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生殖への影響

資料出所:NIOSH eNews
Volume 1, Number 9 (January 2004)
原文はこちら

(仮訳 国際安全衛生センター)



出生異常調査

 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の科学者は、出生異常防止研究(National Birth Defects Prevention Study: NBDPS)による親の職業情報を使用して職業性暴露評価を行うために、国立ガン研究所(National Cancer Institute)(参照 1)、および出生異常/発達障害国立研究センター(National Center on Birth Defects and Developmental Disabilities)(参照 2)と共同研究を進めている。NBDPSは、毎年誕生する48万2千人の新生児を対象として継続的に行われている事例対照研究であり、出生異常調査システムで特定されたケースあるいは8州で登録されたケースを含む。この大規模な調査に職業性暴露評価を組み込むことによって、科学者は、化学的および物理的変化を起こす物質に存在する潜在的な作用を調べる機会を得るだろう。NBDPSに関する情報は、以下のサイトを参照のこと。
http://www.cdc.gov/ncbddd/bd/documents/NBDPSarticle.pdf.


妊娠と、女性のリプロダクティブ・ヘルス(生殖に関する健康)
 NIOSHは、女性の生殖ホルモンに関するバイオマーカーの研究と同様、女性労働者の妊娠結果の調査も行っている。
  • 運航乗務員研究プログラム
    アメリカでは、17万2千人以上の運航乗務員が民間航空機のキャビンで働いており、様々なハザードに潜在的に暴露されている可能性がある。連邦航空局(Federal Aviation Administration)、国立ガン研究所(National Cancer Institute)、Department of Health and Human Services Office of Women's Health, および Department of Defense Women's Health Research Programと協力し、NIOSHは、客室乗務員とパイロットに関する研究プログラムを作成した。我々の研究によると、航空機の乗務員は、アメリカの多くの放射線作業者に比べても、より高い放射線暴露を受けており、彼らの睡眠は、対照群に比べかなり妨げられていることがわかった。そして、客室乗務員は、その他の女性労働者より、呼吸器の疾病にかかっている者が多いことが判明した。現在、妊娠結果、受精能力、癌、体にかかる負荷、および総死亡率に関し、これらとの関係を調査している。この研究に関する情報は、以下のサイトで得ることができる。
    http://www.cdc.gov/niosh/bodyclok.html
  • 看護師の健康調査
    アメリカには、登録された250万人以上の看護師がおり、その95%は女性である。女性看護師の場合、化学物質、生物学的因子、体にかかる負荷、交替制勤務、および精神的ストレス等の、広く知られた生殖への潜在的な危険有害要因への暴露を通し、生殖への危険性が増す可能性が高いとされている。NIOSHはハーバード大学と協力し、リプロダクティブ・ヘルス(生殖に関する健康)、特に自然流産、早産、幼児の出生時体重に関して、交替制勤務や身体負荷の影響をさらに理解するための調査を行っている。データは、現在、分析中である。
  • ジェット燃料の暴露
    シンシナティ大学と国防総省との協力で行われたNIOSHの調査によると、脂肪族炭化水素の高濃度暴露と、数カ所のアメリカ空軍基地で勤務していた女性の排卵前黄体化ホルモンが33%減少したこととの関連性が明らかになった。駐機場、燃料取扱い、ジェット機の保守に関連して暴露を受けた女性、および燃料を扱わない作業分野で働く暴露を受けていない女性が対象となった。前者のほうが、呼気中の脂肪族炭化水素レベルが高かった。この調査結果は、燃料中の化合物や数種の溶剤が、内分泌かく乱物質と同様の働きをする可能性があることを示唆している。NIOSHと環境健康科学国立研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)(参照 3)によるこれまでの調査によると、このホルモンの低下は、女性の受精率の低下に関連していることが明らかになった。しかし、ホルモンへの影響に関するこの調査は、女性労働人口の受精、出生率の調査を意図したものではなかった。著者は、受精能力に関する潜在的な影響を含め、暴露の影響をさらに調査することを勧めている。
  • ロシアの精錬所におけるニッケル暴露
    NIOSHは、カナダのMcMaster大学、ロシアのKola Research Laboratory of Occupational Health、ノルウェイのTromso大学と協力し、ロシアのMonchegorskにあるSeveronickel精錬所で、ニッケルの生殖毒性について評価を行った。予備調査結果では、ニッケルの高濃度暴露を受けた労働者に、流産や不妊の増加がみられた。精液分析や血清内分泌物の分析の結果は、まもなく明らかになるだろう。これらの結果は、ロシア人労働者の労働衛生に関する懸念に対処するとともに、アメリカの職業性ニッケル暴露の潜在的影響に関し、さらに理解を深めるであろう。

