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 労働者のクラスBバイオソリッドへの暴露に対する潜在的危険性管理のための指針

資料出所:国立労働安全衛生研究所(NIOSH)発行
DHHS (NIOSH)2002-149号
(訳 国際安全衛生センター)

原文(英語)はこちら


目次

  • はじめに
  • バイオソリッドの用途
  • 労働者の暴露対策が必要なバイオソリッドの危険因子
  • 病原体による罹患の可能性に対する意識
  • 労働者がバイオソリッドにより病原体に暴露される可能性
  • 事業者の職業性疾病予防対策
  • 詳細な情報
  • 参考文献
本稿は、労働者がクラスBバイオソリッドの取り扱いまたは土地への散布中に健康を害するリスクへの予防対策を目的として作成された。なお、業務外での暴露については対象外とする。


はじめに

バイオソリッドとは、商業、工業および都市の汚水(下水)の処理の結果生ずる有機残留物を指す。処理の目的の一つは、疾病の原因となる微生物(病原体としても知られる)の濃度を大幅に低下させることにある。処理は昆虫、鳥、およびネズミに対して、残留物の魅力を低減させることにもなる。バイオソリッドは、土壌の有機物添加剤のように再利用可能な製品である。

米国環境保護庁(EPA)は、バイオソリッドを2種類に分類している。

  • クラスAバイオソリッドは、病原体の濃度が十分に低く、政府による追加制限または特別な取扱注意が不要なレベルまで処理されている。クラスAバイオソリッドが金属の含有量について特例的品質用件を満たしていれば、袋売りし、ピートモスなど他の地質改良材と同様に用いることができる。
  • クラスBバイオソリッドは、その定義において、病原体を含むことが認められているため、病原体を除去せず減少させた処理を行ってきた。この結果、クラスBバイオソリッドの使用は、連邦規制により、土地散布後の所定期間、一般のアクセス制限および牧草地の使用制限を設けた追加措置が定められている。この期間に土壌に含まれる病原体が自然消滅する。

米国環境保護庁(EPA)規則(40 CFR503)は、公衆衛生確保のためにクラスBバイオソリッドでの処理済み土壌への一般の接触を制限しているが、バイオソリッドの取り扱いおよび土壌散布業務に従事する労働者には適用されない。労働者は作業中にバイオソリッドに触れる可能性がある。労働者と事業者の間には、未処理下水への接触に対する認識は徹底されているにもかかわらず、クラスBバイオソリッドの使用に対する基本的認識が低い。本稿は、病原体による業務上のリスクを最小限に抑えるため、クラスBバイオソリッドでの業務に携わる事業者と労働者に情報、指針、勧告を提供することを狙いとしており、化学物質による傷害や暴露など安全衛生面での潜在的問題を取り上げたものではない。


バイオソリッドの用途

バイオソリッドは通常、汚水(下水)処理施設でクラスBまたはクラスA基準に従って処理され、液体または準個体の状態となる。液状のバイオソリッドはトラック輸送され、トラクター、タンク車、灌漑システム、散布用特殊車両で直接土壌散布することができる。あるいはポリマーを使用して機械的に脱水処理される場合もある。脱水処理されたバイオソリッドは処理施設か散布場所に一時貯蔵された後、輸送され、フロントエンドローダー、トラック、トラクター、またはバイオソリッド散布装置などで土壌散布される。通常、準個体状のバイオソリッドは散布機で散布され、円盤鋤で土壌に混入される。労働者は処理、輸送、土壌散布中、あるいは散布後のあらゆる局面において、直接または間接にバイオソリッドに接触する可能性がある。米国で生成されたバイオソリッドは、埋立地への廃棄処分や焼却処分されるだけであったが、現在は50%以上が土壌の改良と維持、収穫増大のための肥料として再利用されるまでになっている。バイオソリッドは農地、森林、鉱山の露天掘り現場で散布され、クラスAバイオソリッドは園芸用の肥料としても利用されている。EPAは、再利用または処分を問わず、2000年のバイオソリッドの生成量が710万トンに達したと見積もっている。


