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国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > アメリカ 深夜小売業における職場の暴力防止プログラムのための勧告

深夜小売業における
職場の暴力防止プログラムのための勧告

資料出所:OSHAホームページ/Workplace Violence - Late-Night Retail
http://www.osha-slc.gov/SLTC/workplaceviolence/latenight/index.html)の
Recommendations for Workplace Violence Prevention Programs in Late-Night Retail Establishments, OSHA 3153」(110KB PDF file)

(訳 国際安全衛生センター)


背景

職場における暴力は、多くの職場において深刻な安全上ないし健康上の危険になっている。労働統計局によれば、殺人はアメリカの労働者にとって2番目に多い死亡原因であり、1996年には、6、112件のアメリカ死亡労働災害のうち15パーセントにあたる912人の労働者の生命を奪った(BLS、1997)。職場における暴力行為はまた、1994年に20、438日分の労働日を消失させる結果となった(BLS、1996)。

 司法省の国立犯罪犠牲者調査(The Department of Justice’s National Crime Victimization Survey)では1987年から1992年にかけて、毎年ほぼ100万人が職場における暴力犯罪の犠牲者になっていると報告している(Bachman、1994)。これらのデータは4種類を含む、すなわち、615、160件の単純な暴行と、264、174件のより悪質な暴行、79、109件の強盗と、13、068件の強姦である。これらの犠牲は、試算上毎年159、000件の負傷行為を結果としてもたらす。労働者が受ける暴力は、顧客、強盗や同僚を含め多くの発生源からもたらされうる。

 職場における暴力は一見偶発的に見えるけれども、多くの事件は予期され避けられうる。潜在的な暴力行為が起こっても、時宜を得かつ適切な対応があれば、事態を悪化させ負傷や死亡という結果を招くことを、防ぐことができる。OSHAでは、すべての深夜小売業が、職場暴力が労働者にとって危険かどうか判断するため職場を検査することが有益であると信じている。

 OSHAではこの文章を、深夜小売業、特にコンビニ、酒屋、そしてガソリンスタンドの使用のために起草した。他種の夕方や深夜時にサービスを提供する小売業にとってもこの情報は有用であろう。この文章は小売業の労働者が、自分の特定の職場でみつかった特定の危険要因に基づく、防止プログラムを企画し選択し導入するのに役立つ。

危険度の高い企業

 1980年から1992年にかけて、殺人率は国全体の平均では毎年労働者十万人あたり0.7人なのに対し、小売業では毎年労働者10万人あたり1.6人である(NIOSH、1996)。1996年には、全職場の殺人の48パーセントが小売業の仕事関連の殺人である(BLS、1997)。小売業の内部は非常に様々であり、それが暴力の危険のレベルに本質的な変化を生じている。コンビニやその他の雑貨屋と、飲食店と、ガソリンスタンドが、小売業の殺人のもっとも大きな割合を占めている。1990年から1992年にかけて小売業内で毎年もっとも高い殺人の危険性がある業態は以下のとおりである。

  •   酒屋:労働者10万人あたり7.5人

  •   ガソリンスタンド:労働者10万人あたり4.8人

  •   宝石店:労働者10万人あたり4.7人

  •   食品雑貨屋(コンビニを含む):労働者10万人あたり3.8人

  •   飲食店:労働者10万人あたり1.5人(NIOSH、1996)

 1992年、小売業は死に至らない暴行の21パーセントを占め、一般サービス部門にのみ及ばないが第2位の地位を占めた。21パーセントのうちで、食品雑貨屋が暴行の6パーセントに貢献し、飲食店が5パーセントを占め、ほかの一般小売業が10パーセントを占めた(NIOSH、1996)。

危険度の高い職種

 小売業の多くの職種が平均以上の暴力の危険に直面している。企業が、職場暴力の事件の報告が比較的少ない産業分野として分類されているとしても、ある種の職種の労働者は、犠牲者になる危険性が高い。1990年から1992年における、全職種の平均殺人危険率は労働者10万人あたり0.7人である。この期間の殺人危険度の最も高い小売業職種は以下の通りである。

  •   ガソリンのサービスをする従業員や車庫で働く従業員:10万人あたり5.9人

  •   証券を取り扱う、または袋詰めする人:10万人あたり3.5人

  •   販売監督者や販売オーナー:10万人あたり3.3人

  •   販売店員:10万人あたり3.1人(NIOSH、1996)

