや傾斜した作業台が適していることがある。
  • 各自のペースで、通常の加工ラインよりもゆっくりと作業ができるため、代替作業エリアまたはローテーション・プランの一部として用いることもできる。


ワークステーション ― 作業を行う高さ、および角度の調節
説明:
適切に調節されたワークステーション。

対象:
すべてのワークステーション。

留意点:

  • 適切な高さのワークステーションは、丸一羽の鳥および鳥肉部位をきれいにする、加工する、包装する作業中に、胴を前に大きく曲げたり、腕を上げたりする動作を最小限に抑えることができる。
  • 適切な手の高さで作業を行えば、より快適で生産性も向上する。

推奨される作業台の高さ

  • 至近距離で目視検査を行う場合は、手が肘よりやや高く、肩より低い位置になるように作業台の高さを設定すること。
  • 簡単な作業(部位の箱詰めなど)の場合は、手が肘よりやや低い位置になるように作業台の高さを設定すること。(注意:箱の高さに応じて作業台をさらに低くする必要がある場合がある。)
  • 強い力を必要とする作業(切断や骨の除去など)の場合は、至近距離で目視検査を行う必要がない限り、作業台は肘より低い位置にするべきである。
  • 個々の労働者が使用時に高さを調節できる動力式作業台には、スプリングが内蔵されているものやモーターによる電動式のものがある。
  • 身長の高い労働者向けに設計されている作業台には、身長の低い労働者でも作業をすることができるように、踏み台または高さを調節できるなんらかの機能を付けるべきである。いつどのようにして高さを調節するべきかを労働者に教えること。姿勢、力、衛生上の問題を引き起こすことなく操作できる調節用コントローラーを用意すること。

推奨される床設計

  • 肩の高さより上に手を伸ばさなくてもすむように、踏み台を設置すること。
  • 労働者が、必要な場合にはコンベヤーに沿って横に数歩移動することができる、また身体を直立させた位置から片足を前または後ろに少しずらしても足全体が支えられるだけの空間を確保すること。
  • 落下防止のために、踏み台の後ろ側の縁に横木を取り付けてもよい。踏み台の奥行きは、労働者がワークステーションについているときに、その後ろを人が通行するのを妨げることのない範囲のものにすること。
  • 濡れたり動物性脂肪で汚れたりするエリアには、滑りにくい床材を用いること。
  • 可能な場所では、スラット(はね板)タイプではなく、穴あきタイプの床材を用いること。スラットを用いる場合は、足の裏の数点に圧力が偏ってかかることを最小限に抑えるために、平らで幅広のものにすること。
  • より快適にするために、取り除いて掃除しやすい、滑りにくく疲れにくいマットを、硬い床の上に敷いてもよい。

 




器具
 

器具 ― 柄とデザイン
説明:
手で持つ器具を使う際に、リスクファクターにさらされる可能性を最小限に抑えるデザイン。

対象:
手で持つ器具を用いる作業。

留意点:
  • 柄は、作業の動線と垂直になり、しっかりと握ることができるだけの太さがあり、少なくとも手のひらより長く、滑りにくい素材でできているべきである。
  • 下方向に切る作業では、角度のついた柄およびピストル型の握りを用いるとよい。これらのナイフは、広い用途に使うことはできないかもしれないが、手首を自然なかたちに保ちながら下方向に適度の力をかけてなめらかに切断することができる。
  • 直線の柄は、水平方向に切る作業に最適である(鳥肉部位が作業台の上に平らに置かれている場合など)。

温度と振動

  • 柄は、器具から手に寒冷が伝わるのを避けるのに役立ち、濡れていても、滑りやすい素材が付着していても、適切に機能するべきである。
  • 鉄球を詰めたデッドブローハンマーは、手の中で跳ね返りにくい。