労働者の暴露対策が必要なバイオソリッドの危険因子

人の疾病因子となる汚水中の微生物(病原体)としては、主に(1)バクテリア、(2)ウィルス、(3)原生動物、(4)蠕虫(寄生虫)の4種類がある。クラスBのバイオソリッドには、低濃度とはいえ、原材料となる下水と同じ種類の病原体が含まれている。クラスAおよびクラスBのバイオソリッドには、化学物質(金属を含む)とアレルゲンが含まれることもある。

公衆衛生の確保のため、EPAの第40編第503部(40 CFR 503)は、最長1年間の「制限期間」を定め、クラスBのバイオソリッドが散布された土壌への一般のアクセスを規制している。EPAのこの規則は、業務上のアクセスには適用されない。EPAは、労働者の暴露の可能性を認め、クラスBバイオソリッドへの労働者の暴露は、乾燥状態での噴霧時には防塵マスクを使用し、バイオソリッドに触れるときは手袋を着用し、飲食、喫煙時または便所の使用前には手洗いを励行するなど数項目を遵守することで改善されると述べている。

クラスBバイオソリッドに含まれる感染媒体に労働者が暴露される可能性は、土壌散布前、散布中およびその直後が最も高くなる。ただし、病原体の濃度は自然に低下していくため、時間の経過と共に暴露の可能性は低下する。


病原体による罹患の可能性に対する意識

危険性への認識はある。貧弱な衛生対策、未処理の下水、および感染症との関連ははっきりしている。バイオソリッド中の病原性のバクテリアとウィルスのほとんどは腸管性、つまりヒトと動物の腸管中に存在する。バイオソリッド中に発見されるものとしては、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター、クリプトスポリジウム、ジアルジア(ランブル鞭毛虫)、ノーウォークウィルス(ヒト胃腸炎ウィルス)、エンテロウィルスなどがあるがそれらに限られたものではない。これらに暴露すると、胃腸炎などを発症したり、保菌者となって当人は発症しなくても他人に感染させる場合もある。これらの腸管性微生物は、たいていは自己限定性の胃腸炎を発症するにとどまるが、免疫が低下した人、幼児、低年齢児童、高齢者など、体の弱い人々の場合は重篤な疾病にいたる場合もある。

クラスBバイオソリッドによる罹患率は、感染量を上回る病原菌の数と種類、およびこれに対する暴露水準との相関関係で決まる。感染基準量に関するデータが限られているため、一般のアクセスが制限されている期間中は、クラスBバイオソリッドおよびこれを含む土壌や汚泥への労働者の暴露を最小限にとどめることが、公衆衛生対策として賢明である。クラスAバイオソリッドはこれに含まれる特定の化学物質および生物学的成分がEPAの規制対象外となっているため、労働者が健康を害する恐れもある。


労働者がバイオソリッドにより病原体に暴露される可能性

一般のアクセスが制限される期間中に、労働者がクラスBのバイオソリッドを扱う作業に従事すれば、病原体および刺激性物質に暴露することがある。NIOSHがバイオソリッドの散布・貯蔵を行っている場所での現地調査を行った結果、EPA要件を満たしていず、以下の点が観察された。

