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OSHAが議論の多いエルゴノミクス(人間工学)基準を提案

OSHAが初のエルゴノミクス基準を正式発表しました。
この基準をめぐる動きについての記事をご紹介いたします。

(訳 国際安全衛生センター)

(資料出所:NSC発行「Safety + Health」2000年1月号)

 OSHAが、初のエルゴノミクス基準を正式発表した。基準の目的は、200万ヵ所近くの労働現場で働く何百万人ものアメリカの労働者を、手、手首、腕、肩、背中などへしばしば深刻な障害を及ぼす危険要因から守ることである。

 基準案は、製造業など手作業を行なう職種を対象としている。また、筋骨格の負傷が発生する一般産業の職種も対象となる。OSHAは、この基準により、年間30万件の筋骨格の負傷を予防できると推計している。

 基準案は、1999年2月に発表された原案を修正した。主たる理由は、中小企業から出された、要件とコスト面の懸念に応えたことである。OSHAによると、今回の基準案で、事業者が負担すべきコストは前案の年間17億5,000万ドルから、同42億ドルに増えるが、労災補償金その他のコスト減少により、年間90億ドルの節約になるとしている。

 原案からの重要な変更点として、大規模な解決策を要しない程度の負傷発生要因を排除する「緊急措置」を講じた事業者は、要件を全面的に満たす必要がなくなった。エルゴノミクス上の危険要因が広く存在する場合、事業者は次のような全般的なプログラムを実行しなければならない。

  • プログラム管理者の指定
  • 労働者の参加
  • 労働者教育
  • エルゴノミクス関連の研修
  • 危険要因を排除または大幅に削減するための管理
  • 最低3年に1度のプログラムの評価

 また、労働者が負傷した場合、軽作業と休業に対して賃金と手当の全額を支払う代わりに、休業に対して賃金の90%を支払うことが義務づけられた。事業者は、この「医療休業(medical removal)」条項にも反発しており、労働者補償法で一般的に義務づけられた補償より優遇されていると指摘している。

 事業者団体は、基準案ではコスト負担が大きく、科学的根拠に基づかない実行不能な要件を課していると批判する。他方、労働組合などは、エルゴノミクス上の基準の義務化は遅すぎたと主張する。今年、OSHAが国内各地で実施する数回の公聴会でも、議論は続くだろう。

 「OSHAは、アメリカの労働者と事業者の背中に、白紙の小切手を切った」。アメリカ商工会議所の労働政策担当副会頭、ランデル・ジョンソンは語る。「この基準は、企業に何十億ドルものコストを強いるが、その効果は、あったとしても不透明だ」

 ジョンソン副会頭は、議会が資金を提供して米国科学アカデミーに委託した、エルゴノミクスに関する研究結果が発表されるまで、OSHAは基準制定を待つべきだと繰り返した。下院では先日、アカデミーの研究が完了するまでOSHAのエルゴノミクス基準の制定を禁ずる法案が採択されたが、上院では、危機感を抱いた民主党の妨害戦術により、同趣旨の法案提出が見送られた。OSHAは、筋骨格障害(MSD)の深刻な影響に関する研究は、十分に行なわれているとの立場を堅持している。

 アメリカ労働総同盟(AFL-CIO)のジョン・スィーニー会長は、基準案は「負傷と疾病の発生を大幅に減らし、労災補償コストを低下させ、生産性を上昇させる」と発言した。また、規則の対象に建設、農業、船舶産業も加えるとともに、事業者には「労働者が負傷する前に危険職種の改善」を義務づけるべきだと述べた。

 OSHAによると、20人以下の労働者を雇用する事業者の30%近くが、基準案に合致するエルゴノミクスプログラムを備えている。また、250人を超えるの労働者を雇用する事業者の75%を超えるところが、危険要因を分析し、骨格筋障害(MSD)のリスクを抑える技術面での制御体制を導入している。全面的なプログラムを実施する必要があるのは、中小企業の4分の1にすぎず、他の多くの事業者は「緊急対応措置」を適用することになるというのがOSHAの見解だ。