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掘削工事

資料出所:OSHAホームページ
http://www.osha.gov/doc/outreachtraining/htmlfiles/excavate.html

(仮訳 国際安全衛生センター)


はじめに

労働安全衛生庁(OSHA)は、掘削工事の災害を防止するため、掘削工事と溝開削工事のスタンダード(Excavation and Trenching Standard)を1971年に公布した。それ以来、OSHAは、労働者保護を強化し、掘削工事での労働災害の頻度と重篤度を減らすために、このスタンダードを数度にわたり改正した。これらの努力にもかかわらず、これらの工事では依然として重篤な災害が発生している。

建設事業者や受請業者を援助するため、OSHAは、既存のスタンダードを改正し、多くの条項を簡素化し、内容を明確にし、重複している規定やあいまいな文言をなくし、事業者が労働者を保護するにあたって柔軟に対処できるようにした。この、改正スタンダードは1990年3月5日に発効した。

さらに、スタンダードはいくつかの新しい付属文書を提供している。その1つは、土の分類を標準化したものである。他は、傾斜及び段の要件、土止め支保工、切り張り、水圧式支保工の例示とスタンダードの要求事項をグラフィック化したものである。

ここでは、改正されたスタンダードにおける掘削工事や溝開削工事での要求事項に焦点をあて、崩壊から労働者を保護し、労働者にとって安全な作業方法をしめす。


適用範囲と応用

OSHAの改訂された規則は、溝開削工事を含む地表面で行われるすべての掘削工事に適用されることとなった。

OSHAの建設業安全衛生スタンダードによると、 溝(trench)とは、幅が15フィート(約4.5メートル)を越えず、幅より深さが大きい地表面下への狭い掘削をいう。掘削(excavation)とは、土砂を取り除くことによって形成される地表面での、あらゆる人工的な切り取り、空洞、溝、または窪地をいう。このことから、掘削は、地下室からハイウェーの建設までを含むことになる。


一般的要求事項

安全計画

労働災害の多くは最初の計画が適切でなかったために発生している。支保工や掘削勾配の誤りを作業開始後に修正することは、作業を遅らせ、コストを増大させ、掘削の失敗の可能性を増加させる。工事業者は、入札時の工事計画の中に他のすべての要素を取り込むように、安全関係の要素も取り入れなければならない。

工事業者は、入札を準備する前に安全のチェックリストを作り、工事現場に関する十分な情報を得て必要なものをもれなく用意しておくとよい。

これらのチェックリストは、安全作業に必要な一般の情報だけでなく、OSHAのスタンダードの該当する条項を含んでいなければならない。

入札する前には、次の具体的な条件が考慮されなければならない。
  • 交通
  • 付近の構造物とその状況
  • 土質
  • 地表と地下水
  • 地下水面
  • 上方および地下のユーティリティ
  • 天候

これらやその他の条件は、地元の自治体の職員やユーティリティの会社との協議、現場の調査と観察、土質についてはテストボーリングによって決定する。

どのような掘削においても、スタンダードは、作業を始める前に、事業者に掘削中に遭遇するかもしれないユーティリティ(下水道、電話、燃料、電気、上水道その他の地下設備)の存在場所を推定することを求めている。また、掘削を始める前に、工事業者は、関係するユーティリティの会社に連絡し、一定の時間以内に、工事の開始を通知しなければならない。また、工事業者は、ユーティリティの会社に地下設備の正確な位置を知らせるように依頼しなければならない。もし24時間(州または地方の法律に必要な期間がより長く定められていない限り)以内に、ユーティリティの設備の正確な位置を知ることができないときは、工事業者は注意して工事を続ける。地下設備の正確な位置を見いだすために、労働者は、安全な方法を行わなければならない。もし地下設備が露出されたら、OSHAの規則は、それらを移設するか、保護するか、または適切に支持するかを求めている。

工事現場についてのすべての情報が用意されたときに、工事業者は、必要な安全資材の量、種類、およびコストを決定することができる。安全資材の在庫をよく確認した上で、ほかに追加すべき安全資材を決定する。過去に何度溝掘削、支保工および埋め戻しの仕事を行っていようと、作業の都度、十分な注意を払い、周到な準備をおこなわなければならない。