  • NOISHは、クラスBバイオソリッドを扱う全作業に従事した労働者に面接した。その何名かは処理プラント内または土壌散布中にバイオソリッドを使って作業した後、胃腸炎になったことが最低1回はあると回答した。
  • NOISHは、クラスBバイオソリッド(またはEPA基準を満たしていないバイオソリッド)を扱う際の保護具に対する意識、その提供と使用状況、および適正な衛生慣行が労働者の間で徹底していないことを観察した。
  • NOISHは、クラスBバイオソリッドの貯蔵場所の異なる場所から原体標本を採取した結果、かなり高濃度の大腸菌が観察された。大腸菌は他の腸内微生物の存在を示す目安となるものである。土壌散布場所で採取した空気標本に腸性バクテリアが検出された。
  • 最近、現地の環境当局がNIOSHに報告したところによれば、当地で散布されるバイオソリッドは今回の調査以前から、クラスBバイオソリッドの大腸菌数がEPAの規定値を断続的に超過(最高4.5倍)していたとされる。
  • モニタリング結果を待つまでもなく、規格外のバイオソリッドが当該農地で散布されていたことは明らかであった。

EPAの報告によれば、高圧噴霧器を使用して散布すると病原体が霧状になって拡散し、また脱水処理したバイオソリッドの散布または土壌混合は、微粒子/粉じんの状態が極度に集中しうる可能性あるとしている。また、農民は、散布後および制限期間中にバイオソリッドに暴露する可能性もある。付随業務の労働者(例えばバイオソリッドの輸送トラックの清掃労働者)は、これらの原料を積載して認定処分地としての埋立地あるいは焼却場まで搬送するとき、規格外バイオソリッドに暴露する可能性がある。

クラスBバイオソリッド内の存在が疑われる病原体や他の有害物質に対する労働者の暴露については、さらに研究を進める必要がある。研究を通じ、これらの問題における科学的不明をなくすことで、労働者の意識向上につながるものとなる。


事業者の職業性疾病予防対策

クラスBバイオソリッドへの直接的接触から、病原体への暴露の可能性のある労働者を保護するため、事業者は以下に挙げる適正な措置を含む根本的な予防対策を講じるべきである。これらの対策は、クラスBバイオソリッドを対象としたものであるが、下水、未処理または部分的処理による汚泥あるいは規格外のバイオソリッドと接触がある作業に対しても拡大適用される。

基本的衛生対策はバイオソリッドを扱う労働者にとって重要な問題である。EPAが独自に作成した以下の項目は、衛生対策としての適正な勧告である。

  1. バイオソリッドに触れたときは、石鹸で十分手洗いする。
  2. バイオソリッドを扱う作業中、顔面、口、目、鼻、性器、あるいは腫れ物や切り傷へのバイオソリッドの接触を回避する。
  3. 飲食、喫煙の前、および便所の使用前後には手を洗う。
  4. バイオソリッドの処理作業から離れた場所で食事をとる。
  5. バイオソリッドを扱う作業中、喫煙または噛みタバコやガムを禁止する。
  6. 皮膚と体表面はバイオソリッドへの暴露を遮蔽する手段を使用する。
  7. 車両または建物に入るときは、靴に付いた余分なバイオソリッドを落とす。
  8. 傷口は清潔で乾燥した包帯を巻く。
  9. バイオソリッドが目に入ったときは、流水で優しく、しっかり洗い流す。
  10. 毎日清潔な作業着に着替え、作業現場またはバイオソリッドの輸送時には専用の靴に履き替える。
  11. 家庭など作業環境以外では作業着を着用してはならない。
  12. 皮膚を擦りむかないように手袋を着用する。

その他、NIOSHは、事業者と労働者間で用いる包括的注意対策を提唱する。これらを次に示す。

適切な保護具、衛生設備および訓練の提供

個人用保護具(PPE)−クラスBバイオソリッドへの暴露の可能性があるすべての業務で、適切な個人用保護具の装着を義務づけるべきである。具体的には、ゴーグル、飛散物を防止する顔面シールド、マスク、防滴素材のカバーロールズ(つなぎ)、手袋などがある。飛散物、高圧で噴出する下水漏れ、土壌散布中に噴霧化したバイオソリッドに暴露するおそれのあるすべての業務に、顔面の保護手段を用意しておくべきである。経営者と労働者の代表は、協力してどの業務にこの種の暴露の可能性があり、どんな保護具が必要かを決定すべきである。また、呼吸用保護具が必要な場合に備えて、呼吸用保護具の装着テスト、研修または再研修を実施する包括的プログラムを作成すべきである。

