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エルゴノミクスと高齢労働者

資料出所:American Industrial Hygiene Association (AIHA)発行
「The Synergist」 2002年 6/7月号 p.32-33

(仮訳:国際安全衛生センター)



キャロル=リン・チェンバース(CAROL-LYNN CHAMBERS)

 労働者の高齢化が進む今日、エルゴノミクスに配慮した設計は、高齢労働者の健康と生産性を維持するうえで不可欠な役割を果たしている。今年6月5日、「エルゴノミクスと労働人口の高齢化」というテーマで開かれたAIHce(米国産業衛生会議及び展示会)のフォーラムでは、現状に関する調査報告、問題点、取り組むべき課題、そして今後の戦略と解決策の事例について討論が行われた。


最新の研究成果

 ウェストヴァージニア大学(ウェストヴァージニア州モルガンタウン)のダイアン・シュヴェーラ(Diane Schwerha)は、エルゴノミクスと仕事の質と高齢労働者の相関関係に関する最先端の研究成果を発表した。シュヴェーラは仕事の質を定義づけ、それを人間の能力との関連で表現した。また、「高齢労働者」について大まかな定義づけを行い、エルゴノミクスと仕事の質との関係を考慮する必要があると指摘した。シュヴェーラはまた、加齢による変化--- 一般に30才以降に発現してくる身体的変化(筋骨格、心臓血管、視聴覚機能)および認識上の変化(記憶力、反応時間)など---に関する古今の研究に触れ、その概要を述べた。彼女は、加齢によるこうした変化を職場のエルゴノミクスと結びつけて考えることの重要性についても言及した。

 シュヴェーラは、仕事の質の不良、正誤率、エルゴノミクス上の問題、年齢の四者の相関関係について考察する文献からいくつかの事例をとりあげ、紹介した。最近の研究から、高齢労働者と若年労働者では労働衛生上の問題に違いが見られることがわかったが、作業能力を予測するうえで年齢が決定的な要因という訳ではなく、限定的な意味しかもたないことも判明した。シュヴェーラは講演のまとめに以下の提言を行った。第一に、高齢労働者にとって重要なエルゴノミクス上の問題に十分に配慮をしながら職務分析を行うこと。第二に、エルゴノミクス上の課題に関して労働者の意見を求めること。第三に、年齢に対する偏った見方を排除するため、業務評価手順を見直すこと。そして最後に、自分の取り組みの成果を公表すること---というのも、エルゴノミクスと仕事の質からみた能力に関するデータは十分にあるものの、それらのデータが高齢労働者とどう関係しているかについてのデータは不足しているからである。


傷害と高齢労働者

 エルゴノミクスアプリケーションズ(サウスカロライナ州ダンカン)のシェリー・ギブソン(Sheree Gibson)は、米国産業衛生協会(AIHA)エルゴノミクス委員会のメンバーとして活躍中のエルゴノミクス・コンサルタントであり、「ケガが教えてくれるもの」というテーマで講演した。ギブソンが語ったのは、「世界保健機関(WHO)の定義によれば45才以上は高齢労働者の範疇に含まれる」といういささか驚くべき内容であった。彼女は製造工場における傾向について次のように指摘した。職業性筋骨格障害を患う労働者は、中程度のエルゴノミクス的なリスク要因を抱えた状態で就業している傾向にあり、年齢が高いほど、症状は慢性化しやすくなり、受傷後、職場復帰により多くの時間を要するようになる。彼女は、高齢労働者に対するよくある不満---すぐ病気になる、ケガをしやすい、ペースについていけない、新しいスキルを身につけることができない、再教育する意味がない---についても言及した。しかし、「現実はそれほど単純明快なものではない」とギブソンは強調する。

 次いでギブソンは、感覚や運動機能、心臓血管機能に発現する、重大な老化現象について言及した。そして、高齢労働者の事故・傷害の発生率、生産性、再教育を受容する能力に関する、新たな視点を提供した。

 ギブソンは今日高齢労働者が置かれている状況を、かつて女性労働者が置かれていた状況と重ね合わせ、職務設計の方法を変える必要があると結論づけている。そして、表面的なレッテルにとらわれず、各個人の職務遂行能力査定を活用する必要性を訴えた。つまり、視力や聴力の衰えを自覚してそれを補う方法を考えたり、職務を「現実の労働人口」に合わせて設計しなおしたり、高齢労働者の経験を活かして若い労働者を指導する役割りを与えたり、職務割り当てに先立って職務遂行能力査定を実行するなど、管理上の改革を行うのである。「各個人の能力が組織の要求に符合し、良好な職務実績にむすびつき、さらに各個人のそれまでの職務上の経験が考慮されるのであれば、年齢による差はなくなる」とギブソンは結論づけている。


高齢労働者の訓練

 チャールズ・ヴォート(Charles Vaught、米国国立労働安全衛生研究所、ピッツバーグ)は、エルゴノミクスへの強い関心と、それが高齢労働者にとってどれほど重要であるかを強調するために訓練方法について述べた。彼は、鉱工業に従事する高齢労働者に対する訓練について論じ、年齢とともに累積外傷性障害(cumulative trauma injuries)や筋骨格系疾患を負う可能性が増大すると述べた。また、「2000年までに職業性傷害の半数を累積外傷や筋骨格系障害が占めるようになるだろう」と予測したベンチ(Bench)の研究についても言及した。ファオトは、「すべての問題の三分の一は工学的な手法で解決することができ、残りは作業方法を改善することで対処できる」と述べている。つまり、すべての問題の解決には、工学的な取り組みと作業方法の改善の両方が必要なのである。彼は、加齢による背骨の縮み、体力の低下、反応の鈍化を含め、介入の対象となる最も一般的な症状を概説した。そして以下のアプローチを例証するため、パイプライン上のボルトの締め付けを行う作業員に関するケーススタディを用いた。そのアプローチとは、仕事上のリスク要因を特定し、解決策やリスク要因の特定作業に労働者を参加させ、そして新手法の訓練をするために問題解決に能動的な学習技術を導入する事を通じ、人はいかにして学習していくかという情報を使用したものである。

 ヴォートは、従来の学習評価方法から脱却して、一般の人にとってもっとなじみ深い現実的な状況の中で作業の成果を評価するべきであると提言した。また、問題点に着目した介入の必要性、さらに労働者の経験を生かし、彼らが積極的に学習し、互いに補い合い、自ら考える力を促進する介入の必要性について強調した。

 米国産業衛生協会(AIHA)エルゴノミクス委員会の討論会のコーデイネータであるキャロル=リン・チェンバース(Carol-Lynn Chambers)が企画したこのセッションは大盛況をおさめ、その司会進行役を務めたのはダイムラークライスラー社(ミシガン州オーバーンヒルズ)のエレン・ラッキー(Ellen Lackey)であった。米国労働安全衛生庁ウィスコンシン公衆衛生局(ウィスコンシン州マディソン)OSHAのジョージ・グリュッツマッハー(George Gruetzmacher)が、このセッションのモニターを務めた。
キャロル=リン・チェンバースは、カナダのトロントのPLANN-Cの所属。