概観

効果的な暴力防止プログラムの要素

 1989年1月、OSHAはすべての労働者が安全と健康プログラムの基礎として使用しうる自主的で一般的な安全と健康プログラム管理指針を出版した。この文章で示された暴力防止情報は、職場における暴力の共通の危険因子をみつけ、深夜小売業のためのいくつかの防止手段を説明することで、この指針を増強する。

この文章の目的は、事業者に職場における暴力の潜在的危険性を見つけだすプログラムと、矯正処置の実施を促すものである。これらの勧告は、モデルとなるプログラムでも、すべての企業に単一的に適用されうる暴力防止カリキュラムの堅苦しい一括政策でもない。たしかに、すべての業態に適切な一つの戦略はない。職場における暴力における環境やその他の危険因子は職場によりおおいに異なる。事業者はこの文章で推奨される戦略を、適切に特定の職場用に組み合わせて使ってもよい。

これらの勧告は、事業者の職場独自の必要性を満たすように合わせ作った暴力防止プログラムと、それから構成しうる基本的要素からなる。職場での暴力を防ぐ効果的方法には5つの鍵となる要素がある。1、経営の介入と労働者の関与、2、職場の分析、3、危険防止と統制、4、安全衛生訓練、5、評価。これらの基本的要素を用いることで、事業者は、特定の状況の危険や状況に基づく自らの企業に適切な防止計画を作成しうる。

OSHAは事業者に書面での職場における暴力防止プログラムを作成するよう促している。書面による政策宣言は、効果的な防止プログラムのために必要となる多くの個別の計画、手順、行動の試金石として役たつ。しかしながら、いかに書面のプログラムの内容が書かれていようと、プログラムが実際に効果的かどうかということの重要性には及ばない。小規模の企業では、プログラムは分厚い文章にしなくても効果的であろう。職場の規模や、危険管理の複雑性が増加するにつれ、書面による指針が明快な意思伝達と、政策や手順の首尾一貫した適用を確保するために重要度を増す。事業者は、個別の職場における暴力防止プログラムを作成するか、ないしは、この情報を、既存の危険防止プログラムや、労働者手帳ないし標準操作手順マニュアルに組み入れることができる。

 

事業者の義務と職場における暴力

これらの勧告は、新しい基準や規則ではなく、新しいOSHAの任務を生み出すものでもない。1970年の労働安全衛生法(OSH Act)で、職場の暴力は一般義務条項で事業者が取り組むべきとされている。この文章で対策が推奨されているが、事業者によってその対策が採用されていないとしても、それは一般義務条項違反の証拠ではない。勧告は、可能な職場における暴力防止戦略について情報を提供している。勧告はまた、事業者が暴力防止プログラムの作成に役たつ多様な手段を説明している。

加えて、議会が労働安全衛生法(29 U.S.C. 651 et seq.)を可決した際、議会は、その法律は、州レベルの職場における負傷や病気、死亡に対して適用される救済を変えることを意図しないと断定的に述べている。4セクション(b)(4)で、「この章におけるいかなる規定も、あらゆる労働者補償法(Workers Compensation Law)にいかなる形であれ、代替ないし影響するように、ないしは、雇用から生ずる労働者の負傷、疾病、死亡に関する労使間のあらゆる慣習法(Common Law)、法定の権利、義務、責任をいかなるかたちであれ拡大、縮小、ないし影響を与えるように解釈してはならない」と言明している。(強調が加えられている)

したがって、これらの勧告は、職場における暴力に関して法的な配慮の基準を作成することを意図していない。同様に、これらの勧告は、新たな法的義務や強制を事業者や州政府に押しつけることもないし、意図もない。

経営者の介入と労働者の関与

経営者の介入

経営者は、職場における暴力に効果的に処理するための動機づけと資源を提供する。労働者の安全と健康に関する使用者の目に見える介入は、成功にむけての必要不可欠の前提条件である。経営者は以下の行為を通じて、暴力防止に対する自らの介入を示すことができる。

  • 職場暴力と言葉による、ないし言葉によらない脅迫やその他関連する行為を明白に認めない政策を、経営者や労働者に対し作成し、広める。

  • すべての暴力、脅迫事件を深刻に考え、調査し、適切な是正措置をとること

  • 職場における安全を維持するために、包括的な計画を作成すること

  • 個人や班に適切な訓練や技術とともに、プログラムに対して責任と権威を与える。これは、すべての経営者と労働者が彼らの義務を理解したことを確実なものにしたことを意味する。