衛生方法と衛生設備労働者にバイオソリッドへの接触の可能性がある場合、清潔な水と中性石鹸を備えた手洗い所を確保しておくべきである。野外の労働者の場合、清潔な水と石鹸の付いた携帯衛生設備を用意すべきである。密閉された車両に入る前には靴に付いたバイオソリッドを落とし、運転室を使用した後は、残土(または、たまった塵埃)を除去、清掃して、汚染物質への暴露の可能性を抑えるべきである。

研修バイオソリッドを扱う作業での衛生作業基準について、定期的に研修を行うべきである。具体的な研修内容としては以下の事項が挙げられる。

  • 頻繁かつ日常的な手洗い(バイオソリッド中の物質からの感染防止にもっとも有効な方法)。とくに食事や喫煙の前には有効である。
  • 適切な個人用保護具の適正利用。例えばカバーロールズ、長靴、手袋、ゴーグル、呼吸用保護具、顔面シールドなど。
  • 汚染された個人用保護具の除去、現場で利用できるシャワー、ロッカー、洗濯サービスの活用。
  • 汚染した個人用保護具の適切な保管、清掃、または廃棄。
  • 作業衣や長靴を装着したまま帰宅したり作業現場外に出ないよう指示すること。
  • バイオソリッドの中、または近辺で作業する際の飲食または喫煙の禁止。
  • バイオソリッドに存在するような化学物質への暴露規制の指定。

報告労働者は潜在的な職業性疾病またはその兆候があれば、適切な監督者または健康管理担当者に報告するよう訓練すべきである。これにより業務疾病の早期検出に役立つことがある。

予防接種労働者が負傷した場合に土壌から感染するリスクがあるため、経営者は全労働者を対象に、破傷風とジフテリア用の免疫処置をつねに施しておくべきである。現行のCDC勧告では、下水処理労働者へのA型肝炎ワクチンが除外されている。

業務上での暴露を防止し、最小限にするための適正な環境対策の拡大

  • 可能なら、クラスBバイオソリッドの代わりにクラスAバイオソリッドを散布することで、病原菌の暴露するリスクを低下させることができる。二種類のバイオソリッドはエンドユーザーに提供される養分が異なるため、顧客の選択に依存する。
  • 汚水処理施設で生成されるバイオソリッドの原料を監視する。監視結果から、土地散布前に、規定のクラスBまたはクラスA要件を満たしているか確認する。
  • バイオソリッドが適正に安定化しているか、不許可の再生または標準外の原料で複合汚染が起こっていないかを確認する。
  • 現地の状況が許せば、バイオソリッドを土壌内に噴射するか土壌と一体化(完全混合)させる。これにより散布後の労働者の暴露リスクが抑えられ、乾燥時の空気中への再懸濁を防止すべきである。
  • 風のある日は、粉じんの舞う乾燥バイオソリッド(例えば、コンポスト)の攪拌や分配は回避すべきである。
  • 風のある日は、噴霧状のバイオソリッドを制限するため、高圧噴霧器での攪拌は回避すべきである。
  • 一般のアクセスが制限されている期間中は、不必要な機械散布、および土地散布後のクラスBバイオソリッドとの接触を回避すべきである。
  • 貯蔵、散布設備で使用する重機の運転室は、正圧に保たれたフィルター付き空気再循環による空調を備えるべきである。
  • 注意事項の調整には、労働者の暴露状況を監視し、現地特有の問題に対応すべきである。


詳細な情報

バイオソリッドおよび予防対策に関する詳細な情報は、以下の政府機関ウェブサイトで参照することができる。

(以下 略)


(訳註:NIOSHホームページ”http://www.cdc.gov/niosh/docs/2002-149/2002-149.html”をご参照下さい。