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記事フォークリフトの設計上の欠陥をめぐる訴訟で、OSHAの調査報告書が不当承認

資料出所: Occupational Safety & Health Reporter(BNA) 6-22-06
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2007.04.26

フォークリフト製造会社に対するフォークリフトの設計上の欠陥訴訟を6月15日に裁定した米国連邦第11巡回区控訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the Eleventh Circuit)において、フォークリフトによる死亡災害で従業員一人を失った事業者について引証した米国労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration; OSHA)による調査報告書は不当であると判断された。(カスター(Custer)氏対テレックス(Terex)社、第11巡回区控訴裁判所 、「非先例判決(unpublished opinion)」No.05-144682006年6月15日)

第11巡回区控訴裁判所による非先例判決の中で、同裁判所は、OSHAの調査報告書は今回の訴訟には関係がなく、さらには陪審員を混乱させる可能性があると判断した。

一方で同裁判所は、連邦地方裁判所が、災害発生後に提出されたフォークリフトの設計上の欠陥の疑いを記述した事故情報(safety alert)を考慮から外す判断は、不正ではないという結論を下した。

死亡災害

2001年、建設作業員であるジェームズ・カスター(James Custer)氏は、テレックス(Terex)社設計製造のフォークリフトの後輪にひかれ、圧死した。当時、カスター氏はジョージア・パワー(Georgia Power)社所有の建設現場でフォークリフト監視の仕事に携わっていた。

同災害発生後、ジョージア・パワー社は「装置操作時の死角への留意」と題した事故情報を発行した。同情報ではカスター氏の災害について記載されており、問題のフォークリフトの操縦者は、災害時の状態では、右側が「完全に死角」になっていたことを指摘している。さらに同情報では、問題のフォークリフトは、作業者が右側の前後輪間を歩くことを「可能とする設計」であるため、作業者を「危険地帯に」さらすことになると記している。

OSHAは同災害を調査し、カスター氏を雇用した事業者がフォークリフトの視認性問題および操作説明書で勧告されていた安全上の予防措置に関わる訓練をカスター氏に受けさせなかったと結論する報告書を発表した。

死亡した作業員の妻であるレベッカ・カスター(Rebecca Custer)夫人はテレックス社に対し設計欠陥訴訟を起こした。審理で連邦地方裁判所は、OSHAの調査報告書を承認したが、ジョージア・パワー社の事故情報は考慮外とした。陪審員は最終的にカスター夫人を支持する評決を下したが、夫人には損害賠償請求額の3割しか支払いが認められなかった。

連邦地方裁判所は、陪審員による損害裁定が、ジェームズ・カスター氏が災害過失責任の7割を負うのに対し、テレックス社の過失はわずか3割であると提示したという理由で陪審員の評決内容は矛盾しているとする結論を下した。ジョージア州法では、原告の過失が被告と同等あるいは被告より大きい場合、損害賠償の請求が認められていない。連邦地方裁判所は法律に従いテレックス社に対し、陪審員の評決と異なる判決を下した。カスター夫人は、OSHAの調査報告書を承認し、事故情報を考慮から外すという同地裁の判断は不正であることについてとりわけ強調し、上訴した。

カスター夫人の上訴を受け、第11巡回区控訴裁判所は、連邦地方裁判所が正式に登録した判決と、OSHA調査報告書を承認した同地裁の命令を無効としたが、事故情報を考慮外とした同地裁の命令は肯定した。

証拠に基づく争点

連邦控訴裁判所は、陪審員評決の内容が矛盾しているとした場合の適切な法的救済方法は、法律問題として判決を下すことではなく、新しく審理を行うことであると裁定した。同控訴裁判所は、再審理は連邦地方裁判所に差し戻して行うため、カスター夫人が提起した証拠に基づく争点を十分に検討することができるとも判断した。

OSHAの調査報告書に関しては、カスター氏の事業者がなんらかの違反を犯していたことを明らかにするために、この報告書は適切であるとするテレックス社の主張を、同控訴裁判所は却下した。

「審理の争点は、フォークリフトの設計における欠陥の有無とカスター氏の過失の割合だけである。ジョージア州法は、訴訟当事者以外の主体に過失を配分することを禁じているため、事業者に過失があったという証拠は連邦地方裁判所の審理には関係がなく、証拠とはならない」と同控訴裁判所は述べている。

また同控訴裁判所は、OSHAの調査は問題のフォークリフトの設計上の欠陥に焦点を合わせていないため、この報告書を承認すると、陪審員を混乱させ判断を誤らせる可能性があるとも指摘した。同控訴裁判所は、陪審員を混乱させうる例として、テレックス社が陪審員に向けて行った最終弁論を挙げた。この弁論でテレックス社は、「もしフォークリフトに問題があったのであれば、」OSHAは、従業員の雇用上の安全確保の不履行でカスター氏の事業者に責任を負わせることはなかったであろう、と述べている。

また米連邦法(federal law)により、OSHA調査は、民事訴訟証拠としては一般的に採用されないという事実から、混乱のリスクは「増長される」、と同控訴裁判所は指摘した。

事故情報に関しては、連邦証拠規則(Federal Rules of Evidence)に基づき、同情報の証明力は「最小」であり、「不必要な重複証拠の提出」として考慮外としてもよいと同控訴裁判所は判断した。

同控訴裁判所は、「同災害の目撃者が同災害の状況について証言することができる。つまり、カスター氏の技術上司を含め、問題のフォークリフト監督者なら誰でも、フォークリフトの視界が遮られていることやフォークリフトの右側の前後輪間を作業者が歩ける可能性があることを証言できるのである」と指摘した。