  • 暴力防止の責任を実行するスタッフに、必要な権威と資源を提供する。

  • 経営者と労働者に働きぶりに責任をもたせなさい。経営者が働きぶりを追跡せず、達成したとき褒めず、不達成の際に直すことをしなければ、期待感を述べることはあまり意味をなさない。

  • 経営者と労働者が組織上の管理や職場慣習に従うことが確保されるように、適切な手段をとる。

  • 企業の内部ないし近辺で起こった暴力事件にたいし迅速な報告と、追跡のための手順を作成する。

  • リスクを減少させる方法を労働者が提案することを促し、労働者ないしその他からの適切な勧告を導入する。

  • 職場における暴力を報告ないし経験した労働者が、処罰される、ないしは、差別を受けることがないよう確保する。

  •  地主、借地人、地域の警察、ないし他の公共の安全機関といった他の団体と、前述の安全を高めるために、建設的に作業する。


 労働者の関与

 経営者の介入と労働者の関与は効果的な安全衛生プログラムの必須要素である。効果的なプログラムを確保するには、経営者、現場の労働者、労働者の代表者が、暴力防止プログラムの作成と運用に一緒に取り組む必要がある。

 労働者の関与はいくつかの理由で重要である。第一に、現場の労働者は作業工程と作業が行われる環境についての主要な情報源である。特により高位の経営者が常には勤務していない深夜の小売業で働く労働者にはあてはまる。第二に、暴力防止プログラムに幅広く労働者を含めることで、経営者単独よりより広い経験と洞察力を利用できる。第三に、現場の労働者は、彼らの独自の経験が実践的な問題解決となり、提案された変更の隠れた障害がわかるといったとても貴重な問題解決者となる。最後に、防止プログラムを作成する役割の労働者は、これらのプログラムを支持し実行しやすい。

 労働者と経営者の協力手段は多様でありうる。労働者と一対一、ないし特定の労働者とプログラム義務を締結するのを選ぶ事業者もいる。また、班や委員会手法を選択する事業者もいる。連邦労働関係法(the National Labour Relation Act )は労働者の関与について形式と構造で制限を加えている。事業者は自分の法的義務や制限について不確実なら法律相談を受けるべきである。

 労働者と労働者の代表はほぼすべての暴力防止プログラムの側面に有益に関与することができる。彼らの関与は以下のものを含みうる。 

  • 安全や保安問題について調査に参加し提言をする

  • 日常の作業工程における暴力の危険性を最小限にする手順の作成と改訂に参加する

  • 企業の保安分析に協力する

  • 企業の日常保安監査の実施に協力する

  • 防止と管理対策の評価に参加する

  • 既存の労働者と新入労働者の訓練に協力する

  • 他の労働者が、度の過ぎた煽動や、暴力的態度、ないし犯罪的意図を認識し反応するのを助け、適切な反応を議論するために勤務中の経験を共有する。



職場分析

小売業の共通の危険因子

 国立安全衛生研究所(NIOSH)は、職場において暴力を労働者が受ける危険性を増大させうるいくつかの因子をみつけた。深夜小売業に関係するものは、

  • 大衆との接触

  • 金銭の両替

  • お客さん、物品、サービスの配送

  • 単独ないし少数の人数での勤務       

  • 深夜や早朝勤務 

  • 犯罪頻発地での勤務(NIOSH, 1996)

 小売業労働者の中には複数の危険因子にさらされている者もいる。1つの危険因子があっても必ずしも職場において暴力の危険性が問題とは限らない。然しながら複数の危険因子の存在や職場暴力の履歴があれば、事業者は、職場暴力の可能性は増大すると注意すべきである。

調査によれば、職業関連殺人の最大の危険性は窃盗や強盗のような第三者による暴力から生じるものである。1996年には窃盗やその他の犯罪が全産業をつうじた職場殺人の動機の80パーセントを占める(BLS、1996)。小売り分野でおこる殺人の大部分は窃盗か窃盗未遂関連である(Amandus、1997)。平均して、銃窃盗の100件に1件は、殺人という結果になる(Bellamy、1996)。この理由により、窃盗件数を減少させるのに効果的なプログラムは、結果として殺人件数を減少させることになる(Erickson、1996)。

性的暴行は、小売業におけるもう一つの顕著な職場上の危険である。確かに、女性に対する性的暴行の危険は、労働者一般の殺人の危険に比べ同じか上回っている。性的暴力は、ふつうは、窃盗関連ではないが、しばしば、店舗での窃盗の過程で起こりうる。これらの暴行は不釣り合いなほど夜間に起こり、大多数の場合、女性店員が店舗に一人でいる際である(Seligman他1987、Erickson1991、Alexander、Franklin、Wolf1994)。窃盗と性的暴行の危険因子は重複する(例、一人で勤務する、深夜に勤務する、高犯罪地域で勤務する)ので、窃盗減少のための活動は性的暴行の防止にとっても効果的であろう。