男性のリプロダクティブ・ヘルス
 NIOSHは、ここ数年、現地調査に役立つ、いくつかの精子および精液の評価方法を開発した。

  • ボロン(《元素》ホウ素、ボロン)と男性の受精能力
    作業場におけるボロン暴露の安全レベルはどの位か? ボロンは自然界の至る所に存在するが、動物への毒性データ、限られた疫学的データ、および暴露を受けた多数の労働者をかんがみると、職業上で男性のリプロダクティブ・ヘルスに与える影響の調査における最優先物質となっている。NORA(国家職業研究課題)のもと、NIOSHの助成金で、UCLAのDr. Wendie Robbinsは、中国においてボロンの暴露を受けている1000人以上の労働者に関して調査を行っている。予備調査結果によると、不妊症の病歴に関し、ボロンの暴露を受けていない労働者の4.8%に比べ、暴露を受けている者は9.6%であった。精液の質、血液中のホルモン、およびボロンレベルの測定結果は、男性にとって安全な仕事中のボロンレベルの評価に役立つであろう。
  • 労働者と自転車
    NIOSHは、自転車に乗る男性警察官を調査し、対照群に比べ性的機能障害の発生率がより高いことを発見した。症状は、自転車のサドルの突き出し部分による圧迫に関係していた。従来の自転車のサドルを、最近開発された先端部の突き出し部分がないサドルと置き換えることの意義を評価するために、NIOSHは男性警察官への介入研究を行っている。また、NIOSHは、Albert Einstein School of Medicine とYale University College of Medicineと協力し、自転車に乗る女性の性的機能を評価する試験的研究も行っている。このトピックに関する詳しい情報は、以下を参照のこと。
    http://www.cdc.gov/niosh/topics/bikerepro/bikepagetop.html
 そのほか行われている調査には、職場におけるアクリルアミド暴露が男性の生殖及び神経行動に及ぼす影響の評価、そしてアメリカ国立小児保健発育研究所(National Institute of Child Health and Human Development) (参照 4)と米国立環境衛生センター(National Center for Environmental Health)(参照 5)と共同で行っている、妊娠を望む800組のカップルにおける、血液、尿、精漿中に測定された毒物と、精液及び受精率との関連の評価などがある。

生殖への潜在的な危険有害要因の暴露評価

 副作用のリスクを評価するための疫学的調査が行われる前に、我々は、職場における暴露の度合いと性質をさらに理解する必要がある。NIOSHは、生殖に害を及ぼす恐れのあるいくつかの化学物質への暴露の度合いを評価している。ある調査は、3つの異なるフタル塩酸化合物に暴露する労働者の調査を行っている。フタル塩酸は、柔軟性のあるポリ塩化ビニール、マニキュア液、香水、接着剤、およびラッカーのような多くの工業製品や一般製品に、可塑剤や溶剤として使用されている。別の調査では、いくつかの産業においてオゾン層を破壊する溶剤に代わる脱脂剤として使われる1-ブロモプロパン(1-bromopropan)への暴露度合いを評価している。1-ブロモプロパンは、韓国の労働者の間で、生殖および血液系の疾患の問題と関連づけられた。これらの研究調査によって判明した情報は、暴露の型を評価し、そして暴露を低減するための勧告を明確に定義するのに役立つだろう。

 NIOSHのリプロダクティブ・ヘルスに関する調査や出版物のさらに詳しい情報は、以下を参照のこと。http://www.cdc.gov/niosh/topics/repro


(参照)
  1. 国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)の下部機関
  2. 疾病対策予防センター(Centers for Disease and Control and Prevention: CDC)の下部機関
  3. 国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)の下部機関
  4. 国立衛生研究所(National Institute of Health: NIH)の下部機関
  5. 疾病対策予防センター(Centers for Disease and Control and Prevention: CDC)の下部機関