OSHAのエルゴノミクス(人間工学)基準について
OSHAは1999年11月にエルゴノミクス基準案を公表しました。ここではOSHAのwebsiteで紹介されているエルゴノミクスプログラムの概要をまとめました。
また、ここではruleを規則、standardを基準、programをプログラムと訳しています。
資料出所:OSHAwebsite
(訳 国際安全衛生センター)
はじめに
エルゴノミクスプログラム基準案の前文には、OSHAによる基準提案にいたる経緯やデータ、基準を提案する法的権限、多数の課題についての情報を求める手続きが記載され、さらに製造、手作業、その他の一般的業種の業務に従事する労働者が直面するエルゴノミクス的なリスクの大きさを述べた箇所もある。また、事前の経済分析および規制適用の柔軟性に関する検討の要約、基準案について開催された中小企業規制公平執行法パネルの結論と勧告に対するOSHAの回答の要約、基準に関する情報収集の説明、基準案の各条項の詳細な提案理由も記載されている。
概要
一般的業種の職場において各種業務に従事する労働者は作業関連性筋骨格系障害(MSD)の重大なリスクに直面しており、労働安全衛生庁(OSHA)はこれに対処するためエルゴノミクスプログラム基準を提案している。
基準案では、製造または手作業に従事する労働者を使用するすべての事業者に、それらの業務において基本的なエルゴノミクスプログラムを実行するよう求めている。基本的プログラムの内容は、経営者のリーダーシップと労働者の参加、危険要因情報と報告などである。
実現すれば基準が適用される一般的業種の事業者は、エルゴノミクスプログラムを策定し、そのなかに効果的なプログラムに不可欠な要素の一部、または全部を織り込むよう義務づけられることになる。不可欠な要素とは、職場の業務の種類や、基準の対象となる筋骨格系障害発生の有無によって異なるが、経営陣のリーダーシップと労働者の参加、業務の危険要因の分析と抑制、危険要因情報と報告、訓練、筋骨格系障害管理、プログラム評価である。
製造または手作業に従事する労働者に、OSHAに報告すべき筋骨格系障害が発生した場合(基準案の対象かどうかは事業者が判断)、事業者は当該業務と、当該業務と同様の肉体作業を行う事業所のすべての業務において、全面的なエルゴノミクスプログラムを実行することを求められる。
全面的なプログラムでは、基本的プログラムに加え、業務の危険要因分析、当該業務で発見された危険要因を大幅に減らす、あるいは取り除くためのエンジニアリングおよび作業慣行または労務管理の実行、当該業務に従事する労働者と管理者の訓練、一時的な作業制限の適宜実施、対象となる筋骨格系障害が発生した場合の医療機関などの利用を含めた筋骨格系障害対策の実施が求められる。基準案では、製造または手作業以外の業務に労働者が従事する一般的業種の事業者に筋骨格系障害が発生した場合(基準対象かどうかは事業者が判断)も、当該業務に関してエルゴノミクスプログラムを実行することが求められる。
基準案は、一般的業種の職場の約190万の事業者と、2,730万人の労働者に影響する。これらの職場の事業者が、基準対象の筋骨格系障害を発生させるか、または発生に影響を与える可能性があるために管理が義務づけられる業務件数は、基準公布の初年度で約770万件になる。OSHAの推計では、基準案が今後10年間に防止する作業関連性筋骨格系障害は約300万件、これによる年間経済効果は約91億ドルになり、一般的業種の事業所あたりの順守コストは年間約700ドル、問題業務の改善コストは1件あたり年間150ドルになる。
OSHAは非公式の公聴会を実施しており、関心のある当事者に口頭で、基準案についての情報とデータを提供している。
エルゴノミクス基準の必要性
事業者から毎年、労働統計局に報告される職業上の全傷病の3分の1を、作業関連性筋骨格系障害(MSD)が占めている。つまり、この障害は、今日では全米最大の労働に関連する傷病問題になっているのである。1997年に事業者から労働統計局に報告されたMSDによる損失労働日数は合計62万6,000日にのぼり、同年に支払われた労災補償額1人あたり3ドルのうち、1ドルを占めた。事業者が、この障害のために毎年支出する労災補償コストは、150億ドルから200億ドル以上になり、他の関連費用を含めると、その額は年間450億ドルから540億ドルに膨らむ可能性がある。MSDが悪化した労働者は、永久障害を抱えるおそれがあり、職場復帰ができなくなり、あるいは髪をとかす、赤ん坊を抱く、ショッピング・カートを押すといった日常の単純動作ができなくなるおそれがある。
何千もの企業が、この問題に対処し、防止対策を講じた。事業者が自主的にエルゴノミクスプログラムを実施したことにより、これによって保護されている一般的業種の労働者の数は、OSHAの推計によると50%になる。また職場の数でみれば、わずか28%になる(この差は、労働者の過半数を雇用している大企業のほとんどはプログラムを導入しているが、中小企業ではまだ実施されていないことを示している)。OSHAは、作業関連性筋骨格系障害の大きなリスクにさらされながらエルゴノミクスプログラムで保護されていない残された一般的業種の労働者に保護を広げるためには、この基準案が必要であると確信している。
基準を支える科学的証拠
OSHAが労働者にエルゴノミクスプログラムを提供する意義は、大量の科学的証拠によって裏付けられている。こうした証拠は、次のふたつの基本的結論の確固たる裏付けとなっている。(1)作業関連性筋骨格系障害と職場のリスク要因との間に明確な関連性がある。(2)エルゴノミクスプログラムと具体的なエルゴノミクス対策によって、これらの負傷を減少させることが可能である。