いくつかの調査が、小売業窃盗の危険因子について研究した。1975年の調査では、前科者に、どの店舗が泥棒にとってもっとも魅力的と判断するかと質問した(Crow and Bull、1975)。最も魅力的な店舗は、手元に豊富な現金があり、レジが覆い隠されていて、屋外の照明が不十分で、逃亡路が通りやすい店舗である。後の調査で、泥棒はでたらめに目標を選択するのではなく、環境要因を考慮することを確認した(Southland Corporation、Athena Research Corporation、1985,1990,1995,Jeffery、HunterとGriswold1987)窃盗の危険因子には侵入と退却の容易さと、泥棒の認識または発見の危険が低い(カメラの不備、なじみ客や近くの店がない、そして店外からの視界の悪さ)(Scott、Crow、Erickson1985、Swanson1986、Hunter1990、Erickson1995)。調査ではまた、一人での勤務、警察ないし武装警備員の不存在、そして手元に多額の現金を持つことは窃盗の危険因子と認定している(Scott、Crow、Erickson1985、Swanson1986、Erickson1995)。

一日のうちいつかというのも窃盗の可能性に影響する。調査は一貫して、小売業が深夜時に、より窃盗の危険性が高まるという結果が出ている。小売業の窃盗は、日中より深夜や早朝に起こっている、なぜなら暗く、街路に人影が少ないからである。(Bellamy、1996)。深夜の危険性は、近隣の店が何軒深夜営業しているか、交通量、照明灯の明るさ(他の要因とともに)に左右される。深夜の方が窃盗の危険は高いけれど、日中の危険もまた重要であり、交通量や視界によって左右される。

職場危険分析

職場危険分析は、職場における暴力につながる既存の、ないしは潜在的な危険を見つけだすために職場を順々に、常識の目で見渡すことを意味する。これには、以下の段階を含む。(1)記録や過去の経験を振り返る、(2)最初に職場立地の点検と分析を行う、(3)定期的な安全監査を行う。

危険分析が暴力防止プログラムの基本であるので、誰がこの行程を行うのか注意深く選択しなければならない。事業者は労働者の一人ないしは班に責任を代表させることができる。もし大きな事業者が労働者の班を選択するなら、企業の異なった部分から構成員を選ぶのが望ましい。たとえば、年長経営者の代表、経営者、労働者補助、保安、労働安全衛生、法律、人的資源職員、そして労働者代表ないし労働組合代表である。小規模の会社は、一人の職員かコンサルタントに責任を任命すればよい。

記録と過去の事件を振り返る

危険分析の出発点として、事業者は過去2,3年の業務の経験を振りかえるだろう。これには、職場における暴力の危険性の深刻さと広がりに光をあてうるあらゆる既存の記録を収集し検討することを意味する。たとえば、負傷疾病記録、労働者の補償請求、警察窃盗記録は、職場暴力に関する特定の事件を見つけるのに役立ちうる。あまり文章化された職場暴力が見つからないことは、必ずしも職場で暴力が問題になってないことを意味しない、なぜなら事件が報告されてないかもしれないし、一貫して文章化されてないかもしれないからである。ある場合では、経営者が、労働者がさらされている暴力の衝突や脅威のささいなものを、認識していないかもしれない。これらの事件を学ぶため、事業者は勤務中の労働者に彼らの経験を聞きに回りうる。以下の質問が過去の事件についての情報を収集するのに役立ちうる。

  • あなたの事業が過去2,3年間で窃盗があったか。窃盗未遂があったか。窃盗ないし窃盗未遂により傷害を受けたか。

  • 労働者が顧客と口論の末の暴行をうけたことがあるか。

  • 労働者がその他の職場での犯罪的行為(凶暴となった万引きを含め)により犠牲者となったことがあるか。

  • 労働者が勤務中脅迫を受ける、ないし、ハラスメントを受けたことがあるか。それらの事件の前後関係はどうであったか。

  • 負傷を伴う事件の場合、負傷はどれだけ深刻か。

  • それぞれの事件で、銃は用いられたか。銃は発砲されたか。銃の脅迫は用いられたか。他の武器は用いられたか。

  • 窃盗ないし他の暴力事件ではどの部分の事業が標的となったか。

  • 一日のいつ窃盗ないし他の事件が起こったか。

  • 何人の労働者が勤務中だったか。

  • 事件に反応して警察があなたの企業にかけつけたか。可能なら、警察捜査報告書を入手せよ。

  • 窃盗ないし他の事件の際、労働者は何の役割を演じたのか。何の過程ないし手順が労働者を暴行の危険に晒すことになったか。同様に、負傷や危害のない結果をもたらした要素はあったか。