柄の太さ

  • 器具は労働者の手にすっぽり収まるべきである(太すぎず、細すぎず)。
  • 長さは、手袋をはめた、またははめていない手のひらよりもやや長めがよい。

柄の選択肢

  • 重たい器具は、柄が二つついている、または吊り下げられているか平衡になるように支えられているべきである。
  • 巻き付け式の柄が付いている器具は、非常に楽に持っていることができる。
  • 手が前方に滑って刃に触れることのないように、ある種の器具では柄にガードを付けてもよい。

力を軽減する

  • 特に繰り返し行われる作業では、指でつまむ作業を最小限に抑える。
  • 表面のざらついた柄は握りやすく、手の力を軽減する。付着するグリース(油脂)を温水で洗浄できるべきである。
  • 指の一部や手のひらに強い圧力がかかる(力を入れてハサミの刃を開くなど)のを避けること。


器具 ― 噴霧ノズル

説明:
手の力を最小限に抑えるデザイン。

対象:
噴霧ノズルを長時間にわたって使用するすべての公衆衛生上の工程。

留意点:

  • 特に人差し指など、一本の指だけで操作しないこと。
  • 手の形、幅、大きさに合う手動の作動装置の有無と種類を調査すること。
  • 水用のホースなどには、回転式のノズルを付けること。
  • 高圧で噴霧するホースには、ピストル型の握りのノズルを付けること。
  • 腱を痛めないように、操作する際には指先だけでなく指全体を使うこと。
  • 労働者が疲れたときには自由に換えることができるように、手と足の両方で作動することができるシステムの導入を検討すること。


器具 ― 選択肢

説明:
切断、骨の除去、およびその他の作業を行うための動力式および手動の器具。

対象:
摘出、穴あけ、骨の除去、切り身加工、砂嚢の除去、内臓の切り離しを含む、鳥肉加工におけるほぼすべての作業で。

留意点:

  • 手で持つ器具は、手首が自然なかたちで作業ができるような柄の角度のものを選ぶこと。
  • 柄と刃のあいだにユニバーサル・ジョイント(自在継ぎ手)を付けることによって、作業時の手首の位置を改善できることがある。
  • ばね付きの柄を用いれば、繰り返し切断を行う作業で、親指に力を入れなくても刃を開くことができるようになる。
  • ばねの力は、手の疲れを最小限に抑えられるよう設計されているべきである。
  • 丸鋸または電動鋸は、丸一羽の鳥や胸肉を半分に切るのに効果的である。
  • より小さい鳥肉部位を切る際(仕上げや摘出など)には、動力式(空気圧式)またはばね付きの大型ハサミ、および刃付き空気圧式輪または手持ナイフを用いるのがよい。
  • 心臓および肝臓の除去には大型ハサミを用いるのがよい。
  • 骨の除去および切り身加工にはナイフを用いるのがよい。
  • 砂嚢をきれいにするための特別な器具(小さな刃付輪の付いた、手で持つ動力式の装置)が開発されている。
  • 大腿骨関節を切り離す専用器具(ポッパー)を用いれば、従来の手作業に比べて必要な手の力を軽減できる。


器具 ― ナイフ、鋸、ハサミの使用と手入れ
説明:
ナイフ、鋸、ハサミを最適に機能する状態にしておくための手入れの手順。

対象:
ナイフ、鋸、ハサミの使うすべての作業。

留意点:
  • 刃が鋭いほど、作業の際にかける力は(そしておそらく繰り返しも)少なくてすむ。刃を研ぐ作業は、高度な技術をともない、特別な訓練を必要とし、通常、生産エリアとは別の場所で行われる。常に鋭い刃を用いられるようにしておく方法としては、労働者にそれぞれ複数本のナイフを支給する、ナイフを素早く簡単に取り替えられるようにする、刃こぼれや面が生じないようにする、などがあげられる。
  • 刃に刃こぼれや面が生じたりしないようにするには、常に注意している必要がある。労働者には、手で研ぐ、または固定式研磨機を使って金属片や面を取り除く方法を教えることができる。刃こぼれが生じていると、製品を切りにくくなり、製品を傷めることもある。いずれの研磨方法も、刃の端から端までを砥石またはその他のはさんで使うタイプの研磨機に沿って滑らせることによって研ぐ。手で研ぐ際には両手が必要となり、労働者は支えなしに片手で研磨機を、もう片手でナイフを持たなければならない。まっすぐな柄の上に二本の研磨材を縦に並べ、ナイフが両方の研磨材に均等に接触するようにした、特製の研磨機を作ることもできる。固定式研磨機(研磨材が固定されている)は、固定された台(作業台や横木など)または可動面(鞘など)に取り付けられており、片手で研ぐことができる。
  • 製品を傷めていることが明らかになったときや、より強い筋力が必要になってきたとき、または刃が骨、手袋、またはその他の硬いものに接触したときは、ナイフを研ぐか、取り替えること。