仕事を開始する前に

仕事を開始する前に、工事業者が、労働災害防止上必要な、系統的重点事項や工事方法や労働者を危険から守り、かつ危険を認識させるための実施事項等を定めた安全衛生プログラムをたて、管理を行うことが重要である。

効果的なプログラムは、一般的な現場での危険や作業に特有な、あるいは状況から予測できる潜在的な危険の系統だった認識、評価、およびその予防・対策方法を含まなければならない。プログラムは書面または言葉で示し、その現場の特徴を反映したものとする。

OSHAは、1989年に工事業者が効果的な安全衛生プログラムを開発することを援助するために、労働者の安全と健康の効果的な管理と保護のための推奨ガイドラインを発行している。

ガイドラインの原文は、連邦公報(Federal Register)[54 FR (18):3904-3916、1989年1月26日]を参照されたい。ガイドラインのコピーは、OSHAの事務所でも入手できる。

安全プログラムを効果的に実施するには、監督者、個々の労働者、そして労働組合などの労働者グループとの間の協力が不可欠である。それぞれの監督者は自分の責任や権限を理解しておかなければならない。有効な支援を得るため、関係の労働組合には工事計画を通知し、協力を依頼すべきである。

また、仕事を開始する前に、一般の交通にさらされる労働者には、警告用のベストまたは反射材などの視認度の高い衣服を支給し着用させることが重要である。また、労働者は、危険な路面障害物を取り去るよう指示されなければならない。

さらに、労働者は、操作方法の訓練を受け、危険性について十分認識してからでなければ機器などを操作してはならない。

訓練や現場での安全衛生プログラムには、事故のすみやかな通知と調査のための手続を含んでいることが必要である。

作業中の評価

スタンダードは、原則として、適任者(Competent person:その作業をおこなう能力と経験を有する者)が毎日点検することを要求している。その内容は掘削箇所についての崩落の可能性、防護装置の欠陥、大気の危険などの危険有害な状態についてである。もし危険な状態を発見したら、労働者は、安全措置がなされるまで危険なエリアから待避しなければならない。悪天候(例えば、激しい雨)や発破などで危険が増大した後にも点検が必要である。

大きいまたは複雑な工事では、安全計画の実行を強化するために、安全管理者を常駐させるべきである。小さい工事では、安全管理者は常勤でないか、職長であってもよい。

職長はその仕事において工事業者の代表である。職長は、点検や災害調査や危険予知をおこなう。職長は、労働者が実地の安全衛生訓練を受けていることを確認する。職長は、予想される危険の対策を検討し、その強化を図り、また、必要に応じ、労働者の協力を求める。そして、工事業者に随時報告する。

工事現場で工事責任者や職長が模範を示すことが重要である。工事現場に赴くときには、安全靴、保護めがね、保護帽、その他法定の個人用保護具(CFR 1926.100と102参照)を着用する。

労働者は安全に関してアクティブな役割を果たさなければならない。工事業者と職長は、労働者が、保護具などの使用について、適切に訓練され、それらが正しく使用されており、安全な行動が行われていることを確認しなければならない。


崩壊と防護システム

防護システム

掘削作業に従事する労働者は多くの危険にさらされるが、主たる危険は崩壊の危険である。OSHAは、崩壊のおそれがあるときは、掘削面に勾配をつけることあるいは段を設けることまたは土止め支保工を配置するか、シールドで側壁と掘削箇所との間を遮へいすることを求めている。

防護システムのデザインは、土質、掘削の深さ、土の含水率、天候と気候による変化、または付近での他の工事の影響等複雑な要素を持つ。しかしながら、スタンダードは、いくつかの方法(傾斜をつける4つの方法、シールドの使用を含め、土止め支保工を配置する4つの方法)を、崩壊防止の方法として示している。

掘削作業において労働者の安全と健康を保証する1つの方法は、垂直対水平の比が1対1.5の勾配(34度)より低い角度に勾配を維持することである。この斜面は、スタンダードの付録B(Appendix B)に記載するタイプCの土用の構造だが、この角度以下の勾配の斜面は、どのようなタイプの土にも安全であると考えられる。(図1参照)