  • 防止措置は、すでに存在し、正しく使用されているか。

  • 事件中犠牲者の行動はどうであったか。これらの行為が事件の結果に何らかな形で影響したか。

複数の店舗や事業立地をもつ事業者はそれぞれの事業で暴力の履歴を振り返りうる。これらの店舗の異なる経験は、職場における暴力の可能性を減少しうる要素についての洞察を提供する。類似の地域の事業や、地域ないし市民集団、地域の警察との接触も、その地域の職場における暴力事件について学ぶ方法である。くわえて、商工会や産業団体もしばしば産業全体としての状況と傾向について有益な情報を提供してくれる。

職場保安分析

班ないしコーデネーターは、暴力につながる危険、条件、作業、状況を明らかにするために最初のリスクアセスメントを行いうる。最初のリスクアセスメントには、危険の特定と、包括的な職場暴力防止プログラムの作成のデータを準備するための実地調査を含む。アセスメントの手順は以下のものを含む。

  • 攻撃者と犠牲者の特徴を含め、事件を分析せよ。事件の事前や最中に起こったことを考慮に入れ、関連する状況の詳細やその結果に着目せよ。

  • 特定の職場、職種、職位、活動、又は日もしくは週のいつということに関連する負傷ないし事件の表に現れた傾向を見分ける。班ないしコーデネーターは危険の増加を伴いうる特定の仕事を見分けなくてはならない。

  • 建物や環境の物理的形態や、照明の不足、電話や他の通信手段の不足、不安全な侵入経路、有名な保安問題が発生した地域といった、暴力の危険を増加しうる要素を見分ける。

  • 既存の保安手段の効果を評価する。これらの管理手法が適切に使用され、労働者が十分にその使用の訓練をされているか。

付則Aでは、保安分析に有益であろういくつかの質問について説明する見本のチェックリストを含む。商工会や他の機関にも事業者が彼らの事業にある暴力事件の危険を査定するのに役立ちうる資料がある。地域によっては、地域の法執行機関が、犯罪に晒されるのを減らす方法を、事業のオーナーに無料で伝授している。保安管理コンサルタント、保険安全監査人、損失防止専門家も、事業者が職場における危険を分析するのを助け、解決のための忠告を提供する。彼らのような独立した専門家は、暴力防止プログラムの導入と改善に新鮮な視点を提供しうる。

定期的安全監査

危険分析は進行形の過程である。よい暴力防止プログラムでは、職場の危険と、導入した管理手法の効果を振り返るため定期的な安全監査のシステムが構築されている。これらの監査は他の理由から採用されたが、職場における暴力の危険に影響しうる他の事業上の変更(例えば営業時間の変更や、店内レイアウトの変更)の影響力の評価もできる。安全監査は、暴力防止プログラムの効果を再査定するために、暴力事件やその他の深刻な事件の後に重要である。


危険防止と管理

防止戦略

暴力危険を査定した後次の段階は、特定した負傷ないし暴力行為の危険から労働者を守る手法を作成することである。職場における暴力防止や管理プログラムは、特定した危険に着目した特定の工学的技術や勤務慣習の管理を含む。この分野に挙げられた手段は万能な処方箋を意図していない。どの一つの管理でも、労働者を守れない。暴力に対し効果的な抑止を提供するためには、事業者は、危険分析で見つかった危険に関して、管理の組み合わせの利用を望むだろう。

小売業労働者にとっての死亡や深刻な負傷の主要な危険は、窃盗関連暴力からであるから、効果的なプログラムは、それに限られないが、窃盗の危険を減少させる段階を含む。一般に事業体は、犯人がかける労力を増やす(目標を困難なものにする、侵入経路を管理する、犯人を妨害する)、犯人の危険を増す(侵入、退却をさえぎる、正式な監視、労働者やその他による監視)、犯人の見返りを減少させる(目標を取り除く、所有物を見分ける、誘因を取り除く)。