マニュアル・ハンドリング
 
注)マニュアル・ハンドリング---重い物を持ち上げる、移動させる、押す、支えるといった、力仕事

マニュアル・ハンドリング ― ホッパーおよびオーガー
説明:
底の開口部またはらせん状の機構を用いて、中身を機械、別の容器の中、作業台の上へあける際に使われる容器。

対象:
保管されていた製品またはその他の物品をワークステーションで使うとき。

留意点:
  • 通常、鳥肉部位など大きめのものを分配するときはホッパーを使う方がよく、製法または包装単位に合わせて事前に指定された分量の氷や香辛料、テンダライザー(食肉軟化剤)など小さめの製品を分配するときにはオーガーを使う方がよい。
  • ホッパーは上から物品が投入され、開口部を通して、まとまった量、または事前に計量された量ごとに中身が落ちるようになっており、オーガーはらせん状の機構を用いて小さい粒子を移動用容器から持ち上げ、事前に計量された量ごとに分配する。
  • 自動で作動させることもできるが、労働者が、手を伸ばしたり身体を曲げたりせずに操作できる位置に設置されたコントローラーを操作して作動させることもできる。
  • 特に氷などを扱う場合は、かき出す手間を省くことができる。
  • 荷を持ち上げる作業をともなわずにホッパーに充填するためには、機械式リフト、ダンパー、オーガー、コンベヤーなどの装置の使用を検討すること。


マニュアル・ハンドリング ― 台車および手押し車

説明:
物資を移動するための車輪の付いた装置。

対象:
丸一羽の鳥、鳥肉部位、加工食肉、廃棄物、または加工原料が入った容器を、作業エリアのあいだで移動するとき。

留意点:

  • 端に縁(へり)が付いていると、物品の落下防止に役立つ。
  • 物資を積み上げた最上部の高さが視界を遮らないようにすること。
  • 最上段の高さは、肘(両腕を下げた状態で)から肩までの範囲にするべきである。
  • 引っぱるよりも、押すタイプの方がよい。
  • 積み荷は均等になるようにし、メーカーが指定している重量制限の範囲内に抑えること。
  • 水平方向にも若干調節可能な垂直の柄を用いれば、すべての労働者が両手を肩幅と同じ間隔に開いて、肘と水平の高さにして押すことができる。スイングアウト式のデザインを用いれば、積み荷に手が届きやすくできる可能性がある。
  • 手で押す台車および手押し車は、施設の床材に適した素材でできたフル・ベアリングの車輪と、簡単に操作できるブレーキがついているものにするべきである。ブレーキは、人がそばに付いていないときや荷の積み降ろしの際に、台車または手押し車が不意に動くのを防ぐ。通常、車輪が大きい方が押しやすい。後輪が回転し、前輪が固定されたデザインのものは、特に台車の全長が長い場合に、さらに押しやすい。安定感を増し、方向転換をしやすくするために、三組目の固定車輪が中央部に取り付けられているデザインもある。
  • 台車には、一般的な用途のために設計されているものと、特定の用途のために設計されているものがある。特定の加工原料(プラスチックのロールなど)を運ぶためにまたは固定器具が施されている特製の台車は、その製品を使う機械または作業面まで原料を直接運びやすいように設計することができる。
  • 台車の上に大きなバケツ型の容器が取り付けられているものは、中身をあけるときに傾けやすいように、前方に傾斜したかたちにするべきである(実用チルト・トラックなど)。
  • リフト・テーブルおよび高さの調節できる回転式パレット・スタンドを用いれば、加工原料を作業に適した高さに配置することができる。これらは、バキューム(吸引)・システムのためのステージング装置やその他のさまざまなワークステーションなどと組み合わせて使うことができる。これらの装置を用いれば、不要な身体の曲げ伸ばしを軽減することができ、作業時の姿勢を改善できる。
  • パレット・ジャッキには手動のものと電動式のものがある。頻繁な移動、または長距離を移動するには電動式の方がよい。