たとえば全米研究委員会、米国科学アカデミーは、筋骨格系障害と労働、エルゴノミクス対策と障害の減少との間に、明確な関連があることを発見している。科学アカデミーは、「調査の結果、具体的な対策をとることで、ハイリスクの業務に従事する労働者の筋骨格系障害の件数を減らせることが明確に示された」としている(『作業関連性筋骨格系障害』
The Research Base, ISBN 0-309-06327-2(1998))。国立労働安全衛生研究所(NIOSH)も、研究者間で相互検証済みで、MSDを発症した労働者に関する何百件もの研究を科学的に検証した結果、この結論を支持している。
相互検証済みの疫学的、生物機械学的、病理生理学的研究(biomechanical)による証拠、その他、公表済みの証拠としては、以下のものがある。
- 作業関連のMSDと職場のリスク要因に関する2000以上の論文。
- 全米研究委員会、米国科学アカデミーが1998年に実施した作業関連のMSDに関する研究。
- 600以上の疫学的研究に対するNIOSHの批判的検証(1997年)。
- エルゴノミクスプログラムを導入した企業に関する1997年の会計検査院による報告書。
- エルゴノミクスプログラムを導入した企業の多数の成功事例の公表。
全体として、これらの証拠は以下のことを示している。
- 業務上のエルゴノミクスリスクへの暴露が大きいと、作業関連のMSDの発生件数が増加する。
- これらの暴露を減少させると、作業関連のMSDの発生件数、悪化の程度が低下する。
- 作業関連のMSDは予防可能である。
- エルゴノミクスプログラムは、リスクの低下、暴露の減少、作業関連のMSDに対する労働者の保護に有効であることが証明されている。
科学の分野では、エルゴノミクスの研究はいまも続けられている。米国科学アカデミーは、1998年の研究を拡大するため、新たな科学的調査に取り組んでいる。OSHAは、基準制定期間中に入手できるこれらすべての研究結果を検証し、エルゴノミクスプログラムの基準が、入手可能な範囲で最善かつ最新の証拠に基づくようにする。とはいえ、現行の基準案を推進できるだけの証拠がすでに十二分に存在している。世界最大の労働医学研究組織である米国労働環境医学研究所は、次のように述べている。「OSHAが基準案の策定を推進する科学的根拠は十分に整っており、作業を遅らせる理由はない」
基準を支える事業者の経験と実績
あらゆる規模の企業の事業者が、作業関連性のMSDを予防または減少させるコスト効率の高い方法としてエルゴノミクスプログラムを実施した結果、大きな成果をあげ、労働者を職場に落ち着かせるとともに、生産性と職場のモラル向上を実現している。エルゴノミクスプログラムを導入した企業に関する会計検査院の最近の調査で、プログラムが作業関連のMSDと付随コストを減少させることが明らかになった(GAO/HEHS−97−163)。会計検査院によると、職場のエルゴノミクス危険要因への対策として事業者が選択したプログラムと抑制方法は、必ずしも高価または複雑なものではないことも判明した。これに基づいて会計検査院は、OSHAに対し、事業者が独自に効果的な方法を開発できるよう、エルゴノミクス基準では柔軟なアプローチをとることを勧告した。今日、提案している基準は、この勧告をとり入れるとともに、多数の前向きな事業者が、エルゴノミクス問題に取り組む中で効果があると判断したプログラムを踏まえて考案したものである。
前文と基準案の構成
1. |
はじめに |
2. |
基準案にいたる経緯 |
3. |
関連する法源 |
4. |
要約と説明 |
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901−904 |
要約と説明 |
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905−910 |
この基準はどのように適用されるか? |
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911−913 |
経営陣のリーダーシップと労働者の参加 |
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914−916 |
危険要因情報と報告 |
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917−922 |
業務の危険要因分析と抑制 |
|
923−928 |
訓練 |
|
929−935 |
MSD管理 |
|
936−938 |
プログラム評価 |
|
939−940 |
保存すべき記録とは? |
|
941−944 |
プログラム策定を義務づけられる場合とは? |
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945 |
定義 |
5. |
健康への影響 |
6. |
リスク・アセスメント |
7. |
リスクの大きさ |
8. |
事前経済分析および規制適用の柔軟性に関する検討の要約 |
9. |
無財源命令(Unfonded Mandates) |
10. |
環境への影響 |
11. |
補足的な法制上の問題 |
12. |
連邦主義 |
13. |
州の制度をもつ州 |
14. |
諸問題 |
15. |
一般市民の参加 |
16. |
1995年事務手続削減法に基づく行政管理予算庁による審査 |
17. |
29CFR1910の内容一覧 |
18. |
基準案 |
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