サイトにおける物理的ないし行動的変化は、本質的に、窃盗の頻度を下げる。いくつかの危険因子を除去ないし減少させたセブンイレブンのテストグループは何もしないコントロールグループの同店に比べ30パーセント窃盗が減少した。基本的な窃盗防止パッケージを含む目標困難努力は、1976年に全国のセブンイレブンに導入された。セブンイレブンのプログラムでは、手持ちの現金を減らし、危険因子を除き、労働者を訓練することで店舗をより魅力的な目標でないようにした。会社中にプログラムを導入後、セブンイレブンの窃盗率は20年の間に64パーセント減少した。全国コンビニ協会(NACS)では、これらの要素に基づき、窃盗と暴力抑止プログラムを開発し、1987年から会員やその他には頒布している。NACSはこれらの分野における研究の支援もしている。

窃盗の可能性を減少させうる他の防止策としては、防犯カメラ、時間で解除する金庫、付近に24時間営業の事業があること、容易な脱出路や隠れ場所がないこと、そして、深夜は店舗が閉鎖されることを確認することを含む。

工学的管理と職場における適用

工学的管理は、職場から危険を除去し、労働者と危険の間に隔離壁を作る。以下の職場における物理的変化は、小売業の暴力関連危険や危機を減少しうる。

  • 視界を良くする。というのも、視界は、二つの点で窃盗防止に重要であるから。第一に、労働者が周囲を見ることができ、第2に、巡回中の警察をはじめ店外の人が、店内を見ることができるからである。店内の労働者には、犯人が隠れるのに使用しうる灌木、木々、その他ごちゃごちゃしたもののない、街路の障害物のない景色がなければならない。窓の看板も店舗のよい視界を可能にするために高いか低くなければならない。お客様サービス係とレジは、会社の外から見えなくてはならない。棚は、店舗全体のよい視界が確保されるように、低くなくてはならない。凸面の鏡や、二方向鏡、そして、高所の見晴らしのよい地点は、より完全な周囲の景色を労働者に与える。

  • 十分な照明を確保する。探索の可能性を高めることにより、潜在的な窃盗犯により魅力的でないようにするため店舗の外に行う。駐車場と小売業への経路は深夜営業時間中には十分照明されなくてはならない。外部照明は労働者が店外で何が行われるか見るため、品質を向上させる必要があるかもしれない。

  • やその他の構造物を用いて顧客の流れをより視界のきく場所へ導く。

  • 落とし金庫(drop safe)を使い、泥棒の現金の入手可能性を制限する。落とし金庫を使用する事業者は手元の現金の量は限定されているとの標識を掲示しうる。

  • ビデオ監視機器や閉鎖回路テレビ(CCTV)を配備することで、見つかる危険が高まることから窃盗を防止する。これには、双方向ビデオ装置を含む。CCTVのためのビデオレコーダーは、厳重に管理され、視界外になくてはならない。監視機器が作動中という標識を掲示し、機器をレジの近くに配置することは防止の効果を増加しうる。

  • 出口に高さの目印を置くことで、目撃者がより完全な犯人の特徴を得られる。

  • ドア探知機を用いて人が店に入った際労働者に警告をする。

  • ドアブザーで店への侵入を管理する

  • 問題の起こった際に、警察や経営者に知らせるための無音のないし個人的なアラームを用いる。しかし、犯人を怒らせるのを避けるため、労働者はアラームを鳴らす前に犯人が立ち去るのを待たなくてはならないかもしれない。

  • 窃盗や暴行の履歴のある場所や高犯罪地域では労働者を暴行や武器から守るため、顧客と労働者の間に、交渉する窓のみ開いた耐銃弾囲いがあるといった物理的障壁を配置する


組織的管理と職務実践管理

組織的管理や職務実践管理は労働者が仕事や特別の職務の実践方法に影響する。以下の例は、職場の暴力事件を防止するのを助ける職務実践や組織上の手順を解説する。

  • 職場の準備性を維持するために、例えば照明、鍵、防犯カメラの確認のように、日常手順に暴力防止活動を統合する

  • 最小限の量の現金(例えば50ドル以上)をそれぞれのレジにおく。特に夕方や深夜の営業時間には。いくつかの職場では、高額紙幣(20ドルを超えた)の両替は禁止して良い。20ドルを超えた頻繁な両替があるため実践的で無いときは、実践的である最も低い現金水準にすべきである。完全に必要でなければ労働者に売り上げ収入金を持たせない。