マニュアル・ハンドリング ― ラックと棚

説明:
最も楽に手が届くように設計されたラックと棚。

対象:
ワークステーションで使われる、または生産されるすべての物品の保管作業にともなう、過度な持ち上げ、持ち運び、および不自然な姿勢を最小限に抑えるために、棚システムを構築することができる。

留意点:

  • 物品を手で持ち上げる場合は、棚の高さはおおむね肘(両腕を下げた状態で)から肩の範囲にするべきである。重い物品および頻繁に使われる物品は、この範囲内に置くこと。軽い物品および、あまり頻繁に使われない物品は、この範囲の上または下の棚に置いてもかまわない。棚にラベルを貼っておくと、持ち出す、または運ぶべき物資を素早く簡単に探すのに役立つことがある。
  • 機械装置を使って移動する、まとまった量で梱包されている原料は、必要に応じて積み上げて保管することができる。しかし、梱包が開封され、手で原料を取り出して棚に置く際には、上述の提案に沿うべきである。
  • 隅々まで見るのも手を届かせるのも難しくなるため、棚の間隔をせまくしないこと。


マニュアル・ハンドリング ― バキューム(吸引)・システム
説明:
物資を持ち上げたり移動したりするためのバキューム・システム。

対象:
鳥肉部位、製品の箱、香辛料の袋、氷、およびその他の物資を持ち上げたり、移動したりする際にバキューム・システムを使うことができる。バキューム・システムは以下のようなときに使うことができる。
  • 保管または移動するために、箱をひとつずつ持ち上げ、ラックまたはパレットの上に乗せる。
  • シュートまたは移送用チューブにつなげたバキューム・システムを用いれば、それぞれの鳥肉部位を移送したり、容器に集めたりすることができる。

留意点:

  • さらに加工する、または包装するために、製品を集めて冷蔵室またはその他の中間保存エリアに移送するためのバキューム・システムの吸入口は、それぞれの作業エリアに設置することができる。
  • バキューム・システムは、臓器摘出エリアから臓物を取り扱うエリアに、心臓、肝臓、砂嚢、首部を内部移送できるようなかたちで、特別に設計することができる。


マニュアル・ハンドリング ― ベルトおよびオーバーヘッド・コンベヤー

説明:
ざらついた素材の布、または吊り下げられたシャックル/フックをベルトによって働かし、継続的に製品を動かしていく機械システム。

対象:
加工および切断作業、袋および小さいパックの箱詰め、トラックの荷の積み降ろしの際など。丸一羽の鳥および鳥肉部位を、加工エリアを通り抜けて、またはエリア間で移動する際に、持ち上げて運ぶ手間を省く。

留意点:

  • 作業の際に手を前に伸ばす範囲が、最大でも腕の長さ以内に抑えられているようにすること。
  • オーバーヘッド・コンベヤーは、労働者が胸の高さ以上に手を伸ばさずに鳥をつかむことができる高さになるように設計するべきである。これは、作業エリアのラインを低くしたり、労働者の手が作業エリアに届きやすいようにしたりすることで解決することができる。
  • ベルト・コンベヤーは、労働者が肘を胴からあまり離さずに鳥または鳥肉部位をつかむことができるようなかたちで設置すべきである。コンベヤーは、行われている作業が十分にできるだけの時間を確保できる速さで動かすべきである。
  • 流れてくる鳥または鳥肉部位の向きを直すことができるように、コンベヤーを設計することもできる。