図1   タイプCの土
深さ20フィート以下の斜面で掘削するときは、最大1:1.5の勾配にする。

勾配と支保工とに適用される2番目のデザイン方法として、登録プロフェッショナルエンジニア(registered professional engineer)により承認され、一覧表にされたデータ〈テーブルやチャートなどの〉を使うことができる。これらのデータは書面で、ユーザーが、データの使用において選択することを可能にするために、選択の基準およびデータ使用上の制限事項などが十分に説明された情報を含まなければならない。

防護システムの建設中は、データを承認した登録プロフェッショナルエンジニアの身分証明を含むデータ書類が現場に備え付けられていなければならない。防護システムの完成後は、データは現場以外に保管してもよいが、OSHA長官の求めにより提示できるようにしておかなければならない。

工事業者は、登録プロフェッショナルエンジニアにより、デザインされるか、または承認された、あるいは登録プロフェッショナルエンジニアが作成または承認した一覧表のデータに基づく溝ボックス(trench box)またはシールドを使うことができる。材木、アルミニウム、または他の適当な素材が、使用可能である。OSHAのスタンダードは、支柱システムの土止め支保工と同等以上の防護性がある場合には、溝シールド(溶接小屋(welder's hut)として知られている)の使用を許可している。(図2参照)


図2   溝シールド(trench shield)


事業者は、状況に応じて、最も実用的なデザインを選んで差し支えない。しかし、いったん工法が選ばれたら、その方法により、必要な性能の基準を満たさなければならない。

(1) 安定した岩盤における掘削または、(2)深さ5フィート(約1.5メートル)未満であり、適任者が地盤を試験し、崩落の危険がないとされた場所での掘削では、スタンダードは、防護システムの設置と使用を要求しない。

事前措置


スタンダードは、建物、壁、歩道、舗装等、隣接した構造物の安定性を保つために、支保工(shoring)、支柱(bracing)、支持杭(underpinning)等の防護システムの設置を事業者に要求する。

スタンダードは、(1)支持杭のような支持設備がなされる。(2)掘削が安定した岩盤内で行われる。(3)登録プロフェッショナルエンジニアが、構造物が掘削箇所から十分に離れていて、掘削による危険が労働者に及ばないと決定したときを除いて、よう壁や基礎構造のレベル以下の掘削を禁止している。

歩道と舗装の下の掘削は、適切にデザインされた防護システムが施されるか、または、別の効果的な方法が行われる場合以外は禁止される。

防護システムの設置と除去

スタンダードは防護システムの設置にあたって、労働者の保護のため、以下のことを要求している:
  • 防護システムの部材を安全に接続する。
  • 防護システムを安全に設置する。
  • 決して、防護システムの部材に過負荷をかけない。
  • 部材の一部を一時的に取りはずすことが必要となったときには、防護システムにかかる荷重を支えるために、他の部材を取り付ける。

また、スタンダードは、(1)溝全体の深さの土圧に防護システムが堪えうるようにデザインされ、(2)溝が開口しており、防護システムの下で崩壊の徴候がないときには、防護システムの下2フィート以内の掘削を許している。また、防護システムの設置は溝の掘削と綿密に調整されていなければならない。

工事が完成し、防護システムが解体された後には掘削箇所は直ちに埋め戻されなければならない。労働者は、ゆっくり、注意して、防護システムの部材を下の方から順に取り外さなければならない。

材料と工事用機器

事業者は、防護システムのために使われた材料と機器の安全について責任がある。不完全なあるいは破損した材料と機器は、防護システムの崩壊や掘削作業の災害の原因となる。

 防護システムの崩壊を防ぐために、事業者は(1)材料や機器に欠陥や損傷がないこと(2)既存の材料や機器はメーカーの説明書に従って、労働者が危険にさらされることのない方法で使用され、保守されること(3)工事中に、材料や機器が損傷を受けたときは、使用を継続してよいかどうかを適任者に検査させ決定させること。もし材料と機器が、安全ではないならば、使用してはならない。これらの機材は、登録プロフェッショナルエンジニアの評価と承認なしで再使用することはできない。