  • 窃盗や保安侵害の場合に用いる労働者のための適切な緊急手順を採用する

  • 緊急時のコミュニケーションシステムを構築する。労働者は各仕事場の職場電話が利用可能で、緊急電話番号が電話に貼りつけられなくてはならない。

  • 囲いや通り抜け可能な窓といった物理的障壁の正しい利用のための手順を採用する

  • 窃盗や暴行の履歴があるないしは高犯罪地域に位置する店舗の深夜営業時に、店員を増やす。店員が客から明確に見えることが重要である。

  • 配達や、ゴミの廃棄のために使用される扉を、使用しないときは閉める。また、配達員とわかるまで、配達扉を開けない。非常扉を塞がないよう注意せよ。火災や他の緊急時の際人々が脱出できるように扉は、鍵が無くても内側から開かなくてはならない。

  • 暴力の危険を高めずに、労働者がゴミ捨て場や、屋外の冷凍庫や冷蔵庫に歩いていけることを確保するため、ルールを創設する。その鍵は、労働者がよく見えるようにすることである、そうすれば、これらの場所近くで犯人が潜在的な隠れるところがなくなる。ある地域では、昼間にゴミを出す、ないし屋外の冷凍庫に行くのは、深夜にそうするよりより安全である。

  • 正規に開店される前かつ閉店後は、扉を閉じておく。店員が手薄になるかもしれない時店舗を開閉する労働者の保安を確保する手順を作成する。加えて、一日の売り上げ収入金は、閉店時の主要な窃盗目標である。

  • 危険を制限するため、顧客の立ち入り場所を制限する、営業時間を減少する、ないし店舗の一部を閉店する。

  • 配達のように、社外の勤務の安全手順や安全対策を採用する

組織的管理は、守られ適切に用いられなくては、効果的ではない。定期的な監視をすれば、労働者が適切な作業実践を用い続けるのを確保しうる。定期的で建設的なフィードバックを労働者にすることで、労働者がこれらの手順を理解し、その重要性を理解することを確保しうる。

事件後の反応

事件後の反応と評価は、効果的な暴力防止プログラムの重要な部分である。これには、暴力行為以降に経営者や労働者が従うべき、作業標準(sop)の作成を含む。そのような手順には以下のものを含みうる。

  • 負傷した労働者が、迅速で適切な手当を受けることを確保する。これには負傷者を医療機関へ輸送することも含む。迅速な応急手当と緊急医療措置は暴力行為の有害な結果を減少しうる。

  • 警察に事故を報告する。

  • 適用される法律や規則で必要とされる他の機関に報告する。

  • 経営者に事件について伝える。

  • 事件後の対応で、防御手段物証の根拠となるものを確実にし、動揺をやわらげる。

  • 事件後即座に事件報告書を準備する、そこには時間の経過とともに忘れられうる詳細を記録する。付則Bには、事業者が使用ないし自分の目的に応じて適用しうる見本の事件報告様式を含む。

  • 被害にあった労働者に適切な処置を講ずる。身体的負傷に加えて、犠牲者や目撃者は、心理的トラウマや職場復帰の恐怖や無能、罪、無力の感情や、監督者や経営者の批判の恐怖に悩まされる。事件後の心情の吐露カウンセリングは、犠牲者や目撃者の間の、心理的トラウマやストレスを減少させる。最近の新傾向として、個別の犠牲者ないし組織の必要性に応じた幅のある継続的な危険な出来事によるストレスの治療技術が用いられる。

訓練と教育

訓練と教育は、すべての職員に潜在的な安全に対する危険や自分自身や同僚を守るための手順を認識するのを確保する。会社で異なる役職の人には、異なる種類でかつ異なる段階の訓練を必要とする。

一般訓練

労働者は、暴行や負傷の危険を最小限にするため仕事や職場に付随する特定の危険について指示を必要とする。そのような訓練には、会社で見つかった潜在的危険についての情報と、それらの危険を管理する方法を含む。項目には、以下のものを含む。

  • 暴行の潜在的危険の概観

  • 危険を減少するよう意図された、現金取り扱いルールのような、業務上手順

  • 職場に採用された保安処置と工学的管理の適切な使用

  • 摩擦解決技術や攻撃管理技術(techniques of conflict resolution and aggression management)のように、緊張した状況を緩和し、暴力の結果の可能性を減少しうる態様の戦略