マニュアル・ハンドリング ― ローラーテーブル
説明:
摩擦を減らし、軽い力で物品を滑らせることができるように、表面にローラーまたはボールベアリングが組み込まれている作業台。

対象:
箱、ふた付き大箱、およびその他の容器を比較的近い距離移動するときに使うとよい。

留意点:
  • 直線的に移動する場合はローラー式がよく、方向転換を必要とする場合はボールベアリング式がよい。
  • 容器を押したり滑らせたりすることにより、手、腕、背中を疲れさせるような、持ち上げたり運んだりといった動作を省くことができる。
  • 容器に入った製品の移動には適しているが、衛生上の問題からばらばらの鳥肉部位には適さない。

 



個人用保護具
 


個人保護具 ― 選択の際に考慮すべき点

説明:
職場のハザードから労働者の身体を守るための、エルゴノミクス的要素に配慮した、服装およびその他の作業用の備品。

対象:
加工作業のための個人保護具を選ぶとき。

留意点:

  • 行われる特定の作業に適した防護用の服装を選ぶべきである。
  • メッシュ手袋の下に着用するゴム手袋については、それぞれの労働者がぴったりはめられ、手先の動きおよび柔軟性を損なうことのないように、さまざまな種類の選択肢を用意すべきである。
  • メッシュ手袋は、肉をつまんだり骨から肉を剥がしたりする際に指に力を入れなくてもすむように、手のひらの部分に小さな突起が付いているものを用いてもよい。メッシュまたは切れにくい手袋および前腕ガードスリーブは、手や腕を誤って切ることのないように、ナイフを持っていない方の手と腕に着用すべきである。
  • 手袋を着用することにより、触覚を損なうことを最小限に抑えられるべきである。
  • 手袋を着用することにより、手と取り扱っている素材とのあいだの摩擦が増すべきである。
  • 内側によくクッションのきいた中敷きが付いた、滑りにくい防水性の靴を履くこと。




その他の情報源
 


 米国イリノイ州アーリントンハイツにあるOSHA研修所(OSHA Training Institute)では、エルゴノミクスなど、安全衛生に関するさまざまな研修コースを受講することができる。また全国各地にある研修所教育センター(Training Institute Education Center)でも受講が可能である。開講スケジュールについては、OSHA研修所(Training Institute, 2020 South Arlington Heights Road, Arlington Heights, IL 60005, (847) 297-4810)またはOSHAの研修内容に関するウェブサイト(www.osha.gov/fso/ote/training/training_resources.html)を参照のこと。
 OSHAの認証を受けた計画のもと、独自のOSHプログラムを運営している州および地域が多数ある(23州が民間企業労働者と州および地方自治体職員の両方を対象にしており、3州が公務員のみを対象にしている)。州の運営する計画に直接連絡をとって、州の具体的な指導内容および鳥肉加工業界に適応可能な規則遵守支援に関する情報を得る場合は、OSHAのウェブサイト(www.osha.gov/fso/osp/index.html)を参照のこと。
 OSHAは、小規模企業に対して労働安全衛生の支援を行う、無料コンサルティング・サービスを実施している。OSHAのコンサルティングは、主に連邦政府OSHAが資金を提供しているが、具体的なサービスの実施は全米50州の州政府およびコロンビア特別区、グアム、プエルトリコ、およびバージン諸島がそれぞれ行っている。各州では、安全で衛生的な職場を確立するために支援を要請してきた事業者に対し、労働環境において十分な資格を持つ労働安全衛生専門家が対応している。危険の多い業界または危険をともなう作業を行っている小規模および中規模企業の事業者向けに開発されたこのサービスは、無料で実施されており、秘密が厳守されている。OSHAのコンサルティングに関する情報はウェブサイト(www.osha.gov/dcsp/smallbusiness/consult.html)に掲載されている。



参考文献
 


[ガイドラインの原文を参照]