その他の危険

落下と機器

崩壊とそこから派生する危険の他に、掘削作業の労働者が保護されなければならない危険がある。これらの危険には、墜落・転落、荷の落下、および運搬機械への接触が含まれる。これらの危険から労働者を保護するために、OSHAは、以下の事項を事業者に要求している。
  • 掘削箇所に落下のおそれがある材料や機器は掘削箇所の端部から最低2フィートの距離を保つか、落下防止措置を行う、またはその両方の措置を講じること。
  • 工事用機器、バリケードまたは、手またはメカニカルなシグナルまたは車止めあるいは、掘削箇所の端部を運転者に警告する装置等の警報システムを配置する。もし可能ならば、掘削箇所からグレーダーを遠ざける。
  • 浮き石、土塊または材料の落下を防止するため、浮き石やゆるんだ土塊の除去、防護柵の配置をおこなう。
  • 下の方で作業をする労働者が、材料または機器の落下、転がり、または滑り落ちから防護されない限り、他の労働者を上の方の斜面で、掘削作業に従事させない。
  • 揚重機器や掘削機で持ち上げている荷の下での作業を禁止する。材料などの落下による危害を避けるため、労働者に、積み卸しをしている車両から離れているように求める。車両の運転席が積み卸しの荷の落下から適切に保護されているならば、運転者は運転席内にとどまっていてもよい。

水の貯留

スタンダードは、労働者に、適正な保護が取られない限り水がたまっているか、またはたまりつつある箇所での掘削作業を禁止している。排水装置が運転されているときは、適任者がモニタリングし、適切に運転されていることが確認されていなければならない。

OSHAスタンダードは、地表水が掘られた穴に入ることを防止し、掘削箇所と隣接したエリアの適正な排水を維持するため、溝、堤防、または他の適当な方法が用いられなければならないとしている。また、適任者は激しい雨で出水が生じないかを調査しなければならない。

危険な大気

この規定では、掘削が深さ4フィート(約1.2メートル)を超え、または、酸素欠乏や有害ガスが発生しておりもしくは発生するおそれがある場合には、労働者が掘削箇所に入る前に、適任者により測定が行われなければならないとしている。酸素欠乏または危険な大気が存在する場合には、適切な呼吸用保護具や換気装置等を備えなければならない。また、汚染物質が許容濃度以下になるように用いられている制御機器は、定期的に点検しなければならない。

危険な大気が掘削箇所に存在するか、掘削により発生するおそれがある場合は、事業者は救急用具(例えば、呼吸装置、安全ハーネスとライン、バスケット・ストレッチャー(山岳、工事現場などで吊り上げ救出などに使われる担架)など)を備え付けなければならない。

労働者が、すその広い穴や深く狭い穴で掘削を行うときは、労働者にライフライン付きのハーネスを使用させなければならない。ライフラインはハーネスに安全に取り付けられており、材料を取り扱うためのラインとは分けなければならない。労働者がライフラインを着用して掘削箇所にいる間、ライフラインが適切に作用していることを確認し、労働者との通信を維持するために、見張り人を配置しなければならない。

出入り

スタンダードでは、事業者はすべての掘削箇所への安全な出入りの方法を提供しなければならない。OSHAの規則によると、4フィート以上の溝掘削工事では、適切な出入りの方法(はしご、ステップ、斜路その他)を備えなければならないとし、横方向の移動は25フィート(約7.6メートル)以内としている。斜路を使用する場合は、労働者の出入り用には適任者により設計されたものでなければならず、車両用のものは、構造設計の有資格者である適任者が設計したものでなければならない。また、斜路やランウェイの部材は、つまずきやずれを防止するため、厚さが均一で、かつ、同じ方法で取り付けられていなければならない。


要約

溝と掘削の工事は、関係するすべての労働者に重大なリスクを与える。最も大きいリスクは、崩壊である。崩壊は他の掘削関連の災害よりずっと死亡災害になりやすい。しかし、スタンダードのすべての条項を厳守することにより、他の掘削関連の災害だけでなく崩壊のリスクを防止するか、または大いに減少する。