  • (抵抗なく金銭や貴重品を取り返す指示のように)いかに犯人に反応するかという特定の指示と、万引きの試みにいかに反応するかの特定の指示

  • 窃盗や暴力行為の際に従うべき緊急行動手順

訓練は、その分野に知識を有す人によるべきで、訓練を受ける個人に適切な言語で表現しなくてはならない。口頭によるクイズや筆記テストで、労働者が受けた訓練を本当に理解できることを確実にする。労働者の理解の程度は、労働者の勤務を観察することでもわかる。

訓練の反復の必要性は、状況により異なる。安全手法を犯す、ないし忘れた労働者には、再訓練が検討されなければならない。同様に、新しい任務ないし勤務場所に移動してきた労働者は、以前の地位で何らかの訓練を受けていても、訓練が必要である。労働者の配置転換の多い会社は頻繁に訓練をする必要がある。

監督者、管理者、そして安全職員のトレーニング

労働者が安全実践を守っているか認識するため、経営者は、労働者が行うのと同等の訓練を行うことや追加的訓練をすることで、かれらに、暴力防止管理を認識し、分析し、創設しうる。トラウマを負った労働者の繊細な取り扱いの確保の仕方を知ることも、経営の重要な技術である。管理者の訓練は、暴行の危険を増加しうる何らかの特定の義務や責任を宣言することも含む。安全職員は攻撃的ないし虐待的な顧客の取り扱いの心理的要素と、攻撃的な状況を扱い、敵意をもった状況を緩和する方法を含む、自分の役割について特定の訓練が必要である。

 プログラムの導入に責任のある班ないしコーデネーターは、訓練の内容、手法、頻度について、毎年復習し、評価しなくてはならない。プログラム評価は、監督官や労働者に対する面談や、労働者の試験や観察、そして職場における暴力事件に対する労働者の反応を振り返ることを含みうる。

 評価

 文書保存

 しっかり記録すれば、事業者が危険の厳しさの認識、危険管理の手法の評価、訓練の必要性の認識をするために役たつ。効果的な暴力防止プログラムは安全で健康的な職場のための問題点と解決策をみつけ出すのに役立てるため、負傷、病気、事件、危険源、改善処置、訓練の記録を用いる。

 事業者は、彼らの暴力防止プログラムの必要性に応じて、その文書記録実践を加工しうる。記録保存の目的は、事業者が、進行中の取り組みを監査し、暴力防止プログラムが有効かどうか判断し、改善するにはいかにすべきか見いだすことをできるようにすることである。事業者は、この目的のため以下の種類の記録を有用とみなしうる。

  • 企業で起こった労働者か部外者の負傷と病気の記録

  • 事件が負傷ないし犯罪行為を伴わなくても、暴力行為や暴力行為の脅迫を伴う事件の詳細の記録。小さな事件群では明白ではないが、実際には負傷や犯罪をもたらすパターンや危険を見いだすのに役立つ虐待、言葉による攻撃、攻撃的態度を伴う事件の記録。

  • 文書による危険源分析

  • 警察忠告者(police advisors)、労働者、そしてコンサルタントの勧告

  • 仕事実践管理や、その他の改善段階を含む暴力防止行為のための最新の行動記録

  • 安全集会や訓練記録の覚書。


 防止プログラム

 暴力防止プログラムは、定期的評価によって大いに恩恵を受ける。評価過程は以下のものを含みうる

  • 定期的安全監査の結果を振り返りうる

  • 事件後の報告を振り返りうる。事件分析では、事業者は、何がうまくいかなかったかに注意するだけでなく、暴力の激化を防ぐ手段として万引き事件を取り扱うといった、労働者によるさらなる被害を避けた行為にも着目すべきだ。

  • 安全や治安問題についての職員会議からの報告書や議事録を精査する。

  • 当初のないし基準の割合に比べた、暴力による病気、負傷、死亡の傾向と割合を分析する。

  • 介入の効果を判断するため、仕事ないし職場の変化の前後で労働者と懇談する。

  • 小売業の暴力を扱う新戦略に遅れずついていく。

 経営者は、職場における暴力防止プログラムの評価により学んだあらゆる教訓を全労働者と共有しなければならない。経営者は、プログラムの変化を、安全委員会の通常集会や、労働組合代表や他の労働者集団とともに話し合いうる。


 結論

 職場における暴力は小売業を含め多くの産業で重要な労働安全衛生問題として生じている。これらの自発的な勧告は、事業者が、労働者を労働関連暴力による負傷ないし死亡の危険から保護する組織的枠組みを提供する。職場における暴力は防ぎうる危険だと宣言することで、事業者は、労働者を深刻な危険から保護し、安全で健康的な職場を提供するための実践的で効果的な戦略を編み出しうる。